『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 18

18−α

キョン子の涙などというものに著しく俺が動揺したものの、ハルヒ達には気付かれることなく(古泉♀はわからんが)あいつらが移動したのを見計らって俺達は物陰から出た。
「どうする? 追うか?」
俺は今すぐにでも後を付けるべきだと思ったが、キョン子は違ったようだ。
「ねえ、あたし達もどこかで時間を潰しましょう」
どういうことだ? 俺はあいつらを見失う前にだな、
「あたし達に尾行の才能があると思う? 古泉はともかくとして、あの二人ならすぐ気付くわよ」
そう言われれば言葉につまる。たしかにハルヒの野生の感なら今まで気づかれて無いことすら奇跡だからな。だが見失えば元も子もないだろうが?
「大丈夫、あいつらの行動パターンとして、解散するのもここよ」
なるほど、集合場所で解散するというのはハルヒも同じだ。現地解散というのは今まで無かったからな。
「それに学校帰りだからそんなに移動はしないはず。古泉もいるから、そこだけは安心していいと思う」
あの古泉を信用するのは少々心もとないのだが、それはあいつらと行動を共にしてきたキョン子の言う事を信じるしかないだろう。
しかし俺はハルヒが誰かと、いや、あいつらと一緒なのに不安が隠しきれないんだが。
「多分あいつらの行き先はいつもの喫茶店よ。あんただって分かってるでしょ?」
そうだな、まあ時間帯を考えれば高校生が制服姿であまりウロウロもできまい。ハルヒなら何の関係もなさそうだが、流石に古泉♀がそこまで馬鹿ではないだろう。
「だから、あたしたちはその近辺で時間を潰せばいいの。それであの二人が別れたところで話せばいいわ、これならどう?」
ううむ、同じ頭とは思えないぞ。よく考えたもんだ、それなら上手く偶然を装ってハルヒに合流すれば何とかなりそうだ。
このキョン子の話にはよく思い出せば矛盾があったのだが、気付いた時には遅かったし、そんなことは関係が無い状態になってしまったのはもう少し先の話になる。







18−β

泣いてしまったあたしの前で気付いていないハルヒコたちが動き出した。多分古泉だけは気付いてる、そんな感じを受けたんだけど、とりあえずあたし達は木陰から出る事にする。
「どうする? 追うか?」
すぐにでも後を追いかけそうなキョン。そんなにあの子が気になるんだ?
何かムッとする。つい言葉にするつもりの無かったセリフが口をついた。
「ねえ、あたし達もどこかで時間を潰しましょう」
途端にキョンの顔に疑問の色が浮かぶ。それはそうでしょうね、あたしなら追いかけると思ったでしょ?
でも何かそんなに焦るあんたを見てたら意地悪もしたくなるの。
「どういうことだ? 俺はあいつらを見失う前にだな、」
キョンは何か言いたそうだったけど、それを抑えるように、
「あたし達に尾行の才能があると思う? 古泉はともかくとして、あの二人ならすぐ気付くわよ」
ほら、何も言えなくなるでしょ? ハルヒコの鋭さで今まであたし達に気づいてないのが奇跡なんだから。
「だが見失えば元も子もないぞ?」
うーん、でもなんか女の子追っかけてるあんたがヤダ。そう思ったら急にあることに思いつく。
「大丈夫、あいつらの行動パターンとして、解散するのもここよ」
そうよ、だって『帰るまでが活動』がモットーのハルヒコなら解散場所もここにするに決まってるわ。
「なるほど…………」
どうやらキョンにも思い当たるとこがあるみたい、なにか勝手に納得してる。あたしは言葉を繋ぐ。
「それに学校帰りだからそんなに移動はしないはず。古泉もいるから、そこだけは安心していいと思う」
まあ今の古泉を信用しろと言われれば、あたしだって考えちゃうけど。それでもキョンが納得してくれるならそれでいい。
まだ不安げなキョンハルヒコと一緒のハルヒが気になってしょうがないんだろう。
それ、やっぱり悔しいから。
「多分あいつらの行き先はいつもの喫茶店よ。あんただって分かってるでしょ?」
あいつらの行動パターンなんて単純なんだから。というかあたしもそこしか思い浮かぶとこないんだけど。
「…………そうだな」
ようやくキョンも納得してくれたらしい。なによりもうハルヒコ達は見えなくなってる、選択肢はないんだよね。
「だから、あたしたちはその近辺で時間を潰せばいいの。それであの二人が別れたところで話せばいいわ、これならどう?」
実はこれには矛盾がある。だってあの二人は『分岐点』までは一緒だもの。それがどこなのか、あたし達は知らない。
でもキョンには十分な説得力があったようだ。
「そうか、それなら近所でも歩くか。いいとこ二時間ってとこだろ、それでも十二分に遅いんだが」
はいはい、自分なら何時間でもいいくせに。
でもあいつと二人で過ごせるってことで、あたしは舞い上がっていたのだろう。素直に頷くと、あたしとキョンは並んで歩き出した。
手を繋げないのが残念だな、なんて思ってたくらいだから。
こんな嘘をついたことをあたしは後悔しなきゃいけなくなったのに。







18−α2

こうして俺とキョン子ハルヒ達から付かず離れずの位置で時間つぶしという事にしたのだが、正直何をしていいのか分からん。
これが長門ならまず時間と相談しながら図書館か本屋だし、朝比奈さんなら公園でゆっくりしてもいいしウィンドーショッピングという事もあるだろう。
だが、キョン子の場合は? 相手も俺と同じだとすると悲しいかな何処に連れて行っても大した事にはなりそうもない。
それなら茶でも飲みながら話でもってのはいつもの場所にハルヒがいるのだから、これもまた面倒だ。
野郎同士ならまだ何か行き先も決められようものだが、女の子相手だとどうすればいいのかサッパリ分からん。仕方なしにキョン子に聞いてみる。
「なあ、それでどうするんだ? 何か行き先に当てでもあるか?」
考えてみれば女の子相手にこういう聞き方もどうかとは思うが、なにしろ俺はこういうことにはトンと慣れてないのだから。
「んー、適当にそこらへんでも回らない? あたしの世界とあんたの世界がどのくらい違うか見てみたいもの」
おい、お前はハルヒか? そういう間違い探しみたいなことをしたいキャラかよ、俺は?
「することないんだからしょうがないでしょ? さ、行きましょ」
普通に手を繋がれた。ますますハルヒだ。しかし俺が女だとこういうことに興味を持ったりするのかね?
やれやれだ、肩まではすくめないが心の中で俺はそう呟き、
「まあ他にすることもねえしな」
結局キョン子と二人で市内探索となってしまった。これじゃいつものSOS団と変わりゃしない。
ただしだ、面子が変わるとこんなに違うものなのかね、ポニーテールのキョン子の笑顔を見る限りは。
繋いだ手を離してくれることもなく、キョン子は楽しそうに街中を歩く。
その笑顔はまるで…………………いや、やめておこう。まだ自己愛に目覚めなきゃならんほど俺は人間嫌いではないはずだ。
兎にも角にも、当初の目的など忘れそうになりそうな俺達はただただ目的もなく歩いたりしていた。
そしてそろそろ時間だろうと、
「おいキョン子、そろそろ戻らないか?」
「えー? もうちょっと、ほらあそこの和菓子の味比べとかしたいし」
それは今度にしろ。とにかく戻るぞ。
「わかってるわよ」
なんだよ、お前だってあっちのハルヒコとか古泉に用はあるだろうが。
何故か手を引かれたままにズンズンと歩くキョン子はまるっきりあいつそっくりで。
そんな事考えてた俺は油断しきっていた。今から戻る場所にはあいつがいるのだという事を失念していたんだから。








18−β2

キョンと二人きりだ。どうしよう、顔がにやける。何をしようかなんて考えてないけど、あいつと一緒なだけで嬉しくなってる。
別に男性と二人というのが初めてじゃないけど、長門だったら図書館だし朝比奈さんなら女の子同士みたいにウィンドーショッピングとかだし。
キョンとなら…………正直どこだっていいし。自分でも驚くくらいキョンとだったらどこに行っても楽しいと思う。
まあお茶するっていうのはハルヒコがいつものとこにいるからなさそうだけど。
「なあ、それでどうするんだ? 何か行き先に当てでもあるか?」
こういうのに慣れてないのが丸分かりの声でキョンに尋ねられる。うん、行き先なんかどこでもいいの。でも、
「んー、適当にそこらへんでも回らない? あたしの世界とあんたの世界がどのくらい違うか見てみたいもの」
せっかくなんだから二人の世界の違いが見てみたい。あたしがよく行くところがキョンの世界ではどうなってるのか知りたい。
キョンの世界のことが、キョンのことがもっと知りたい。
そんなあたしに対してキョンがキョトンとした顔。え? そんなに変なこと言ってないけどなあ。でもその顔、間抜けだよ? ま、可愛いけど。
「することないんだからしょうがないでしょ? さ、行きましょ」
普通にあいつの手を引っ張った。あ、あたしこんなに積極的だったんだ。
「まあ他にすることもねえしな」
多分頭の中でいつもの口癖を呟いてんだわ、でもあたしの手を離そうとはしないからそこに安心する。あたし達は街中を探索することにした。
いつもやってることと変わりはないはずなのに。何であたし、こんなに楽しいんだろ?
繋いだ手が離されないのも嬉しくて、あたしはずっと笑っていた気がする。
そうだ、あたしはキョンといるのがこんなに楽しい。これを自己愛だなんて思わない。
当初の目的なんて忘れたように、あたしたちはただ街中を歩いた。色んな物を二人で見ながら。
それが本当に楽しくて。
「おいキョン子、そろそろ戻らないか?」
そう言われた時には時間が止まればいいのに、とすら思った。
「えー? もうちょっと、ほらあそこの和菓子の味比べとかしたいし」
気になってたのよ、あそこは朝比奈さんもお気に入りだからこっちではどんな味なのか。
「それは今度にしろ。とにかく戻るぞ」
でもキョンは興味無さそうにそう言う。つまんない、もうちょっと一緒にいたいのに。
「わかってるわよ」
つい不機嫌な声で答えてしまった。そりゃあんたは悪くないけど、ほんの少しだけでいいからあたしの事も考えてほしいのに。
それでも手は離さずに、あたしはキョンを引っ張るようにズンズンと歩き出した。
あたしはこの手を離したくない、そんなことばかり考えてて失念していた。そこにいるのはあの子なんだってことを。






俺は分かろうとしていなかったのか? あいつの気持ちに。
あたしはわかっていたの? 自分の想いに。