『SS』ヒトメボレらぶぁ〜ず そのに

昼休みのチャイムと共にハルヒダッシュで学食へ。結局なにも話せないままだ、あのヤロウ不機嫌全開で寝てやがった。どっちが不機嫌にならなきゃならんか考えろってんだ。
本人が居なければいくらでも毒づけるが、なにしろ壁に耳あり(ハルヒの)障子に目あり(ハルヒの)だ。油断は出来ない。
とにかく俺だって飯は食わねばならんのだが、国木田達と、ってわけにもいかんだろうな、今回は。ああチクショウ、こんなとこですら俺は被害を被るのかよ。
そういや、谷口が行方不明だが国木田は我関せずともう弁当を広げている。アレがいないなら国木田と二人で飯でもいいかと俺が移動しようとした時。
キョン子ちゃん、一緒にお弁当にしない?」
と声をかけてきたのがなんと阪中である。男の俺とはあの犬事件以来大して接点はなかったはずだが?
「ちょっと涼宮さんのお話とかしたいのね。」
ああなるほど、つまりはハルヒが接点を持っている女生徒がそのまま俺の友人というわけか。それなら阪中が適任だろうな。
ということで阪中とあと2・3人の女生徒と弁当を囲むという、男だった時には考えも付かなかったシチュエーションで飯を食うことになった俺なのだが。
はっきり言おう、居場所がない。というか話題にまったく付いていけん。
なにしろ女3人寄れば姦しいのはあの長門が入ったSOS団の女性陣ですらそうなのだ。普通に話す女の子が3人居ればこうなるんだな。
「で、キョン子ちゃんは誰が本命なの?」
ん? なに? なんでそんな話になってんだ?
「だってキョン子って浮いた話ないじゃん。」
そりゃそうだろ、こっちは女生活、数時間目だぞ。
「だーかーらー、キョン子ちゃんは涼宮さんがいるからいいのね。」
おい阪中、それもちょっとおかしくないか? 大体今の俺は女で、ハルヒも女なんだから、それはちょっとばかり男の俺が夜に夢見てしまうようなシチュエーションというやつであって、現実であっては非生産的かつモラルハザードな問題じゃねえか!
「えー、でもー、涼宮さんはキョン子ちゃんとばっかりお話してて羨ましいのねー。」
ま、まさか阪中のヤツ……………
「もう、阪中は涼宮さんの話ばっかなんだから。」
「だってあんなに美人でスポーツも出来て、頭もいいなんて憧れちゃうのよね。」
それが憧れであり続けることを俺は祈るよ。間違ってもユリ科ユリ属の多年草の総称なご関係だけは勘弁してくれ。
「それならキョン子は誰がいいのよ?」
しまった、そこにもどるのか!
「えー、だってキョン子はあの涼宮さんがやってる…………」
「あっそうか、彼がいるもんねー。」
おい、まさか彼ってのはあいつのことじゃねえだろうな?!
「ふーん、キョン子面食いなんだー。」
「でも涼宮さんとこにいるような人よ?」
「いや、男は顔だって!」
あぁ、いつの間にか散々な言われようだ…………俺の意見なんかまったく聞きはしないのはハルヒだけじゃなかったんだな。
「そ、そんなわけあるかー!!」
俺はさすがにそう言わざるを得なかった。なによりこの鳥肌をどうにかしてくれってもんだぞ。
「まあまあ。」
「そんなに否定しなくても。」
「私たち、応援するからね。」
違ーぁうっ!!! ここにきて一緒に阪中まで頷くという地獄の状況で俺は自分が食った弁当の味でさえよく分からなくなってしまうのだった。もう勘弁してくれ…………





午後の授業になってもハルヒの機嫌はまったく良くなる様子はなく、仕方なく俺も話すタイミングが掴めないままに過ごす事となった。
俺の気持ちも知らずに机に伏せたままのハルヒに、こっちが閉鎖空間を作りたい気分なんだが。
悔しいので俺も寝てやろうとしたが、そんな時に限って教師は俺を当てやがる。
自分の声の高さにいい加減違和感を感じながら、俺はこれもハルヒが願った事なのかと暗澹たる思いに囚われた。
そんなに女の俺の声が聞きたいなら、ちゃんと話やがれってんだよ、まったく。
そんな感じでろくに寝る事すら出来ずに俺は午後の授業をこなしてしまったのである、もう踏んだり蹴ったりとはこの事を言うに違いない。



しかしこれすらも序奏に過ぎなかったのだ。
涼宮ハルヒはなんて事を願ってやがったのか、俺はそれを放課後に思い知らされることになる。
そんな事は掃除当番のハルヒを置いてきたまま、部室に向かっていた俺には予知すら出来なかったのだがな。