『SS』 幸せ家族計画! 第五話

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飯も終われば取り立てて予定は無い。無計画も甚だしいが佐々木ですら何も決めていなかったとは意外だ、てっきりこの後のスケジュールもしっかり把握しているとばかり思っていたのだが。
「今回はあえてそうしたんだよ、時間に追われるだけが出かける意味じゃないからね。無計画に無為な時間を家族で過ごす事もまた重要なのさ」
意外に砕けた事を言うな、昔のお前なら無駄な時間を作る事を良しとしなかったと思うんだが。
「それは君のせいさ、キョン。実際に僕は君と過ごす時間を無駄と思ったことはないけどね」
そうか、それは何と言うか……………照れるな。
「くっくっく、だからこそ君と、そして娘達といればそれだけで満足なのさ」
むう、悔しいが何も言い返せない。九曜も有希も俺を見上げてるし。
「…………腹ごなしに歩くか、まだ見回ってないしな」
何故か明後日の方向を見ながらそう言うしかなかったんだよ、だからそんな目で見ないでくれないか?
「…………」
ん? なんだ? 有希が俺に向かい手を伸ばす。
「どうやらさっきまで九曜の相手ばかりだったからみたいだよ?」
そういうことか。やれやれ、有希も甘えん坊モードか?
「どうすんだ、抱っこか?」
ふるふると首を振る有希。それじゃどうすりゃいいんだ?
「…………かたぐるま」
おお、そうか。有希は軽いので簡単に持ち上げて肩に乗せる。
「どうだ?」
「…………たかい」
そりゃそうだ。有希からすれば未知の世界なんだろうし。
「九曜は私と手を繋ごうね」
佐々木の出した手を大人しく握る九曜。今度は自分で歩くらしい。
ということで、
「………はい」
いや、そんな当たり前のように手を出されても。
「今更何を言ってるんだか」
今更でも恥ずかしいんだって。嫁さんと手を繋ぐのっていうのは。
「そう? 僕は嬉しいけどね」
あっさりと恥ずかしい事を言い放つな。そして娘達よ、その何で? みたいな視線はやめなさい。
仕方が無い、覚悟を決めて佐々木の手を握る。にっこりと微笑む嫁さんの顔を見てこっちの顔が赤くなってくる気がする。それでもしっかりと佐々木の手の感触はあるんだけどな。
「んじゃ行くか」
「そうだね」
「…………では」
「しゅっぱ―――つ?」
はいはい、疑問系じゃないから。有希を肩車した俺と九曜の手を引く佐々木がお互いの手を繋いで歩く。何と言うか、こういうのが幸福っていうもんなのかね?
「僕もそう思うよ。決して大袈裟ではなく、この気持ちは君がくれたものだ。感謝してるよ、キョン
俺もさ。そこだけは照れずに言っておくよ。
「そう言ってもらえて、」
光栄ってやつだな。俺達は向かい合って笑った。娘達はよく分からなくてキョトンとしてるけど、それは俺達夫婦の話さ。



結局何か買うわけでもなくぶらぶらとモール内を見てまわり、食料品も取り扱っていたので夕食の買い物をついでにしてから俺達は夕方近くに店を後にした。
というのも、
「……………ふわ………」
「あふ―――――」
ご覧の通りだ。娘二人はお疲れモードに入りつつあるんでね。多分運転中は寝るな、こいつら。
「まあ仕方ないよ、お昼寝もしてないからね」
佐々木は器用に九曜を抱きかかえている。俺は買い物袋をぶら下げながら片手で有希を抱いている。早く車に戻らないとこっちがもたないぞ?
「荷物を半分持とうか?」
いや、フェミニストを気取る訳じゃないがこのくらいは大丈夫だぜ? 有希が軽いというのもあるけどな。
「それも君らしいな。ならば急ぐとしようか」
おう、そうしよう。俺達はそれぞれ娘を抱え、車に戻るのだった。



帰りについては何もいう事は無い。後部座席では規則正しい寝息しかしないし、だから音楽も流していない。
「十分楽しんでくれたみたいだね」
後ろを見ながら優しく微笑む佐々木に俺は訊いてみた。
「お前は楽しかったか?」
ウチの女房は出会った頃から変わってないんじゃないかと思えるほどの美しさで、
「当然じゃないか」
と笑ってくれた。俺はどうだったかって? 聞くまでもないと思うんだがな。
凄く満足した休日だったさ、少なくとも精神的な疲れは吹っ飛んだ気がするから現金なもんだね。



さあ、帰ったら寝ている子供達に内緒で部屋のカーテンを替えてやろう。
半分はねこの柄で半分はくまさんだったか? アンバランスだけど喜んでくれるんじゃないかと思う。
起きた時の二人の反応が楽しみだな。そう考えるだけで顔がニヤケてくる。
そして皆で夕食にしよう、外で食べるのもいいけど佐々木の作る食事が一番俺達には合ってるのさ。なんといっても味だって引けは取ってないんだからな。
兎にも角にも俺は家族を愛してるってことなんだよな、それだけは言っておかないと。


俺は鼻歌でも歌いたい気分でハンドルを握っているのであった…………