『SS』 例えば彼女と………


 冬の寒さも一段落、と言おうかと思いきや、いきなり雪が降ったりしやがったのでハルヒが喜び庭駆け回り(校庭)長門はコタツで丸くなったりしていた時期も過ぎた頃の話である。
 俺はといえばマフラーを何時頃片付けるかという課題を胸に抱えたまま、首には件のマフラーを巻いて一人道を歩いていたのであった。
 というのも、いつもの不思議探索が珍しく中止になり(原因はハルヒの体調不良である。というか、庭駆け回り過ぎて風邪引いたのだ、あのバカ)、静かな土曜日を過ごしてしまった反動なのか、日曜日に出かけたい衝動が抑えきれずに目的も無いまま外に出てきた結果として何もしないまま無意味な時間を過ごしていた。
 このような時こそ友人との一時を過ごすのも良いのだろうかとも思うが、長門はコタツで丸くなっているし、朝比奈さんも友人である鶴屋さんと出かけている模様。古泉はアホのハルヒが熱を出してはおまけで出している閉鎖空間にかかりっきりという始末。谷口は成果の出ないナンパのようで、国木田は実はこっそり塾に行っていたりもする。
 うん、俺は友達が少ない。略してはがない。これ、漢字だけ抜き出して俺友達少でも通じるだろうな、悲しいけど。というか、平仮名抜き出してはがないの方が通じないだろ、普通。
 本当にどうでもいいのだが、芳賀ゆいというイラストレーターさんもいるなあ。それ以前に芳賀ゆいって確か伊集院のラジオで誕生したアイドルでも居たはずなんだけど。
 などと本当に、心よりどうでもいいことを考えていると、それを見越して現れる奴がいるのだから、実は俺には友達が少なくないのかもしれない。





 ………………いつからそこにいたんだか?




漆黒の長髪は風にたなびく事も無くその全身を守るかのように覆い。
深淵の海底のように黒い瞳は深く澄んでいる。
陽光を反射したかのような白皙の顔に、黒い制服が自らを主張するかのように。
今まで誰も居なかったと言い切れるのに、何日もそこに居たと言えそうなその雰囲気。




そう、周防九曜は思い出す前に俺の傍に鎮座しているのであった。




「―――――――――――」
「……………………………」
 さて、久々の沈黙だ。ここからどうやるか、俺達のブランクが問われる展開だな。
「――――始めました」
 ん? 何か言ったようだが、ここはいつものアレでいくか。
「ということで、佐々木はどうしてるんだ?」
「――――観測対象は――――塾―――」
 だろうな。
「――――毎日五時間の勉強――――ついに迎えた模試――今度成績が悪ければ――――塾も辞めさせられる――――」
 そうなのか?!
「必死に付いて行く授業――――差をつけていくライバル――――頭に入らずに涙する日々――――」
 ……苦労してるんだな、あいつ。
「――――そして結果が貼り出され――――自分の順位を何度も確認する――――溢れる涙――――――思い出される苦労―――――」
 おおお!
「――――冷やし中華――――始めました――――」
 おい!
ツインテールは――――『組織』のために―――――戦う―――――」
 え? そういうのにも参加してるのか、あいつ?
「――――――飛び交う銃弾――――盾になって倒れる仲間たち―――信念を守るために立ち上がる同士――――ー」
 そういえば、あいつはカーチェイスや森さんの迫力にも負けなかった。あいつも鍛えられた戦士なのかもしれない。
「――――けれど圧倒的戦力――――傷付きながら前に進む友――――それを見送ることしか出来なかった自分―――――ー」
 …………佐々木とハルヒではハルヒの方が能力が上だったか、それはあいつらの力の差でもある。古泉も言っていたが、暗闘が繰り広げられているのだろうか。
「――――伝えられた訃報――――帰って来ない叫び――ー涙流すしかない無力な――ー自分――――ー」
 哀しい、話だ。
「――――冷やし中華――――始めました――――」
 おおお?!
「――――未来と過去を往復する日々――――溜まっていく疲労――――」
 あ、場面変わった。
「――――――通じない常識――――伝わらない情報――――伝えられない――――想い――――」
 禁則事項ってやつか。
「――――すれ違う心――――上手く行かない行動―――――誰にも助けを――――求められない――――」
 そうなのかもしれない、朝比奈さんもそうだ。未来から来たというのは自分たちの世界を守る事でもあるのだから。
「―――狂おしく荒む心―――眠れない日々―――――叶えられない――――願い――――」
 あいつもあいつなりに悩んでいるのだろうな。
「――――冷やし中華――――始めました――――」
 あーあ……
「――――混乱する世界――――支配からの開放――――広がっていく――――小さな声の波――――」
 むむ?
「――――鳴動する地球―――滅びゆく生命の叫び―――――悲鳴を上げる―――大地――――」
 最近の異常気象は地球の嘆きだと言いたいのか? そして、
「―――それを右から左へと――――受け流すの歌―――――――」
「歌そのものを変えたーっ?! しかも古い! というか、歌ネタそのものが伝わりにくいと言ったのに!!」
 俺の渾身のツッコミが炸裂した。まさかのムーディ、一発屋で終わったというネタでまだ引っ張ってるんだから一発じゃねえだろ。というのはアメトークやりすぎコージー芸人全てに言えるだろう。
「―――イエーイ――」「いえーい」
 俺達はハイタッチを交わしていた。ブランクなんて関係無い、俺と九曜のコンビは久々だろうとフリートークで笑わせるだけの実力を常に秘めているのだ。
「――――ガキ使―――批判――――?」
 とんでもない、好きだからこそ安易な笑いが欲しくないだけだ。むしろ今だとくだらないところで笑いが起きるからフリートークなんかは難しいのかもしれない。
「―――かもね」
 何でも笑えばいいってもんでもないんだけどな。話芸だけでとなると今のご時勢難しいのやもしれぬ。M-1も終わったこれからが勝負だな。
「―――――なう」
 俺と九曜はガッチリと握手を交わした。そう、俺達のお笑い道はまだ始まったばかりなのだ。



 駆け抜けよう、この笑いの階段を――――――――



 長い間ご愛読ありがとうございました。谷川先生は鋭意次回作を執筆中です、ご期待ください!







































「なんてオチもいいよな」
「――――ですねえ―――――」
 空白部分をわざと長めに取ったのだが、ネットから見ればあまり意味の無い行為である。本にするなら丸々1ページ空白にするのに。
「――――車田――――手法だ――――――」
 そう、あのページは落丁ではありません。しかし今回の流れは大丈夫なのだろうか、無意味に行数を使い込んでいる。なので、話を戻すことにした。
「といっても、俺も暇だけど何もすることがないからなあ」
「――――ですか――」
 そんなにネタが落ちてる訳でもないし、かといってゲストキャラを入れても仕方が無い。あくまで日常を面白可笑しくというのがコンセプトのはずなのだ。
「日常ねえ…………九曜、お前何かしたいこととかあるか?」
「――はて?」
 九曜が体験したことの無い事をとも思ったが、考えてみればこの生まれたてホヤホヤのおこちゃま宇宙人はしたこと無い事の方が多いに決まっているのだよな。
「とりあえず街へと繰り出すか」
「―――――――ごー」
 地元に居続ける危険性を考えれば出かけた方がまだマシでもあるからな。何故かこの近くを九曜と歩くと最後には俺が酷い目に逢ってしまうのだ。ならば暇だし、昨日は出費もなかったからたまにはいいだろう。
 ということで、俺と九曜は仲良く電車でお出かけと相成ったのである。
「――――デート?――」
「そういう言葉だけ覚えるのはやめなさい」
 見た目は九曜がはぐれないように手を繋いで歩いているのだから、どう見てもデートなのかもしれないが個人的には妹を連れて散歩していた小学生時代に戻った気分だな。
 まあ兎に角、俺達は移動していたのだが。
 ここで、九曜の成長を目の当たりにする。なんと、あの周防九曜が! 


 ちゃんと靴を脱いで椅子に座ったよ!


 あれだけ窓の外の景色を見るときに椅子に上がるな、靴を脱ぎなさいと注意し続けていたのがついに実を結んだのだ。俺は感動のあまり泣きそうになった、けど高校生だから泣かなかったよ。だがしかし、
「―――わーい―――――」
「こら九曜! 足をバタバタさせちゃいけません!」
 結局、窓の外を見ながらテンションの上がった九曜が暴れるのを抑える為にいつものポジションに落ち着いたのであった。この場合のいつものポジションというのは即ち俺の膝の上であり、俺は九曜を抱え込むように座っているという体勢を指す。
 きっと近いうちに一つの都市伝説が誕生するであろう。電車内で男子高校生が女子高生を抱え込んでいるという見た目が大変よろしくない伝説である。
 それをハルヒが血眼で探そうとも、間違いなく見ることは出来ないのだ。何故ならばその時には俺は九曜と一緒に居ないからである。不思議は身近にあろうとも見る事が出来ない矛盾で出来たものなのだよ。


 などという伝説のページを捲りながら電車は無事に目的地に着いたのであった。
「はい、靴履いて。降りるぞ、九曜」
「――――あい」
 素直に靴を履いてくれたおこちゃまの手を引いて駅を出て、
「さて、どうしようか?」
「――――次回に――――続く――――?」
 それ、採用。という事で次回に続くのだった。
「―――おお――――ありなのか――――――」
 敢えてやってみるのもいいだろ? 本とかだと章を変えれば済む話なのだ。これが噂の章変わりリセットである。
「―――何でも――――ありだね―――――――」
 そういうものなのだよ、このお話。