『SS』ちいさながと「耳掃除」

季節というものは移ろいやすいとは言うものの、その変化が急激に目に見えるようでは地球ももう終わりだろうと思う今日この頃。
つまりは明け方や寝る前などがやや肌寒くなってきたのでそろそろ毛布でも引っ張り出すか、と思えるようになってきた時期なのだと思ってくれればいい。
そして季節の説明などをしてみたものの、俺と小さな恋人の長門有希とは何の関係もないほどに絶賛まったり中であったりもする。
不思議探索も無事とは言えないが、まあ財布に多大なダメージがあっただけで済んだ訳で。
だからこそこうして俺たちは部屋でただゴロゴロと怠惰そのものを表現できるんだよ、これこそ正しい休日の過ごし方だな。
ちなみにベッドで寝転がる俺の傍らで有希は正座で読書中であったりもする。
十二分の一サイズの本なんて売ってるはずもないので、これは長門の部屋の本を長門(大)の力で圧縮・再構成したものである、ありがとう長門ってどっちも長門なんだが。
そういう事で有希が小さくなって一番の懸念だった読書という問題も無事に解決し、俺の部屋の本棚の片隅に有希専用ミニ本棚(これはおもちゃ屋で人形用を購入)が出来たのである。
閑話休題
とにかく俺たちは思い思いに、互いがいる事の安心感に包まれている室内での緩やかな時間を楽しんでいた訳だ。
あー、なんかまた寝ちまいそうなんだが………………
「退屈?」
違うぞ、お前といる空間に満足してるからなんだ。
「そう、わたしも現在満足」
そう言ってくれると嬉しいね。それじゃいっそ寝るか?
「夜、寝れない」
分かってるんだけどなあ、しかし瞼の重さには耐えられるかどうか。
「………………待ってて」
そう言うと、有希は持っていた本を専用棚に戻した。どうした?
しかしそれには答えず、有希はピョン! とジャンプするとベッドから俺の机へと飛び移ったのだ。いつ見ても能力が落ちてるとは思えんな。
そして机の上をごそごそと物色中である、そんなとこに何があるんだ?
「あった」
筆立てに無造作に挿してあったものを取り出した有希の顔はどこか得意気であるようだ、俺以外が見て変化が分かるかは知らんが。
その手に握られていたのは、
「そんなとこに置いてたっけ?」
竹で出来たボディに曲線のヘッド。
お尻についてるフワフワの正式名称を誰か教えてくれないだろうか。
というか、
「なんで耳かきがいるんだよ?」
そう、有希が持っているのは典型的な耳かきそのものだった。
とは言え、小さな有希が持てばまるで新しい武器のように見える。そういやこの間やった戦国だか中国だかのアクションゲームの槍にはなんか飾りがついてたなあ。
「掃除する」
掃除? どこを? って耳しかないだろうが、俺。
「先日来、気になっていた。これを好機にあなたの耳掃除を敢行する」
そうか、普段はずっと俺の肩の上が定位置な有希にとって、俺の耳の中というのは嫌でも目に入る訳だ。
「それならいっちょ頼むとするか」
「頼まれた」
再びジャンプ一番、ベッドの俺の目の前に降り立つ有希。
「あー、有希?」
その前もそうだったのだが、有希はいつもの制服姿なんだよ。
ということは、あの短いスカートで飛んでる訳で。
そうするとだな? その、まあ中が見えるというか、分かってるのか?
「どうせ見慣れている」
そういうもんでもないんだけどなあ。
「大丈夫、あなた以外に見せるつもりもない」
それは嬉しいんだが。
「見たい?」
いや、後でゆっくりと見るからいい。それより耳掃除はどうした?
「実行する」
そして有希は俺の顔の真正面に。
ところがそこからピクリとも動かなくなってしまった。おい、どうした?
「致命的な欠点を発見してしまった」
欠点? お前にか?
「そう、わたしには不可能。ごめんなさい」
俯いてしまった有希。どうしたんだ、お前に欠陥なんかあるはずないだろ?!
俺はそんな有希の姿を見たくはない。どうしたらいいのか分からないままに聞いてみる。
「お前の言う欠点って何なんだ? もしかしたら俺にでも解決できるかもしれないじゃないか」
すると有希は小さくこう言った。
「…………………膝枕できない」
はい? 
「あなたを膝枕できない、これは致命的。わたしの現在のサイズではどうシュミレートしても不可能と判断された」
えーと、つまりは有希は俺を膝枕できないことでそんなに落ち込んでしまったということなのかな?
「………………」
頷かれちまったよ。
「あー、有希? そのー、気持ちは嬉しいんだがな? 別に膝枕をしなくたって耳掃除は出来るもんだし、そうやってくれるだけでも俺は十分に嬉しいんだぜ?」
というかそんなことで悩んでくれるってだけで可愛すぎるんだぞ。
「でも男性の耳を掃除する時には膝枕をするのが常識だと情報を得た」
誰だ、そんな男のロマンを力説したヤツは。
喜緑江美里
やっぱりか、まったくあの人はどこからそんな情報を入手してんだか。そういうことは自分でやってくれと言いたいぜ。
「生徒会長と呼称される人物と実践済み」
何やってんだ、あのバカップル。
まあ人の事はとやかく言えんが。
「週一回のペース」
それはやりすぎだろ。
「まあいい、俺たちは俺たちだ。いいから頼むぜ有希」
「分かった」
そう言うと有希が俺の目の前から消える。
するとちょうど耳の真後ろあたりに微かな重み。どうやら本格的に有希は俺の耳掃除を開始するらしい。
「では開始する」
お願いするよ。

コリコリという音が耳の中に響くようだ。静かな中で有希が耳かきを動かす音がする。
俺の位置から見えないが、恐らく両手に耳かきを持って耳の穴の奥まで掻いてくれるに違いない。
「現在スコープモード」
そりゃ隅々まで綺麗になりそうだ。
「サーチ&デストロイ」
随分と物騒だが存分にやってくれ。
たまにソッと抜かれてはいつの間にか側に置かれたティッシュにコンコンと落とす音。
うーん、快調なもんだ。
「大物を発見」
そうか、道理で最近耳が痒いはずだ。
「ミッションを実行する、許可を」
許可も何も。
「やってくれ、有希」
「了解」
うおっ! なんか引っかかってる! それだ!
「抵抗が激しい」
いや、いいぞ有希! 一気にやってくれ!!
「…………我慢して」
よしこい!!
そして、
ベリベリッ!!
という音がマジで聞こえて。
「ミッションコンプリート」
有希の満足そうな声が耳の上から聞こえた。
ああ、何か聞こえる声も澄んで聞こえてくるようだ。
ありがとうな、有希。
「…………まだ」
ん? まだあるのか? 結構しつこいもんだな。
「細かいところが取れない」
そんなに細かいとこはいいぞ、何だったらまたやってもらえばいいさ。
「……………今のわたしなら出来る。許可を」
そこまで言うなら任せるが、ほんとにいいんだぞ?
「任せて」
と言う声と同時にティッシュの上に何か置かれる。
ん? これもしかして耳かきじゃないか? 
おい、肝心の道具を置いてどうす…………
そう言いかけた時だった。

ペロッ!

「ひゃあああああっ?!」
な、な、なああああ?! なんかニュルッとした感触が耳の中を!!
ま、まさか………………

チロチロッっと這うこの感触!!

「ちょ、有希!」

ニュル………

「ふわぁぁ………!」
ヤバイ、この感覚はヤバイ!!! 間違いない、有希が、

ピチャ…

俺の、耳の中を、

ピチャ…

舐めてるー!!!!
「や、やめ………」
「ジッとして」
いやそれ無理!! さっきから背筋を走るこの感覚はもうダメだって!!!
「内部まで洗浄する」
やめてくれー!!!
「大丈夫、殺菌効果もある」
いやいやいやいや!! そんな事までしなくていいから!! お前も汚いと思うだろ?!
「あなたのなら平気」
俺は平気じゃねえー!!

だが有希の能力はここでも無駄に発揮されたらしく、俺は情けない叫び声を上げながらも頭をまったく動かせないままに体中を駆け巡る快感に溺れ続けたのだった………………



「終了」
………………やっと、終わって、もらえました、か?
「完璧」
それは…………よかった……………
もう俺はダメだ、なんというか体から力が抜けきってしまって気だるさでどうにかなりそうなんだ…………
「仕上げ」
なにっ?! と思う間もなく、

フウッ! 

と耳に息を吹きかけられた。

ゾクゾクッと背筋に快感が走って。
「うひゃあああああああっっっ!!!」
俺は思い切り叫ぶしかなかったのだった…………

「では」
何でしょう、有希さま……………
もう俺には何も出来ません、というか好きにしてください…………
「反対を」
へ?
「反対側も掃除する」
ちょ、ちょっと待ってくれ! さっきのアレですらここまでフラフラになったのにアレをもう一回だって?!
「早く」
いや、もう明日にでも、
「……………均一に行わなければダメ」
と言うが早いか、俺の体は有希に軽々とひっくり返されてしまったのである。だからお前、なんでそういうとこだけ無駄に能力があるんだよ?
「では」
俺の耳の後ろに有希の感触。
のはずだったのだが、
「……………見たい?」
飛び上がる直前の有希。ここで飛べばスカートがめくれそうなって、
「お願いします」
さっきまでの快感が俺を麻痺させてるんだろう、そうだ、そうに違いない。
「見るだけ?」
いえ、俺も舌を動かしたいと。
「…………わたしも……………舐められたい」
そうか、こういうのは平等にだな、
「……………きて」
いただきます。




まあ何だかんだあったのだが、俺の反対の耳の掃除が翌日以降になってしまったのは致し方のない事だったんだよ、うん。
「あなたの舌使いが激しかったから」
言わないでくれ。


あとがきのような

なんというか、久々なのに書き慣れてるなあ。やっぱちいさながとはウチの看板なのです。
それでこのネタってのもアレですが(笑)