『SS』 頭撫

とある休日の午後。
今日は不思議探索も無く、俺はゆっくりと午後まで惰眠を貪っていた。
しかし、そこまで長く寝れるわけが無く何度目か分からない浅い就寝をし、何度目か分からない起床をした、その時だった。
「――――おはよう――――ございます―――」
うん、これは夢なのだ。
目を開けた瞬間に天蓋領域の黒乙女が俺の布団の上から俺に乗っかっているなんて夢を見るなんて、俺は疲れているのだろう。
俺は何度寝かわからない就寝をしようと目を閉じた。
すると乙女は何故俺が目を瞑ったのかが理解できなかったようで。
「――おやすみ――――?」
なんて言っている。
よし、このまま何処か俺に飽きて何処かに行ってくれ………
「――白雪――姫―――?」
……ん? 何だ? 今何か嫌な単語が聞こえたような。
「白雪姫」か。確か前に大人の朝比奈さんが俺に教えてくれた………ってまさか!?
「――んーー―――」
「ちょ、ちょっと待て! 俺は起きてるから!」
やっぱりだ、こいつ俺にキスしようとしてやがった。どこから得たんだ、その情報。
というか俺にキスすることに抵抗は無いのか?
「―――おはよう――――ございます――――」
「おはよう……周防九曜、だっけか」
「――――覚えてて―――くれて――――嬉しいわ――」
真っ白な頬を微かに赤く染め、恥らうその姿は、一瞬俺たちの敵だと言う事を忘れさせるのに充分だった。
「で、何で俺の部屋に居て俺の上に乗っかってるのか、説明してくれ」
言ってから気が付いたが、そういえばこいつ俺の上に乗っかってたんだったな。
長門といい、こいつといい宇宙人には体重をいう概念が無いのか?
「―――寝起き――――ドッキリ―――――?」
「何で自分で言って疑問形なんだ」
「―――うっかり――――」
「うっかりでも無いと思うぞ」
取り敢えず俺は、九曜を横にずらし体を起こした。
まずは人と会っているっていうのに、身支度をしていないのは両方ともいい気分ではないだろう。
俺は着替えを持って洗面所へと向かった。さすがにこの場で着替える勇気はないぞ、だからそんな目で見ないでくれ。
数分後。着替えも済ませ部屋に戻ってきた俺の目に飛び込んできたのは部屋の本棚に入っていた、俺のアルバムを眺めている九曜の姿だった。
「見てて楽しいのか? 俺の子供時代と最近の写真しか入っていないぞ?」
昔は俺一人の写真しかなかったが、今では俺一人で写っている写真を探すのが難しい有様だ。
SOS団+妹で行った、孤島旅行時の写真を見ていた九曜にそう問うと、
「――みんな―――瞳が―――綺麗ね―――」
という答えが返ってきた。
俺と最初に会った時も言ってたな、それ。
何か意味があるのか?
気になったが、本人が話してくれるはずも無いか、と疑問を頭から消す事にした。
「で? 何で俺の部屋に?」
二度目の問いには答えてくれるだろう、という思いも込めて俺はもう一度質問した。
九曜はゆっくりと写真から目を離し、俺の目を真っ直ぐに射抜きながらこう言った。
「―――遊びに―――来たの――」
「遊びに? 俺の家にか?」
「――そう――」
「何でまた?」
「―――ササッキーが―――行ってみたら――どうって―――」
ササッキー?
………ああ、佐々木の事か。元誘拐犯の橘は確かきょこたんとか言ってたな。
それにしても佐々木が行ってみたら、か。意外だな。
「佐々木は何でついてこなかったんだ?」
九曜が言うには模試があるらしく、来れなかったんだそうだ。あいつも忙しいからな。
ついでに橘は「今日はケーキバイキングがーーーーー!」とか言ってたそうだ。アホだな、あの俗物超能力者。
「一人で――――出来たもん――――」
「そうか、えらかったな」
と頭を撫でてやる。って妹じゃないんだから。
すこし子供っぽいかな、と思ったが九曜自身は嬉しいらしく微動だにしなかった。
よく見ると左右にゆらゆら揺れているのが分かった。
気持ち良いのだろうか?
これほど長い髪だが、手入れは行き届いているようでサラサラだった。
黒い髪が日の光を浴びて光っていた。これはクセになりそうだ、撫でる手が止まらない。
それから三十分ほど九曜の髪を撫でていた俺。
止めようとすると、
「―――止めたら――――あなたを――――貰う――」
と言われてしまい仕方なくずっとこうしている。
おいおい、何時までやれば良いのだ?




周防九曜の撫で心地の良い頭を撫でながら俺は一抹の不安を覚えたのだった。