SS一覧(その都度、追加予定)
キョン子SS「ごちゃまぜ恋愛症候群」
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九曜SS「たとえば彼女」シリーズ
たとえば彼女の………1/2/3/4/5/6/7(30万ヒット記念SS) たとえば彼女は………前編/後編 たとえば彼女へ………前編/中篇/後編 たとえば彼女で………1/2/3/4/5/6 たとえば彼女か………1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32/33/34/35/36/37
ハルキョンSS
涼宮ハルヒの減量 「あつい」と言ったら負け:リベンジ!!(贈り物SS) 誰かさん〜CLOSE YOUR EYES〜 Dialogue :ストレート・アプローチ 深く、ただ深く(ごにょごにょSS) ネクタイ/キョンver・ハルヒver anniversary(贈り物SS) キョン攻略法(贈り物SS) イチャラブ? なにそれおいしいの?(笑)前編/中篇/中中篇/中中中篇/後編/エピローグ 涼宮ハルヒの爆弾 発作 惚気話:Dialogue 願い事:Dialogue(七夕SS)はじめてのチュウ
長門SS
雨が降ったら(長門SS) 長門とキョンがひたすらイチャイチャする話:Dialogue(長キョンSS) 世界の幸福な結末について(黒長門SS) 応援したい(贈り物長キョンSS) 萌えたでしょ?:Dialogue (ヤンデレ注意) わたしと共に朝食を(ヤンデレ注意) 長門有希の反乱(贈り物SS) 意外とありそうでこわい世界崩壊フラグ(元ネタ・峰風さん)ピュアver/黒ver メガねKOI☆する五秒前(メガネフェス参加作品) 見て見ないふり(リレーSS) 長門有希の食いしん坊万歳! ただ、すき前編/後編 以心伝心 長門有希の焦燥1/2/3/4/5/6 朧月夜(贈り物SS) 足りない 月見草 長門有希の地球侵略大作戦 観測観察観賞感情1/2/3/4
古泉SS
ある晴れた日曜日(古泉SS) ひ・み・つ・のでえと(古泉キョン妹SS) それはまるで恋のように前編/中編/後編(古泉キョン妹SS) 酒は飲んでも飲まれるなって話(古泉・キョンSS) にらめっこ:Dialogue(古みくSS) 古泉一樹の過去 ※(ハルヒちゃんSS) 楽しく楽しく優しくね(古泉長門SS・贈り物) ヒロイックヒロインの勝敗(古泉橘SS・贈り物)
古泉一姫SS
月は確かにそこにある1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32/33/34/35/36/37/38/39
鶴屋さんSS
さよなら三角、またきた四角? 四角四面の五里霧中(オールキャラ) ちょろんと真夏の奇跡なおはなし 秋空とアルバイトと焼き芋 春はあけぼの前編/中編/中中編/後編 Dialogue:古風なやりとり(鶴屋×古泉SS) 鶴にゃんのお気楽お悩み相談!:Dialogue
佐々木SS
声:Dialogue(佐々キョンSS) ドロー・ゲーム(佐々木SS:ネタ元コカペプシさん) マヨルカ島殺人事件(ハロウィン・佐々木SS) 木枯らしに抱かれて 純粋な恋人達に祝福を〜彼女の場合〜 どれだけ時が経とうとも
喜緑さんSS
その他SS
小さく呟いて(3万ヒットお礼・朝比奈みくるSS) 忘れじのメモリー(藤原SS・ネタ提供三単元くん) 秋:食欲(季節物SS) 曖昧3cm、それプニッてことかい? ちょww前編/後編 二歩:Dialogue センター:Dialogue 人生こども相談室:Dialogue おとうさん:Dialogue とある男子高校生どもの日常会話:Dialogue とある男子高校生どもの日常会話・2:Dialogue とある男子高校生どもの日常会話・3:Dialogue コンカツ! あだ名 天の川オーバードライブ(七夕SS) あるいはこれも予定調和(メガネフェスタ参加作品) アンラッキーデイ(パンチラフェスタ参加作品) アンラッキーデイ(真)(パンチラSS) 金銀・ダイアモンド&パールプレゼント1/2/3/4/5/6/7/8 北高新聞 号外『大ヒット御礼』(贈り物SS) 遅くなった夜に(阪中SS)
頂き物SS
嘘はないけど誠になってしまった話(20万ヒット記念でzaxasさんより)
おかわり(20万ヒット記念でどっさりさんより) 頭撫(凛色さんより) 落語ちっくな乙女たち(凛色さんより) たとえば彼と………(遙火ちゃんより:性転換九曜) 純な恋愛小説のススメ(コンスタンティンくんより) きっとキャット(ポンペイウスくんより) 天使の矢(ポンペイウスくんより・原案蔵人)
涼宮ハルヒの桃太郎(あまぎさんより) 涼宮ハルヒの竹取物語(あまぎさんより) 涼宮ハルヒの聖夜(あまぎさんより:ちいさながとです) 長門有希の消失(あまぎさんより:ちいさながと) 涼宮ハルヒの別離〜それから〜(あまぎさんより)長門有希の憂鬱(60万ヒットお祝いであまぎさんより) 長門有希の複雑1/2/3/4/5/6/7 たとえば彼女も01/02/03(あまぎさんより) 朝倉涼子の逆襲01/02/03/04/05/06 ある冬の日の一コマ(英太郎さんより)
R−18
エロい:Dialogue 涼宮ハルヒのふにふに 長門有希をもふもふしたい前編/後編 長門有希がチュッチュしたい前編
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という記事をTOPに持ってきてみました。
SSは続きを読むからでご覧になれますので、よろしくお願いします。えー、ご意見ご感想をお待ちしております。
『SS』 なちゅらる 7
前回はこちら
その後の話をしよう。
家に帰った俺はいつ携帯が鳴り出すかと不安に怯えながら夜を過ごした。
結果として杞憂に終わったが。
それでも眠りが浅かったせいもあって疲れきった体を引きずるようにしながらどうにか登校する。
遅刻だけは免れているようだったが国木田たちへの挨拶もそこそこに席へと向かうと、そこには俺以上に憔悴しきって机に伏せている奴がいた。
さて困った。声をかけるべきなのか否か。
逃げるように帰ってしまったので黙っておきたいところだが、その後どうなったのか不安でもある。
しかし一応は挨拶をして帰った手前、何も言わないのもおかしいだろうと覚悟を決めてハルヒに話しかけることにする。
「よう、おはようさん」
「………ばなじがげないで」
嗄れた声で大体の様子が理解出来た。
どうやらカラオケは大盛況というか、多分大爆発だったのだろう。
様々な意味を込めて。
…………これ以上様子を訊くのは怖いな。
「わかった。ホームルームくらいは顔を上げておけよ」
それだけ言うと俺も机に伏せた。正直言ってこっちだって寝不足なのだ、ハルヒにかまってはいられない。
こうして、偉そうにハルヒに言っておきながら俺もホームルームどころか午前の授業の殆どを覚えていないという体たらくで過ごしてしまうのであった。
昼を挟んで午後の授業は何とか無事にやり過ごし(内容を把握していたかと問われれば答えは沈黙である)、終礼の時間を迎える。
因みに昼休みのハルヒは走る事も無く食堂へと向い、そのまま授業が始まるまで帰ってこなかった。
これはこれで珍しいが午前中の様子だとどこかで休んでいるだろうな。
実際にハルヒを目撃した谷口曰く、あの涼宮が保健室へ自主的に行く姿など初めて見たとのことだ。恐らく保健教諭に迫ってベッドを確保したのだろう。
おかげで午後のハルヒは普段どおりと言えるくらいには回復していたらしい(俺は後ろでノートに書いているペンの音で眠気を誘われていたから分からなかった)。
となれば恐怖の放課後となるはずだよな? ところが、
「あんたは後から来なさい!」
一言だけ言い残したハルヒがもの凄い勢いで走り出してしまい、残された俺は茫然とするしかなかった。
「なんだぁ? ケンカでもしたのか、お前ら?」
「そうじゃなくて何か仕掛けるつもりなんじゃない? 気を付けなよ、キョン」
谷口や国木田の言葉に従うわけでもないが部室に行きづらい気分であるのは間違いない。
かといってハルヒが来いと言っているのに行かないなどとやってしまえば後々どうなるのかと考えるだけで憂鬱だ。
結論としては重たい気分と重い腰を上げて部室へと向かうしかないのであった。
まったく、先週末から休んだ気がしないぜ。
嫌々ながら向かった先のおなじみとなった旧校舎の一角、文芸部室前で俺は意外な光景を目にする。
「やあ、今日は随分とゆっくり来られたのですね」
さわやかな笑顔で出迎えた古泉だが、どうしてこんなところに突っ立ってるんだ?
「ハルヒが先に来てるはずだ。お前は何で部室に入ってないんだ?」
「それは涼宮さんが女性だけで話したいと僕を部室から退室させたからですよ。ああ、鶴屋さんも中にいますね」
様になる肩のすくめ方で答えた古泉は部室の扉を避けるように壁に寄りかかった。
仕方なく俺も隣で同じように壁に背もたれる。
「一体何が起こってるんだ? もしも朝比奈さんに何らかの危害が及ぶようなら俺は踏み込むぞ」
「あなたが心配するようなことは何も。むしろ涼宮さんが女性同士で話したいと言ったら朝比奈さんと鶴屋さんに真っ先に追い出されてしまいましたから」
「長門もか?」
「一応長門さんは女性ですが?」
「そりゃそうだが話し合いの中にいるイメージがないだけだ」
頭の中で想像しても黙って本から目線だけ上げている長門の姿しか浮かばない。
それにしてもハルヒが鶴屋さんまで誘って女同士の話とはな。
「心当たりはあるのか?」
「僕には特に何も。あなたの方が何か知っているのではないですか?」
言われて思うのは当然昨日の出来事ではあるのだが、どこまで話していいのか、何よりも古泉がどこまで把握しているのかが分からない。
「さてな、楽しそうにはしていたと思うぞ」
それにハルヒの中学時代を知らなければ普通に友人と過ごした休日であると言えるのではないだろうか。俺としては無難にそう言うしかない。
「それよりも昨日はお前に出番はなかったんだよな? 多少苛ついた様子はあったが概ねハルヒの機嫌は良かったはずだ」
「そうですね。僕から言えるのは…………昨日は閉鎖空間の発生がありませんでした。それだけですね」
「それだけねえ…………」
一番重要なのだと分かりはするが、一々気にしなければいけないというのはどうなのだろうか? 古泉にとっても、無論ハルヒにとってもという意味で。
「とりあえずは世界が無事なのですから良かったのではありませんか? あなたの活躍によって」
「何もしていないっての。むしろ昔のことを水に流して付き合ってくれた彼女たちに礼を言うんだな」
それは改めて考えておきます、と古泉が言ったところで漸く部室の扉が開いた。
「やあやあ、おまっとさん! とりあえず入った入った!」
散々待たされていたのに鶴屋さんに急かされるように部屋へと押し込まれる。
古泉は普通に、俺はつんのめるようにして入室したそこには…………
なーんて驚愕の光景などありはしなかった。
長門は窓際で本を拡げているし、ハルヒはパソコンのモニターとにらめっこの最中だ。
唯一変化と呼べるのは朝比奈さんがメイド服ではないというくらいか(制服姿を新鮮に感じるというのもおかしなものだが)。
「いやいや、ちょろんと話し込んじゃったもんだから一樹くんを待たせちゃったね。めんごめんご」
「えっ、俺は?」
「キョンくんはさっき来たのを知ってるもんねー!」
そう言いながら既に鶴屋さんは適当な位置に椅子を持ち出して座っている。
それを見た俺と古泉も定位置といえる長机の前に陣取るとしよう。
「さて、と。どうする?」
「どうする、とは?」
「今日は何をするのかって訊いているんだが?」
すると古泉は役者のように大きく肩をすくめ、
「あなたのすることは一つだけでしょう」
などと言いやがった。
「うんうんっ! 出来ればキョンくんには椅子に座る前にやっておいてほしかったにょろ」
鶴屋さんまで。
よく見れば朝比奈さんはお茶の用意を止めてお盆を持ったままニコニコ笑っている。
そして、あの長門が本から顔を上げている。
……………はいはい、分かりましたよ。
俺は一層重くなった腰を上げて椅子から立つとハルヒの座る団長席の前へ。
「………なによ?」
「いや、昨日は楽しかったか?」
「………………大したことないわね」
そうかい。あれだけ声を嗄らしておいて楽しくなかったというのもおかしなもんだけどな。
「そいつは残念だ。また次回にでもリベンジだな」
「………………………アドレスの交換くらいならしたわよ」
最後に見た様子ならしたくなくても無理やり交換されそうだったな。きっと無理やりなんてことはなかっただろうけどさ。
「…………それだけ?」
いいや。そんなわけないだろう?
俺はモニターから覗き込むようにハルヒを見る。
自然と笑ってしまうのは許してもらいたいね。
「よく似合ってるぞ、ハルヒ。買った甲斐もあったってもんだな」
「………………おそいっつーの………」
ハルヒのシッポがゆらゆら揺れる。
顔を伏せ気味にしているので余計に目立つな。
俺が買ってやった髪留めも十二分に役目を果たせて一入だろう。
兎にも角にも、涼宮ハルヒのポニーテールは昨日の疲れを吹き飛ばす破壊力で俺を笑顔にしてくれるのであった。
ついでに言えば髪を詰めたせいで見える耳たぶが真っ赤なのも高ポイントなんだけどな。
「あーっ! もうっ! みくるちゃん! お茶!!」
堪えきれなくなったハルヒが爆発して朝比奈さんが慌ててお茶の用意をする。
鶴屋さんが笑いながらハルヒの傍に来たので入れ違うように俺は席に戻り、
「世は全てこともなしですね」
「まったくだ」
古泉が準備していた将棋の駒を並べつつ、ハルヒの騒ぎ声を笑いながら聞くのであった。
その後のその後の話はまだ出来ない。
しようもないし、したくもない。
ただ言えることは、ハルヒに友人が増えたということ。
それと、俺の休日が無くなったということくらいである。
日曜日になると俺はひとりで駅前にいる。
「………待った?」
「いいや全然。時間通りだぜ?」
何故か土曜日と違って時間ピッタリにしか来ないハルヒに腕を絡まれて。
「それじゃ行くわよ!」
「へいへい」
何故か二人だけで不思議探索の延長戦を行うようになった。
ただそれだけの話さ。
奇跡だろ?
連続更新とかさあ(笑)いつぶりだろうねえ、ええ。まあストックあるからなんですけど。何日分もないですけどー!
とりあえずは書けるだけマシなので見せることを優先にしておきたいと思います。
それにしても感想とかないですけどね。いや、コメントいただきますと嬉しいのですよ。というのもあるけどやはりどういう風に感じたかを聞けるのが一番良いですから。かといって難癖みたいなのもありますけど(苦笑)
うーん、だからといって単純に褒められたいってのも違うと思いますが。褒めて伸びるとこもあるけど褒められるだけで成長はしないと思ってますので。正直言って文章書くのが上手い人でもないですし!! 恐らくちょっと勉強した人から見れば滅茶苦茶じゃないでしょうか(汗)
だから勉強したいんですよ? 頭固めのオッサンでも(笑)周囲に驚くくらい試行錯誤しながら成長する人が多いからな! 負けてますけど!! 自分では努力したいとしてるんですよ、結果伴わないですけど!(涙)
あ、こういうトーク嫌いな人もいますよね。すみません。だけど何も言わないのならこんなのやる必要ないんじゃよ? 前向きにやるための予備運動だと思ってくれい。
本当はこういう感じのコラムみたいなのだけでお茶を濁すこともできるのでしょうけど、雑誌のコラム読んで『こんなんでお金貰って楽してるよねーwww』とかコメントするネットニュースの住人にはなりたくないのでSSくらいは書きたいです。コラムもそれは大変なのだと思うけどテレビ批評系はちょっと好きではないかな。この間読んだ雑誌のコラム記事は酷かったので。でもこれだけは言えるけど、それで収入を得てるんですから記事がアレというのはいいけどライターの人格否定までは駄目ですよね。さじ加減が難しいんですが(苦笑)
まあこういう話も何なのでとっととSSにしましょう。そうしましょう。
拍手ありがとうございます。
・コメント随時募集中。以前頂いたリクエストも覚えてますよ、書けてないのは申し訳ありません。
『SS』 なちゅらる 6
前回はこちら
その後というか午後はほぼ無意味なウィンドーショッピングに費やすことに相成った。
というのも、目的であった朝比奈さんのコスプレ関係の小物などは買い終えていた上に、其々の買い物などもとっくに終わっていたのである。
つまりはもう解散してもよい(というか帰りたい)のだが、そこは女の買い物の怖さを知らない男の勝手な理屈となるらしい。
母親や妹ですら買い物などに付き合うと目的以外で彷徨き回る時間の方が長いのだ、現役バリバリ(これは死語なのか?)の女子高生四人が揃って只で済むはずもなかった。
まあとにかく歩く、笑う、休んでいるかと思えば喋っている。
目まぐるしいことこの上ないが、それでも学校以外で笑っているハルヒを見れるというのも中々いいものだ。
………などと思ってしまった自分を殴ってやりたい。さっきから何を考えているんだ?!
無駄に心労を重ねている俺のことなど眼中に無いハルヒたちを紙袋をぶら下げたまま追いかけながら心の中でため息を吐く。
やれやれ、なんでこんな目に遭ってるんだか。
それでも、
「遅いわよ、キョン!」
と言って笑っているハルヒと並ぶ三人の同窓生を見れば、少しは俺でも役に立っているのかと思えてくるのだから男というものは余程単純な生き物なのだろう。
「少しは彼氏くんの荷物を持ってあげた方がいいかな? どうせあたしたちのなんだし」
「いいのよ、あいつは雑用係なんだから。それと彼氏じゃないから!」
「それはちょっと可哀想な……」
「いいんじゃない? 涼宮さんってちょっと素直じゃないだけなんだから」
「何よ? それってどういう意味?!」
「こういう意味よ」
なんだ?! いきなり黒髪の子に腕を絡まれて……って、
「な、な、なにしてんのよっ?!」
「うわっ! ハルヒやめろ!」
それを見たハルヒがいきなり襲い掛かってきた。
じゃなくて俺と彼女の間に入り込んできたが正解か?
その勢いで荷物を落としそうになるのを慌てて抱え込む。
どうにか荷物の無事を確認しながら体勢を整えた俺の腕が再び誰かに抱え込まれた。
「って、ハルヒ?」
「あによ?!」
いや何よってのはこっちのセリフだろ。
何故俺の腕にハルヒがしっかりとしがみついているのか説明を頂けないものなのか?
「えっ? ………あっ!?」
慌ててハルヒが腕を離す。
まるで自分が何をしていたのか判っていなかったかのようだ。
「ね? 分かってくれたでしょ?」
「う〜…………」
それを見ていた三人の笑顔と赤い顔のハルヒを見ても俺にはさっぱり状況が理解出来ないままである。
とりあえず、
「大丈夫か、ハルヒ?」
と訊いてみたものの、
「…………バカキョン」
と返されてしまい、途方に暮れるしかない不幸な俺なのであった。
「とりあえずそろそろ帰りましょうか。電車の時間もあるからね」
いつの間にか仕切るようになっていたリーダーに促されて(この頃にはハルヒも素直に従っていた)地元に戻るべく電車に乗る。
帰りの車内は行きと違い賑やかなものだった。
どうやらムードメーカーなショートカットの子とハルヒがお喋りしているのを黒髪の子が冷静にツッコミながら眼鏡の子が気弱にオチをつけるという流れが定着しつつある。
俺はといえば、行きと同じく四人の前で吊革を持って突っ立ちながら騒がしくなりそうなハルヒを適度に嗜めようと思いながらも荷物が邪魔で動けないという有様である。
やれやれ、といつもの口癖を呟きながらも俺はそんなに悪い気分では無かった。
あの涼宮ハルヒが昔の友達(昔は友達だったのかと訊かれると微妙かもしれないが)と笑いながら話しているのだ。
入学当初、そして初めて話した時のハルヒからは想像も出来ないほどの明るさで。
元々持っていたであろうハルヒの社交性は映画撮影の時に商店街のスポンサーを獲得したりしたので分かってはいたが、それを同級生や学校内で発揮することはなかった。
あえて言えばSOS団や鶴屋さん、コンピ研の連中辺りには気軽に話すようにはなっていたが、その過程を経たからこそ今こうして同窓生と話せるようになったのかもしれない。
だからといって俺が何かしたって訳ではない。
俺だけではない周りの連中が涼宮ハルヒを放っておけなかったってだけのことさ。
それを前のハルヒしか見ていない奴らにも伝えられたのならば早起きして荷物持ちに付き合った甲斐もあったってものだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら吊り革を持って電車に揺られる俺なのであった。
「彼氏くんって時々すっごい優しい目で涼宮さんを見てるよね」
「え、え? そ、そんなこと……」
「大事に思われてるのね」
「ば、バカなこと言わないでよ」
「羨ましいなあ………」
「えと………うん………」
とにかく早く着いてくれないと足が怠いんだけど。
黒髪さんが言ったとおり、地元の駅に着いた頃には日も傾きかけていた。
正常な高校生としては『俺たちの戦いはまだこれからだ!』と叫びながら飛び出したいところではあるのだが、さすがに午前中から歩き回った上に電車でも座っていなかったので体力的には限界に近い(勿論女性だらけの中で一人男であった気疲れもある)。
これで解散と思った途端に疲れが背中に圧し掛かってくるような気がしてきた。
ところがそうは問屋が卸さないのがハルヒに関わったものの宿命というものなのだろうか。
「で? これからどうすんの?」
一番はしゃいでいた(客観的にみて)ショートカットの提案にまさかと思っていたら、
「そうね、カラオケでも行く?」
「ええっと………わたし、あんまり歌えないんだけど………」
さすがは女子高生なのか? それとも俺の体力がなさすぎるのだろうか。
どちらにしても俺としては慎んでお断りさせていただきたい。
ここから疲れ切った体で得意でもない歌を歌わされてしまう羞恥プレイなど御免被る。
しかし俺の意思はこの場において何も汲みされないであろうことは明白であり、今回の最終決定者は俺の隣で珍しくも借りてきた猫のごとく大人しいカチューシャの女であるからどうしようもない。
そしてカチューシャの女こと涼宮ハルヒという人物はこのような展開になった時には寧ろ自分の提案であったかのごとく俺を引っ張って行きかねない奴なのだ。
考えうる内で最悪の展開だ。ハルヒに引っ張られたらあいつのライブ(まあ歌は上手いから聴く価値はあるが)を至近距離で観賞させられた挙句に歌えそうもない歌だらけのメドレーなど無理矢理入れられた上で赤っ恥をかかされかねない。
どうにかしてそれだけは避けなければ! 俺は無けなしの力を振り絞って、
『これからカラオケなんて無茶すぎる! 頼むぞハルヒ、上手いこと断ってくれ!』
という心の声を前面にハルヒへのアイコンタクトを試みる。
が、あの馬鹿見事にこっちを向いていない。何故だ。
いや、向いてないのは俺だけにではない。
やけに大人しいと思ったら俯いたままで地面とアイコンタクト中なのだった。
そことはどれだけ目線を交わしても何も得られないぞ? それよりも俺の目を見てくれ!
微妙に意味を間違われると大惨事を起こしそうな俺の情熱(?)が功を奏したのか、ハルヒはようやく顔を上げてくれた。
「そうね。カラオケならあたしも行きたいし、いいんじゃない?」
やはりか。やはりそうなってしまうのか。
この先には地獄しか待っていないのに俺は飛び込まされてしまうのか。
ゴムを巻かないバンジージャンプ、パラシュートを忘れたスカイダイビング、ガンダムに乗らない大気圏突入のようなものじゃねえか。
冗談じゃない、ここはダッシュで逃げ出すしかない!
が、あいつらの荷物を持ったままだった。
いや? これを放り投げてあいつらがそれを追う隙に逃げるという手もあるか?
…………月曜日には死なされるな。ハルヒに。
それに最後まで付き合ってハルヒ及びSOS団を喧伝するという当初の目的からも外れてしまう(最早外れすぎているような気もするが)。
仕方が無い、恥を忍んでお供するしかあるまい。
誰にも知られず悲壮なる覚悟を決めた俺であったが、ここからまた予想外の展開となる。
「だけどキョンはここで帰らせるわね。さっきから愚痴ばっかだし」
まさかハルヒから救いの手が伸びてくるとは思いもするまい。
「そうなの? 少し引っ張りまわしすぎたかしら………」
「まあ荷物も持って貰っちゃってるし帰りも立ちっぱなしだったもんね」
「き、気を遣わせちゃいました?」
気遣いなら当然していたがハルヒが大人しかったおかげでそこまでではない。
それに普段から結構歩いている方(だからといってあの北高へ向かう坂には感謝などしない)なので実際に体力面でもそこまで疲れていなかったりもする。
単に女子高生に囲まれているというアウェー感に参っているだけなのだ(そしてそれが一番重要であったりもする)。
だからこそ帰りたかったのだがハルヒの意外な助け舟により逆に帰るのが申し訳無いという気分になってくるから不思議なものだ。
これをハルヒが狙っていたのだとすれば掌の上で踊らされていることになるな。
それでも多少の罪悪感もあっていやそれは、と言おうとしたがハルヒに止められた。
「それに正直言って男が混ざりこんだら話辛いもんね」
ここまで引っ張っておきながらそれは酷い。
酷いが正直助かる。
色々と思うところはあるが、ここはハルヒの話に乗っかっておく方が正解なのかもしれない。
「分かったよ、お前も旧友と積もる話もあるだろうからな。お邪魔虫はとっとと退散させてもらうとするわ」
それぞれの荷物を返しながら内心では安堵の息を吐く。
「あんたこそ帰らせてあげるんだから明日遅刻なんかするんじゃないわよ」
「へいへい」
何度も言うが遅い登校であっても遅刻したことはないんだがな。
「とても自然な流れよね。日常的に話してるのが分かるわ」
「涼宮さんが彼を助けようとしてるのも分かっちゃうよね」
「阿吽の呼吸ってやつかねえ。見せつけてくれちゃってまあ」
てな訳で適当に頭でも下げて帰ろうとしたのだが、ここで忘れものに気が付いた。
「あ、そういえばハルヒよ」
「なによ? さっさと帰れって言ってんじゃない」
「忘れてたがこれをやる」
「え?」
小さな紙包みを渡されたハルヒが目を丸くしている。
「どうせ朝比奈さんの小物ばかりに気を取られてたんだろ? しょうがないから買っておいてやったからな。長門と………お前の分だ」
朝比奈さんに羞恥プレイなコスプレばかりをさせているのがハルヒではない。
実のところハルヒプロデュースの確かさは私服で行動するSOS団不思議探索で立証されていて、特に長門などはその恩恵を受けてどうにか普通の女子高校生らしく見えているといっても過言ではない。
ただし難点があるならば一点集中主義であるところだ。朝比奈さん向け、と思ったらそれしか見なくなる節がある。
これが長門も含めた三人ならば平等に探していたのだろうと思うのだが、とにかく話を振られていきなり決めてしまったので仕方が無いとも言えるのではないか。
その点について今回はSOS団の絆というか宣伝も兼ねているのに些か具合が悪いだろうと思っていた俺はデパートでこっそりと自腹を切って三人のバランスをとろうとしていたという寸法だ。
ここで注意しておきたいのは古泉は数に入れていないということなのだが男の小物なんぞ買う気にもならないというか、あいつの方がセンスもある(そのくらいは自覚している)のでわざわざ買う必要もない。
何よりも、嫌なもんは嫌なのだ。
「大したもんじゃないが三人分買っておいた。気に入るかどうかはそれぞれに訊いてくれ、金額としても大したものではないからな(ハルヒや長門はともかく朝比奈さんの済まなそうな顔が目に浮かぶので)」
そんなものでご機嫌取りをしようとしているくらいなのだからここは偉そうに良くやった、雑用のくせにとでも言ってもらえれば十分なのだ。
ところが、
「あ………うん………えっと………あ、ありがと………」
ハルヒがおかしい。
何故そんなに大事そうに受け取るんだ? さっきも言ったがそれ安物だぞ?
しかもそれを見た三人娘は妙に騒がしいし。
「プレゼント! すごく当たり前のようにプレゼントしてる!」
「いない人の分まで気を使ってるのかしら? それとも一人分だけ買うのが恥ずかしいからフェイクなのかしらね」
「どっちにしても羨ましいー!」
………何やら空気がおかしいというか、これはさっさと退散したほうがよさそうだぞ。
「と、とにかく帰るわ。それじゃ明日学校でな」
そう言って歩き出そうとした俺は最後にふと思ってしまった。
このままだとハルヒたちがカラオケにでも行って、そこでハルヒの機嫌が悪くなればまずいのではないだろうか? 閉鎖空間など発生してしまえば古泉から愚痴を聞かされてしまうだろう。
やはり何か三人娘にはひとこと言っておいた方がいいかもしれない。
「あー、そんじゃ俺は帰ります。ハルヒのことはくれぐれもよろしくお願いしときます」
「はい、わかりました」
「あのねえ、あんたに心配とかされる必要なんてないわよ!」
お前の心配というより彼女たちと世界を心配していると言ってやりたい。
「まあこんな態度の奴ですけどちゃんと常識的な部分もありますし(古泉曰く)、友達になったら気前もいい優しい奴なんで(長門に対しては)、ちょっと言葉が悪くても機嫌を悪くしないでくれると助かるよ(朝比奈さんや鶴屋さんのように)」
「うん、それは今日一日で分かってきたかなって思うよ」
本当にこのショートカットの子は鶴屋さんばりに理解力あるな。
「それに俺も(SOS団として)付き合いだしてそこそこ長くなってきて(SOS団に)愛着もあるから、大事にしたいと思ってるんだ(SOS団を)。だからこそ(団長である)ハルヒを何より大切にしなければという気遣いは分かってもらえると嬉しいな」
平団員でもその程度の心構えはあるんだぜ? 古泉のようにハルヒのイエスマンにはなりたくもないけどな。
「ということで帰らせてもらうけど………ってハルヒ?」
そこには石像のように全身を赤く染めて硬直している涼宮ハルヒがいた。
「お、おい大丈夫か?」
「エエ、ダイジョウブデストモ」
何故かそれに答えて固まったハルヒを抱えるように引き寄せたのは三人娘の一人でショートカットの子だった。
「ソレデハ、キヲツケテカエッテクダサイネ?」
「スズミヤサンニハ、モウチョットダケツキアッテモライマスカラ」
「そ、そうなの? というかみんなも大丈夫なのかなーって……」
「「「ダイジョウブデストモ!」」」
………………はい。
今までの経験で培った嫌な予感センサーが強烈な反応を示した今、俺には愛想笑いを浮かべて帰るしか選択肢はないようだった。
おかしい。俺は彼女たちの身を案じてくれぐれも釘を刺したつもりだったのに、どういうわけだかハルヒを心配しながら帰ることになっている。
奇妙な不安感に苛まれながら駐輪場で自転車の鍵を取り出した瞬間、
「うらやましすぎるーっ!」
「とことん話してもらいますからねっ!!」
「もげろーっ!」
「キャアーッ?!」
爆発的な嬌声で鍵を落としそうになってしまった。
一体なんだ?! というか、嫌な予感が的中しそうなので怖くて見に行けない。
…………うん。
君子危うきに近寄らずってやつだな。
俺は黙って自転車を漕ぎ出した。
ハルヒの無事を祈りながら。
コミ1行ってきました。
まずはお詫びから。新刊間に合いませんでした。どれだけ待っていてくれたのかは別として(苦笑)きちんとしたものをお見せ出来ないのは不甲斐ないからです。
挿絵というか表紙もしっかり描いてもらっているので必ず形にはします。最近は書く前に満足する病気に罹っているのでここが踏ん張りどころでしょうね。
あとTwitter見てくれている人は知ってると思いますがコピー本も作れる寸前で間に合わないという失態。これも原稿出来てるからどこかで出します。コピーで。あえて。
ということで既刊だけの参加となったコミ1ですが、まあ見てくれる人が一人でも居てくれたので良かったと。これで満足してはいけないけど無視よりはいいというか、お手にとって読んでもらえるというのは何よりいいものだなあ、だからこそ落としたのはいけないよなあと痛感する次第です。
それと久々にまともに人と話した(好きなことを話すという意味で)のが嬉しかったです。だんちさんには毎回弱音というか愚痴めいたことを言ってしまっては励まされている気がします。いつも気づかせてくれるのがありがたいのです。ほんと、俺って書いてナンボな人なんだなあって。それを商売に出来るか否かは別としてですけど。したいとは思うけど。
力不足を言い訳にしたくない反面、力がないと踏み出さない自分もいますわね。弱い自分が愛おしいなあという無意識の自己愛が視界を狭めたりしてないでしょうかね? とか思ったりしまして。
ええ、ここ龍泉堂だって全然更新してないから閲覧数下がってるといってもひと桁ではない。つまり見てくれてる(ロボットもいるじゃろけど)わけですから応えなければやる意味も価値もないんですよ。そこまで思う必要ないんですけど、そこまでしなければ面白くないじゃない。
久々の更新でつらつら書きましたが要はやりまっせ!ってだけでOK。受かれば夏コミだけど、そこではちょっと頑張った感は見せたいですね。
だって帰ってからSS仕上げたもん。まだ書けるんじゃないかなあ? どうでしょう?
てな感じで龍泉堂をよろしくお願いします。どんどんTwitterで更新した記事をリツートしてください(笑)
拍手ありがとうございます
コメント返信は今回パスです、だって放置しすぎだもの。
だからといって拍手とかコメントないと泣きそうだけど。実際最近ないから泣きそうだけど。
泣かないよ、僕!(露骨な催促)
『SS』 なちゅらる・5
前回はこちら
「で、なに食べるの?」
と言われても出来るだけ財布に負担のないようにとしか答えられない。
それに俺の意見なぞ女子高生四人に通じるはずもないのでお任せしておくしかないのである。
するとこういう時に率先するのは団長の役割だの何だのとうるさいハルヒを差し置いて、
「ここにしましょう」
と、さっさと店を決めたのは思ったとおりのリーダー気質だった黒髪の子である。
見た目の印象だけでなく本当に仕切るのが好きなのだろう。
そういえばどことなく委員長といった雰囲気でもある。
…………委員長といってもあまりいいイメージにならないのはクラス委員長だった女に殺されかけたからだろうな。
とはいえ彼女に罪は無く、残り二人も当然俺も不満はないのだが、厄介なことに他人に仕切られるのを心より不満がる女がいるのもまた確かなのであり、その名を涼宮ハルヒという。
これまたお決まりのように「ちょっと」と抗議の声を上げかけたハルヒなのだが、ここで話を拗らせてもせっかく良くなった雰囲気が台無しというものだ。
そこでどうするのかといえば、我が身を犠牲とするしかないのは自明の理であろう。
「よし、それじゃ入ろうか」
「ちょっと! あんた何勝手に、」
「いいかハルヒ、俺は荷物持ちでとても疲れている上に非常に腹が減っている」
「それがなによ?」
「このままウロウロと歩き回れば間違いなく俺は腹の虫を鳴らしながら歩くことになるがいいのか?」
「はあ?!」
「想像してみろ、お前が歩く後ろを荷物を抱えてグーグー腹を鳴らしながら歩いている俺だぞ? そんな光景を見てどう思う?」
「嫌よ! まるっきりあたしが何も食べさせてないひどい女みたいじゃない!」
「ということで飯は早めに食うに限るってことだ。それにとにかく休ませてくれ」
「しょうがないわね。まったく、体力が無さすぎなのよ! それとあんまり品の無いこと言ってんじゃないっ!」
品の無いことを言わせたのはお前だ。他にも人がいるっていうのにあまりにこれでは情けない。
だが、どうにかハルヒの我がままは回避して(機嫌は損ねたかもしれないが)三人には笑われながらもどうにか店に入るまでは成功したと言えるだろう。
「すごく自然な掛け合いよね」
「どう見てもイチャイチャしてるっつーの」
「涼宮さんってこういうところ可愛いんだなあ……」
さて、黒髪の子が選んだ店というのはショッピングモール内にしては少し洒落た感じの内装のイタリア料理店だ。
家族向けでは無さそうな雰囲気故か、昼食の時間帯にしては静かなものである。
こういう店を選べるセンスというのはすごいな、SOS団だとファミレスかファーストフードで大騒ぎだぞ(主に団長が)。
そして大騒ぎしそうな団長はといえばいつもに比べれば意外に大人しい。
万が一の事を考えて奥の席に座らせ、俺が隣に座ることで動きを制したのだが余計な心配だったのかもしれない。
通常のSOS団で座っている時より若干詰め気味にしておいたが大して意味が無かったかもな。
まあ古泉曰く常識のある奴らしいので旧友の前でもあるし多少は節度のあるところを見せたいのかもとは思うのだが。
そういえば注文の時に早く決めろと周りを急かすことも大声を上げて店員を呼ぶことも、ましてや隣に座る俺を押しのけて勝手にメニューを増やすこともしなかったのには驚いた。
とにかくハルヒが大人しいというのはいいことだ。メニューを見ても早く決まるし、余計な手間もかからずに注文もスムーズに出来る。
「彼氏は当然横に座るわけだ」
「案外涼宮さんって彼を立てる人なのね」
「じゃなくって顔が真っ赤なんだけど?」
こうして注文してから料理が来るまでの間、話をしないわけにもいかないので俺は三人相手にくだらないトークを繰り広げる羽目に陥ったのだが正直なところこれは失敗だった。
というのも肝心の同窓生であるハルヒが話そうとしないために俺が口火を切るしかなかったのである。当然内容は中学時代の話になり、彼女たちから聞いたハルヒの評判というものは予想通り芳しいものとは言えなかった。
「すみません、別に悪く言うつもりもないのですけど………」
「いや、別にそういうので気分を害したわけじゃないから」
谷口から聞いていたとはいえ、同性が感じた意見というのはより厳しいと言わざるを得ない。
彼女たちは直接ハルヒと接点があったのではないそうだが、告白されては付き合って即別れたなどという噂は正直なところいいものではないだろう。
「まあ美人で頭もいいし? 運動も出来るってもんだから浮いてたのは確かだったけどね」
これでも体力には自信あったんだけどと苦笑するショートカットの子などはまだいい方なのであって、
「あの……男の子と付き合っても………すぐ別れちゃうって噂が…………私はその、そういうのに疎いから…………あんまりだったけど…………」
申し訳無さそうに小声で話す眼鏡の子は、まだハルヒに対して怯えたような目つきをしている。
また重い空気がテーブルを包む。話のきっかけは俺からだったとしても、彼女たちの反応は思っていた以上に酷かった。
それが中学時代のハルヒだったのか、それとも同性だからなのかは分からない。
ただ、俺たちの話を黙って聞いていたハルヒが怒鳴りつけることも反論しようともしなかったことでも理解は出来た。
涼宮ハルヒの孤独を。
誰にも理解されない。
誰とも分かり合おうともしない。
本人すら望んでいなかった一人になってしまう寂しさを。
…………確かにハルヒにも否がある。ありすぎると言ってもいい。
肝心なことは言わないくせに分かってくれと言われたって無理だ。
けれど、それはこいつが一生懸命すぎたからだ。何事にも全力で、みんなが呆れることにすら必死だった証拠だ。
だから皆が言わなくても分かってくれる、そう信じてしまっていた。
そして結果として次へと急ぎすぎて何もかもを置いて行っちまう。
ハルヒから見れば理解しようともせずに決めつけるだけの奴らなど置いていくしかなかったのだとしてもだ。
俺自身がそんなハルヒを知るのに時間がかかった事は否めない。はっきり言おう、長門や古泉、朝比奈さんがいなければ俺だって谷口あたりと同じようにハルヒを避けていたのかもしれない。
「はあ…………気持ちは分かるけどね」
やれやれという言葉は胸の中に置いておくか。
「ちょっと!」
やっと顔を上げたハルヒの頭に手をやる。
くしゃっと柔らかい髪の感触が指に絡んだ。
「俺だって初めてこいつと話した時はそりゃ素っ気無いもんだったよ。一言で終わりだったもんな?」
あの時のハルヒは素っ気ないというよりも誰とも話そうとしない奴だった。
「それは、」
「けど話してみたら案外面白い奴だったぜ? そりゃ突拍子もない事を考えてはいるけど、全く意味不明だとは思わなかったもんな」
「え………?」
その後の長門たちの話に比べればという注釈は言わないでおくか。
「そこからのハルヒはまあ多少強引ではあるとしても行動力には目を見張るものがあった。現に俺だけじゃなくて友人にも恵まれてるから、そいつらに訊いてもらってもいい」
長門に古泉、朝比奈さんや鶴屋さん。最近では阪中もそうだろうし、谷口や国木田だってハルヒと友人じゃないとは言わないさ。
そう言うと黒髪の子は不審そうに眉を顰めた。
「……それは私たちが涼宮さんの話を聞こうともしなかったということですか?」
「いやいや、そういうもんじゃないよ。実際俺も最初はこいつが何を言ってるのかさっぱり分からなかったし。ただ、人から聞いていた中学の頃のハルヒと今こうして話しているハルヒって同じ奴だと思うのかってことさ」
こればっかりは同じ中学でもないから俺には分らない。この子たちがどれほどハルヒと接していたのかさえ知らないからな。
「んー……うん、あたしは涼宮さんとは一言ふたこと位しか話したことなかったけど。でもこんなに話せるんだったら何でもっと早く話しかけなかったかなとは思ったね」
「べ、別にあんたたちと話すような……」
「それはあたしらも話すネタが無かったからじゃん? 彼とどういう切っ掛けで話をしたのかは知らないけど、まあ勉強不足でしたってことで」
あっけらかんと言う様は鶴屋さんみたいだな、このショートカット。言われたハルヒの方が小さくなったぞ。
「わ、わたしも………前は遠くから涼宮さんを見てるだけだったし………その時は怖い人だと………」
「まあ何かいつも怒ってるみたいだったね、涼宮さん」
なるほど、今まさに眼鏡の子を睨んだような顔をしてたんだなハルヒ。
「けど、あんなに楽しそうに笑ってる涼宮さんは………可愛いなあって」
「なっ?! 何をいきなり! 可愛いってあんたねえ!」
「おっと、注文したのがきたみたいだぞ」
ナイスタイミングですウェートレスさん。どうやら見知った先輩ではないようだが。
あーうー言いながらも仕方なく引き下がったハルヒはともかく、このタイミングで何事もなかったように食事を始める三人もなかなかのものである。
「彼氏くんはどうやって涼宮さんに声かけたんだろ?」
「どんな話をすれば涼宮さんがああなるのかは知りたいわね」
「案外涼宮さんの一目惚れだったりして?」
「「あー、あるかも」」
賑やかな三人を前に俺も頼んだハンバーグランチなんぞに手をつけてみるか、と見ればいつもと違う光景がそこにあった。
「あれ? それだけでいいのかハルヒ?」
ハルヒの前にはパスタがひと皿。
普通の女子には十分な量なのかもしれないが、普通ではない女子であるハルヒには物足りないというか少ない量だろう。
こいつ、パスタなら当然大盛でサラダとスープのセットも付けてとどめにデザート(これは普通の女子にも別腹か)がデフォルトのはずなのだが。
「………別にいいわよ」
どことなく不機嫌そうにフォークをパスタに絡ませながら、あんたは勝手に食べてなさいと言われても説得力に欠けている。
というか、違和感しか感じない。
これもSOS団及び涼宮ハルヒに関わり続けた弊害かとため息を吐きながら、俺は自分のハンバーグを一口サイズに切り取ってフォークに刺した。
「ほれ」
ハンバーグを刺したフォークをそのままハルヒに向ける。
「………なにこれ?」
「ハンバーグだ。ひき肉を捏ねて小判状にしたものをフライパン等で焼くことにより中に肉汁を閉じ込めたまま固めたものをいう」
「誰がハンバーグを説明しろって言ったのよ!? なんであたしにフォークを向けているのかって訊いてんの!」
「そりゃお前、食えってこったろ」
「はあ?!」
何故驚く。涼宮ハルヒと言えば人が食っているものを「あ、それ美味しそう」の一言で何の断りもなくかすめ取っていくのが当然ではなかったのか。
それを格好をつけているのかどうかは知らんが複雑そうな顔をしながらパスタひと皿をこねくり回していては周囲も気遣って飯が不味くなる。
「まあ味見くらいはしておけって。結構美味いぞ、これ」
ならば我が身を犠牲としてでも雰囲気を壊さないように気遣うのが大人の態度ってものだろう。
ハンバーグひと切れ程度でどのくらい効果があるのかは神のご機嫌次第だな。
「ええっと………う………」
ところが人参を前にした馬よりも早く飛びつくと思われたハルヒが全く動こうとしない。
それどころか妙に縮こまって無意味にパスタを巻いている。
「どうした? 遠慮すんなよ、いつものお前だったら即奪い取るとこだろ」
俺は変に畏まったハルヒを見せたいのではない。俺たちと普通に過ごしているハルヒを見せたいのだ。
「だ、誰がそんなことしてんのよ?!」
「お前だろうが。ほら、いい加減手も怠くなるからとっとと食え」
こっちが譲っている時くらい素直にしておけよな。それに冷めたらこの後食うのが辛くなるじゃねえか。
俺のアイコンタクト(古泉、長門には有効)がようやく理解出来たのか、
「………しょうがないわね」
どういう訳だか覚悟を決めたかのように一息入れたハルヒが漸くハンバーグを口にした。
ひゃあ? という声が正面から聞こえたようなのだが気のせいか?
それはともかく。
「どうだ?」
「まあまあね。悪くない仕事してるじゃない」
何様だお前は。それに正直なところを言えばせっかくのハンバーグも冷めてしまっていたのではないかと推測される。
「はい」
やっと飯の続きをと思っていたら唐突に目の前にフォークが突き出された。
絡まっているのはパスタである。
「何だ?」
「お返し。もらってばっかじゃ悪いじゃない」
おお、あのハルヒが随分と殊勝なことを言っている。これならばSOS団ではなく毎回彼女たちと不思議探索をしたほうがいいのではないだろうか。
…………想像したら怖かったのでやめておこう。今だけ限定特別仕様ハルヒの可能性のほうが高そうだ。
とりあえず恩恵には与っておくべきだと判断した俺は、
「じゃあ遠慮なく」
とパスタを頂いた。
おお、と今度こそ声が正面から聞こえたので見るとショートカットの子が両側から口を押さえられている。
「え、えーと、何をしてるんですか?」
「いえ、ちょっと」
「空気を読めと」
「はあ……」
意味がわからない。何か彼女がしたのかといえば、そうではなさそうだし。
三人とも何故か微笑んでるし。
ハルヒは無口だし。
「?」
奇妙な、女性陣にしか判らない様な空気感の中、変に浮いた気分で食事をするしかない俺なのである。
「え? もしかして彼氏くん気づいてない?!」
「ここにきてまさかの天然属性とは、なかなかやるわね」
「涼宮さんが必要以上にダメージを受けてる………」
時々小声で話す三人と、嫌に大人しいハルヒという慣れない環境で集中出来ないまま飯を食うことしばし。
「…………で、やっぱりこうなるのか」
困ったような照れたような笑い顔の三人、プラスハルヒの前にはパフェが並んでいたりする。
やれやれ、本当に女性には別腹なる消化器官が存在するらしい(長門には本当に備わっていそうで怖い)。
俺はいつもの口癖をつぶやきながら食後のコーヒーを飲み干して暇にならないよう気を配りつつ、食べ続ける女子を眺めるしかないのであった。
しかしハルヒを含め、いったいあの小柄な体のどこに入っていってるのやらだな。
ところがここからが拙かった。
ぼんやりとハルヒを眺めていたら不意に気づいてしまい、
「おいハルヒ、クリームついてるぞ」
「え? 嘘?!」
と、注意したまではよかったが、
「ったく、少しは上品に食べろよな」
などと言いながら頬についていたクリームを指で掬う。
ここまではまあ許される範囲だろう(いつものSOS団ならば)。
だが、あまりにも自然に指についたクリームを舐めてしまったのがまずかった。
「ちょっ!」
「え?!」
「おおっ?!」
「ひゃあ?!」
気づいた時は既に遅く、三人の顔とついでにハルヒも真っ赤になっている。
しまった、これはまずい!
「いやこれはちょっと、ほら、ウチに妹がいて、そいつがいつも食べ方が汚いもんだから注意してたからついいつもの癖で、ね?」
などという俺の言い訳など耳に入っていなさそうな三人の輝くような目の色に。
「………えーっと、ちょっと花摘みに」
「ちょっと?! キョン!」
ハルヒの声を置き去りにして俺は逃げた。ああヘタレというならば言うがよいさ。
背後から黄色い悲鳴というか歓声が聞こえたけど無視だ、無視!
というか、俺自身がどうにかなりそうだ。あそこまで自然にハルヒを………
「だからやばいだろうが!」
トイレで俺の魂の叫びが木霊する。
危ない、女子高生に囲まれて俺のなんらかの回路に混乱が生じてしまったに違いない。
おまけにハルヒを置いて逃げてしまったのだ、今頃古泉は閉鎖空間の中で俺を恨んでいるだろう。
「…………はあ………このまま帰るってわけにもいかないだろうなあ………」
とりあえず一息吐いて多少頭が覚めてきた俺は意を決して女子連中が待つ席へと戻ったのだが。
「あ、あかえりなさーい」
「私たちもデザート食べ終えましたので」
「すぐ移動できますよ?」
「…………少しだけ待ってもらえないかな? ………この惨状が落ち着くまで」
そこにはツヤツヤと輝く笑顔の三人と、
「……………」
耳たぶまで赤く染めて机にひれ伏したハルヒが死んでいたのであったとさ。
「………あとで覚えておきなさいよ」
いや本当にすみませんでした。
こうして否が応無くハルヒの食事代まで払わされた(その時も三人はニヤニヤしていた)俺と、どういう話があったのか疲れきったハルヒは満面の笑顔の三人娘と共にリストランテを後にした。