『SS』 とある男子高校生どもの通常会話・3:Dialogue

「お、国木田じゃないか。どうしたんだ?」
「ああ、キョン。そっちこそどうしたの、一人なんて珍しいね」
「あ゛あ゛あ゛〜……ヴぁぁぁ〜」
「たまの休みだからな、一人で買い物ってとこだ。お前は何で駅前まで出てきたんだ?」
「ヴぉおおお……ウボァ〜ッ…………」
「ああ、アレの相手をね」
「ぬぐぉぉぉぉ…………ブルォァァァァァァ!」
「…………アレは何だ? 気持ち悪い泣き声を上げているんだが」
「元々は谷口っていってたんだけど、今は何か違う生き物と化してるねえ」
「ほう、アレは谷口だったのか。まるで溶けかけた巨神兵のようだな」
「うぐぉぉーっ! びゃはァァァァァァ!」 
「あはは、言いえて妙だね」
「それで、あいつは何で死にかけてるんだ? というか、死なないのか?」
「いつものナンパだよ。ここ最近は死にそうな谷口を見物する会ってのもあるけどね」
「そうか、ギャラリーが多いのも頷けるな。で、あいつはいつ死ぬんだ?」
「いつだろうねえ、トトカルチョもあるからキョンも賭けるかい?」
「ブルァァァァァ! ブロァァァァァァァ!」
「いや、遠慮しとく」
「そっかー」
「っていうか、慰めてくれよ! お前らァァァァァっ!」
「あ、戻った」
「おかえり、谷口」
「お前らを友人と呼ぶことに抵抗を感じつつあるんだが、まあいい。そんなことより俺はどうすりゃいいんだよ……」
「どうすると言われてもなあ」
「うん、谷口が振られるってのが日常的すぎて何も感じなくなってきてるし」
「いや、おかしいだろ? いくら何でもここまで女に相手されないのは!」
「そりゃお前、」
「谷口だからねえ」
「そ、そんな理由で納得出来るか! 大体女なんて簡単にオチるもんじゃなかったのかよ……」
「またそういうくだらない事を」
「そんな気持ちでナンパしてたら上手くいくものもいかなくなると思うけど?」
「そんなことはないっ! 俺はナンパの極意を学んでいるはずなんだ!」
「おいおい、何を言い出したんだ? 暑いからって脳が溶けるにはまだ早いぞ」
「まあまあ、あの谷口が学んだ極意ってのを聞いてみてもいいじゃない。それが実行出来るかどうかは別問題だよ」
「そういうもんか? まあ谷口が何を言ってもおかしくないな、言ってみろ」
「お前らには高等すぎて理解なんぞ出来ねえよ。けど仕方ねえ、言ってやろう。女ってのはな、顎を少し持ち上げてやれば黙って目を閉じるような生き物なんだよ!」
「あー…………」
「元ネタは分かるけど、哀れすぎて何も言えないね……」
「な、何だよ、その可哀想な子を見るような目は?!」
「いや、実際に可哀想なんだけどね」
「ああ。しかしここは友として正しい道に谷口を導いてやらねばならないだろうな。おい谷口、今からお前にとっては耳が痛い話をしてやる。まず、お前のナンパ極意は絶対に成功しない」
「何だと?! 俺のナンパ理論のどこに落とし穴があるって言うんだよ!」
「落とし穴だらけだが、まあいい。谷口、それを実行したことあるか?」
「ないからこんな目に遭うんだろ…………何で俺の良さが分からないんだ、あいつら」
「まあ、そうだろうな。いいか、お前の言った極意とやらは確かに女というものを上手く表しているのかもしれん。但し、それはある条件を満たした男だけが言えるセリフなんだ」
「どういうこと? 僕にも分かるように説明して欲しいな」
「ふむ。いいか? 俺もよくは分からんが、女が顎を持ち上げれば目を閉じる生き物だとしよう。それは即ち、女とは軽いもんだと、男の言うなりになるもんだって言いたい訳だよな?」
「ああ、そうとも!」
「それが間違いなんだよ」
「どういうことだ?」
「考えてもみろ、いきなり初対面の男相手に顎を持ち上げさせる女なんかいるか? つまり、女の顎を持ち上げるところまで持っていくのがまず難しいってこった」
「ああ、なるほどね」
「たとえ女が顎を持ち上げられて目を閉じるようだったとしても、その顎に指を持っていけるシチュエーションを作り上げるまでが大変だと思うぞ。要はその極意とやらは女が軽いって話じゃなくて、女とそのくらい気軽に話せる俺って凄いだろって話なんじゃないか?」
「な、なん……だと…………?」
「なるほど、そう言われるとそうかもね。そこまで気軽に女の子に触れられるっていうのは凄いもんね」
「だろ? だから谷口、お前のやってるのは極意とやらを試す前段階としては正解だ。しかし、その先に進まないと極意は使えないんだぞ」
「そんな、そんな馬鹿な……」
「まあちょっと考えれば分かりそうなものなんだけどね。このままじゃ谷口は極意どころか声をかけてはフラレて終るだけなんだよね?」
「仕方ないだろ。こうなったら数をこなすしかなさそうだし、まあ無駄そうだが」
「難しいね、最近はここも谷口注意報というか、女の子の間でブラックリストが回ってるみたいだし」
「そこまでなのか? それはまた厳しいというか、自業自得だな」
「ウボァワァ……」
「いかん、また溶け出したぞ」
「でもなあ、このままでもいいような…………あれ? あそこ歩いてるのって長門さんじゃない?」
「お、そうだな。どうやら図書館帰りらしい、って向こうも気付いたみたいだな」
「そうだね。ねえ谷口、長門さんがこっちに来てるから溶けないでよ」
「う、へぇ? あ、長門有希か? それならもう少しまともな反応してくれるか」
「あれ? 長門さんにも声かけるんだ」
「もう数打ちゃ当たるだ! 無口な長門有希なら話だけは聞いてくれるだろ、そこからが勝負だ!」
「撃墜決定だけどな。それに長門に気軽に声なんかかけると後が酷い目に遭うぞ?」
「どういうことだ?」
「SOS団の団長を舐めるなってことだ」
「ぐぅ……」
「あ、来た」
「よう、長門
「…………んっ♥」
「え?」
「ええっと、長門さん?」
「あ、長門? 今日はそういうんじゃないから。たまたま見かけたから声をかけただけだ、また後でな」
「…………そう」
「行っちゃったね、長門さん」
「ああ、そうだな。逆に呼び止めたみたいで悪かったかもな」
「いや、それよりさっき長門さんは目を閉じて顎を上げてたよな? しかも唇を少し突き出してたし。それって、」
「あ。あれって涼宮さんじゃない?」
「げっ! 涼宮まで居たのかよ?!」
「あれは間違いなくハルヒだな、しかもこっちに向かってくるぞ」
「さ、さっきの長門さんは見られて無いよな?」
「ああ、大丈夫じゃないかな? 見てたら全速力で走ってきて谷口が蹴られてるだろうから」
「うわあ、来たっ!」
「おう、ハルヒ
「…………んっ♡」
「あ、あれ?」
「涼宮さん……?」
「え? 何なの、あんたら? 何でキョンと一緒に居るわけ?」
「いや、俺もたまたま会っただけなんだけどな。それよりどうした、ハルヒ?」
「ちょうどいいわ、あんたの家に行くとこだったから」
「はあ? 何で俺の家に、」
「いいから! 続きはあんたん家でやってあげるからね!」
「いや、だからいきなり俺ん家に来られてもって、引っ張るな! やめろ、首が絞まる!」
「ほら、早く! 時間は有限なのよ!」
「うわ、助け……」





「行っちゃったね、キョンも大変だなあ」
「そんなことより涼宮のあの態度はなんだ? あいつ、間違いなく目を閉じて顎を上げてたよな?! しかもアレは間違いなくキスを求めている顔だ、俺には分かる!」
「僕から見てもそう思ったけど? その前の長門さんもそうなんだろうね」
「ど、どうなってんだ……?」
「つまり、キョンは顎なんか持たなくても女の子は勝手に目を閉じてくれるってことなんじゃないかな?」
「う、ウ、ウボァァァァーッ!!」
「あーあ、谷口が溶けちゃったよ。ええっと、時間は…………うん、これで賭けは僕の一人勝ちだね。ありがとう、キョン