『ＳＳ』ごちゃまぜ恋愛症候群 １９

１９−α

「………………キョン？」
そこにはハルヒがいた。ハルヒコと古泉もいたが、そんなことはどうでもいい。
「何…………してん……………の？」
ただ俺はキョン子と二人の所をハルヒに見られたんだ。しかも手はまだ離れていなかった。
「……………！！！！」
ハルヒはなにも言わず走り出す。あれだけ楽しそうだった顔を一変させて。
「ハルヒ！！　待ってくれ！　これは！」

グイッ！

走り出そうとした俺の手がキョン子に握られ引っ張られた。離せ！！
「ちょっと待てよ！　お前、キョン子と何してたんだ？！」
うるせえ！　てめえこそハルヒと何話してやがった！！　お前なんかの相手してる暇はないんだ、ハルヒを！！
しかし握られた手には力が入っている。何してんだキョン子！
「どういうことか説明してもらえますか？」
苦々しげな雰囲気を隠すことなく、古泉♀がキョン子を問い詰める。それよりもハルヒを、俺はハルヒに！
「うるさい……………」

ギュッ！！

握られた手が痛いくらいに力が入った。見れば俯いたキョン子の表情は分からないが肩が小さく震えている。
「なによ、あたしがキョンと一緒じゃそんなにいけないの？」
何言ってんだ、お前？　いいから手を、
「あたしだってキョンと一緒にいたいもん！！」
叫んだキョン子の目にはまた涙が。そんな、お前…………
「どうしたんだよキョン子？！　お前、こいつになにかされたのか？」
ハルヒコがキョン子と俺に近づこうとして、
「うるさい！　うるさい、うるさい、うるさい！！　あんたはあのハルヒでも追っかけなさいよ！！」
その勢いに気圧されて何もいえなくなる。
「あんただってハルヒ、ハルヒって………」
涙を浮かべた瞳で睨まれた。それは俺の心を抉るには十分過ぎるほどな迫力で。
小柄な少女は涙を流しながら叫ぶ。
「もういい！！　あんたにはあたしなんか居なくてもいいんでしょ？！」
あれだけしっかりと握っていた俺の手を振り払い、キョン子は泣きながら走っていく。ハルヒとは逆の方向へ。
何なんだ、どうすればいいんだ俺は？　ハルヒを追うのか？　だがキョン子は？
「くそっ！」
何も出来ない自分が腹立だしいぜ！　今、俺に何が出来る？！
そして悩みながらも俺は見えなくなったハルヒよりも先にキョン子を追った。とにかく何があったのか聞き出さないとどうしようもない。
走り去る背後でハルヒコが肩を落としている。それに古泉が何か話しかけていたが、今の俺にはどうでもいいことだった。

１９−β

もう駄目だった。あれだけ楽しかった気分が嘘みたいで。
あたし達を見たハルヒの目を見た時に気付いてしまった。ああ、やっぱりこの子もキョンが好きなんだって。
だから走って行くハルヒを当たり前のように追おうとするキョンが嫌だった。繋がれた手に力を込めて。
「ちょっと待てよ！　お前、キョン子と何してたんだ？！」
うるさい、あたしがキョンと何してたってあんたには関係ない。
「どういうことか説明してもらえますか？」
うるさい、あんたがちゃんとハルヒコ達の相手してたらよかったんじゃない。
「おい、ハルヒが行っちまう！　キョン子！！」
うるさい、あたしがここにいるじゃない。

ギュッ！

握った手に思い切り力を込めた。情けない、こんなことで繋ぎとめようとするあたしも。
ねえ、そんなにあの子が大事なの？　あたしじゃ…………あたしじゃ駄目なの？！
「なによ、あたしがキョンと一緒じゃそんなにいけないの？」
そう言った。言ってしまった。
「何言ってんだ、お前？　それより手を、」
いや！！　だって、だってあたしだって！！
「あたしだってキョンと一緒にいたいもん！！」
そうよ、あたしはキョンと一緒にいたい。あんな子よりあたしを見てもらいたい。
涙が溢れてくる。こんなに、こんなにあたしはキョンが…………
「どうしたんだよキョン子？！　お前、こいつになにかされたのか？」
ハルヒコが近づいてくる。大体あんたがあの子と話ばっかしてるからキョンが辛い目に遭うんじゃない！！　そう思ったらこいつに腹が立つ。
「うるさい！　うるさい、うるさい、うるさい！！　あんたはあのハルヒでも追っかけなさいよ！！」
理不尽な怒りをハルヒコにぶつける。キョンは、キョンはあんたのせいで！！
「な…………」
ハルヒコはなにも言えなかった。あたしはキョンも睨みつける。
「あんただってハルヒ、ハルヒって………」
なんであの子なの？！　どうしてあたしじゃないの？！　ねえ、あたし、あたしだってキョンのこと！！
涙が溢れて止まらない。目の前がぼやけてるのにキョンの顔だけは分かるの。
その顔が困ってる。あたしのせいで。あたしは、あたしは……………
「もういい！！　あんたにはあたしなんか居なくてもいいんでしょ？！」
八つ当たりだった。あれだけしっかり繋いだ手をあたしは自分で振り払って走り出した。
あたしは最低だ、結局彼を傷つけた。
泣きながら走るあたしの後ろから誰かが追いついてきた。
「待ってくれ、キョン子！！」
彼の声。何で？　何であたしを追いかけちゃうのよ？！
その声に足を止めたあたしにキョンは追いつくと、
「……………まず俺にも分かるように話してくれ」
それだけ言うと肩で息をしていたのを整えるように大きく深呼吸した。
馬鹿だな、あたし。これで世界が終わっちゃうかもしれないのに。
なんで、なんで追いかけてくれた事がこんなに嬉しいんだろう？

世界は滅ぶかもしれないのに何やってんだ俺は？
世界は滅んでもいい。彼がいれば。