『SS』 季節知らずの転校生 4

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「ただいま〜……」
 疲れはてたあたしは何も考えられずにのそのそと部屋に戻って着替えると、そのまま晩御飯からお風呂というルーチンを無意識のままにこなして(ここに宿題という項目がないのがあたしなのだが)気が付けばベッドに横になっていた。
 横になったまま今日一日を思い返すと遠慮と誤解がそのままになって解決しないうちに先送りになってしまった感が否めない。
 特に朝倉と九曜がみせてくれた気遣いがあたしと佐々木のケンカの原因になっただなんて笑えない話なのだ。走って帰ってしまった佐々木の後を追った橘からも連絡のないままだし。
「はぁ………どうしよう………」
 こうなってしまった以上は明日朝倉と一緒に謝るくらいしか方法はないのだが、それまでの間はこうして悶々と悩むしかない。
 何度か寝返りを打ちつつも眠れないと思っていたあたしだったのだが、やはり精神的負担は肉体疲労を伴ったとみえ、いつの間にか意識は遥か彼方夢の中へと落ち込んでいったのであった。



 ――――――――――あたしが目覚めたのは肌寒さのあまりだった。まるで布団を引っぺがされて放置されたかのような、
「って、なんだここ?!」
 あたしは確かにベッドの上で寝ていたはずだ。それなのにベッドどころか布団すらない。
「………どうなってんだか」
 冷えたせいもあって落ち着いて見渡してみると、どうにも見慣れた光景である。というか、見覚えがありすぎて困る場所なんだよね。
 そう、あたしは光陽園の教室――いや、お馴染みとなった文芸部室だ――に居るのである。しかもご丁寧に制服に着替えさせられている。つまりこの状況は、
「夢…………じゃないんだよなぁ」
 本来ならば夢の一言で済む話を済まなくするのがあたしの住む世界なのだ。いや、あいつの居る世界と言えばいいのか。
「やれやれ、本当に怒ってるんだな」
 あたしはとっくにこの世界が佐々木の精神世界だと気付いていた。前に橘に連れてこられた事もあるし、そうではなくやむを得ず連れてこられた事もある。
 要するに慣れているといえばいいのか、冷静になってみれば対応は可能だ。
「さて、ということは佐々木を探し出せばいいのか?」
 前回もそうだった。佐々木の機嫌を損ねたあたしはこの世界で佐々木を見つけ出し、説得の末帰還した。あの時、あたしは佐々木にこんな思いをさせないようにと反省したはずなのだが、結果としてまたも佐々木の負担となってしまったのだ。
 ただ前回と違うのは原因が朝倉であるということ、それを隠していた(ように見えた)あたしに腹を立てたということである。にも関わらず光陽園という分かりやすい場所を選んでくれたのは佐々木なりの優しさなのだろうか。
 ということで佐々木を探すべく、とりあえず窓を開けたあたしは、
「なんじゃこりゃーっ!」
 驚いて窓を閉めてしまった。いや、まさか。
 恐る恐るもう一度窓を開けてみる。
「嘘でしょ………これ………」
 窓の外はあたしが知る佐々木の内面空間ではなかった。佐々木の内面は白い、空虚ではあるが純粋なまでに白い空間だったはずだ。
 しかし、あたしが見た窓の外の風景は一面が灰色に覆われた世界だった。建物や景色はそのままに、灰色の空気で覆い隠されたかのような世界。
 佐々木の世界ではない、が、あたしはこの世界を知っている。あたしではないあたしが見てきた、この世界を。
「これって…………閉鎖空間か?!」
 確かあいつはそう言っていた。全てが灰色に閉ざされた世界の終りを告げる空間。あたしは直接見たことはないが、あたしの中のあいつの記憶がそう告げていた。
 佐々木ではない、もう一人の神と呼ばれる少女の作り出すそれが何故今ここにある?
「どうなってんのよ、もうっ!」
 叫んだところでどうしようもない。呆然と一人薄暗い教室に座り込むしかなかった。
「…………あたしのせいか」
 それだけは確かなようだ。でも佐々木の空間が閉鎖空間になってしまった理由までは分からない。だからといって何もしないわけにはいかないのだと頭は思っていてもショックのせいで体は動いてくれなかった。
 どうすればいいのか、考えだけが空回りしているあたしは床にへたり込んでいる。
 その目の前が急に明るくなった。白い光………球体となった白光があたしの前に降りてくる。
キョンさん!』
「その声は………橘か?!」
 球体から聞こえたのは本来この空間にいるべき超能力者の声だった。いや、今まででも橘が不在だったことはあるがこんな形で現れたのが初めてだ。
『どうやら聞こえているようですね』
「おい橘、どうなってるんだ? この空間は、」
『間違いなく佐々木さんが発生させた空間です。でもいつもの穏やかで静かな空間とは違ってここは灰色で何と言うか………意思が混然としています』
 見た目は白い球体だが、声の様子から橘自身の戸惑いが分かる。それはそうだろう、橘は閉鎖空間を経験していない。
キョンさんはどうしてそんなに冷静なのですか? もしやこの空間に覚えがあるとでも?』
「いや、あたしも初めてだ」
 勿論あたしも同じではあるが知識として閉鎖空間というものを知っていたために比較的早く我を取り戻したというのが正解なのだろう。橘と会話出来たことで考えというか客観的に事態を見ることも出来たしな。
「とにかくまずは佐々木がどこに居るのかを知りたい。分かるか、橘?」
『それが強力なノイズというか、妨害電波のようなものがあって佐々木さんの位置が掴めていません。これも初めてのことです、何より私が空間内に入れずにこのような形でしか侵入出来ないというのがおかしいのです』
 それはそうだろう、佐々木の空間内は物静かな白色の空間だ。そこには橘が自身の姿を保ったまま存在することができる。
 しかしここは閉鎖空間だ、あたしの中のあいつの記憶がそう告げている。この空間では超能力者は光る球体となって戦うのだ。
 …………戦う? 誰とだ? そうだ、ここには、
キョンさんっ!』
 橘の叫びに考えを中断させられたあたしは再び窓を開ける。そして、
「…………マジか………」
 窓の外に広がる光景に呆然とするしかなかった。
 灰色の空間に現れた虹色の巨人が今まさに校舎を破壊しようとする、そんな非現実的な光景に。
『何?! 何なのですか、あれは!』
「………神人………あいつまでここに………?」
『えっ? あの巨人を知っているのですか?!』
 正確にはあたしが知っている訳ではないが、知識としてあれを神人と呼ぶのは分かっている。
 しかし、佐々木の内面世界において神人は今まで存在することはなかった。
 故に橘はその存在を知らない。結果、表情などわからないが(白い球だから)混乱しているのは明白だった。
「落ち着け橘! あいつは―――神人は佐々木の作り出したストレスの塊みたいなものだ! そして神人を倒せるのは超能力者であるお前だけなんだ!」
『私が………あの巨人を………?』
「そうだ! 分からないか? あいつをどうすればいいのかを!」
 少なくとももう一人の超能力者は神人を退治していたはずだ、あいつらに出来て橘に出来ないなんてことはないよね?!
『…………何となくですが………でも、肝心な部分が掴めていないような感覚なのです』
 なんだって? 橘の戸惑いがあたしにまで伝わってくるようなのだが理由が分からない。超能力者というのは佐々木の精神に感応しているんじゃなかったの?!
『恐らく佐々木さん自身が今の状況に戸惑っているのではないでしょうか。なので私の本来の役割である空間内の制御というか鎮静が出来ないようなのです』
「佐々木が戸惑っている?」
『はい。これほどまでに強い感情を佐々木さんは表だって現したことはありませんでした。その感情の高ぶりを彼女自身で抑えようとするあまりに他に手段を講じえないようにしているとしか思えません!』
 ………佐々木という人間の自制心の強さがマイナスに働いているということなのか? それが本来のブレーキ役である橘の動きすら制限してしまっているという。
『キャアッ!』
 校舎が揺れ、飛んでいる球体の橘が悲鳴を上げる。あたしはといえば揺れに対応するだけで精いっぱいで悲鳴を上げる暇すらなかった。
「チクショウ! どうすりゃいいってのよ?!」
 一旦校外に避難するしかない、あたしは部室を飛び出そうとしたのだが。

 ピポ。

『えっ?!』
 それは部室の備品であるパソコンの起動音だった。真っ先に気付いた橘の声にあたしも振り返る。
 当然ながらこの空間は電気など通っていない。にも関わらずパソコンの電源が点いたということは!
 あたしはパソコンに飛びついた。モニターには無機質な文字が羅列していく。
KUYOU・S>見えている?
 ああ、見えてるわよ。馴染みの名前を見て泣きそうなくらいにはね。
KUYOU・S>これは佐々木の作り出した閉鎖空間。私はそこに入り込むことは出来ない。このモニターを通じてあなたへとメッセージを伝える。
 だろうね、あいつのところの宇宙人も閉鎖空間への立ち入りだけは出来ないようだったし。それでも助かる、ヒントだけでももらえたらラッキーだ。
KUYOU・S>今回の件は我々のミス。天蓋領域は世界の崩壊によって自己進化の可能性が消滅することを恐れている。それと同時に平行世界の能力がこの世界に於いて発現した事実にも注目している。
 自業自得というと朝倉には悪いが、今度ばかりは九曜の親玉にも責任を取ってもらわないとね。しかし最後の言葉はどういう意味だ?
キョンさん! それよりも!』
 ああ、そうだ! 九曜のメッセージはあたしが読むスピードに合わせるように表記されていっている。急がないと校舎が崩壊されかねない、どうすればいいのか教えて!
KUYOU・S>我々には閉鎖空間の制御は不可能。よって人間――超能力者と呼ばれる―――に対応を一任する。その為の手段を我々は得ている。
 それだ! どうするばいい?!
KUYOU・S>閉鎖空間へ私の侵入は危険性を伴う。よってバックアップを派遣する。その者に任せれば良い。
 バックアップだって? あたしがメッセージを読み終えると同時にモニターが白く輝いた。
「うわっ?!」
 思わずあたしが目を覆った瞬間、
「いったーっ!」
「おっと、ゴメンなさい!」
 何かに突き飛ばされて尻餅を着いていた。痛い! 現実じゃないはずなのにお尻が痛いっ!
「まったく、周防さんも乱暴なんだから。大丈夫、キョンちゃん?」
 その声は………
「はい、バックアップ参上よ。まったく、こっちに来た途端に人使いが荒いんだから」
「朝倉?! どうしてここに、」
「さっき周防さんがメッセージを入れたとおりよ。こっちの世界では閉鎖空間への対応が分からないだろうから涼宮さんの閉鎖空間を知識としてストックしている私の出番という訳。と言っても私も長門さんのデータを引き継いでいるだけなんだけどね」
 モニターから文字通り飛び出してきた朝倉に手を引かれて立ち上がる。まさか閉鎖空間で朝倉に会うなんてね、しかもここから脱出するためにまたも朝倉の力が必要なんて。
「ということで、まずはここから出ましょう。さすがにキョンちゃんを守りながら神人と戦えないものね」
 そ、そうね。いきなりすぎて分からないけど朝倉に手を引かれてあたしは部室を出る。『わ、私は?!』と、こちらもついていけていない橘に窓から出て合流するように指示したとこまで含めて流石は朝倉としか言いようがない。
「…………どうものんびりしている暇は無かったみたいね」
 部室を出ると同時にそう言った朝倉はいきなりあたしを抱きかかえる!
「キャッ?! ちょ、ちょっと何、」
「黙って! 喋ると舌を噛むわよ!」
 言いながら朝倉はあたしを抱えたまま猛スピードで走り出したのだ。
 同時に今までいた部室が音を立てて崩れていく。神人の拳がついに校舎を破壊し始めたのだ。
「どうやらかなりストレスを抱えているみたいね、動きが乱暴だわ」
 あたしをお姫様抱っこで抱えたままなのにスピードを落とすこともなく全速で校内を走る朝倉。階段もひとっ飛びで駆け下りていく。
 抱きかかえられたあたしは背後を見ている形になるのだけど、朝倉が通った後はどんどん壁が崩れている。この校舎そのものがもう持たないんじゃないの?!
「チッ! 面倒ね!」
 同じことを思ったのか、朝倉は舌打ちをするとあたしを抱えたまま窓へと向かう。
「ちょ、ちょっと朝倉?!」
「黙って!」
「キャアーッ!!」
 あたしの絶叫と共に窓を蹴破った朝倉が校舎の外に飛びだす。ガラスの破片が当たらないようにあたしを庇いながらも数メートル下の地面に何事もなかったように着地した。
「一旦ここから離れるわ! もう少しだけ我慢して!」
 先程のアクションなど朝倉にとっては何でもないことなのだろう、あたしを抱えたまま再び走り出す。
「どこに行くのよ?! この空間には逃げ場なんて、」
「とりあえず広い場所に行くだけ! 建物があると瓦礫からあなたを守るだけで手間がかかるわ!」
 その言葉通り朝倉は校庭まで一気に駆け抜けるとあたしを静かに降ろしてくれた。気づけば校舎は神人の手により半分以上崩壊している、朝倉がいなければ今頃あたしはあの下で短い生涯を終えていたのかもしれない。
「うわぁ………」
 改めて背筋が寒くなる。間近に迫った死への恐怖、それと普段温厚な佐々木に秘められた破壊的衝動の大きさに身の毛のよだつ思いだった。
「…………佐々木さんを責めないでね?」
 わかってる、悪いのはあたしと朝倉だ。でも、怖いのも事実なんだ。
 すると、震えるあたしの手にそっと朝倉の手が重ねられた。
「だから私がいるの。あなたを守るため、佐々木さんを助けるため。周防さんのバックアップだけじゃない、私の意思でここにいるのだからね?」
 朝倉の手は温かかった。その温もりがあたしに力をくれる。そうだ、佐々木だってこんなことをしたくてやっているはずがない。
「分かった、佐々木の方は何とかする。その代わり、神人退治は頼んだぞ朝倉!」
「それでこそキョンちゃんね。きっと彼もそう言うと思うわ」
「何でそこであいつが出てくるわけ?!」
 いやここで彼氏の話を出されても。緊迫している場面なのに笑顔の朝倉に力が抜ける。
キョンさんっ!』
「橘か? 今までどこに行ってたのよ?」
キョンさんが瓦礫に閉じ込められていないか探していたに決まってるじゃないですかっ!』
 確かにそうだ、朝倉の能力を知っている訳ではない橘からすれば心配しか出来なかっただろう。白い球体は輝きながらあたしの周辺を飛んでいる。
『朝倉さんでしたね? あちらの世界の知識とやらがどこまで通じるのか分かりませんが打開策があるというのならば今すぐに提示してください! 一刻の猶予もありません! 今はまだ校舎の破壊のみで済んでいますが、あの巨人が校内から外に出れば世界を破壊してしまいますっ!』 
 橘の焦りが手に取るように分かる。神人は校舎の半分以上を瓦礫と化し、残りも拳や蹴りで壊し続けている。
「当然よ、本来ならばこの空間を制御するであろう超能力者に私がやり方を教えるなんておかしな話なのだけどね」
 そう言うと朝倉は目を閉じた。
長門さんが記録した私たちの世界の超能力者―――古泉一樹の能力をトレースして再現してみるわ。超能力そのものは涼宮さんの能力から派生しているから完全には再現出来ないけど」
 朝倉は小さく何か呟いている。あまりの速さに聞き取ることも出来ない呪文のような言葉の羅列が続く。
「………トレース完了。シークエンスを続行、空間内における能力発現。現状空間における再現率75%、引き続き戦闘シュミレーションを開始する」
『えっ?!』
 朝倉の体が赤い光に包まれていく。これは、超能力?!
「再現率98.9999999992%。これ以上は不確定要素の為に再現不可能……………ここまでが限界ってことね。とはいえ流石は長門さんと言ったところかしら」
 赤い光となった朝倉が感心したような声を出している。橘のように球体にまではなっていないが、あたしから見れば朝倉の姿はぼんやりとしか確認出来ない。
「まあこれでも一定の戦闘は可能みたいだし、後は橘さん? あなたの管轄だものね」
『え? ああ、はい………』
「それじゃ行くわね!」
 言うと同時に赤い光が神人に向かって飛んでいった。
『ええっ?!』
 赤い光は矢のように神人に飛び、剣のように神人の腕を切り裂いたのだ、同じ光となっている橘が驚くのも無理はない。あたしも感覚(あいつと共有しているもの)としては分かっていたが実際に目の当たりにすれば呆然としてしまう。
 鋭い光の刃が神人を切りつける。だが、致命傷には至っていないのか神人は動きを鈍らせたものの止まる様子は無かった。すると、光があたしたちの元へと戻ってくる。
「………ナニシテルノ?」
『はぇっ?!』
「私一人に何をやらせているのって言ってるの! 本来の能力じゃないから私では足止め程度にしかならないわ! あなたがしっかりするところでしょう?!」
『え、ええっ? 私に何を……』
「さっきからやってるでしょ! ああやって神人と戦うの!」
『そんなこと言われても………自分からぶつかっていくんでしょ? もう少し戦略として武器とか、』
 ブチッ。
 間違いなく朝倉からそう聞こえた。
「つべこべ言わずに、」
『へ?』
「とっとと行ってこーいっ!!」
『ひゃわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ?!』
 シルエットでも分かる朝倉の足が白い光のボールを蹴っ飛ばし、ボールは見事に神人に命中した。おお、さっきと違って神人に穴が空いた! やはり超能力者じゃないとダメなんだな。
『こ、こ、こうなったらもうヤケクソなのですー!』
 光の白球がもの凄いスピードで神人の周囲を飛び回り、その勢いで神人の身体に傷が増えていく。さすがに神人も校舎の破壊よりも橘を払いのけようとするのだが、光はそれを躱しながら逆に神人の拳を切り裂いた。
 その瞬間、絶叫のような音と共に空間が揺れる。
「な、なに?! どうなってんの?!」
「どうやら神人へのダメージが空間の維持と連結しているのね。これもデータ通りだわ」
 慌てるあたしに比べて冷静な朝倉は周囲を確認しながら、
「でも、涼宮さんに空間は神人しかいなかったけど今回はキョンちゃんもいるのだから条件が違っているということよね? つまりここには存在してはいけない存在がある。私もそうだけどあくまで私はイレギュラーだもの、本当に居るのは、」
「佐々木もやっぱりいるのね!?」
「恐らくそうだと思うわ。でも私にも感知出来ないみたい、擬似超能力だけで精一杯みたいね……………」
 そう言うと赤く光る朝倉は再び宙に浮く。
「さて、私は橘さんのフォローに回るわ。あの人まだ慣れていないでしょうし」
「あ、あたしはどうすればいい?」
キョンちゃんは佐々木さんを探して。神人を倒せば空間からは出られるかもしれないけど彼女を空間内に閉じ込めてしまう可能性もないわけじゃないの」
「そんな?!」
「あくまで彼女が望んでいる限り閉鎖空間は無意識に発生するからね。ここにキョンちゃんが居るということは何かの意味があるはずなのよ、それは理解しているわよね?」
 朝倉の言葉にあたしは頷く。そうだ、あたしがここにいるのも佐々木が呼んだからなのだよね。
 だったらあたしのやることは一つしかないよね。
「朝倉!」
「任せて、これでもかなり優秀なんだから!」
 朝倉が神人へ向けて飛んでいく。それを背にあたしも走り出していた。

 待ってろ、佐々木! 絶対にお前を見つけ出してやるからなっ!