『SS』ヒトメボレらぶぁ〜ず そのなな

次に目が覚めた時には、まあ予想通りというか俺が一番居たくない所にいた。SOS団の部室だが、外の景色が違う。
薄暗い部屋の外は灰色の空間だったからな。閉鎖空間か、長門の奴は何を考えている?
それにここが閉鎖空間ならまず居なければならないはずの人物もいない。普段の閉鎖空間じゃない、俺がいる閉鎖空間ならば居なければならない奴が。
「ふん……………」
かといってあいつを探す気になんかなれやしない。これ以上ピエロになるのは御免だ。俺はとりあえず長門がメッセージを残している可能性の高いパソコンを覗き込もうとした。




結果から言えば何もありはしなかったよ、どうやら長門の奴はこれ以上なにかするつもりはないらしい。ふざけるな、俺がこれでハルヒの奴を探し回るほどお人よしだってのか?
「くそったれ!」
団長が座っていた席を蹴飛ばして、俺は自分のパイプ椅子を持ち出して座る。そのまま机にうつ伏せた。
もう知らん、どうにでもなりやがれ。このまま俺が餓死しようが、ハルヒが世界を作り変えようがどうでもいい。自分でも説明できないが、俺はハルヒから古泉の奴を応援するような言葉を聞いてから全てがどうでもよくなったんだ。後はあいつらが好きにやったらいいさ。
「何なんだよ長門………………俺にどうしろってんだ……………」
もはや何一つ、顔を動かす気にすらならなくなった俺がいる部室の外が赤く光った。チッ! よりによって一番会いたくない奴のご登場かよ。
「…………聞こえますか………?」
ああ、残念だが聞こえるよ。何の用だ、ハルヒなら自分でさがせよ、俺は嫌だからな。
「そうおっしゃらないでください、どうやら僕がご迷惑をおかけしたのは確かなようですが。」
赤い光球は窓から部屋に入ってくると、段々と人間の形になっていく。
「ああ、どうやらこの辺りが限界ですか。それでも長門さんには感謝しないといけませんね。」
全身を赤い光に包まれた古泉は俺の目前でどうやらニヤケ面をさらしているようだったが、そこまで俺には確認できない。
「……………何のようだ?」
「もちろんあなたに会いに来たのですよ。」
俺を笑い者にするためか? それよりお前がハルヒを探しに行けよ、そのほうがあいつも望んでるだろうさ。
「いいえ、僕には涼宮さんの位置すら分かりません。」
なに? この閉鎖空間はお前のテリトリーだろうが?!
「ええ、しかし僕では涼宮さんを探し出すことが出来ない。それは長門さんが作った擬似空間という訳ではないからです。」
ますます分からん、ここには長門に連れてこられたんだぞ? あいつが何かしたんじゃないのかよ?
長門さんはあくまで涼宮さんの力を借り受けたに過ぎません。ここは間違いなく涼宮さんの作り上げた閉鎖空間なのです。そして、ここに存在できるのは涼宮さんを除けばあなたしかいない。」
ハルヒの馬鹿はとことんまで人をおちょくらないと気が済まんらしいな。だが俺はもう御免だ。
「それが誤解なのです。」
なにがだよ? 俺はハルヒのせいで女にさせられた挙句にお前が変なちょっかいをかけられて、ついでに俺なんかよりお前の方が大事だと言われた間抜けだぞ?
「すいません、それが僕の行った事なら謝罪するしかないのですが。」
そう言って頭を下げる古泉。
何かおかしい。
こいつは今まで自分のやってきた事を覚えてないのか?
「覚えていないと言うよりも、記憶そのものがありません。『機関』そのものの存在すら先程までは無かったようですし。」
古泉は赤い光のまま、肩をすくめたようだった。『機関』が存在しなかった? そう言えば古泉が超能力を使っているのはおかしい。さっきまでの古泉は『機関』どころか超能力者ですらなかったんだからな。
「ちょっと待て、つまり俺がさっきまで会っていた古泉は誰だったんだ?!」
俺の疑問に古泉は少し考えた風で、
「それも恐らく僕でしょう、ただし涼宮さんが思う僕ですけど。」
と言うよく分からない回答をした。どういうことだ?
「つまり涼宮さんはあなたを女の子にしただけではなく、僕をあなたに恋する男の子に設定していたという訳です。」
何だそれ? あいつはなんでそんなことをしようと思ったんだ?!
「さあ? そこまでは僕にも分かりません。しかし、そうやって作った世界はどうやら涼宮さんの思惑とは大きくかけ離れたものとなったのは間違いないようですね。」
そうかい、まああいつの思い通りばかりになるってのも癪に障るしな。
「とにかく涼宮さんの極度のストレスが、本来の僕をこうして出してこれるきっかけとなったというのもなにかの皮肉のようですが。なんにしろ僕にはこの間の記憶がないので何も言えませんがね。」
確かにこのもったいぶった言い回しは、俺の良く知る古泉そのものだ。どうやら俺が会っていた古泉が偽者というか、ハルヒが作ったというのも真実らしい。
「ですから、あなたには忘れろとは言いません。しかしあなたを涼宮さんが待っているという事実だけは知ってもらいたいのです。そして涼宮さんを探し出せるのもまたあなたしかいないと言う事を。」
ああ、やっぱり腹が立ってきた。あいつは散々俺に迷惑をかけたあげくにまだ俺をこき使うつもりなのか?
「そうは言っても、これはあなたにしか出来ない事なのです。」
何なんだ、これは? 俺はいきなり女になって、古泉に気持ち悪い告白をされた上に我儘なハルヒを探し出してお守りをしなきゃならないのかよ?!
「まあそれだけあなたが涼宮さんの信頼を得ているということですが。僕らでは到底かなわない事です。」
そうかよ、いっそのこと替わってくれないか?
「それを涼宮さんが望めば。」
それは……………………ふん、無いんだろ?
「ええ。ですから世界をお願いします。早めに戻ってきてくださいね。」
古泉の笑みが増したようだった。赤いから分からんが、間違いないだろうな。
「まったく、やれやれだ。」
俺はここにきてようやく馴染みとなった口癖を口にしながら、ため息と共に立ち上がった。結局俺はお人よしの部類からは抜け出せないのかね。
「それでは僕はこの辺で。あなたが男性として戻ってきてくれることをお祈りしています。」
俺もさ。
「あなたは数少ない僕の同性の友人なんです。それに……………」
なんだよ?
「女性になったあなたを見ていると、僕も口説きたくなってしまうじゃないですか?」
言ってろ、この馬鹿野郎。言いたい事を言って、赤い光はまるで手品のように消えていった。




さて、どこで拗ねてやがるんでしょうかね? 
ウチの我儘な団長さんは。
俺は部室のドアを開けて校内を走り出した…………………