『SS』 たとえば彼女か……… 5

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 全力で走ったので幾らも関わらず駅前の通りまで戻ってくる。流石に人も多いので気付かれる可能性は少なくなったかもしれない、木を隠すには森なのだろう。
「で、どこに行くの?」
 とりあえずは何度も言うように飯、もしくはお茶だな。
「そうね、あたしも喉カラカラだし」
「私は―――――もう―――――ペラペラだし―――――」
 待て、何故紙の様に薄くなってるんだ九曜。というか、二次元かお前は。 気持ち悪いというか不気味だ、何より誰かに見られたらどうすんだ。
「はいはい、体を張った芸は嫌いじゃないけどキョンが困るから止めなさい」
 そう言いながらキョン子はなんとペラペラの二次元キャラと化した九曜をくるくると丸めてしまったのだ。
「あ――――――――――れ―――――」
「自業自得だ、バカモノ」
 小脇に等身大ポスターと化した九曜を抱えると何事も無かったように俺に笑顔で、
「じゃあ行こっか」
 と促すキョン子。いや、九曜がくぐもった声で「―――――た〜す〜け〜て〜」って言ってるんだけど。
「水かければ戻るわよ、この乾燥昆布」
 友人に言うにはあまりにも酷い。それともこれだけ気軽に話せる関係と言えばいいのだろうか。
「だから早くどっかで休もうよ、着いたら戻すからさ」
 話しながら俺の手を引いてもう歩き出している。本当にウチの団長ばりの行動力だ、俺はこんなキャラじゃないって自信あるぞ。
「いつものあたしならね。だけど今のあたしは少しでもキョンと一緒にいたいもん」
 どうだ、この素直デレ。新たなる属性を手に入れたポニーテールの似合う女の子は俺の頬を赤くする為にここに存在してるんじゃないか? 思わず「おう」なんて言いながらキョン子の手を引いて歩く。
 しかもこういう時にはさっきまでの積極性はどこへ行ったのか、大人しく頬を染めて俯いてしまうのだから女は怖いというか男はバカなのだろうかと思いながらも嬉しかったりするのもまた事実なのだ。
 ということで仲良く手を繋いで適当に歩く。どこから見てもデートだな、ようやく。「―――――だ―――――せ―――――」という小さなBGMは聞こえてくるけど、その為にも早めに店に入ろう。
「あ、ここでいいんじゃない?」
 キョン子が示したのは小さな喫茶店だ。高校生同士のデートなのでファーストフードなどでいいかと思ってたのだがキョン子とのデートの場合は少し洒落た店が多くなってる気がする。普段の俺からすれば入らない系統の店だったりもするな。
「佐々木があまりファーストフードが好きじゃないからって橘が探してくるのよ。それに藤原さんも結構味にうるさいからね、あたし達は結構こんなとこに来ること多いよ」
 何だろう、SOS団って。ちょっと俺達のお子様集団ぶりが際立つこの差は何だかな。やはり進学校となっている光陽園のセレブと庶民の違いなのだろうか。いや、ハルヒがこんな店にいて騒いでたら迷惑だろうから俺達はファミレスくらいで丁度いいんだろう。
 ほんの少しだけキョン子たちの世界を羨ましく思いながら店内へ。日曜ということもあって適度に席が埋まっているが座れなくはないようだ、俺とキョン子は席を確保すると、
「ちょっと九曜を戻してくる」
 キョン子がポスター九曜を持ってトイレに行ったので一人メニューを見ながら待っている。ほとんど走りっぱなしだったので正直しんどい、それに座って落ち着いたら腹も減ってきた。幸いにアラームの点灯の様子もないので飯くらいはゆっくり食べさせてもらおうと考えていた時だった。
「あ、キョンくん。丁度良かったのね」
 そうか、アラームと関係無い連中もいるんだったよなー。それにSOS団の連中ならこんな店はスルーでも、こいつならありえなくはないか。
「よ、よう、お前も国木田から電話もらってたのか?」
「うん、だけど解決したって言うからついでにランチでもって思ってたのね。でも一人だと寂しいなって思ってたらキョンくんを見かけちゃったから。こんなお店でお食事するんだね、涼宮さん達は一緒じゃないの?」
 え、えーと、プライベートタイムだから自由行動だ。俺だって洒落た喫茶店でランチを楽しむくらいの器量はある。
「わざわざ電車で移動して?」
 ほら、それこそSOS団の連中に見つかったら恥かしいものがあるじゃないか。というかツッコミ厳しくないか? などと背中から脂汗が流れるのを自覚しながら応対しつつもどうにかして誤魔化そうとしていたのだが、
「せっかくだから一緒に食べようよ」
 と言われて正面の席に座られてしまって万事休すである。やばい、クラスメイトなだけに断わる理由など…………焦っていると、
「…………誰?」
 とっても怖い声に無理矢理視線を向けた先には。
 無表情で佇むポニーテールと黒髪がいた。いや、一人は元々無表情がデフォなはずだけど雰囲気が重い。黒いオーラが周辺を覆いそうな勢いに俺は慌てて釈明に追われる。
「お、おう! こいつは俺のクラスメイトだよ、偶然会ったんだ! なあ、阪中?」
「え? あ、うん」
 飼っている小さな愛犬の事件以来SOS団との関わりが深くなった俺のクラスメイトの阪中は良く分かってないままにキョン子と九曜に頭を下げたのだった。
「ふ〜ん…………偶然ねえ」
 憮然としながら俺に席を立つように言うと、キョン子は当たり前のように奥に座った。で、俺が座って九曜が隣に。
「ええと、どうなってるの?」
 ええと、どうしよう? 位置的に言えば正面に阪中が座っていて俺がキョン子と九曜に挟まれて座っているということだ。どう見てもアンバランスな構図でしかも完全に修羅場ってる状況だな。
 不審そうに俺達を見ている阪中に口火を切ったのはキョン子だった。
「で、せっかくだから自己紹介でもしましょうか。いつもウチのキョンがお世話になってるみたいだし」
 なっ? お前その言い方は、
「あ、私は阪中三佳って言います。ええと、よろしくお願いします」
 阪中は戸惑いながらも冷静に応対してくれた。さすがにハルヒとまともに会話出来る数少ない友人だけはある、のだが相手はそのハルヒばりに暴走している女の子だったのだ。
「あたしはそうね、キョン子って呼んでもらっていいわ。キョンの彼女だし」
 そう言って俺にしがみつくキョン子って、何てこと言い出しやがった!
「キョ、キョンくん?!」
 いや、阪中! 落ち着け、これはその、キョン子のいたずら心というか冗談だ! 
「―――――二号―――――です―――――」
 九曜! お前さっきの谷口で味を占めたな! いいから、こんな時にそういうジョークはいいからっ! よせ、何でクラスメイトの目前で女の子二人に両側からしがみ付かれて焦ってるんだ俺は?!
「え、あの、キョンくんの彼女さんなの? 初耳だよ、涼宮さんも知ってるの?」
だから俺の話を、
「ええ、さっきも会ったもんね。あたし達のラブラブっぷりを見せつけておいたけどぉ〜」
「って、さっきから何言ってんだキョン子ォッ!」
話を交ぜ返すとかそんなレベルではない、完全なる暴走でありハルヒよりもタチの悪いことに俺の腕にしがみ付いて当てちゃってるままで笑顔という確信犯なのだ。どうなってんだ、こいつのキャラがもう読めない。
「いや、だからジョークだ! 久々に会ったからテンション上がってるだけだから! ほら、そういう時ってあるだろ? だからハルヒには言わなくてもいいからって、阪中?」
おかしい、何を必死になって言い訳してるんだ俺は? と暴走したキョン子が腕から離れてくれないので冷や汗を流しながらどうにか言い繕うと努力する俺を、肩を震わせて涙目で見ていた阪中が急に睨みつけた。やばい、何か怒らせてるというか怒って当然だな。なんてことしたんだキョン子、これで阪中がハルヒに電話でもしたら、
「…………おかしいよね?」
はい?
「涼宮さんだったからしょうがないかって思ってたのに………………これって変だよね? だったら私でもいいんじゃないかなって思うんだけど」
な、何言ってんだ阪中、お前までおかしくなったのか? とは口が裂けても言えるはずもない。何故ならば涙目の阪中が睨んでいるのは俺ではなくてキョン子であり、そのキョン子は睨まれているのに平然と俺の腕に絡み付いているからである。あれ? これマジ修羅場じゃないか? しかも俺すっごくモテモテじゃないか、周囲の目線が『なんでこいつが?』と物語っているのが嫌でも分かる。
きっとこんな状況を見てしまえば舌打ちの一つもしたくなるだろう、あくまで当事者でなければ。しかし実際は汗をかきながら状況を打破する方法も見つけられずに視線は宙を舞うばかりだったのだ。いやあ勉強になった、だからもう帰ろう? というか帰らせて、お願いだから!
「あれ? キョンくんは私とご飯を食べるのよね?」
「そうそう、あたしと一緒にランチしてからデートの続きだもんね」
そうは問屋がなんとかだった。しかもいつの間にか阪中も一緒になってるのは何故なのだろう。ニコニコと微笑む二人の女の子に囲まれているのに顔から血の気が引きっぱなしなのもどうしてなのか教えてフロイト先生! いや、こんな時こそどうにかしてくれ九曜!
「―――――すいませーん―――――お好み焼き―――――定食―――――イカ玉で―――――」
ねえよ! いくら関西だからってお好み焼き定食が普通にあると思うなよ!
「………………」
「あれ―――――?」
しかも店員さん気づいてねえええええええええええっ!! さすがに落ち込む九曜を見かねてキョン子と阪中が注文をしたのだった。因みにお好み焼き定食は無かった、だがうどん定食はあった。流石は関西だな、九曜は結局ミートソースのパスタを頼んだのだが。
お好み焼き関係無かったね」
ああ、だが場の空気も落ち着いた。ありがとう九曜、本当にありがとう。こうして注文したメニューが来るまでは奇妙な平穏が訪れたのであった。正直言っていいか? もう食欲なんか無い。あるはずも無い。店内全ての視線を浴びて針のむしろのままで食事を出来るほど俺は神経が図太くないのだ、ここにいる女性陣とは違ってな。





お待たせしました、とテーブルの上に皿が並べられるのを俺はただただ見ていた。出来れば永遠に待っていてもいいとすら思ってたのだ、これで平和が保てるならば。
しかして時間は無常にも過ぎ行き、今ここに俺の与り知らないままの第二ラウンドが開始されたのであった。いや、第一ラウンドって何だったんだろうか、それは誰も教えてくれないのだけれども。
「はいキョン、あ〜ん」
おい待て。何でいきなり俺が食べるはずではないキョン子が注文した明太子スパゲティーがフォークに絡められて俺の目の前に来てるんだ? しかもそれを持っているのはキョン子であって俺ではない。おまけに笑顔のキョン子に「あ〜ん」なんて言われていて、
「って出来るか! お前も恥ずかしげも無くやるんじゃない!」
だがキョン子は当たり前のように、
「え〜? だってキョンとあたしの好みは一緒なんだし前もこうしてお互いの頼んだやつを食べさせあったじゃない、今更遠慮はいらないわよ」
言いながら横目で阪中を見るな、この小悪魔め。しかもあの時は「あ〜ん」なんてしなかったぞ、確か。
「うん、お前は無自覚だからいいよ」
「そうね、可能性は高いと思うのね」
どうしてそこだけ息がピッタリなんだよ。というか、阪中にまで馬鹿にされるのか俺は。
「だったら私のも食べて欲しいのね、たまには違う味もいいと思うの。く・ち・な・お・し・にね」
そう言いながらスプーンに一口分のパエリアを掬って俺の前に差し出す阪中。いや、口直しも何もまだ俺は食べてな、
「むっ! そんな事無いわよ! あたしが好きなのはキョンも好きだし、いつも好きだって言ってくれてるもんね!」
「そんなの食べてみないと分からないのね! 私が好きなのもキョンくんは好きだって言ってくれるもの!」
「あたしの方が好きなんだって!」
「私なの!」
え、何かおかしくないか? 食べ物の話だよな、これ。
「さあキョン、食べて!」
「食べてくれるよね?」
待て、そんなに突きつけるな! だから俺は自分の分にも口をつけてないんだって!
「もちつけ―――――おまいら―――――」
そうだ、お前ら九曜を見習って少しは大人しくだな、
「言葉が―――――足りない―――――」
え? ニュアンスが違う、と九曜がフォークではなく指で自分を指して、
「私を―――――食べて―――――?」
などと言いやがったものだから。
「そ、それは反則よ九曜!」
「そうよ、そういうのはもっと後になってからなのね!」
などと火にガソリンを投入するようなセリフのおかげでテーブルは大炎上してしまい、俺は結局自分で頼んだホットサンドを一口も食べないままにキョン子のパスタと阪中のパエリアを交互に食べては美味いと言い続けねばならなくなったのであった。ついでに言えばホットサンドは仲良くキョン子と阪中が分け合って食べた。お前らそれが食いたいなら最初から頼めよ。
「いいのよ朴念仁」
「そうそう」
ここまでして酷いことを言われる俺って一体何なんだろう。もっと余談になるのだが、
「―――――げーぷ―――――」
毎度の事ながら自分の胃袋くらい把握しておけよ。九曜の食べ残しのミートソースを食いながらナプキンで赤くなった九曜の口周りを拭いてやる。
「ああいうとこが無自覚なんだよね」
「何気に九曜さんがおいしいのね」
「―――――ま、ね ―――――」
いやそれより食うの手伝って欲しいんだけど。最終的に必要以上の量を食べた胃袋が悲鳴を上げそうになりながらも無事に食事を終えた。かに思えたのだが、
「そういえばキョンくん、キャンディありがとう。大事に食べてるからね」
という阪中の一言により再び空気は凍りついたのであった。凄い表情で俺を睨むキョン子、だってお礼はしなきゃなんだけど。
「頑張って手作りしたんだよ、あのチョコ」
あ、ああ知ってるとも。お母さん直伝だっけ? 流石だよな、お前のお袋さん。
「でもレシピを聞いただけだから。一から作りたかったの、せっかくあげるんだから」
そ、そうか。恥ずかしげにはにかむ阪中は確かに頑張った感じがしてとても可愛い。が、
「ふ〜ん、手作りチョコをねー。みんなにあげるの大変よねー」
隣に座る女の子も手作りでチョコをくれた訳でして。大変だったのは分かるのだろうけど言葉に棘を感じるのは俺だけではないはずだ。
「ま、まあハルヒのついでみたいなもんだから数としては大変だっただろうな。わざわざありがとう」
「そんなことないっ!」
フォローのつもりで言った言葉に過剰な反応を示したのは誰あろう阪中だったのだ。キョン子もあちゃーといった感じで俺を見ている。あれ? 何かおかしな事言ったのか?
「確かに涼宮さんにも友達だからチョコを贈ったけど、男の子にあげたのはキョンくんだけだもん! ちゃんとラッピングだって一生懸命選んだし、手紙なんかは恥ずかしいから付けられなかったけど…………」
言いながら阪中の瞳がみるみる潤んでいく。え、あれ? 泣きそうになっている阪中を見てうろたえるしかない。
「この鈍感っ!」
いって! テーブルの下でキョン子に思い切り足を踏んづけられた。
「ごめんね、こいつ無自覚だし鈍感だしそのくせ優しいから変なフォロー入れちゃって」
「ううん、いいの。キョンくんだもの」
間違いなく俺が悪者だな、しかも無自覚だの鈍感だの酷い言われようだ。というか、お前が振った話じゃねえかキョン子
「それでも! 少しは女の子の気持ちを考えろ!」
それが分かれば苦労してないんだがなあ、と何となく情けなくなってきた。
「あー、悪かった阪中。お前のチョコは美味かったよ。あれだけのチョコならまた食べたいさ、もし気が向いたら来年もまた頼む」
「あっ!」
まあこんな俺に来年の話などする資格があるのかはさておき、少しでも機嫌を取ろうと言ってはみたのだが。
劇的に効果は表れた。泣きそうだった阪中は満面の笑顔になると、
「うんっ! チョコだけじゃなくて今度はシュークリームも作るのね! だからまたいつでも食べに来て!」
ああ、そうさせてもらうよ。ハルヒ達も阪中家のシュークリームを楽しみにしてるしな。
「…………そこはもう少し考えてほしいかも」
「まあキョンだしね」
どうしてこうなるんだ、俺は良い事言ったはずなのにガッカリした空気になるなんて。しかもキョン子まで肩を落とすとは。
俺というキャラクターの根幹を疑いそうになりながらも阪中が少しでも元気が出たならいいやと思っていた矢先だった。



アラーム音が鳴り響く!



「え? 何の音なの?」
「やばい! のんびりしすぎた! 行くぞキョン子!」
「ああ、ほら九曜立って!」
「まだ―――――コーヒーが―――――」
いつの間に頼んでたんだ? というか多分来ないぞ、絶対に店員は気づいてない! 「がーん」と口で言ってる九曜を引っ張り、
「ちょ、ちょっとキョンくん?」
「すまん阪中、今度ゆっくり話すからここは見逃してくれ!」
レジで慌てて全員分の金を払い、俺達は店を飛び出した。そんな事をやってる間もアラームは鳴り、ランプは二つ点灯している。かなり接近されちまってるな、キョン子と九曜の手を引いて全力で街を駆け抜ける。
走りながらキョン子が呟いた。
「ちょっとだけ塩を送っちゃったかな」
何がだよ、こっちは生きた心地もしなかったぜ。まさかあの阪中があんなに感情豊かだとはなあ。
「誰のせいだか分かってんのかな、こいつは」
何か言ったか?
「なんでもないよ。まあ、まだハルヒに遠慮してる内はあたしの勝ちだしね」
だから何の勝ち負けを競ってるんだって。それに阪中まで巻き込むなよ、あいつは普通の一般人なんだからな。
「普通の女の子だから飛び込んだんだよ、あたし達に!」
どういうことだ? しかしキョン子はそれには答えてくれなかった。ただ、
「みーんな女の子なんだもんねっ!」
そう、笑って。そんなキョン子に振り回されてる俺は一体何なんだよ。
「それは内緒、みんなが思ってるのは同じだと思うけどね」
本当に分からん。さっぱりだ。俺が鈍感だと言われても反論出来ないのはまさしくその通りだからだろうな。
そしてそんな鈍感男を引っ張るポニーテールは嬉しそうに、
「ねえ、あそこなら人込みにまぎれてやりすごせないかな?」
デパートの入口を指差して笑っていた。やれやれ、お前が行きたいだけなんだろ? 行動パターンが知り合いに似すぎてるぜ。
「分かったよ、九曜はそれでいいのか?」
「―――――もう―――――パンパン―――――ですから―――――」
待てい! いつの間にそんなに丸くなってるんだお前は! 風船のように膨らんでいたのに軽いからまったく気付かなかった、どこまで自由に形を変える気だ?
「あ、さっきのペラペラと掛けてるんだ」
冷静に分析するな! 早く隠れるぞ、お前も戻れ九曜!
「―――――あい」
シュルシュルとしぼんでいく九曜を引っ張りながらなし崩しにデパートへと吸い込まれていく俺達なのであった。
そして俺はまたもキョン子と九曜の大暴走に巻き込まれていくのであるが、一体俺の世界には幾つ非日常が存在すれば気が済むのだろうなあ。