月刊ですらなくなった
ども、忘れられていなければお久しぶりです。何かで引っかかって偶然見てしまった人ははじめまして。一応まだ生きています、蔵人です。明日には東京に発つので更新タイミングは今しかないのです。
今日は宣伝に参りました。
4月30日コミック1に参加します。「龍泉堂本舗」です。
スペースは「はー56a」、「はー56a」となっております(大事なことなので二回)
新刊も出てしまいます。すみません、こんなのばっかで。
表紙担当はすりこぎくんにお願いしました。偶然彼のイチオシと俺の志向が一致したのです。だったら頼むでしょ? 気合い入った月火ちゃんです!
下にサンプルも少しだけ上げます。何気に始めての完全書き下ろし本ですねえ。
後は既刊は種類ある分は全部持って行ってます(多分)
・ちいさながと・2
・ちいさながと・3
・ちいさながと・4
・たとえば彼女と………
・キョン………、の消失
・月はたしかにここにある・上
・月はたしかにここにある・下
・俺と鶴屋さんと四季折々
・涼宮ハルヒの別離
・涼宮ハルヒの指輪
既刊は在庫処分で値下げしますので持っていなければこの機会に是非。
新刊はとらのあなさんでも取り扱ってますので会場に来れない方はこちらをお願いします。
あーあ、久々なのに宣伝だけってのもアレですねえ。でもここ最近の気力不足やばい、新刊も落ちなかったのが奇跡だもん。
では、折り込み無しでサンプルをお見せしておきます。
新刊「計物語」サンプル
001
阿良々木月火を語るのならば一言で済む。
僕、阿良々木暦の妹である。ただそれだけだ。
無論、僕以外の人間が見れば付属する様々な要素を加味したものとなることは承知の上である。
曰く、栂の木二中のファイヤーシスターズ。
曰く、女子中学生の相談役。
曰く、優等生で茶道部在籍の黒髪乙女。
なるほど、その全てが阿良々木月火という人間を表している。一つ一つはその通りなのだから。
しかしそれは阿良々木月火のほんの一部でしかなく、偉そうに言っている僕自身だって阿良々木月火の全てを知り得ている訳では無い(精々知っているのは中学入学以降バストサイズに大幅な変化が無い事位である)。
それでも僕にとって阿良々木月火はただの妹であってそれ以外の何者でもない。
そう、何者でも。
偽物でも。
そんな義理の妹に激しく萌えようとも。
あいつは、阿良々木月火は姉である阿良々木火燐と同様に僕の誇るべき愛らしい妹なのである。
そんな妹の話でもしようと思ったのは何も僕が暇だからだとか受験に追われる中での現実逃避だとかそういう類のものではない(まあ受験生の割にはストレスを溜め込んでいないのもどうかと思うが)。
あえて言えば何となく。
具体的にいえば月火ちゃんだからこそ語りたくなったというか。
まあ、受験という人生を左右するはずの一大イベントを恙無く迎える為には多少の回り道も必要なのだと思うので、ここは一つ僕の散文にもならない思い出話にお付き合い頂こう。
とは言え何も面白い話でもない。
オチから言えばちょっとだけ妹に優しかったお兄ちゃんの話でしかない(僕があの妹たちに優しいなどと言うことが異常っちゃ異常ではある)。
それでも良ければ少しだけ聞いてもらおう。
阿良々木月火の話を。
僕の妹のなんでもない日常を。
002
その日は特別な行事があった訳でも、当然日曜や祝日などでもないただの木曜日であったことをまずは知っておいてもらいたい。
木曜日の時刻は午後八時を過ぎようかという頃。
僕は晩御飯も風呂も終えて最近の習慣となっている単語帳への記入をしていた。羽川に勧められた方法として夜の間に単語帳を作成してから翌日はその単語を復習するというやり方は予習と復習を同時に行えるので中々の効率で僕の英語力や歴史年表の穴埋めに貢献しているのだ。
あとは三冊目を迎えた英単語の単語帳の一冊目を覚えていられるかどうかというところは流石の羽川も預り知らぬところではある。
というか、あいつ一体何冊分の英単語を覚えているのかなあ。辞書丸ごと一冊が頭の中に入っていると言われても納得どころか各出版社ごとのニュアンスの違いまで把握してそうだ。
明日にでも羽川に訊いてみて、ニュアンス違いまで指摘してもらって、僕が素直に驚いて、そんでもっていつもの台詞まで言ってもらおう! そうしよう、うわあ楽しみだね!
などと明日の羽川に尋ねる英単語をピックアップしながら単語帳を埋めていた時だった。
「うわーん、兄ちゃーんっ!!」
部屋のドアが開かれ(当然のようにノックなどない)、火燐がいきなり飛び込んできた。
いや、少し柔らかめの表現にしていたけど実際はドアをショルダータックルでぶち破るように開けて座っている僕に全力で飛びついてきたのだ。
「ぐはあぁぁぁっっ?!」
腹に大きな、ええっと、お寺の鐘突き棒? そういうのを叩き込まれたかのような衝撃を受けて、僕は火燐に抱えられたままベッドに倒れ込んでいた(椅子のある位置からすれば火燐が僕を抱えたまま方向転換していることになる。親切なのだかわかんねーよ)。
「お………ぐ……ぉ………」
「兄ちゃん! にいちゃーん!!」
やめろ、腹に頭を押し付けてぐりぐりすんな! 内臓が! さっきのタックルで痛めた内臓に止めが刺される!!
「っこの! やめんかーっ!」
僕は膝を立て、足を振り上げて火燐の腹を蹴るとそのまま後方に放り投げた。所謂巴投げの要領だ。
………あれ? あの火燐ちゃんが素直に投げられた? というか、僕に伸し掛った時点で動けているのがおかしい(火燐ならばマウントポジションを取った時点で僕の動きなど押さえ込んでしまう)。
それどころか、
「きゃんっ!」
受け身も取らずに尻からベッドの下に転落した。
きゃんって。
ちょっと可愛いじゃねーか。
ああいや、それどころではない。火燐ちゃんが素直に投げられて受け身すら取らないなんて異常事態すぎる。おまけに座り込んだまま俯いてるし。
「えっと、火燐ちゃん?」
恐る恐る声をかけてみる。つーか、こんなにしおらしい火燐ちゃんなど恐怖の対象でしかない。
「兄ちゃん………どうしよう…………」
顔を上げた火燐は。
涙目だった。
何故だ? 誰が火燐ちゃんを泣かせたんだ?! 僕の巴投げは全くダメージになっていないはずだ! いや、それ以前に火燐ちゃんが泣いていたからこそ僕などでも投げる事が出来たのだろう。
とすれば、誰かが僕以前に火燐ちゃんを泣かせたことになる。
何ということだ、僕が受験戦争などと言いながら羽川と勉強できるぞーなんて浮かれている間に妹が涙するような酷い目に遭っていたなんて。
気付かなかった、気付こうともしていなかった。全て僕の不徳と致すところじゃないかっ!
瞬間、目の前が赤く染まった。怒りだ、もう怒りしかない!
「誰だ?! 誰が火燐ちゃんを泣かせたんだ! 今すぐそいつの住所と関係連絡先を教えろ、僕が正義の名において子々孫々に至るまで鉄槌を食らわせてやる!!」
気付けば僕は火燐ちゃんの肩に手を置いて激しく揺さぶりながら怒鳴りつけていた。ここでも火燐ちゃんはされるがままにガクンガクンと頭を揺らしている。あの火燐ちゃんがここまで…………言い知れない怒りが増幅されていく。
許せん、一体どこのどいつが火燐ちゃんをここまで落ち込ませてしまったんだ?! ここまで暗い火燐ちゃんなんて晩御飯の用意が遅れた時しか見たことねーぞ!
怒りと後悔で体内から発火しそうな僕に涙目の火燐が上目遣いで瞳を潤ませて耳元で囁くように呟く。
「兄ちゃん………月火ちゃんが………月火ちゃんがぁ………」
………なあんだ。
一気に熱が冷めていくのが分かった。というか、当たり前か。
あの火燐ちゃんを泣かせる事など月火ちゃん以外に出来るとも思えないしな。少なくとも物理的に泣かせる事はほぼ不可能な(僕が吸血鬼としての力を最大限発揮したとしてギリギリだろうな)火燐ちゃんも精神的に攻められたら案外脆い。
いや、メンタルも馬鹿だけに強いけど。それに我慢が力というか快感である根性娘改めただのドドMである火燐には精神攻撃も効かないぜ(挑発にはすぐ乗るけど)。
それでもというか、肉体的にも精神的にもマジドMな火燐ですらも身内からの攻撃には弱いところがあるのだ。多分。あのドM馬鹿は僕や月火ちゃんへの信頼度が100から揺らいだ事ないからな。
いや、月火にかかれば僕を含めた周囲の人間全てを泣かせる事も容易いかもしれないけど。ガハラさんとバサ姉除く。あの二人を相手にしたら月火ちゃん泣かされるしかない。ついでに僕も泣かされるしかない。何でだ。
とは言えこれ以上しおらしい火燐ちゃんなど見ていたらこちらの精神が崩壊しかねないので、嫌々ながらも妹の泣き言に付き合ってやるとするか。
「何だよ、珍しくケンカでもしたのか?」
兄の目から見ても仲睦まじいというか年の差があるとは思えない、むしろ月火の方が姉に見えてしまうくらいに一卵生双生児のようなファイヤーシスターズにも不仲になる時期というものがあるらしい。
そのままファイヤーシスターズ解散とでもなれば僕の肩の重荷が一つ減ってくれて万々歳なのだけどなあ。
それはないか。
「ケンカなんか………してないよ…………」
しかしまあなんだ? こう、いつもと違う火燐ちゃんというのも中々いいんじゃないだろうか。というか、妹の泣き顔ってなんか萌える。
そう思うと何というか。
潤んだ瞳といい。
短くなった髪のせいで覗くうなじといい。
ほんのりと赤くなった頬といい。
あれ? あれあれあれ? 何で僕の妹がこんなに色っぽく見えるんだ?! おまけに細かく肩まで震わせやがって! 可愛いじゃねえか!
「あたしがお風呂から上がって部屋に入ろうとしたら中から月火ちゃんが入ってくるなって」
「そりゃおかしいだろ、お前ら二人の部屋なんだし」
これが僕の部屋だったら間違いなく火燐はドアを蹴破って入ってくるくせに、何故か妹であるはずの月火ちゃんには弱いんだよな。何かトラウマでも植え付けられたのではないかと思っているけどこいつの場合トラウマを三歩歩いて忘れそうだしなあ。
どうすれば馬鹿の妹にトラウマを与えられるかはもう一人の妹と会議して決めるとして、肝心の月火ちゃんに会わなければ会議も何もありゃしない。
「分かったよ、僕から月火ちゃんに何で部屋に入れないのか訊いてきてやるから」
「流石は兄ちゃんだ! あたしじゃ月火ちゃんが部屋に入れない鉄壁の論理を打ち崩せないけど兄ちゃんなら出来る!」
いや、お前ただ単に部屋に入るなって言われただけだろ。どこにも論理が無い、どころか話し合いすらもなく僕の部屋に駆け込んできただけじゃねえか。
呆れるくらいに呆れて呆れ疲れている僕をよそに、さっきまでの艷やかな憂いは何だったんだとばかりに満面の笑顔な火燐は早くも人のベッドに横たわり、
「そんじゃ後は任せた!」
などと言いながら早くも寝る体勢に入っている。
「いいか、僕が月火ちゃんと話したら部屋に戻って寝ろよ? ここで寝るなよ? 頼むから僕が戻るまでは起きててくれよ?」
「むにゃむにゃ………あたひがそんな………寝る…………ZZZZZ………」
「早すぎるだろ?!」
やばい、急いで月火を説得して火燐を部屋に戻さないと僕のベッドが妹に占領されてしまう。強制的に排除してもいいんだけど、あいつ抱き枕みたいに人を抱えて寝ちゃうからなあ。
おまけにどんな夢を見ていやがるのか僕の頬や腕を噛みまくるし。いるかどうかは分からないが全身を妹の唾液まみれにされたことのある人にはあるあるネタだと思う(ねーよ)。
「せめてヨダレを枕に付けないでくれよ、しばらく火燐ちゃんの匂いが取れないんだから」
ある意味マーキングのように僕のベッドを汗と唾液でしっとりとさせるんだよな。不快だしシーツなど洗ってくれと親にも言いづらいので勘弁して欲しい(思春期だからね、みたいな母親の視線など受けたくもないわ)。
糠のようにドロドロとベッドに埋まっている妹に効き目のなさそうな釘を一応刺しておきつつ、僕はもう一人の妹がプチ引きこもりと化した部屋へと向かうのだった。
では会場でお待ちしています。
あ、PC持っていきますので御用がある方はTwitterのDMもしくはmailでも頂ければ東京に行っても対応出来ますので。