『SS』 たとえば彼女は……… 後編

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 さあ、歩き出したはいいが冷静に考えれば近所すぎると周りの目が怖い。怖いのは主に宇宙人だったり宇宙人だったり神様だったり神様だったりするのだが。とにかくこの中のどれかに見つかれば、即ち死である。
「―――――これを――――」
「………どうしろと?」
 九曜が取り出したのは、針を打ち出す銃でもスターリンインフェルノでもなく、ダンボールである。何の変哲もない紙の箱を見せられてどうしろというのだろうか?
「こうして――――――」
 ああ、なるほど。被ってやりすごせと。
「何そのスネーク?!」
 しかもそれをやるなら白髪で紳士なタクシードライバー兼執事がいるから。なによりも、そんなもんでばれない訳がない。だからヤドカリみたいにダンボールを背負って歩くな、なんでそこまで目立とうとしやがる?!
「――――それが―――わたしの――――生きる道――――」
 もぎたての果実のいいところはお前にはない! 
「悪いわね―――ありがとね――――これからも―――――よろしくね?」
 何気にお願いしやがった!! しかもこんな時だけ宇宙人スキル満載で小首を傾げやがって! くそう、文句が言えねえ………
「う、うむ。まあ、とりあえずは行くぞ」
 本当に歌の力は偉大だな、これで抑揚があれば言う事はないが。だが破壊力は変わらなかった、あの首の角度を知っている宇宙人は俺のコントロールを理解しているんじゃないだろうか。
 まあ何となくこのままブラブラと歩く事になるんだろう、後は見つからない事を祈るだけか。隣を歩く九曜はまったく気にしていないようだが、それでも心なしか嬉しそうに見えるのは俺の気のせいじゃないといいんだけどな。
 そして俺達は目的もないままフラフラと商店街へとやってきてしまったのだが。
「えらくまた季節ハズレな事してんな…」
 何か人が多めだとは思ったが、どうやら商店街一帯でセールと抽選会をやっているらしい。これにハルヒが食いついていない事を祈ろう、と思いながら傍らを見れば、
「おい、どこ行った九曜?!」
 しまった、それでなくても存在感のない九曜をこんなとこで見失ったらもう分からんぞ?! 今更ながら慌てて周囲を見回してみると…………………………いた!!
 いつの間にそこまで、といった距離まで離れている九曜は何やらショーケースを覗いている。やたらと顔を近づけているが、あそこは何屋だっただろうか? とり急いで近寄れば、
「――――――――――――――」
「…………………興味あるのか?」
 九曜が覗いていたのは惣菜屋であり、宇宙人の関心を惹きつけて止まないのはショーケースのど真ん中を占領せしめているコロッケ氏である。
 自分の腹に手をやってみれば幸いにも小腹も空いているので、
「すいません、コロッケを二つ」
 と、おばちゃんに声をかけてみるのである。するとショーケースにおでこをくっ付けていた宇宙人が、
「――――いいの?」
 と、顔を上げてきたので黙ってコロッケを差し出した。無表情な漆黒の瞳に小さく光が浮かび上がったような気がしたが、黙ってコロッケを受け取った九曜は、
「――――ありがとう――――ございました?」
 と、相変わらずの疑問系で返してきたので黙って自分の分のコロッケを食べた。うむ、やはり揚げたてはサクッとして美味い。隣を見れば、九曜もコロッケを口に咥えている。
「――――熱い―――――」
 だろうな、火傷するなよ。というか火傷とかするのだろうか?
「――――意外と―――平気―――――」
 いや、舌を出して見せなくていい。何故ウィンクまで付け加えているのだ、お前は。なんか馬鹿にされてるみたいだが、無表情なあかんべをしている九曜というのも中々どうして味があるというか愛らしいものがある。
 なので頭を撫でてやりながら、
「そうか、慌てず食えよ」
 まるでウチの妹みたいにそう言ってやる。九曜は大人しく撫でられながら黙々とコロッケを食べていた。なんとなくほのぼのしてしまうのは少し前の兄妹の美しく美化された思い出のせいかもしれないな。
「――――シスター―――」
 その先を言ったらコロッケ取り上げるぞ。
「―――――――――――――プリンセス」
 …………ギリギリで許す。そんな買い食いで街ぶらというまんまバラエティな俺たちだったのだが、九曜の視線は再び固定される事となる。一体何だと訊くまでも無い、そこはこの商店街で一番盛り上がっているポイントだったからだ。即ち抽選会場というやつである。ガラガラと音を立てて回るくじ引きにこのお子様宇宙人は釘付けなのであった。
「――――――あれ―――」
 九曜が袖を引っ張って促すが、流石に俺でもどうにも出来ない。何故かと言えば、
「すまん、くじ引き券までは持ってないんだ。最近は自分でこの辺りでは買い物もしないし、券を貰えるほどの買う事もないからな」
 お袋ならあるいは、とも思うが今更家に帰って券だけ貰ってくるというのも恥ずかしいもんだしな。とは言え、あの九曜が興味深々であるような出来事なら何とかしてやりたいと思わなくは無い。何と言うかこいつの瞳を見ればねだられてなくても何とかしてやろうという気になるのだ。そうだな、お菓子を買ってもらいたいときの妹がこれと似ている、ただしもう少し可愛げはないが。
 どうやら俺は宇宙人が黙って目で会話したら言う事を聞きたくなるらしい、仕方ないので家へと帰ろうかと思ったのだが九曜に袖を掴まれたままだった。
「まかせて――――――」
 おい、まさか情報操作とやらで勝手にくじ引きでもするんじゃあるまいな? 長門ですらやらないような大幅なインチキだが九曜ならやりかねない。俺は流石にそれは止めようとしたのだが、この何とか領域の宇宙人は俺の度肝を再び抜いたのであった。なんと九曜は制服のポケットから数枚のくじ引き券を取り出すと、
「―――――これ」
 とばかりに俺に差し出したのである。正直驚いた、何故にこいつがこんなものを持ってるんだ? だが長門も近所のコンビニやスーパーで買い物をするくらいだ、九曜も案外生活をきちんとしているのかもしれない。
「そうか、随分と買い物をしているみたいだがどこか贔屓にしてる店でもあるのか?」
 もしそうならば、そこで買い物をすればもう一回くらいはくじも引けるかもしれない。だが九曜はこれまた宇宙人特有の数ミリだけ首を振ると、
「―――拾ったの――――?」
 などと言い出した。なんだと? まさかこれを全部か? と尋ねてみれば頷かれてしまうのだからどうしようもない。
「しかしそんなに落ちてるもんなのか? 結構集めないとくじは引けないはずだがな」
 当然のような俺の疑問にも小首を傾げる幼児は、
「――――隙間とかに――――意外とあったり――――するの―――」
 若干誇らしげにそう語ったのだが、なるほど確かに九曜の自然ステルス能力ならば気付かれないままに落ちている物を拾ってもなにも言われないだろうな。しかもその気になればサーチ能力はどんなレーダーだって敵いはしないだろうし。
「――――自販機の――――下―――なんかね?」
 お前そういうとこまで見てるのかよ。それならばこれだけの券を買い物もせずに持っていても不思議はない。
 む? ここで俺は一つの仮説を思いつく。確かに九曜は誰にも気付かれる事のないまま自販機の下だろうが排水溝だろうが探し回ることは可能だろう。そして恐らく手など汚さずに様々な物を拾ってくるに違いない。
 そうするとだな? 聞いた話によれば自販機の下などには結構小銭が落ちているとの事だとすれば、だ。この界隈だけでも自販機など幾らでもある、その全てに一円や十円だけでもあったとしても結構な稼ぎにならないものだろうか!!
 おお、まさにナイスアイデア! これぞ九曜の存在感の無さと無意味に高い能力をフルに発揮できる一攫千金のチャンスなのではないか?! これは是非九曜をそそのかしてだな、
「――――――――それ、どんな――――ハーヴェスト?」
 …………だよねー。つまらない妄想でニヤニヤしてはみたものの、九曜にツッコミを入れられる時点でたかが知れている。というか、よく拾ってくれたもんだな、こんなネタ。
「まあとりあえず何回出来るか数えるか」
「―――あい」
 こういうくじ引きは基本的に補助券何枚かで抽選一回といった形式が多い。この商店街も同じくで、どの店舗でもいくらか買えば補助券一枚といった感じらしい。ちなみに今回は補助券十枚で一回抽選といった形らしいが、どっちにしろ無料で手に入れているのだから贅沢は言えないだろうな。そう思いながら数えてみると、
「………お前、どんだけ色んなとこ覗いたんだ?」
「――――イエーイ―――――」
 最終的にくじが三回も引ける事となったのだった。そんなに落ちてるものなのかと思う反面、そんなに拾うなよと九曜に注意したくもなる。まあ今回だけはそのおかげでこうしてくじが引けるのだが。
 くじ引きに短い列が出来ている為に並びながら、とりあえずどんなものがあるのかと景品を見てみると、こんな小さな商店街にしてはなかなか頑張っている品揃えではないかと思われる。
 特賞のハワイ旅行は間違いなく無理だが一等が近場の温泉一泊二日だし、二等は何故か炊飯器である。うむ、どこが提供してるかよく分かる。そんな中で大きなぬいぐるみがあったり、携帯ゲーム機があるのも子供へのプレゼントを狙っているらしい。米なんかは結構生活に密着しててよく見かける気がするな、要は釣りとしては十分なラインナップが揃っていたって事である。
 もちろんこの中のどれかが当たるなんて思ってはいない、せいぜいおもちゃか米くらいが中に仕込んである最高なんじゃないかと疑ってすらいる。全部ハズレだと逆に良くないらしいから当たりはあると思うのだけど、そんなもんを一々狙う気は無い。ここは九曜が多分あのガラガラを回したいから、というのが正解だろう。俺はそんな子供がすぐに興味を持つようなもんだとばかり思っていた。
「―――――これを――――」
 それなので、九曜が俺に二回分のくじを渡してきたので些か驚いた。てっきり九曜がやりたいもんだとばかり思っていたのだが、いいのだろうか? そう俺が聞くと、
「―――――お礼――――ですから―――」
 とまあ、なかなか思いやりのある事を言い出したのでありがたく受け取っておく。ちなみに九曜の視線はガラガラと景品を行ったり来たりで、もう一人の宇宙人に比べると忙しい事この上ない。最近気付いたが九曜はどうも落ち着きのない子のようだ、まあ好奇心旺盛なのは良い事なのだろう。
 こうしてようやく俺達の番となったのだが、まずは九曜にやり方を教えるところから始めねばなるまい。そこで券をおっさんに渡すと、
「いいか九曜、これを回すと中で玉が回る訳だが、適当なところで止めると遠心力だか何だかでここから一つ玉が出てくる訳だ」
 いい加減な説明をしながらグルグルとハンドルを回すと、ガラガラと音を立ててくじが回る。それを目線で追う九曜だが、目を回すなよ? 適当に回して手を止めると玉が一つ転がり出てきた。
「はい、おめでとう」
 と渡されたのはポケットティッシュである。やはりこういうのがほとんどだろうな、と思いながら受け取ったのだが、
「――――――――――」
 今度は景品の棚から視線を外さなくなった九曜はどことなく不満気である。いや、あそこにあるのが全部じゃないから。こういうのは沢山ハズレがあって、ああいうのがたまに当たるからみんなやりたがるんだよ。若干夢のない説明だが、そういうもんだと思わされるくらいは現実を見てるってことだ。
「――――やって――――みる」
 珍しく断定した九曜はハンドルを回してみたのだが。
「――――――しょぼん――――」
 出てきたのは俺と同じポケットティッシュを示す色だった。おっさんからティッシュを貰った時も無表情に見えただろうが、俺から見れば落胆の色は隠せない。念願のガラガラをやったにも関わらず、だ。
 ……………こりゃいかんな、まさか九曜の気分が落ち込むような展開になるとは思いもよらなかった。仕方なくおっさんには聞こえないように小声で話しかける。
「おい、お前なら好きな色の玉を出したりは楽に出来るんじゃないか?」
 実際にこんな事をしなくても九曜なら並んでいる景品を全て手に入れる事だって出来るだろう。だが九曜は小さく首を振ると、
「それは―――――あなたが―――――望む事――――?」
 そう言われて気が付いた。そうか、九曜は決して宇宙人の能力を使って何かしたかった訳じゃない。長門がそうだったように、九曜も俺達の世界に馴染もうとしてくれているのだから。それを俺は安易に力を使えなんて逆に酷いことを言ってしまった、長門にはあれだけ普通でいろと言ってたのに。
 俺は自分が馬鹿な事を言ってしまったことを後悔する。そうだな、九曜は俺とくじ引きをする事を楽しもうとしていたのだから。
「よし、九曜! 絶対次で当ててやる! 何が欲しいんだ?」
「――――――ほんと?」
 ああ、任せろ! お前が何を欲しがってるのかは視線で検討もついたしな。俺は気合を入れておっさんに券を渡す。
「兄ちゃん、彼女にいいとこ見せないとな!」
 彼女じゃないけど、いいとこは見せてやるさ。力強くハンドルを握り締め、必要以上に回転させると周囲の視線も集中してくる。九曜の視線も釘付けになっているが、俺はただ無心に回し続けた。
 そして、ここ! というところで回転を止める。期待を込めた視線が一気に玉の出口に集まり、静かに玉は転がり出てきた。その色は……………
「おめでとうございまーっす!!」
「っしゃあーっ!!」
「――――――!!」
 まるで優勝したかのような歓声が会場を支配した。当たって損なはずのおっさんまで喜んでるのは何故なのか、そんな事もどうでもよくて、俺は九曜とハイタッチを交わした。その時九曜は無表情なんかじゃなかったと思う。自分が興奮しすぎてほとんど見てなかったが、九曜は確かに唇の端が上がっていたと思いたい。
 とりあえず俺達を中心に会場が一体となった、あの時間は忘れがたいものがあった。それを九曜も共感して楽しんでもらえたのならいいんだがな。





 出かけたのが午後なのだから、辺りも流石に夕暮れが差し迫ってくる。それでも日が暮れるのも遅くなってきたもんだと思いながら、三つの影が長く伸びているのを眺めながら歩いていた。
 影が三つ? 俺と九曜と、
「―――――――」
 九曜が抱いている大きなクマのぬいぐるみの、だな。九曜の視線を捉えて離さなかったそれを、おっさんから受け取って以来ほぼ自分の等身と同じくらいのぬいぐるみを手放す事はなかった。それは九曜の幼さを強調するようでもあり、まるでどちらが本体か分からないほどにしっかりと抱きしめていた。存在感というなら本体よりもぬいぐるみの方があるかもな。
 ここまで大切にされると取ってやった甲斐もあるってもんだ、元手がタダな事まで考えれば十二分に得をしたといえるだろう。俺も随分楽しめたからな、あんなに興奮したのは久々だった。それにやはり九曜には楽しんでもらいたかったからな、こいつが欲しいものが手に入ってよかったよ。
「楽しかったか、九曜?」
 顔を埋めそうな程にぬいぐるみを抱きしめた九曜に尋ねてみれば、
「―――――」
 よくは分からなかったが、多分頷いたのだろう。ほとんど動きもない上に、ぬいぐるみに顔を埋めてたけど。
「そうかい」
 俺も鼻歌でも歌いたい気分で九曜の隣を歩く。まあいい散歩というか散策だったよな、満足感に浸りながら夕暮れの帰り道を歩く俺達なのだった。
 そして、
「―――――ここで―――いいわ――――」
 相変わらず唐突に別れの瞬間は訪れる。慣れたものだが、こいつがどこに住んでいるのかという興味は尽きないな。だがそれを追求出来るとも思えないので、
「そうか、ぬいぐるみ抱えたままで転ぶなよ」
 としか言わない訳だ。半分顔を隠したような形になり、まるでクマが話しているような九曜は、
「――――今日は――――ありがとう――――ございました?」
 いつもの疑問系でお礼を言うわけだ。一度でいいから語尾が上がらない状態で話してもらいたいもんだね。ほとんどクマの腹話術師となった小柄な宇宙人に通用するかは分からないけどな。
「大切に―――するから―――――」
 そうしてくれ。お前がどこにそんなでかいものを置くのかは知らないけど。まあ長門のマンションくらい広ければ置き場には困るまい。
「抱いて―――寝るの―――――」
 想像するだに、まんま子供だな。というか、九曜はちゃんと夜寝てるのだろうか? 夜の闇に溶け込むように徘徊する九曜というのもなかなか想像すると怖いものがある。
 夜の帰り道で暗闇から九曜が出てきたら腰を抜かしそうだな、と失礼な事を考えていると、
「あなたが――――私に―――くれたもの――――」
 キリンは逆立ちしてないが。だがそこまで喜んでもらえると嬉しくなってくるな。
「あなたの――――代わりよ―――――」
 待て! それはどういう意味だ?! お前、それ抱いて寝るって…………
「それでは―――――――」
 いやだから説明してくれ! と言うまでも無く目の前にいたはずの周防九曜は気配ごと掻き消えたのであった。一人夕暮れに取り残され、先程までの満足感もどこへやら、
「やれやれ…」
 と結局ため息をつくしかない。最後の最後で人を混乱させるような事を言うなよな、などと本人もいないので愚痴ってみる。
 だが、何かをして結果として手に入れたものを大切にするというのはいい事なんだろう。そうして自分なりの大事なものが増えていくというのが成長というものなのかもしれないな。それを俺達の側の宇宙人の女の子にも味わっていただきたいものだ。
「………今度は図書館じゃなくて本屋に行くか」
 自分で買うのじゃなくて、買ってやったものなら大切にする気持ちも変わってくるのかもしれない。貰うということの喜びをあいつにも知ってもらおう、いつもの礼もあるしな。
 そう思いながら、今度九曜と会う時はもう少し無表情も返上しているのかもな、とくだらない事を想像したりもする俺なのだった……………









 よし、今回は無事に終わりそうだ。何といってもハルヒは用事があるようだし、喜緑さんは流石に連続はないだろう。心配なのは長門だが、これはさっきのように本屋に連れて行くと言えば何とかなりそうだ。
 つまりは平穏無事に今日は終わっていいんだろうなと、
「やあ、随分とお楽しみだったようだね」
 あー、そうかー、まだこいつがいたんだったー! ホッと安心したところに冷水を浴びせられたような。静かで落ち着いた、だが長門ばりに絶対零度な声。
「僕は試験後に補講に勤しんでいたのだが、やはり公立に進学しておけば良かったと後悔しそうだよ。自ら求めた道ながら、自由への渇望というものは隠せないものだからね」
 そうだよな、進学校は大変だ。俺なんか公立高校ですら成績が底辺だからな、そんな補講なんか受けたら死にそうだよ。
「そうだね、だが君はやれば出来る人間だと僕は思うけどね?」
 買いかぶりすぎだぜ、俺は適当に遊んでるくらいがいいのさ。
「…………他校の女生徒と?」
 うっ! それはあれだ、お前の友人だから親友として接待していただけだぞ? それも仕方ないじゃないか、なあ親友?
「そうか、親友としてお礼は言っておこう。たとえ彼女の為にぬいぐるみを取ってガッツポーズを取ったとしてもだね」
 あー、あれだ、お前は大いに誤解している。あれはくじが当たった喜びを表しているだけであってだな? というか、
「お前はどこにいたんだ、佐々木?」
「あの時、僕は母親に頼まれて買い物をして帰るところだったんだよ。すると馴染みの商店街で歓声が起こってるじゃないか、興味を持つのは当然だろう?」
 しまった、ハルヒ長門の行動範囲と佐々木の行動範囲には多少ずれがあるんだった! 考えてみれば九曜が行く範囲なのだから佐々木の行動範囲そのものじゃないか。
「まさかその中心に君と九曜さんがいるとは思わなかったけどね。本当に仲睦まじく見えたものだよ」
 だからそれが誤解なんだって! あれは妹にせがまれたような、そんな気分なんだって!
「しかし僕は些か心配なんだよ」
 …………何が?
「君は先程成績が低下気味だと言ったのにも関わらず、僕の友人である九曜さんの相手をさせてしまった。試験期間でもあるのに君から学業の時間を奪ったことに対し、親友としては申し訳が立たなくなるよ」
 え、えーと、一体何を言い出したのだろうか、こいつは? しかし佐々木は深く頷くと、
「仕方が無い、ここは親友として僕が九曜さんのフォローをしておこう。君のテスト勉強だが、僕がサポートしておくべきだと思うんだよ」
 そう言いながら俺の腕を掴んだ。しかも凄まじい力で。な、何だ?!
「さあ、これから僕と試験勉強だ。九曜さんが使わせた分だけ時間を有効に使おうじゃないか、まさか僕の友人だから相手していたのに親友の僕の提案は聞けないなんて事はないよね?」
「いや、もう日も暮れてるから次回でもいいんじゃないか? というか、お前はそんなに遅くなって大丈夫なのかよ?!」
 間違ってないよな? 俺は間違ってないはずだ、それなのに俺の腕が折れそうな程に力が入ってるのは何故なんだ?!
「心配しなくていいよ、僕とキョンの仲じゃないか。さあ、責任持って勉強しよう。大丈夫だよ、親友の責任だからね」
 …………凄まじい力と凄まじい笑顔の親友に引きずられながら、俺はこの後無事に帰宅出来る気がまったくしなかった。何故だろう、これが運命なのだろうか? それならば泣いてもいいよなあ?!
 結局はいつものパターンで一日が終わる事になったと言っておくしかないのだろう、もうその後の事は考えたくもないのだった…………






 ああ、試験については聞かないでくれ。学校まで着いただけでも自分を褒めてやりたいのだよ、はっきり言ってもう勉強なんて懲り懲りなんだって!!