『SS』 酒は飲んでも飲まれるなという話・2

 ええと、どこから事態を説明すればいいんでしょうか? あ、朝比奈みくるです。こんばんは。
 そうですね、状況というか、こんばんはと言ったのは今が夜だからです。そしてここは長門さんのお部屋なんです。それに、どうしてあたしがこんな説明をしなければならないのかと言うと、
「ヒック……ヒック…………あにょね…………キョンが……あらひのこと………ばかっていうの〜……」
 はいはい、もう泣かないでください。キョンくんは涼宮さんの事を馬鹿だなんて思ってませんから。何度目か分からなくなってるティッシュを手に、涼宮さんの鼻をかませる。チーンッと鼻をかんだ涼宮さんは、涙をいっぱい目に溜めて、
「あ、ありがと〜みぐるぢゃ〜ん…………」
 言いながらも涙が止まらない涼宮さんは両手で顔を覆って泣き出した。これがあの涼宮さんなんですよ? さっきから泣きじゃくっては自分がダメだって言ってるんです。
 それに、もう一人。
「うふふふふ、わたしはかれにあたまいいっていわれているのら〜」
 トロ〜ンとした瞳で嬉しそうに微笑んでいるのは長門さんです。ええ、長門さんなんです。長門さんが微笑みながら、涼宮さんの肩を叩いてるんですよ。
「ゆきばっかり…………ゆきばっかりほめられてる〜! やっぱりキョンはあたしのこときらいなんら〜! わ〜んっ!」
 ああ、また。さっきから長門さんが涼宮さんを泣かせて、あたしがそれを慰めてというのを繰り返しているんです。しかも長門さんったら、涼宮さんを泣かせておきながら、
「あさひなみくるは〜わらしにもかまえ〜」
 って、ひゃわわ〜! む、胸を揉まないでくださ〜いっ!
「むう〜、おっぱいおおきい…………」
 い、いえ、そんな。だから自分の胸を撫でながら恨みがましい目線を向けないでくださぁ〜い……
「びえぇぇぇ〜! み〜く〜る〜ちゃ〜んっ! ゆきがいぢめる〜!」
 ひゃあっ?! す、涼宮さん? いや、そんな胸に顔を埋めないで! おっぱいに顔を押し付けないでくださ〜い! 長門さんもそれを見て笑わないで〜!
「あははははは」
「うぇ〜ん…………」
 な、何でこんな事になっちゃったんでしょう? あたしの胸に顔を埋めて泣いている涼宮さんと、指差して笑っている長門さん。
 あまりにも普段と違いすぎる二人に戸惑いというよりも混乱しながら、あたしは何故こうなったのかと原因を探すように、今日の出来事を思い出していきました…………







 きっかけはそうですね、今日の午後の不思議探索でした。その日は午前中があたしと涼宮さんと古泉くん、キョンくんと長門さんの組み合わせでした。長門さんとキョンくんを待っている間、少しだけ不機嫌だった涼宮さんは午後の組み合わせを決めるくじを引くと、仕方ないとばかりにため息を吐きました。正直なところ、あたしとキョンくんの組み合わせにならなくて良かったです。今のところ指令もありませんから。
 だけど正直なところを言いますと、この組み合わせも結構大変なんです。それは、
「ねえ、みくるちゃん! 今度あっちのお店行ってみましょうよ! 有希もいいでしょ?」
「…………いい」
 涼宮さんに引っ張られながら、長門さんを押して歩く女の子だけの不思議探索。不思議は見つからないけど、涼宮さんとお買い物したりするのは楽しいですよ? けど、いつも引っ張り廻されちゃうし、長門さんの意見がないと拗ねちゃうしで、間に挟まれたあたしはどうしようかなって困っちゃうんです。けど、三人で雑貨屋さんを覗いたりしたら長門さんも心なしか嬉しそうに見えるんですよね。
 そんな散策が今日に限って変な展開に向かったのは、涼宮さんが急に、
「ねえ有希、この後予定ある?」
 と、長門さんに訊いたところからでした。勿論長門さんは「ない」と答えます。
「みくるちゃんは?」
「ええと、特にはありませんけど」
 それは長門さんだけではなくて、あたしも同様なんですけど。涼宮さんが何かしたいと言うのならば、それが最優先事項です。あたしの場合は任務の為にわざとお断りしなければならないときもありますけど、それは規定事項ですから。
「あっそ。だったらさあ……」
 再び涼宮さんに引っ張られて向かったのは、
「ええ? でもあたし達じゃ、」
「大丈夫よ! 料理に使うとでも言えばなんとかなるわ!」
「…………」
 そうかもしれませんけど、と躊躇する間も無く買い物を済ませてしまいました。結構重いんですよね、それでも長門さんも涼宮さんも平気そうですけど。
 こうして荷物を抱えて集合場所に戻ってきたあたしたちを見て、「……やれやれ」とキョンくんに言われちゃいました。それは呆れちゃいますよね、不思議探索をしていないのがばればれだし。
「お荷物をお持ちしましょうか? どうも重そうですけど」
 古泉くんが親切にそう言ってくれましたけど、
「あ、大丈夫だから。ありがとね、キョンと違って気が利くのは感心だけど」
 当然? 涼宮さんは断りました。あんまり中身を見られたくないですから仕方ないんですけど、
「お前は俺には何も断りなく押し付けるだろうが。そうじゃないなら持たれたくないんだろ」
 ほら、キョンくんに言われちゃいますよ。
「あ、朝比奈さん? なんだったら俺が持ちますよ、それ」
 え、え〜と、そのタイミングでこっちに振られても…………
「みくるちゃんのもいいのよっ!」
 そうなりますよね。涼宮さんに言われるまでもなく、お断りしました。キョンくんに見られたら絶対に怒られちゃいますもんね。
「…………いい」
 長門さんは言われる前にそう言って、キョンくんに呆れられてましたけど。結局あたしたちは荷物を持ったまま駅前まで戻ってくると、
「それじゃ解散ね! また学校で! キョン、遅刻すんじゃないわよっ!」
 涼宮さんの宣言でそれぞれ帰宅、というのがいつもの流れなんですけど。
「今日は帰らないのか?」
「あたしたちはこの後ちょ〜っとね? 男子禁制だからあんたはとっとっと帰りなさい!」
「へいへい、あんまり羽目を外すなよ? 朝比奈さん、後はよろしくお願いしますね」
「いいから帰れ!」
 キョンくんったら保護者みたいですね、なんて言ったら涼宮さんに怒られちゃいそうですけど。でも、キョンくんはちゃんと涼宮さんを見てるんだなあって。少しだけ羨ましかったりして。
 古泉くんも挨拶してから帰ったところで、
「さて、それじゃ有希の家に行くわよ!」
 待ちかねていた涼宮さんにまたもや引っ張られて今度は長門さんのマンションへ。あのっ、長門さんを置いて行ったら入れないんですけど〜!



「よーし、着いたっと」
 長門さんの部屋に着いたあたしたちは、やっと荷物を降ろしました。ビニール袋の中に入っていたのは大量の缶や瓶。それとお菓子も。
「ん〜、いくらなんでもまだ早いわね。その前に晩御飯の用意しちゃいましょうか、お風呂も入りたいし。有希、お風呂の用意お願いしていい? あたしとみくるちゃんでご飯の用意するから」
 ええっと、もう少し座って休みたいかな〜って思うんですけど…………結構重たかったし。でも、涼宮さんも長門さんも全然休む様子がありません。長門さんはお風呂場に行っちゃいましたし、涼宮さんも、
「エプロンがないけど、まあいいわ。濡らしたりしないように気をつけてね?」
 そう言うとキッチンに行ってしまいました。あたしも慌てて後を追ったんですけど、二人とも元気だなあ。そこからはあたしと涼宮さんは食事の用意、長門さんはお風呂の用意をしてました。流石に涼宮さんは手際が良くて、あっという間に夕食の準備が終わります。
「いっただきまーす!」
 三人で囲む食卓。といっても長門さんの家にはコタツしかありませんけど。いつもはあたしも一人での食事ですから、賑やかなのは楽しいですよ。長門さんもそうだといいな、涼宮さんの料理の解説を聞いている姿は変わらないようで楽しんでるんだと思います。
 食べ終わったら三人でお片付けです。といっても、涼宮さんと長門さんが手早く片付けてしまったのであたしの出番はほとんどありませんでしたけど。べ、別にお皿とか割ったりしなくて良かったって安心したりしませんよ? それにしても涼宮さんと長門さんのコンビネーションは凄かったです。涼宮さんが洗った食器を長門さんが拭いていくんですけど、機械よりも速くて綺麗なんですもん。
 そんな片付けも終われば次は当然、
「みくるちゃん、お風呂入りましょ!」
 ということでバスタイムとなるんですけど、これも当然なのか三人で入ることになるんですよね。前にも何度か涼宮さんたちとはお風呂に入ったんですけど、今日は長門さんのお家ですし………………ちょっと三人で入るには手狭かなと思ってたんですけど、
「うん、やっぱりみくるちゃんのおっぱいはおっきいわね!」
「はわぁ〜やめてぇ〜!」
「…………やわらかい」
長門さんまで〜!」
 ええと…………いつもと変わりませんでした。うぅ…………
 そんな入った方が疲れちゃいそうなお風呂も上がり、何だかんだと髪を乾かしながら髪型の話なんかして(ある髪型についてなんですけど、これは禁則事項というより涼宮さんが可愛いから内緒にしておきます)それぞれがパジャマを着てからリビングに再集合しました。
 というのも、まだあたしたちは寝る訳じゃないからです。それどころか涼宮さん曰く、
「さあ、ここからが本題よ!」
 って、こういうのを本題にしちゃうのも…………ねぇ?
 あたしの座るコタツの上には色とりどりの缶やビンが並んでます。あたしから見て右側に涼宮さん、左に長門さん。コタツを囲んで、
「今日は女の子同士で飲み明かしましょう!」
 はあ、なんでこうなっちゃったんだろ。そう、涼宮さんが買った大量の荷物は全てお酒だったんです。料理用なんて言ってたけど、どう見てもカクテルやサワーの缶なんて料理には使いませんよね。よく売ってくれたなと思います。
 グラスになみなみと注がれたピンク色のカクテルを前に、それでもあたしは年上ですから最後の注意をしてみたんです。
「あの〜、確か涼宮さんは禁酒を誓ったんじゃなかったですか?」
 ええ、あたしにはこのくらいしか言えませんけど。でも、あの合宿で酷い二日酔いになった涼宮さんは一生禁酒を宣言していたはずですよね? それを突然、しかもあたしたち女の子だけなんてどういう訳なんでしょうか。
 すると涼宮さんはグラスの縁を指でなぞりながら、
「ん〜とね、ほら、あたしたちも知り合ってから結構経つじゃない? それで、より親睦を深めるにはどうしたらいいかなーって思ったら、やっぱりお酒の力を借りて開放的な気分になるのが一番かなって思って」
 そ、それって未成年者の発想じゃないような。それに女子というより男性的な発想だと思いますよ? 主にサラリーマンの皆さんみたいな。
「それに、キョンの前では、じゃなかった、キョンと古泉くんの前では禁酒なの! 特にキョンなんかこっちが酔って隙を見せたら何をしでかすか分かったもんじゃないわ!」
 …………それってキョンくんの前だと酔ったら隙だらけになるって言ってるようなもんだと思うんですけど。きっとキョンくんと二人でお酒飲んだら可愛いんだろうな、涼宮さん。まあ本人は気付いていないみたいだから何も言いませんけど。
「そんなことより今日は飲むわよ! 有希もほら、注いであげるから」
 長門さんのグラスにもカクテルが満たされたところで、
「カンパーイ!」
 結局止めることなど出来ないままにグラスを合わせてしまうあたしなのでした。一体これからどうなっちゃうんだろ、不安しか感じませ〜ん…………







 さて、最初は味比べなどを楽しくやっていた涼宮さんなんですけど、段々と様子が変わっていきました。あたしは一杯目のカクテルを判らない様に少しづつ飲んでいます。というのも、一気の飲んだらまた寝ちゃうから。今も頭がフラフラしてくるんですけど、どうにか意識も保ってますし。
 ところが、意識がはっきりしていると分かってきたのですけど、
「うふふ〜」
 涼宮さんは一点を見つめたまま、ほくそ笑んでます。な、なんだろ……ちょっと不気味なんですけど。
「ねえ有希?」
「ひゃい?!」
 いきなり首がぐるんと廻って長門さんを呼んだんですけど、あたしの方がビックリしちゃいました。
「あんたさあ、さっきからずっと飲んでるのに全然様子が変わらないじゃない? もしかして酔わないタイプ?」
「体内にアルコールを摂取した時点で分解するように設定してある。わたしが酔う事で起こりかねない不足の事態を回避するために必要な処置」
 あ、あの〜、涼宮さんにそんな言い方したらまずいんじゃないでしょうか。でも、全然聞いてる様子もないからいいのかな?
「ダメよ〜、女の子同士で無礼講って言ったんだから酔わないでどーすんのよ! ほら、いいから飲みなさい!」
 ああ、また注いでる。さっきからペースアップしてる涼宮さんが長門さんのグラスに注いでは長門さんがそれを飲み干すというのを繰り返してます。涼宮さんも合わせて飲んでるから、段々と呂律も回らなくなってきました。
「ゆ〜き〜、あんたほんとによっぱらわないわけぇ〜?」
「現在の状況でわたしが酔う確率はない」
「むぅ〜……つまんない…………」
 いや、つまんないと言われても。理不尽なんですけど段々涼宮さんの顔色が変わってきたので戦々恐々をしていたあたしは、すっかり酔いも醒めてしまっていました。
 だからこそ、この後の展開に巻き込まれてしまうんですけど。
「いよぉっし! きめたぁ!」
 な、なにを? ビックリしたあたしをよそに涼宮さんは長門さんを指差し、
「ゆき! あんたいまからよっぱらいなさい! あたしがゆるす!」
 そう言っちゃったんです。別に涼宮さんの許可がなくても長門さんが酔うはずもないのですけど、問題は涼宮さんの命令という点なんです。あたしも長門さんも役目としてここにいますから、涼宮さんの機嫌を損ねるような事態は極力避けなければいけないんです。ましてや命令なんて言われれば、生命的な危機をもたらす可能性が無い限り従うのが常となってますから。
 それでも長門さんは無言でしたけど、
「べつにいいでしょ、ここはあたしたちだけなんだし! ほら、キョンもいないからえんりょしなくていんだって」
 何故そこでキョンくん? って、キョンくんがいたらこんなに酔ってないんですよね、涼宮さん。
 そして、どういう訳か(何となくは解ってるんですけど)長門さんも、
「…………わかった」
 頷くと同時に小声で何か呟いてます。
「アルコール成分の体内分解機能を停止、血中濃度確認。現状シークエンスを『酩酊状態』と認識、実行する」
 へ? 一体何を…………と思った矢先でした。
「ヒック」
 長門さんがいきなりしゃくり上げたかと思うと、見る間に頬が赤らんでいきます。ま、まさか本当に? でも頭がゆらゆらしてるんですけど。
「わたしもよった。これでいい?」
「お〜、ゆきがまっかになってるぅ〜、かわいい〜」
 涼宮さんが勢いよく長門さんに抱きつきました。ああ、二人とも酔ってるんだ。しかもそのまま、
「よ〜し、これからがほんばんよ〜! まだまだのむわよ〜!」
「おう〜」
 グラスに注ぐのもやめて缶を開けて飲み始めてしまいました。あたしはといえば、涼宮さんを止める事など出来るはずもなく、おまけに長門さんまで酔っているという状況についていく事も出来ずに呆然と飲み続ける二人を眺めることしか出来なかったんです…………

 
 







 それからどのくらいの時間が経ったのか、あたしは時計も見てないので分かりませんけど。
 でも、二人は延々と飲み続けていたのは事実です。
 そしていつの間にか、
「ヒック……うぇ…………うぅ……ふぇ〜ん……」
 涼宮さんがぽろぽろと涙を流し、
「うふ……うふふふ……えへ…………あははははは」
 長門さんが笑ってるんです。きっかけがどこにあったのか、さっぱり分かんないんですけど〜! だけど涼宮さんは泣いちゃったし、長門さんは笑ってるし。なのに二人ともお酒を飲むのは止めないしで、どうすればいいんでしょうか?
「あ、あの〜、涼宮さん?」
 あたしは恐る恐る声をかけてみました。すると、
「み〜ぐ〜る〜ぢゃ〜ん〜!」
 わっ! 堰を切ったように涼宮さんが大声で泣き出しちゃったんです。
「ど、どうしたんですか涼宮さん!」
「あのね、あのね? きょんが〜、きょんがぁ〜」
キョンくん? キョンくんがどうかしたんですか?」
「きょんがあたしにいじわるするの〜」
 はい?! え、えええ〜?! い、一体何を言い出したんですか?
「あの、それって、」
「きょんがね? あちゃしにね? いっつもいっつもいじわるゆうの〜」
 は、はあ。何でそうなったんですか。
「あたひがなにいってもね? へーとかはーとかばっからしぃ」
 え、ええっと、それは仕方ないような……
「いっつもいっつもおこってばっかれ〜、あらひのことなんかど〜でもいいんだ〜! わぁ〜ん!」
 えぇ〜っ!? 泣いちゃうんですか、そこ? 
「にゃんできょんがおこりゅのかわかんにゃい〜! あちゃひりゃってキョンによろこんでもらってほめてもらいたいのに〜! にゃんでにゃのよぅ〜! うぇ〜ん……」
 なんかネコさんみたい。というか、ふにゃふにゃしてて聞き取りづらいんですけど。でも、褒めてもらいたいなんて涼宮さん可愛いなあ。
 なんてほのぼのしてたら涙でぐちゃぐちゃになった涼宮さんが鼻を啜っているので慌てて近くにあったティッシュで鼻をかませてあげます。
「うぅ〜……きょんのばかぁ…………」
 そうかなぁ、まあキョンくんには申し訳ないんですけど涼宮さんを慰めてあげないと。あたしが優しく涼宮さんの肩を撫でながら言葉をかけようとした時でした。
「あははー、わらひはかれにほめられてるのら〜」
 ちょ、長門さん?! いきなり涼宮さんの肩を抱いた長門さんがニヤニヤ笑いながら涼宮さんを覗き込んでます。うわ、お酒くさい! 笑い声も怖いけど長門さんからアルコールの匂いが凄いんです。
「ながとはなんでもできるよいこだな〜って、あたまをなでなでしてくれるのら〜」
 …………そんなことありましたっけ? あたしの知らないとこでキョンくんがそういうことしててもおかしくないですけど。それに、長門さんにはお世話になってるから気持ちも分からなくはないですけど、でもこのタイミングで言われたら。
「ふぇ……ゆきばっか…………ずるい〜」
 ほら、涼宮さんの目が潤んできました。ああ、また泣いちゃった。
「ゆきのばか〜! あたひもきょんにいいこいいこしてほしいのに〜!」
「わらしはいいこだも〜ん」
「びえぇ〜ん……」
「にゃはははは!」
 なんですか、これ? 長門さんの上司的に許されるのかなぁ。とにかく一方的に長門さんが涼宮さんを泣かせてしまっています。それも笑いながら。
「な、長門さん! ダメですよ、涼宮さんを泣かせちゃ!」
 あまりの展開に心を飛ばしかけちゃいましたけど、それでもあたしは涼宮さんを庇うべく長門さんとの間に割り込みました。
「みぐるぢゃ〜ん!」
 って、ちょっと涼宮さん? そんなにしがみ付かないでくださ〜い!
「みくるちゃ〜ん!」
 長門さんまで抱きついてきた〜?! 前後から抱え込まれたあたしは身動きが取れなくなっちゃったじゃないですか!
「んにゃ〜、みくるちゃ〜ん……」
「……みくるちゃ〜ん」
 な、なんか甘えられてる…………というか、二人とも何でそんなに胸に顔を埋めたがるんですか? いや、そこはちょっと! グリグリしないでぇ〜!
「やわらか〜い」
「あったか〜い」
 待って! 危ない、二人で寄りかからないでって、
「キャアッ!」
 あたしは二人に押し倒されてしまいました。頭だけは打たなかったけど背中が痛いです〜…………
「す、涼宮さん? 長門さんも大丈夫ですか?」
 それでも最初に心配なのはお二人です。けれど、
「く〜…………」
「すぅ…………」
「えぇ〜?」
 二人とも寝ちゃってました。しかもあたしの胸を枕にして。あの〜、お、重いんですけど〜。でも。
「むにゃ……キョン…………」
「えへ……キョン…………」
 幸せそうな笑顔で寝ている二人を見ちゃったら何も言えません。あたしは二人を起こさないように少しづつずれながら、何とかコタツに潜り込みました。
 本当は良くないんだけど仕方ないですよね? 三人が一緒に入ってるから凄く狭いんですけど、その分みんなでくっ付いて。
「おやすみなさい」
 あたしも目を閉じて。なんだか騒がしかったけど、楽しいお泊り会は無事?終了したのでした。


 翌日は二日酔いで青ざめた顔をした涼宮さんと長門さんのお世話だけで終わっちゃいました。でも、
「う〜、でも女の子同士ならたまにはいいかもね。みくるちゃんには迷惑かけちゃってるけど」
「…………そう」
 ですね、あたしもこういうお世話ならいいですよ。
「けど、お酒はほどほどに。ですよ?」
「は〜い」
「了解」
 うふふ、少しはお姉さんらしいところも見せられたかな? 二人の意外な一面も見れたことですしね。
 こうして、あたしたちはまた少しだけ近づくことが出来たのだと思います。未来から来たけど、今ここでしか味わえない喜び。そういう積み重ねがあたしのいる未来へと繋がっていくのだと思うんです…………




















 でもね? やっぱりお酒は怖いですよね。あたしの世界、つまり未来においてもお酒に纏わる失敗談など事欠きません。
 だから、この格言もまだ残っているんです。曰く、『酒は飲んでも飲まれるな』って。つまり、お酒を飲むのも効果的にって意味なんですよ。あの二人はそこがまだ分かっていないんですよね。
「ちわ〜っす、ってあれ? 朝比奈さんだけですか?」
「ええ。今日は長門さんが進路指導だとかで。古泉くんもそうですよね?」
「9組は進学クラスだから分かりますけど、長門までか。まあ、あいつの成績なら仕方ないのかもしれませんね」
「涼宮さんはどうしたんですか?」
「陸上部の助っ人です。俺の知らない間に勝手に決めたみたいですよ。どうせまたいらんもんを持って帰りそうですけど」
「うふふ、そうかもですね。ということは、今日はSOS団はお休みですか?」
「ああ、そのつもりです。だから俺が残っているメンバーに団長欠席を知らせる役目とやらを押し付けられたって訳で。だから朝比奈さんも帰ってもいいですよ、俺もこのまま帰りますから」
「だったら、ちょっとお茶だけでもしていきませんか?」
「えっ? そんな、わざわざ悪いですよ」
「いいからいいから。新作のブレンドを試したいから試飲をお願いしたかったんです。ちょうどキョンくんだけなんて助かっちゃいます」
「そうですか? 俺で良ければいくらでもお手伝いしますよ」
「ありがとう、キョンくん。ちょっと待っててね」
「―――――――はい、お待たせしました」
「ありがとうございます。ちょっと香りがキツイんですね」
「ええ。どうぞ飲んでみてください」
「いただきます………………あ、あれ? なんか頭がフラフラする…………」
「あ〜、ごめんなさい。ちょっとアクセントで混ぜたお酒が多かったかも〜」
「そ、そういう問題じゃない量な気が………………って、朝比奈さん?! 何やってんですかっ!」
「え〜と、どうやらあたしも飲みすぎたみたい〜…………体が熱くって…………」
「だからってそんな胸元を開けられたら……」
「えへ〜? あたし、ちょっと酔ったみたいなんですけど〜」
「………………」
キョンくん?」
「あ、朝比奈さんっ! 俺、俺もうっ!」
「きゃあ〜、キョンくんったらダメです〜。そんな、ケモノみたいな目をしないで〜」
「朝比奈さんが悪いんですっ! そんなにスカートをまくって挑発するから!」
「そんな〜、ああんっ! キョンく〜ん!」
 酔いのせいか、顔を真っ赤にして座った目をしたキョンくんに押し倒されながら、あたしは心から思いました。



 お酒は効果的に使わないと、ね?