『SS』 月は確かにそこにある 20

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 光陽園の正門前、俺は喜緑さんと生徒会長と対峙している。とりあえず二人がこの世界にもいるという事は分かった、ただしこの喜緑さんが俺の知る宇宙人の喜緑さんなのかはまだ分からない。
「君は誰だね? 見たところ北高の生徒のようだが私と喜緑くんの事を知っているかのようだ。だが我々は君という人物と会った記憶が無い、これがどういうことなのか説明してもらえるんだろうね?」
 油断無く身構えながらも慇懃に生徒会長が尋ねてくる。しかも的確にこちらの意図を訊いてくる所を見てもあの生徒会長と同一人物なのだろうと思いはするな、という事はこいつも裏の顔でもあるのだろうか。
「いえ、俺が用があるのは喜緑さんなんです。少しだけ話が出来ればそれでいいのでお時間が頂ければと」
 俺がそう言うと会長の口元が皮肉に歪んだ。
「どうやら喜緑くんに用があるのは確かなようだ、君もなかなか人気があるようで何よりだね。どうする?」
 嫌味たらしく言っているのは同様な事態が過去にあったのかもしれない。校外の生徒から告白されているとでも思っているのかもしれないが俺としてはそれどころではない、喜緑さんに話せなければ意味がないからだ。
「あの…………どのようなお話かは分かりませんが少しだけなら」
 故に喜緑さんの返事には正直安心した。会長は意外なようで驚いていたが、
「ふむ、どうやら私には心当たりは無いが君には何か彼の話を聞くに値する要素があったと見える。いいだろう、私は少々席を外すとするよ」
 あっさりと会長はその場を離れてしまった。もう少し何か嫌味を言われるなりすると思ったが些か拍子抜けする。しかし助かった、俺は喜緑さんにどこか移動して話をしようと持ちかけようとしたのだが。
「あ、そのような事をしては会長に何を言われてしまうのか分かりませんので」
 と、はっきりと拒否された。そういえば会長という事はあの人は光陽園でも生徒会長なのだろうか。まあそれについてはどちらでも構わない、要は喜緑さんだけにしか話せる内容でしかない。ただし何故会長まで別の学校に居たのかは多少興味はあるが。
 しかしそんな事は二の次だ、このままはい、そうですかと帰る訳にもいかない。俺は尚も食い下がろうとしたが、それを制するように先に動いた喜緑さんに両手を握られた。
「…………これを」
 言われるまでも無く手の中にある感触に何を、と覗こうとしたのだが、
「後でご覧下さい、私はここで」
 喜緑さんは俺にだけ聞こえるような声でそれだけ言うと、まるで告白を断わってすいませんとばかりに勢いよく俺から離れて深々と頭を下げた。
「ありがとうございました、ごめんなさい」
 聞こえるように(会長はすぐ近くにいた)そう言うと大袈裟に手を振って会長の元へと走っていく。俺はといえば喜緑さんのいきなりの三文芝居に呆然として何も言えなかった。これが端から見れば振られて魂が抜けたように見えていたなどとは思ってもみなかったが。
 そのまま喜緑さんは会長と腕を組んで(少しだけ会長が慌てていたが珍しい事だったのだろう)俺など居なかったかのように歩き去ってしまった。
 残された俺は周囲の生徒の含み笑いに我に返った。客観的に見れば俺は他校の正門前で生徒会長の彼女に告白して振られた間抜けに過ぎない、それに気付いて顔が一気に赤くなる。慌てて逃げるように自転車を走らせた。勘弁してくれ、こんな噂が広まったらまた何を言われるか分かったもんじゃない。いくら動揺して興奮していたからといってあまりにも無策に飛び込み過ぎた事を後悔しながら俺は光陽園から一刻でも早く離れたかったのだった。
 しばらく自転車を走らせれば大した距離でも無いからすぐに見慣れた光景になる。足を止めずに一気に家までママチャリを駆って、帰宅の挨拶もそこそこに部屋へと駆け上がる。着替えている時間も惜しんで喜緑さんから渡されたメモを読んでみた。
 そこには印刷されたような綺麗な行書体で『今夜七時に公園にて』と書いてある。公園? どこの公園だ? 短すぎるメッセージに疑問符しか浮かばなかったが、その反面安心してしまった。どうやら喜緑さんは俺の知る喜緑さんである可能性が高い、それが分かったからだ。
 安心すると途端に力が抜けてくる、俺は制服のままベッドに倒れ込んだ。大きく溜息をつくと疲れが一緒に抜けていくような気がする。もう一度メモを読み直すと顔がニヤケそうになってしまった。助かるかもしれない、そう思うだけで気力が蘇るようだぜ。
「おっと、まずい!」
 ふと気付いて時計を見ればもう時間が無い、元々帰るのが遅かったから仕方なかったのだ。急いで着替えるとほとんど説明をしないままで飯も食わずに家を出て行く羽目になってしまった。帰ったら大目玉を喰らうかもしれんし、妹も煩いだろうがそれどころではなかったんだ。今日一日酷使され続けている自転車に詫びを入れながらもペダルを漕ぐ足に力がはいる、これで明日は筋肉痛が確定しているかもしれん。
 短いメッセージの中で公園と指定されて何処の事かと考えたが、恐らく長門のマンションの近くの公園だろうと当たりをつけてみた。もしも喜緑さんが長門の仲間だとすれば住んでいる場所は長門のマンションのはずであり(学校が違うから長門も何も言わなかったのだろう)、そうなれば公園といえば長門に呼び出される事も多いあの公園しかないとなる。ほとんど推測でしかないが間違いも無いだろう、俺に分からない範囲での行動ならもっとヒントがあるはずだ。俺は自転車を走らせながら確信していった。
 急いでいたつもりは無いが足だけは自然と速まっていたのか、公園の前に自転車を止めた時に携帯で確認した時間は七時になる五分前だった。中に入る前に一度深呼吸して落ち着いてから俺はゆっくりと歩を進める。
 まだまだ日も落ちるのも遅いものと思っていたが、それでも景色は薄暗くなってきている。街灯が自己主張を始めて仄かに周囲を照らし出す中を俺は公園の内部、とはいっても狭いもので街灯の真下のベンチまで歩いていた。すると一人の女性が立っている、などと曖昧な表現を用いなくてもお分かりだろうが喜緑江美里さんは約束の時間の遥か前からそこに居たかのように佇んでいた。光陽園の制服ではなく私服に着替えているところを見ると、俺の推測通り喜緑さんも長門と同じマンションに住んでいるのだろう。
「思ったよりも早かったですね、夕食は取られなかったのですか?」
 優しく微笑みながらの第一声がこれである。気を使ってもらったことよりも発言そのものが場違いなような気がして面食らう。そんな事より訊きたい事は山ほどあるんだ、俺は喜緑さんに促されてベンチに座ったと同時に話を切り出したのだった。
「単刀直入に訊きます、あなたは宇宙人ですか?」
 挨拶など余分な事は全て省き、要点だけ伝えようとした結果がこれだ。もしも喜緑さんが普通の人間だったなら間違いなくダッシュで逃げ出すか警察に通報するかの二者択一を迫られていることだろう。だが、喜緑さんは俺にとってはいい意味で普通ではなかった。
「さあ、あなたが思う宇宙人というものが私の知る宇宙人と同様でしたらいいのですけれど。あなたが言う宇宙人とは一体どのようなものなのでしょうか?」
情報統合思念体とやらの送ってきたインターフェース体でしたっけ、涼宮ハルヒの観察目的で送り込まれたと長門有希がそう言っていたと言えばわかりますか?」
 俺しか知らない、正しく言えばハルヒに関わったが故に知ってしまった単語をあえて散りばめてみる。長門の名前を出したのも北校に居る俺が光陽園の生徒となった喜緑さんを何故知っているかと言うことへの回答のようなものだ。ここまで言えば一般的な宇宙人の解釈とは違うことはあからさまであるし、通用しなければ一巻の終わりだ。
 そんな俺の妄言を黙って聞いていた喜緑さんだったが、全て聞き終えると鷹揚に頷いた。
「なるほど、理解しました。それでは簡潔にお答えいたしましょう、あなたが理解する宇宙人が正しければ私はそれに相当する存在であると認めます。即ち私は情報統合思念体の派遣した対有機生命体用インターフェースであるという事を」
 実にあっさりとしたものだった。正体をばらした喜緑さんは笑顔のままだ、俺は今度こそ光明が見出せた。かに思えたのだが。
「ですが、何故あなたがそれを知っているのか、私はあなたを知らないのに、という疑問は残りますけれど」
 それは絶望を宣言されたようなものだった。喜緑さんも長門同様俺を知らない、ということは俺はいきなり現れた裏事情を知っている謎の人物ということになり、それは危険であると判断されても仕方が無い。喜緑さんが長門のように黙認する可能性は低く(古泉もいない状況では尚更だ)、俺はそのような事を考えないままで素手でライオンの目の前に生肉を持ってきたようなものだった。
 またも慣れすぎた弊害が出たんだ、それに気付いた時には全て遅い。顔から血の気が一気に引いていく、明日長門に事情を説明する前に俺の存在そのものが無くなるかもしれないのだ。
 そんな顔面蒼白、暗中模索、ショックのあまり気を失いそうな俺を見て喜緑さんがおかしそうにクスクスと笑う。何がおかしいんだと言う前に、
「冗談ですよ、あなたが何者なのかは凡その見当は付いています」
 そして俺を指差し、
「あなたはどうやらこの世界の生命体ではないようですね。どこか別の次元の存在、時空同位体といった方が正しいのかもしれませんが我々と同じ世界に存在しながら違う存在であるといったところでしょうか」
 いとも簡単に言ってのけたのであった。時空同位体? どこかで聞いた様な気もするが、とりあえずそんなことよりも、
「俺が別の世界から来たっていうのが分かるんですか?」
 一番重要な事を当然のようにさらっと言ってのけるところを見ると喜緑さんは全て理解しているのかと期待も高まる。
「まあそのくらいは。但し、それしか分からないとも言えます。あなたがどの様な経緯で、何の目的があってこの世界に存在するのかまでは把握しておりません。私は観測対象への影響を考慮した結果、あなたへの接触を優先することにしたのみです」
 微笑みが恐怖を煽るのは昨日も経験したばかりだ、『機関』といい宇宙の親玉といい、こいつらの派遣する年上の女性は笑顔で人を殺さなければならない決まりでもあるのかよ? 俺は森さんと対峙した時と同様に足元が震えてくるのを自覚する。だが森さんと違うのはまだ喜緑さんは状況を理解してもらえる可能性があるということだ、そこに賭けている俺としては何とかして言葉を繋ぐしかない。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺の話をまず聞いてもらえませんか、出来ればそれを長門にも伝えて欲しいんです!」
 慌てふためく俺の姿が面白かったのか、笑顔のまま小首を傾げた喜緑さんは、
「もちろんお話は聞かせて頂きます。それに私にも疑問が無いとも言えませんので、それが解消出来るのならば良いのですけど」
 何事も無かったかのように俺に話の続きを促したのであった。さっきまでの迫力はどこにいったのだろう、雰囲気だけならば相談を親身に聞いてあげる先輩そのものなのだ。
 俺も意を決して全てを話す、この人ならば。喜緑江美里さんに通用しなかったら恐らくこの世界に俺が救いを求められる人物はもう居ないのだ、長門にもう期待は出来ない。あの放課後の出来事がそうさせたんだ、自業自得だとしてもハルヒの機嫌を損ねた俺を許せる程この世界の長門は俺を信用している訳は無い。
 出来る限り要点だけをまとめ、俺はこの三日間の出来事を全て喜緑さんに話したのだった。異世界に飛ばされた事、古泉の性別が変わっていた事、長門や朝比奈さんの無関心、そしてハルヒと古泉のあからさまな変化。
 俺の頭では既に理解出来ているのか不明なのだが、特に古泉とハルヒについては。あいつらの心境など分かるはずも無いので客観的に事実だけを述べるようにする。その分たどただしさは否めなかったが、喜緑さんは黙って聞いてくれていた。
「……………俺が分かるのは以上です。今日の放課後にどうなったのかは分かりません、古泉からも連絡が無いので閉鎖空間が発生したのかもしれませんけど」
 今のところは俺は閉鎖空間に呼ばれる様子は無い。もしかしたらもう呼ばれる事など無いのかもしれないが。それは何か物足りない、のではなく、そこにいなくてはいけない資格を無くしたかのような空虚な気持ちだった。ハルヒの世界に俺の存在は必要が無い、それを告げられた時に俺はどんな顔をするのだろうか。
「なるほど、最近の観測対象の空間の揺らぎはあなたが原因でしたか。しかしやはり涼宮ハルヒが能力を駆使してあなたを呼び寄せたようですね、我々に感知させないままに空間といいますか世界そのものを改変させたのですから」
 俺が後ろ向きな思考に捕らわれている間に聞き終わった喜緑さんは一人納得したかのように頷いた。ハルヒが世界を変えた、それは事実だ。だが今となってはハルヒが変えたこの世界こそが正しいのかもしれない、ここにいる異世界人は俺と古泉だけであり、古泉はもうこの世界に溶け込みつつある。つまりは世界が変わったと思っているのは俺だけであって、俺こそが世界を否定しているだけなのかもしれない。
 それは今まで過ごしていた世界の否定、俺が今まで暮らしてきた人生そのものが作られたものだったのではなかったかという恐怖だ。ハルヒの能力とは世界の創造であるのならば俺が生きていた、という事実さえなればどのような人生だってハルヒが望むままに生き方は変えられている可能性だってある。今まで脳裏を掠めてはどこかで見ないように封印してきた事実を真正面に突きつけられ、俺は絶望しかけている。喜緑さんとようやく話せたのに悪い方向にしか考えられなくなってるんだ、俺は果たして俺なのか?!
「ふう、どうやら事態はあまり楽観的ではないようですね」
 俺の様子を見た喜緑さんが眉を顰める。そして少しだけ考えている風に額に指を当て、
「私の疑問もそこにあります。私が感知するほどの空間の歪みを長門さんが気付かないなどとは在り得ないのです、但し涼宮ハルヒの影響ならば納得せざるを得ないのでしょう。問題はそこまでの大掛かりな情報操作の原因です、彼女は何の意図を持って世界を改変しようとしているのか。そこが分からないままでは私にも手の打ちようがありません」
 自らの考えを口に出す事によって纏めようとしているかのようだ。俺もそれを聞いて自分なりに考えるしかない、何故ハルヒはこんな馬鹿げた世界を作り出したんだ? こんな古泉が女になっているような。
 待てよ? 何かが引っかかった! そうだ、どうして古泉だけが女なんだ? 他に何か変化はなかったか、と思い出せば何も変化は無い。長門も朝比奈さんも基本的に性格なども同じままだし、ハルヒも様子はおかしいがどう見てもハルヒそのものだ。なのに何で古泉だけが大きく変わっちまってるんだ…………
 これはヒントだ、しかも大きな、この問題の根幹を成す様な。そう、こんな状況を俺は前にも経験していたはずだ。あの時も大きな変化は無かった、あいつを除いては。
「どうしました、何か思い出しましたか?」
 喜緑さんの問いかけにも答えられない、何かが同じ様で違うんだ。だが、あの時と同じならば解決策も似たようなものなのか? あの時は確か鍵を集めろ、だったはずだ。では今回の鍵とは何だ?
「鍵…………鍵を集めよ…………多分それがヒントです。ただそれが何かが分からないんです」
 俺は喜緑さんに再度説明をしなければならなかった。それは俺達の世界とも、この世界とも違う世界の話であり、俺としては話す事が心苦しくもなる内容だったことは否めない。あの時、小さく微笑んだ眼鏡の文芸部員に俺は何を言えただろう。そして今の長門(俺達の世界の長門を)を形成していったきっかけとなった出来事を。
 全てが同じではないのに少しづつ似通っている、それが今の俺がいる世界だった。ハルヒの替わりに喜緑さんと会長が光陽園に所在していたが、要は同じ様なシチュエーションが存在している事が重要なのではないか? 俺はそう考えたのだ。そして喜緑さんも、
「恐らくその推論は的を得ている可能性が高いですね、私は涼宮ハルヒの行動範囲内での北高以外の行動監視の為に別の学校に存在している設定だったのですが。あなたの話を聞いた後ですと、これも何者かの意思が働いたとも捉えられるのですね」
 いや、間違いなく何らかの意思があったに違いない。喜緑さんや長門の能力ならばわざわざ北高以外に居なくとも、どうやってでもハルヒの観測は可能だと思うからだ。北校の、ハルヒの間近で観測する事に意義がある、長門はそのような事を言っていたはずだ。
 つまりは光陽園に誰かが居なければいけないから喜緑さんが選ばれただけだ、何故喜緑さんなのか、彼女でなければならなかったのかという疑問は残るのだが。
「そのように仮定すると、どうやら私と会長も鍵の一部として組み込まれていると考えた方が自然でしょうね。鍵が幾つ存在するのか、また何故我々なのかというのは未だ不明のままですが」
 俺と同じ疑問を持ちながらも喜緑さんは淡々としている。いかな事があろうとも動じないその姿勢は長門よりも冷静なイメージだ、無表情よりも微笑んでいる分だけ底が見えないな。
 やがて喜緑さんは静かに立ち上がると、
「では今晩はこの辺で。また何かあれば連絡を頂ければ伺います。ああ、長門さんには一応報告致しますが彼女は今回は何も出来ないのではないかと思いますね。涼宮ハルヒの近くに居すぎた為に影響が大きかったのかもしれませんし、どうやら彼女達なりの役割というものが設定されているかもしれません。情報統合思念体が認識出来なかった以上、我々としても長門さんに余計な負担をかける訳にはいきませんから出来るだけアクセスは短めでお願いします」
 そう言うと、俺の携帯を出すように言われた。差し出した携帯にどうやら自分の携帯番号を登録したらしい。その時、一瞬だけ表情が変わったような気がしたのだが喜緑さんは何も無かったように、
「それでは、またお会いしましょう。私も少々調べてみる事にしますので」
 今度こそ沈んでしまった宵闇の中へと消えるように去っていった。マンションまでは近いので送っても良かったのでは、と気づいたのは誰も居なくなってからである。
 そんなところにまで気が回らなくなっている自分に情けなさを感じて俺は大きく溜息をついた。手の中で受け取った携帯を弄び、アドレスに増えてしまった名前を確認する。森さん、新川さんに喜緑さんか、今までの知り合いとは違う番号が入ってしまって元の世界に戻った時にはどうなっているのだろうか? 俺はそんなくだらない事を考えてしまい、疲れているんだなと首を振ってから自転車を止めた公園の入り口まで戻っていったのだった。
 最大のヒントがそこに眠っていた事に気付くにはまだ時間が必要だった、後から思えばそうなってしまう。だが、この時の俺はひたすら疲れた体を休めたいと思いながら乗る気力も無くして自転車を押していたのであった。