『SS』 アンラッキーデイ(真)

 それは誰も救われない物語だった。
 毎日のようにSOS団の活動に勤しまされ、精神的にも肉体的にも疲弊していっている俺なのだが、それでも週末の不思議探索という俺の財布を一方的に軽くする活動までこなしてやったんだから感謝されたいもんだぜ。『機関』からは裏がありそうだから遠慮したいけどな。
 とにかく苦行は終わったのだ、日曜日は世間がどうあろうと休息日なんだって。俺だってそれに漏れずに休みたいんだよ。ということで流石に妹も飛び込んでこないだろう朝を精一杯寝過ごす気満々で、というかそんなこと考える事もなく夢の世界に浸っていた俺なのだったのだが。
 何か俺は悪い事をしたのだろうか? 前世の関係なのだとしたら俺は余程の聖人で今頃ツケが回ってきたのか、それとも大悪人でまだ試練を与えられているに違いない。
 そうさ、だからまだまだ寝ていられるはずなのに、
キョンくーん、電話ー!!」
 という声と共に毎朝と同じように妹のフライングボディプレスを食らうはめになっちまうんだ。恨むぞ、前世。
 とはいえ電話相手に罪はない。いや、こんな朝っぱらから電話をかけてきたことが即ち罪だ。
 なので思い切り不機嫌な声で叩ききろうかと思っていたのだが。
「やあ、そうは言うがもう陽は高く昇っているよ。僕としては親友の睡眠時間を最大限考慮したつもりだったのだが」
 電話の向こうでは親友が例の含み笑いをしながら話しているのだから何にもいえねえ。
「どうしたんだ、佐々木?」
『親友に電話をしただけさ、君の休日の予定を妨げたのならば謝罪しなくてはいけないけど』
 そうは言っているが分かってるくせに何を言ってやがるんだか。
「どうせ暇だから寝てるんだよ、悪いか」
『いや、こちらこそ済まなかった。ところで完全にお目覚めのようなら少し出て来れないかい?』
 まあそんな事だろうと思ったけどな。しかし断るようなものでも…………………いや、あの奇怪な面子がいるなら断りたい。
『そうは言うが彼女達も僕の友人でもあるんだ、あまり邪険にしないで欲しいな』
 あんなアプローチでこられて警戒しないやつはいねえよ。
『それでどうするんだい? 僕個人としては旧友との友誼を暖める機会というものは多いに越したことはないんだけど?』
 そう言われてしまえば流石に断る術もない。何より佐々木個人には俺は何も含むものはないからだ。
「やれやれ、それでどこに行けばいいんだ?」
『いつもの駅前でどうかな?』
 万が一見つかればシャレにならん気がするんだが。だが他に共通してわかる場所も少ないし仕方がないのだろう。
「わかった、ちょっと待ってろ」
 俺は電話を切り、ため息と共に身なりを整えるため洗面所に向かうのであった………





「お待ちしていました」
 駅前に着けば佐々木と見たくもないがその仲間たちがいた。あの例の誘拐犯である。
橘京子です! いい加減覚えてください!!」
 ツインテールが何か言ってる。
「見た目だけで評価された!」
「橘さんだけじゃないよ」
 何? 他には誰も……………
 と見渡す前に。俺の背後に寒気が走る。
 いつからそこにいたのか? その瞳はただ黒く沈んでいる。
 長く豊富な黒髪に白皙の顔が浮かぶように………
「長くなりそうだからその辺にしとかないかい?」
 だな。周防九曜はとにかくいたようだ。ところであのムカつく自称未来人はどこだ?
「自称未来人は『こんなイレギュラーにまで付き合っていられるか!』と言ってたので来ませんよ」
 そうか、出番を自分から拒否するなど生意気だな。まあ自称未来人などどうでもいいが。
「それは自称未来人に失礼だと思うな」
 いいんだよ自称未来人なんだから。
「――――自称―――未来人には―――出番――――なくていい」
 まったくだ。ということで自称未来人はお亡くなりになりました、ご冥福は祈りません。
「まあそんなことはどうでもいいのです!」
 仲間にまでそんなこと扱いなんだな、さすがに哀れだ。だがツインテール電波少女は一方的に話を進めている。
「では行きましょう!」
 どこにだ? という間でもなくいつもの喫茶店に。本当に誰かに見られたら俺の生命が危険なんじゃないだろうか? というかここって喜緑さんがいなかったか?
 しかし学習能力が欠けているのか、このくらいは慣れているのか分からない中途半端能力者は、
「それでは佐々木さんとキョンさんと私達の親睦を深めるべく話し合いを始めたいと思います!!」
 深まらないと思うぞ? 無表情な宇宙人と笑ってる親友とイタイツインテールなんぞに。
「んもう! なんで私だけ外見だけなんですか?!」
 いいじゃん、キャラ立ってるってことで。
「え? え〜、そうですかぁ〜?」
 クネクネするな、やっぱおバカキャラが立ってるなあ。うん九曜、俺は長門で十分慣れてるから分かるが生暖かい目で見てやるな。一応仲間だろ?
「まあこういう機会が多いと少しは君に会えるからね、僕としては不満はないよ」
 不満持てよ。とりあえず会うだけなら二人でもいいじゃねえか。
「…………そんな勇気ないから…………」
 ん? 何か言ったか?
「なんでもないよ、それよりどうするんだい橘さん?」
「はい、まずはもう一度キョンさんに佐々木さんの世界を見てもらうのです!」
 またあの白い世界に行くのかよ? 何度も見たいもんじゃないぞ。という俺の抗議はツインテールで弾き飛ばされた。
「いいですか、佐々木さん?」
「構わないよ」
 かまえ。とにかく俺の意思は尊重しろ。
「まあこうして少しづつ私達の事が分かってもらえればいいのですけど」
 …………これで分かると思えるのだろうか? 古泉ですらここまで強引じゃなかったような。まあ神人がいないだけマシなのか?
「では行きます!!」
 って俺の意見は?! と思う間も無くツインテールに手を引かれたら真っ白空間へ。佐々木もこれでいいんだろうか?
「佐々木さんの内面世界は落ち着いていますから」
 だからって不法侵入を繰り返していいもんじゃねえだろ。誰もいない喫茶店の中でため息しか出てこない。
 しかし自己満足系超能力者は俺のため息などツインテールで撥ね返す。無敵だな、あのツインテール
「それでは外に出てみましょう」
 いやもう帰っていい? と言いたいがここから出るためのアイテム女がさっさと外に出てしまったので嫌々ながら付いていかざるを得ない。
「どうですか? 空気も澄んでいるようでしょう?」
 そりゃ車も通ってないからな。クルクルとダンスを踊るように回る橘ことツインテール
「それ逆じゃないですか?!」
 気のせいだ。それよりあんまり回ると、
「あ? あれ?」
 三半規管が狂ってだな。
「ふぎゃんっ!!」
 倒れるんだよ。というか分かりきってたと思うんだが。
「あいたた………」
 で、だな? 今の橘の格好を言っておこう。こいつはなかなかファッションセンスがあるほうなのか、所謂女子高生っぽい格好で現れる事が多い。
 この時も可愛い系の衣装だった、問題があるとするならばミニスカートだったということだ。しかもタイトじゃなくてフレアな。
 つまりはふわっとしてた訳で、それが思いっきり転んだんだぜ? しかも頭っから。ということはどういう事かわかるよな? 見事にふわっとめくれたよ、スカートが!!
 そして俺の目の前に飛び込んできた光景は……………うーん、なんて言えばいいんだ?
 あ、パンツ丸見えだった! んだけど、何と言うかこう、普通? おしゃれな格好をしている橘とは思えないほど普通。
 デザインとか語れないんだよな、まあチェックだったよ柄は。えらく原色がキツイ系統の。
 でもなあ、まったくといっていいほど高級感はないな。生地とかがそんな感じに見える。例えて言うなら、
「み、見ましたね? ちょっと油断して五枚980円の安売りの一枚を穿いてきたのを見てしまったのですね?!」
 自分でばらしてどうする。というか女性物の下着の値段など知るか!!
「うぅ…………こんなことならもっといいパンツを穿いてくればよかったのです………」
 いや普通見せる機会ないだろ。
「いやいや〜、キョンさんにだったら……………色仕掛けだってしちゃっても〜……」
 だからクネクネするな、というかこういうキャラだったのか? イタい奴だとは思っていたが………
「な、なんだったらもっと見ます?」
 はあ? まるでスカートをたくし上げんばかりのイタキャラと化したツインテールをどうにか落ち着かせて閉鎖空間から脱出した頃には何かどっと疲れてしまった俺であった。





「どうだった? 自分としては何ら変化なく日々を過ごしているつもりだったんだが?」
 ああ、お前はそうかもしれんが自称お前の友人は日々壊れていってたようだぞ。だからクネクネすんなって。
「うふふ、これで絆は深まってくのです」
 深まるか! お前単にドジって恥晒しただけじゃねえか!
「…………僕の内面でどんなことがあったのか問い質してもいいんだろうか?」
 ああ、このアホから十分絞ってくれ。俺はもういい。ということでちょっと席を外していいか?
「え〜? 帰っちゃダメですよ〜?」
「…………トイレ行ってくる」
 なんというかここに佐々木を置いておくのが不憫になってきた。本人笑ってるけど。少なくとも友人としては真っ当な道を歩んで欲しいもんだ、俺自身が真っ当じゃない連中に囲まれてるからな。
 必要以上に手を振る橘と、それを苦笑して見ている佐々木に見送られってこれ何の羞恥プレイ?! とにかくトイレに逃げるように入った。


 
 
「―――――よう――――こそ――――」
 じゃねえだろ、何でお前がここにいるんだよ? ここは間違いなく男子トイレなんだからな! さっきまでいるのかどうかすら分からなかった周防九曜を目の前にして、俺はがっくりと肩を落としたくなった。
 とりあえず尿意的な何かもすっかり収まり気味な俺は回れ右とばかりにトイレから脱出を図ろうとしたのだが。
 えー? なんでドアが無くなって灰色の壁になってんだよ? ということは……………
「―――――ここは――――私の―――――情報――――制御―――――空間?」
 いや、お前がやったんだろ? とにかく返せ、戻せ! お前は何がしたいんだ?!
ツインテールが――――言っていた――――」
 は?
「あなたを――――誘惑する―――――情報が――――爆発だぁ――――――」
 思いっきり何か間違ってる!! それで佐々木が何かあるとも思えないし、あのツインテ馬鹿は何言ってんだ?
「やるよりも――――やってから―――後悔するわ―――――」
 後悔するならやらないでくれ。どこまで間違ってればいいんだ、このポンコツ宇宙人。
「では――――誘惑――――――開始――――――」
 そう言ってゆるゆるとスカートをめくり上げる周防九曜。いやいや待て待て!! 宇宙人と言っても女の子なんだから恥じらいというものを持ちなさい!!
 とは言え目を逸らそうにも何故か体が動かなくなる例のパターン。無駄な力を使うな! いやその前に無駄な力を使うな!
「大事な事なので――――――二回―――――言いました?」
 そういう意味じゃないっ!! とりあえず動けるようにしろ!!
「うん――――それ――――無理――――」
 あれ? そこだけまとも?! とにかくゆるゆると上がっていくスカートを凝視するという羞恥プレイだけは止まらない。
 あの黒いストッキングは太ももまでだったのか、ということはその上には下着が……………って本格的にまずい!!
「――――ご開帳――――」
 と言ってめくれ上がったスカート。その中身は……………
「―――どう――――かしら――――?」
 えーと、どう言えばいいんでしょう? スカートを捲くった九曜には悪いんだが、そのパンツというのは何だ? 妹が幼稚園とかに行ってた頃によく見てた気がする。
 へそまでありそうな深い股上でゴムで止まってて。しかも妙に大きいんだよな。
 うん、これっていわゆるカボチャパンツっていうやつじゃないか? まるっきりお子ちゃまである。小柄で日本髪な九曜はそのまんま年齢不肖な幼さが醸し出されているんだが、俺にはそういう嗜好はないぞ?
「―――――セクシー?――」
 いや、どこが? 一部の人種には垂涎ものなんだと思うが、生憎と俺は妹がそういうパンツで走り回ってる姿を見慣れすぎてて夢なんぞ持てないのだよ。
「だからこそ――――その歪んだ―――欲望のはけ口に―――なってもいいわ―――」
 人を勝手に犯罪者にするな! 話にならないのでここから出して欲しいんだけど。
「うん―――それ――――無理?」
 やっぱりな。というかどこで覚えたそのセリフ?! そして俺の体が動かなくなってるままだし!! これは…………これは貞操の危機ってやつなのではないでしょうか?! などと考える前に動けよ、俺の体!!
「いただき―――――ます――――」
 いただかれるー!! さようならチェリー、こんにちは新しい俺。できれば朝比奈さん辺りにその役割は担っていただきたかったぜ…………………ここは黄色いカチューシャが浮かんでも無視しとくから。
 という、ある意味ピンチなある意味チャンスを迎えた瞬間だった。

 

 轟音と共に壁が崩れて、俺はその勢いで吹き飛ばされてしまった。



「いってぇー!!」
 体中あちこちをぶつけたものの、手足を動かせば自分の意思で動くようになっている。助かった、すまんな長門って……………
「申し訳ありません、長門さんではなくて」
 いえいえ、まさかあなたが助けにきてくれるなんて。
 長門のお仲間というかお目付け役だっけか? そして俺達の先輩でもあるインターフェース、喜緑江美里さんは倒れた俺を庇うように周防九曜に向かって立ちふさがっていたのだった。
「まったく、こんなところで情報操作なんて天蓋領域はどうやらこの星の情報を把握しないままに接触しているのでしょうか?」
 それはどうなのかは分からんが、とりあえずは脱出できればいい。今九曜がどうにかなれば佐々木がどう思うか分からんからな。
「あら、お優しいことですね」
 いえ、こいつより佐々木が気になっただけです。それよりもですね?
「なんでしょう?」
 もう少し立ち位置を移動していただけないものなのかと。ええ、さっきから俺が情けなく転がっている真ん前に喜緑さんは立っているのだが。
 はっきり言って見えています。何が? そりゃ下着的な何かだよ! つかパンツ丸見えですから!! しかも黒のレースのTバック! なにこのセクシー路線?! いや、まだ後ろだからいい、これ正面から見たらとんでもない事になってないか?!
「見たいですか?」
 いや、そこで回れ右って! 見せたいの? 見せたいんですか、あなたはーっ!! そりゃもう全力で目を閉じたよ、チキンとかそんな問題じゃないんだ。まず見てしまったら後がえらい事にしかならないって確信があったからなんだ!
「チッ!」
 ほら、聞こえたろ? 舌打ちしたぞ、この先輩。ヤバイ、何故ここで長門じゃなかったのかと後悔してしまうほどヤバイ。というか助けて長門!!
「…………そんなに長門さんがいいんですか?」
 はい?
「いつもいつも長門さんばかり………」
 あ、あの〜、何故そこで俯いてしまいますか? あなた生徒会長とか色々いるでしょうに。と、油断したのが悪かった。
「はい、どうぞ」
 って真正面からーっ?! それは、そう、なんというか、レースがヒラヒラしてて………………透けてました。ええ、なんというか、生ワカメ。
 あははは、もうダメなんだ……………俺は静かに意識を閉ざしていったのだった。





 気が付けば俺は男子トイレの個室の中で一人座っていた。どのくらい気を失っていたのか考えたくも無い。
 何か大事なものを無くしたような気分でトイレを出ようとして、ふとポケットに手を入れるとなにやら紙の感触が。取り出すと綺麗に印刷されたような行書体で、
『お礼は後から請求に参ります。楽しみにしてくださいね。 あなたのえみりん』
 と書いてあったので再び気を失いそうになった。
 間違いなく大切な何かを失ってしまう前に長門に相談しようか、しかしそれはそれで嫌な予感しかしない中を俺は席へと戻ることにする。時間を確認している訳じゃないが、多分大丈夫だろう?
「やあ、少々遅かったので体調でも崩したんじゃないかと心配したよ」
 逆にそのくらいで済む時間だったことにホッとしてるよ。まだツインテールはクネクネしてるし。しかもお前ら、九曜がいないことに気付いてないだろ?
「彼女はファジーだからね」
 それで誤魔化せたつもりか。と思ったが、もはやツッコむ力もない。俺は力なくソファーに座り込むしかなかったのだからな。
「コーヒーが冷めてしまったね、お替りでも頼もうか?」
 いや、もういいよ。それより帰らせてくれないか? するとそれを聞いたクネクネ超能力者がようやく動きを止め、
「それは困ります! 私達はもっとお近づきになるべきなのです!」
 どう考えてもお前らのアプローチじゃ無理だと思わないのだろうか。まあ思ってたらこんな事にはならないだろうが。
 でも帰らせてくれ、お願いだから。ちょっとあまりにも疲れちゃってますから!!
「そんな?! あ、私なら別にリアルでもほら、色々と〜、しちゃってくれてもいいですから〜」
 またクネクネしだしたよ、この色ボケツインテール。というかだな? お前も止めろよ、佐々木!
「その前の展開を理解していないものでね。それに橘さんはキョンがいなければと言っていたので、ある程度は静観しているだけだよ」
 静観しすぎだ! 見ろ、このニョロニョロ! こんなイタイ友達持つんじゃねえよ!
「さあ! せっかくなので佐々木さんも一緒に!」
 こら! 佐々木まで巻き込むな! 一緒って言うのはそのクネクネのことか?! 
キョンさんを、めくるめく官能の世界へ誘うのです!」
 どう見ても面白ダンスだ、それ! そんなもんに誘われてたまるか!! ということで佐々木には大変申し訳ないが俺は逃げさせて頂く!!
 一気に立ち上がり猛ダッシュの予定だった俺の体は、
「そうはいきません!!」
 と言ったイタキャラツインテールによって押さえ込まれてしまっていたのであった。というかだな、何故にここで能力の高さを発揮しちゃうのだろうか。
 考えてみればツインテールのくせに、こいつは古泉達の『機関』と対等に渡り合う連中な訳であってだな。つまりは結構修羅場なれしていたりもするのだったよ、誘拐犯な事をすっかり忘れかけていたけどさー。
「た、橘さん? 流石にここでは人目もあるから、もう少し穏便にいかないかな?」
 いいこと言った。佐々木は今間違いなくいいこと言ったよ、でももう少し早めにそれは言って欲しかったものだ。だって俺、腕決められちゃってますから! 刑事ドラマの犯人ばりに確保されちゃってますからー!! 周囲の目線なんて、それはそれは………………無視されてますから。あれだ、SOS団での活動での影響か? それとも情報操作的な何かなのか? とりあえず助けがないのは確定のようだ。しかも逆にイタイ、この無視っぷりはイタイって。
 しかし、そんなことはまったくどうでも良さそうなイタイタキャラのツインテールは得意そうに、
「ふっふっふ、はじめからこうすれば良かったのです。さあ、私達と共に新世界の神となりましょう!」
 なりたくないし、なれるわけないだろ! 俺は死神も見てなけりゃノートも拾ってねえよ! そんなノート拾ったら、まず最初にお前の名前書くぞ!
「言葉で拒否しても体は正直なのですよ」
 正直痛いわ! 何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ、ただ休日を平穏無事に過ごしたかっただけなのに! 本当に誰か助けてくれ…………
「ちょっと橘さん! 私のキョンに何してるの?!」
 少々不穏な単語が入りながらも佐々木が橘を止めようとした瞬間だった。


 破壊音と共にウィンドウが割れて誰かが飛び込んできた。


 流石にパニックになる店内ってどこのアクション映画だ! しかも当事者の一員になっちまってるし、俺!
「キャアッ!!」
 飛び込んできた影は、一瞬ひるんだ橘を突き飛ばすと俺を庇うように向かい合ったのだった。あれ? またこのパターンかよ!?
 ただし今度は登場人物が違う。まさかあなたまで出てくるとは思いませんでしたから。
「お怪我はありませんか?」
 はあ、ガラスの破片が掠りかけたけど概ね無事です。ですから、もう少し穏便に入ってきて欲しかったような。
「申し訳御座いません、非常事態でしたので」
 メイド服のアクションヒロイン、森 園生さんは傷一つない顔で微笑んでいたのであった。
「さて、まさかここまで直接的行動に出るとは、些か想定外でしたけど?」
 うわ、笑顔なのに怖い。これで二度目だけど、やはりこの人は笑顔で人が殺せそうだぞ。
「うふふ、それは誤解なのです! 私はキョンさんと愛の流刑地へと浪漫飛行のお誘いをしていただけなのですから」
 うん、それにビクともしないツインテールは凄いはずなんだが、言ってる事は電波すぎる。しかもクネクネしてるし。
「そうは参りません。ここは一旦引くことをお奨めしますけれども、どうなさいますか」
 うわあ、笑顔なのに圧倒的なオーラだ! まるでライオンの前のインパラのようにすくんで動けなくなる。っと、佐々木は無事か? あ、腰を抜かしてる。ある意味正解だな。
 しかし笑顔で殺しにかかるメイドさんとクネクネツインテールの対峙は続く。できればそのままでいて欲しい、そして俺を帰らせてくれ!!
「こちらもキョンさんが必要なのです、今回は多少強引にいかせていただきます!」
 うお! 森さんにかかっていったぞ、あのツインテール! 度胸があるんだか無謀なんだか、それと蹴りはやめろ。さっき見たけど安物パンツが見えてるぞって冷静になってる自分が怖い。
 だが流石に森さんである。
「心がけは買いましょう、ですが」
 軽々とツインテールのパンツ丸出しキックをかわし、
「上には上があると知りなさい」
 そのまま蹴り足を掴むと背負い投げの要領で投げ飛ばした。
「フギャン!!」
 哀れツインテールはパンツ丸出しのまま床に叩きつけられて気絶してしまったのであった。自業自得とはいえ可哀想な気もしてくるな。
「それでは私はこれで」
 後ろ手に縛ったツインテールを軽々と小脇に抱えて、汗一つかかないメイドさんは先ほどとは比べ物にならない優しい笑顔で俺に微笑みかけてきた。
 ええ、ありがとうございます。ただし………………どうしましょうか、この惨状。ガラスは店内中に飛び散り、客はことごとく腰を抜かしている。よく警察に連絡いかなかったな。
「そこは『機関』がフォローしていますから」
 言いようですね、要は口封じか。
「それにTFEIの情報操作もございますので」
 あれ? またワカメ? というか、とても不安なネットワークが築かれているような。俺にとっては、という意味で。
「ですから何も心配はいりませんので、ご安心を」
 それが一番心配なんですが。安心したいですけど、どうにも不安です。
「それでは、また何かありましたら」
 あ、完全にスルーされた! というか優しい微笑みが含み笑いになってる気がする! 次回が、次回があるってことなんですか?!
 しかし森さんは答えることも無く、何故か自分が飛び込んできた割れた窓ガラスから立ち去ろうとした。





 まあガラスは割れてて尖っていたりはしたけどさ。でも森さんだぞ? ありえないだろ?
 だから森さんのスカートがガラスに引っかかったりするなんて。しかも綺麗にスカートが裂けるなどとは。
 そしてその裂けたスカートの中にあったものは……………
「……………見ましたね?」
 いいえ! 見ていません!! まさかネコさんなんて! そんなファンシーな可愛いプリントのパンツなんて思いませんでしたから! それなのにガーターベルトは反則だと思います。
「え、エッチなことはいけないと思います!!」
 え? そこでそんな顔を真っ赤にして言われても。というか、そんな森さんは、そのまあなんだ? えらく可愛かったりしたんだよ。
 絶対に忘れてくださいね! と言いながら森さんと死んだままのツインテールも立ち去ってしまい、残されたのは俺と……………………どうすんだよ、これ…………
「キョ、キョン〜………」
 そりゃ流石にこうなるよなあ。さっきから俺の腕を掴んで離さない佐々木なんだけど。そしてそんな佐々木を残したままにするなよな、ツインテールポンコツ宇宙人め。
「あー、とりあえず帰ろうか?」
 コクコクと高速で首を縦に振る佐々木を引っ張るようにして店を出る。もしも情報操作が上手くいかなければ二度とこの店には来れないだろうな、そうなったら来週からどうするんだろう、などとくだらない事が頭を掠めてしまいながら。





「ほら、もう大丈夫だから」
 そういや久々にこいつの家に来たな、中学時代と変わらず整理されて女の子の部屋っぽくない佐々木の部屋までどうにか連れて帰ったのはいいのだが。
 さて、俺も帰らせてもらおう。もう精神的にも肉体的にも、主に精神的にもくたくたなんだ。ということで部屋を出ようとしたら思い切り裾を引っ張られた。なんだ?
「帰っちゃやだー」
 はい? さ、佐々木さん?! 
「やだやだー、私を置いてっちゃやー!!」
 幼児退行してるーっ!! こんなの佐々木じゃないー!! つかここまで壊れてしまったのか、こいつ!
キョン〜!!」
 待て! 飛び掛るな! ベッドに押し倒すな! 上に乗るな! そのまま体重預けるなー!!
「えへへ、キョンの匂いだー」
 ああ………すまない佐々木…………まさかこんな事になるだなんて、やはり友達は選ぶべきだったんだよ…………
 別に俺のせいではないが、何とも申し訳ない気分に陥ってしまう。ところが、
「んしょっと」
 あ、あれ? 佐々木さん? 何を服を脱いでるんですか?! いや、可愛いピンクのブラですねって、それを外すなー!! 見えてる! ピンク色のちょっと小振りな何かとかばっちり見えてる!!
「橘さんや九曜さんには負けないんだからー」
 むしろ負けろー!! やばい、どこでスイッチが入ったんだ? というかどこまで本気なんだよ! しかし佐々木はこっちのツッコミもお構いなしで、スカートに手をって!!
「私も見せるー」
 見せないでー!! どこをどうすりゃそうなるのか、器用なことに俺に乗っかったままでスカートを脱いだ佐々木はブラと同じデザインのシンプルながら可愛いピンクのパンツだったわけで。
「可愛い?」
 かわいい! かわいいから、まず服を着てくれ!! このままじゃヤバイ! 何がどうとか言わなくても分かるだろうがって言いたいくらいヤバイんだってば!!
 だから腰を動かすな!『禁則事項』が『禁則事項』になって『禁則事項』になるから!! 少しだけ口を開けて艶かしい息をついたり、目をとろ〜んとさせたりしちゃダメだって!
 すると、腰をもぞもぞと動かして俺の『禁則事項』を『禁則事項』しようとした佐々木の瞳に光が宿った。良かった、いつもの佐々木に戻ってくれたのか? それならまず服を……
「いただきます」
 戻ったんじゃないのかよー!! イヤー! いただかれるぅー!!
「くっくっく、そんな事を言っても君の『禁則事項』はもう『禁則事項』じゃないか」
 お前戻ってるのか?! それともまだ壊れてるのか! いや、その手の動きはダメだって!!
「もう我慢できないんだってー」
 嫌あー! らめえぇ〜!! 助けて〜!!









 本当に最悪の一日だった。肉体的には早起きさせられ吹っ飛ばされて、精神的に大いに疲弊させられ、最後には……………………お婿に行けない体にされてしまった……………
「最高だったよ、キョン
 言わないでくれー!!!!!!