『SS』 長門有希をもふもふしたい 前編

 人は時として不可思議な感覚に捉われる瞬間というものがある。たとえば、スポーツ選手などが語る『ゾーン』などはそれに当たるだろう。所謂自分だけが感じる特殊な感覚だと思ってもらえればいい。
 この感覚とは別にスポーツ選手だけが持っているというものではないと思う。日常生活においても普段思いもしないような事を思いついたりする、ヒラメキのような瞬間は訪れたりするものだ。それは物凄いアイデアを生み出したり、悪魔の囁きとなって人の人生を狂わせたりするものなのだと俺は思う。
 さて、ここで話を変えよう。皆様は『もふもふ』という言葉をご存知だろうか? ああ、突然すぎてすまない。だが、ここは重要な部分なので流さずに聞いてくれ。
 もふもふ、という言葉はつい最近出来た新語であると思われる。というのも、俺もここ最近になって聞いた言葉であり、当然辞書などには載っていないからだ。そのもふもふとは語感の響きでも分かる通り、何かをもふもふすることを指す。もふもふとは、その、何だ? 何かふわふわしたものとか、ふかふかしたものを抱き締めたり、抱き締められたりしたらいいなあって感じだと思う。多分。ちなみに俺が最初に知ったもふもふとは、日が三つ並んだ作家のライトノベルで小学生が弟に対して言っていた言葉だ。ヒントを与えるなら、弟とはライオンのことである。これ以上は各自調べていただきたい。
 そんなもふもふと、人間が瞬間に訪れる感覚の話が何故に同列に語られたのかというと、今正に俺はこの二つの話を実践しているからなのだ。
 



 要するに、めっちゃもふもふしたい。それも突然に、運命に導かれるようにもふもふしたい。というか、もふもふしたいんだ、俺は。




 しかし、急に思いついたからといってもふもふがすぐに出来るのかと言われれば、そうはいかない状況であるのが現状なのだ。出来ればいますぐにもふもふしたい、対象としてはシャミセン辺りが適任ではないだろうか。あいつは適度にでかいし、結構毛足も長いのでもふもふするには相応しい。流石にぬいぐるみを抱き締めるような趣味は無いので、妥協点としてはいいのではないか? いや、妥協というよりもシャミセンをもふもふしたっていいじゃないか。
 だが、それも今は叶わない。何故ならば、今は放課後であり、ここは文芸部室だからだ。つまりはSOS団の団活中ということである。
 にも関わらず、この部室には只今人員が二名しかいない。俺と、窓際で本を読むこの部屋の主だ。当団活の団長閣下は、専属メイドを引き連れて名誉顧問と共に買い物に出かけている。帰ってくればメイドさんから新たなるコスプレに身を包まねばならないのに、健気にもお供した朝比奈さんへは同情を禁じえないのだが、鶴屋さんもいるから大丈夫…………とはなりそうもないのが可哀想だよな。
 そして、本来ならば雑用係兼荷物持ちでもある俺がここにいるのはおかしいのではあるのだが、今回は名誉顧問のリクエストにより副団長がお供として付いて行ったのであった。
「単にスポンサーサイドから報告の任務があるので、ついでといったところなんですけどね」
 古泉は出かけるためにメイド服から着替える朝比奈さんを待つ廊下で肩をすくめながらそう言った。どうやら鶴屋家への報告というものも『機関』の仕事らしい。ということで、ハルヒ以下SOS団は名誉顧問を含めて外出中なのである。
 だったら帰らせていただきたい。今すぐ帰りたい。帰ってもふもふしたい、シャミセンの腹とか胸とか。
 そうだな、帰ればシャミセン以外にもふもふするかもしれん。妹のぬいぐるみだって別に自分の部屋に持ち込むことも厭わない、そこには障害はないからな。先ほど趣味ではないと思ったが、もうシャミセンだけでは満足出来ない身体になってしまっているのだろうか。とにかくもふもふしたいという気持ちが抑えられなくなってきている。
 うむ、そう考えれば妹をもふもふしても構わないのか? 大きさ的にはシャミセンよりも抱き締めた時にはフィット感は良さそうだ。あいつも兄を嫌っているようではないみたいだから、頼めば大人しくしてくれるかもしれん。人として何か間違えそうな予感もしなくはないが、もふもふしたいという欲求には変えられない。
 いや待て? 妹でいいのならば、ここにももふもふ出来る対象があるのではないか? そう、目の前にいる長門だ。サイズ的には抱き締めてちょうど良さそうだし、あの柔らかそうなショートカットをもふもふしたらさぞや心地良いのではないだろうか。こう、ギューッとしてもふもふしたら。
 いかん、そう考えたら目前で読書を続ける長門がとても柔らかそうに見えてきた。あの長門を後ろからギューッとしたい。そんでもって、あの柔らかそうな髪をくしゃっとやってもふもふしたい。どうしよう、めっちゃしたくなってきた。
「…………なに?」
 急に長門に声をかけられて我に返る。お、俺は今何を考えてたんだ? そうだ、俺は謎の意識に支配されて…………
「なあ、長門。ちょっともふもふさせてくれないか?」
 そのまま声に出していた。何だ、もふもふさせてくれって。言われた長門は無表情に首を傾げているが、それはそうだろうな。
「あ、あー、すまん。妄言だ、忘れてくれ」
 突然何を言い出したのか、長門が分からない内に上手く誤魔化そう。
「もふもふってなに?」
 誤魔化せませんでした。長門の黒曜石の瞳が純粋な光で俺を貫いている。どうしよう、もふもふって何だろう。などと思っていたら、自然と口が動いていた。
「あのさ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
 怪しい、怪しさ全開だ。普通はこんな事言われたら眉を顰めて『何言ってんだ、こいつ?』と思われてもしょうがない。だがしかし、長門は素直なイイコ(俺に対しては)なので、素直にトコトコと俺が座る席まで歩いてきた。うむ、必要最小限の動きながら可愛いぞ。
 真正面に立った長門が小さく首を傾げる。次の指示を待つ、といったところなのだろうか。なので、次にやってもらうことを言ってみた。即ち、
「ここに座ってくれ」
 と、椅子に座った俺の太ももを叩いて。膝の上に座れといきなり言われた長門は、
「分かった」
 と素直に座る。少しは抵抗というか、反論した方がいいぞ。まあ反論されると困るのだが。しかし、これで俺の太ももの上に長門は座っている訳で、もふもふする体勢は整ったといえる。
 しかも、ここで俺は予想外の事実に気付いてしまった。長門っていい匂いするんだなあ。いつ風呂に入っているのかなど分かりはしないが、長門の髪からは間違いなくいい香りがする。それどころか、全身が柔らかく温かくて、ぬいぐるみでは味わえない感触を俺に伝えてきたのだ。しまった、長門は無味無臭だと思っていたのに。いや、無臭はともかく無味がどうか知らないけど。
 おまけに膝上で座った長門は身じろぎもせず、俺の目の前には短い髪から覗くうなじが何かセクシーというか。いや、いかん、そういう気持ちで言ったんじゃないんだ。って、もふもふしたいって時点で駄目だと思うけど。
「…………次は?」
 膝上の長門が何事も無いように声を出す。
「あ、ああ。それじゃ、もふもふさせてもらっていいかな?」
「いい。構わない」
 無事? 長門の許可も貰えたところで、もふもふを開始する。
 ところで、もふもふってどうやるんだ? 単純ながら難題にいきなりぶつかる俺。ええと、ずっともふもふしたいと思っていたのはシャミセン相手だから、同じ様にとなると。
 後ろから長門を抱き締める。少しだけ肩が震えたような気がしたが、長門が動くことは無かった。そのまま長門の髪に顔を埋める。やはりいい匂いがした。左手で長門の腰を抱いたまま、右手を長門の頭に置く。柔らかめの髪を撫でると、想像以上に指に絡む感触があった。ゆっくりと手を動かし、髪の感触を味わう。そういえば、こいつは頭の形もいいのか撫でやすいというか。長門の頭を撫でると癒される気がする。
「………………ふ……」
 ん? 何か声がしたような。
「何か言ったか、長門?」
「なにも」
 そうか。しかし何も言わずにされるがままってのもどうかと思うが。後ろから抱いているので表情は分からないが、多分変わる事もないのだろう。 
「これが、もふもふ?」
どうなのだろう? 何となく違う気もするが、概ね正しいような感じでもある。しかし、これだけをもふもふというのならば違うのではないだろうか。これはもふもふではなく、よしよしと言えばいいんじゃないか。
それならば俺は正しいもふもふというものを追及しなければならないだろう、それが協力してくれる長門への礼にもなるはずだ。男は一度口に出した事を違えてはならない。俺は強い信念を持って長門をもふもふせねばならないのだ。
「じゃあ、続けるぞ」
小さく頷く長門。さて、続けると言ったはいいが、どうすればいいんだ? そう、俺が思うもふもふとは頭だけではなく全身をくまなくもふもふすることだ。シャミセンだって、頭を撫でたかった訳ではない。むしろ腹とか胸とかが対象であって、それを思う存分に弄りたかったのだ。
「…………ンッ……」
何だ? 長門が息を呑んだような。というのも、俺が長門の腹を弄っていたからなのだが。いつの間に動いていたんだ、俺の手。しかも止まってないし。
「なあ、長門
「気のせい」
そうなのか?
「そう」
「続けていいのか?」
「構わない」
いいのか、と確認を取っている間にも俺の手は長門の腹部を撫で回していた。厳密に言うならば、右手で頭を撫でながら、左腕で長門の腰を抱き、その上で掌が腹を撫でている。体勢は長門に覆いかぶさるような形になっているので、暑くないだろうか?
「平気」
そうか。声にも変化は無いようなので手の動きは継続させていただく。何とも制服越しではあるが長門の腹は余分な肉なども付いてなく、掌が自由自在に撫でまわせるほどに平らだった。しかし、この動きだけではもふもふとは言えないだろう。もふもふとは、もっと密着して行うべきものなのではあるまいか。知らないが。
とにかく、もふもふを極める為にも次の動きに移らねばならない。世間一般で言うところのもふもふの定義というものは分からないが、とりあえずもふもふっぽい行動といえばこうだろう。
「!」
長門が一瞬だけ硬直したような気がした。すぐに元の柔らかい感触に戻ったが。何がおかしかったのだろう、俺は頭に置いていた手を戻して長門を背後から抱きしめただけなのに。あえて言うならば、少しだけ密着度を増したというか、完全に俺にもたれ掛かるように長門を引っ張って頭の上に俺の顎が乗るような形になっただけだ。つまりは人間椅子の完成である。但し拘束付きだが。
うむ、こうすると全身で長門を感じるようでとても良い。というか、既に長門の座る位置は俺の太ももというよりも下腹部全体を覆い、小柄な長門の体を俺が全身で包み込んでいるといった状況だ。長門って意外と温かいんだな、しかもいい匂いがする。別段臭いフェチという訳でもないのだが、長門の全身から仄かに香る芳香はどことなく甘かった。
このままでも満足しそうでもある、だがこれではもふもふとは言えまい。何より俺が満足しきれない。何というか、物足りない。何が悪いんだ? と、もう少し長門を感じるというか、もふもふというか。
「!!」
ああ、これはいい。ほんの少し顔の位置を変えただけでもふもふしてる気になるもんだ。単により密着して長門の肩の上に顔を寄せる、詳しく言えば長門に頬擦りしてるだけなのになあ。
化粧気の無い長門の素肌はすべすべで柔らかい。表情は変わらないが、今更ながら不快では無いのか?
「別に。大丈夫。問題無い。続けて」
何故か短く会話を終了させた長門は、そのまま口を噤んでしまった。まあ長門からお許しも出たので頬をくっ付けたまま抱き締める。すると、腕の位置がどうにも収まりが悪い。不自然では無いが、もう少し自由度が欲しいというか。この場合どうすればいいのか? 答えは簡単だ、自分で気に入る位置に腕を持っていけばいい。このように。
「…………!!!」
収まりがいい位置に腕を持っていくと、当然もふもふとしては手を動かすべきである。ここは一つ具体例を挙げておこう。俺は今、長門の胸を揉んでいる。しまった、言い方が悪い、もふもふしている。この場合重要なのは長門の胸をもふもふしている事ではない、俺の腕が収まりのいい位置に移動した事である。その位置が偶然にも長門の胸部にフィットしたのであって、腕の位置さえ決まれば後はどこでももふもふするものなのだ。
まあしかし、長門は胸が無いとか良く言われているが、あれは比較対象が朝比奈さんやハルヒという反則レベルのプロポーションを誇る連中が相手だからなのだと痛感した。ここに今は居ない朝倉を加えてもいいのだろう、どちらにしろ長門の不利は否めない。少なくとも見た目の点においては。
だがなあ、長門だって女の子だ。それはそれはささやかながらも確かに膨らんでいるのだ。もふもふしたら柔らかいのだ、長門のおっぱいは。いや待て、露骨な表現は避けよう。長門の胸部は僅かながらも確かな感触を持って俺に主張してきているのだった。
「………………」
長門は沈黙を保っている。俺は長門をもふもふしている。傍から見れば、俺は自分の太ももの上に長門を座らせて頬擦りをしながら胸を揉んでいるようにしか見えないとしてもだ。さあ、これが正解なのかは分からないがもふもふを続けよう。
「…………アンッ!」
え?
「…………なに?」
「いや、何か聞こえたような」
「気のせい」
そうなのか? だが頬を寄せた長門の顔を横目で覗いてみても何も変化は感じられない。ここは続行するべきなのだろう。続行するべきだ、多分。
制服の上から長門の胸をもふもふしていると、柔らかさの中に一部感触の違う位置を感じる。なるほど、下着の上からでも分かるものなのかと新たなる発見である。万が一だが、もしかしたら長門は着けていないのかもしれない。いや、いくら長門がささやかでも高校生がしていないという事はあるまい。だったら、確かめればいいじゃないか。
「なあ、ちょっと服脱いでみないか?」
好奇心は止まらない。ロマンティックと好奇心は止まらないというものなのだ。イヤらしい気持ちではない、これは純粋なる女体の神秘への探求というものだ。それよりも俺は、服の上からでは我慢が出来なくなっているのだ、もっと長門をもふもふしたいのだ。これは真の欲求であり、心からの叫びである。
そして、素直な長門は何も言わずに制服に手をかけた。一気に上着を脱ぐと、そこには白いキャミソールの長門がいた。なるほど、一枚下に着ていたのか。それでも硬さを感じてしまうものなのか、あのパーツは。立ち上がって制服を直そうとする長門から制服を取り上げて近くの机の上に放り投げる。ここで長門を離す訳がないじゃないか、勿体無い。それについては何も言わなかった長門が続けてキャミソールに手を。
一気に脱ぎ去った。
そこには一糸纏わぬ白い肌があった。あれ? ブラジャーしてないのか? 本当にノーブラで学校に来ていたのか、長門
「キャミソールにカップが縫いこまれている。下着の跡も見えない上にサイズを気にせずに購入出来る」
なるほど、最近は便利なものがあるんだな。まあどちらにしろ今はいらないのだが。というわけで、同じ様に長門の手からキャミソールを取り上げて放り投げた。制服と違って体温を直接感じさせる温もりに手放すのが惜しくなったのは内緒にしておこう。
さあ、作業再開だ。ほんの一瞬でも離れてしまった空間を埋めるように再び長門を抱き寄せる。今度も素直にされるがままの長門に、遠慮無くいきなり胸を鷲掴みにした。
「はンッ!」
長門から聞きなれない声が聞こえた気がしてくっ付きながら顔を覗き込んだが、いつもの長門だった。考えてみれば上半身裸で胸を掴まれているのに変わらないというのがおかしいのだろうが、生憎と俺は考えていないので胸をもふもふするのだ。それも首筋に顔を寄せたりしながら。
いや、もふもふとはいいものだ。これがもふもふなのかは議論の余地もあるのだろうが、俺認定もふもふとは長門の主張してやまない膨らみを撫でたり揉んだりしながら感触を楽しむ行為ということなのだろう。だって柔らかいんだぞ、長門って。小柄だし痩せ気味だから感触も物足りないかと言えば、さも有りなんってやつだ。胸だって膨らみは柔らかい上に、サイズに合った突起が痛いくらいに尖って主張を続けている。それを押しつぶすように掌で転がす。
「きゃうんっ!」
あれ?
「…………なんでもない」
まだ表情は変わっていない。気のせいか? 長門が可愛い声を上げた気がするのだが。
「気のせい」
らしい。もしかしたら痛かったのかもしれない、ということで重点的に立っている部分を優しく撫で回してやろう。
「…………ふ……あ…………んんっ!」
小さな唇がわずかばかりに開いたように見えたが、次の瞬間にはいつもの、
「気のせい」
ふーん。そういえば手にばかり気を取られて他は何もしてなかったな。首筋を臭いをかぐように鼻を近づける。唇ではなく、鼻先でなぞるように動かすと長門が細かく震えるのが分かった。思ったより弱いのか?
「気のせい」
そうか。では、そのまま首筋から上がって耳へ。唇を近づけるだけでビクッと震える。これはもしかすると、もしかするかもしれない。フッと耳の中に息を吹きかける。
「ひゃああんっ!」
な? 今度こそ間違いない、この甘ったるい声の主は長門だ。
「…………気のせい」
まだ言うか。そういう嘘つきには、こうだ。そっと耳たぶを甘がみしてやる。ついでに胸も下から揉み上げると、
「はあ……はぁぁぁんっ!……やぁ…………」
零れる吐息を飲み込もうとして失敗した長門が虚ろな瞳で喘いでいた。予想以上に敏感だったな。
「気のっ……せ……い…………」
はいはい。片方では寂しいので反対の耳も甘がみしながら、胸全体を掌で優しく包み込みながら撫で回す。その上で指先でピンクの可愛い突起をはじいてやれば、
「んやぁぁぁぁぁあん! ふぅ……っ……だ……め…………」
頬を赤らめた長門が可愛らしい声で懇願などしてくれるのだ。これはいい、もふもふとは素晴らしい。最早もふもふなのかどうかなど関係も無くなっている気がするが、俺はあえてこれをもふもふと名付けよう。
 長門の胸を撫でながら、手を下ろして腹も再び撫でてみる。もふもふとは全身くまなく撫で上げる行為であると誰かが言っていた。恐らく俺が言っていた。つまりは長門をくまなく撫でろと。
 そこで耳たぶを甘がみしながら、左手でお腹をさすりながら、右手でピンクの突起を摘んでみたりすると、
「あぁぁぁぁぁんっ! や、はあっ…………それ…………や…………」
 信じられないだろう? これをあの長門有希が言ってるんだぜ。半開きの唇からは甘い吐息が漏れ続け、小刻みに震える身体からは力が抜け落ちている。これがもふもふか、恐ろしい効果だ。
「あ……う…………気の……せい…………」
 今更何を言ってるんだろう、この宇宙人さんは。力なく俺にもたれかかり、胸や腹を弄られて可愛い声を上げておきながら、まだ長門長門であろうとしているのだろうか。
 しかし、俺は見てしまった。
 噤むことも出来ずに可愛く喘ぐ唇? それもある。
 虚ろに潤んだ瞳? そうなのだが、そうじゃない。
 ピンと立ったそれと周りの部分がピンクから興奮で赤くなったこと? それはそれでいいのだけどな。
 それよりも重要かつ、ありえないのだ。あの長門が、太ももをピッタリと閉じてモジモジしているだなんて。
 まさかな。いやいや、まさかだろ。そのまさかを、まさかやるとは思わないだろ。
長門、触ってほしいのか?」
 やりました。耳元で囁くと、長門の肩が震える。どこを、とは言わない、長門が分からないはずもないしな。その間も俺の手は長門の胸部をもふもふしているし、長門は可憐な唇から喘ぎ声を漏らしている。
 そして、素直で敏感なインターフェースは俺の言う事に逆らうようなことはしないのだ。少しづつ足を開く長門、まさかこいつが恥らう姿を見られるなんてな。正直を言えば驚いた、長門ならば何も思わずに足を開きそうなものだと思ったからだ。だが、恥らう長門の可愛さたるや、俺が思わず頬にキスをしてしまうほどだった。
 今や敏感過ぎるほどに敏感となった長門はキスの感触だけで頬を染めて吐息を漏らす。俺にもたれながら潤んだ瞳で俺を見上げ、
「…………いい」
 それは触らなくてもいいということか?
「触っても…………いい………………」
どっちなんだよ?
「触った方が…………いい……」
 小さく呟く姿が可愛いと思わなくてどうする。まさかの赤面長門が普段以上に消え入りそうな声でお願いしているのだぞ。それなのに、俺ときたら、
「スカートめくってみろよ、長門
などと非道な事を言い出しているのだから、俺は余程現世に未練は無いとみえる。これでは地獄に落ちても納得しようというものだ。けど、見たいものは見たいのだ。
長門は一瞬だけ、硬直した。が、すぐにスカートに手をかけ。
おずおずと、且つ素直にスカートを上へとたくし上げたのであった。うわ、これは萌える。想像以上に視覚効果が大きい、長門が頬を染めてスカートをめくってる姿など萌えない方がどうにかしている。
めくり上げたスカートの中には白く細い足と、その上には当然下着がある。着けて無くても穿いてないということはありえない、いくら長門であろうとも。その下着は、長門の心のような純白だったのだが、肝心なところを見落とす俺ではない。
その下着に包まれた一部が濡れている。そこから漏らしたかのように伝わる液すら確認できた。ここまで敏感なのか、今の長門は。
「可愛いな、お前は」
そっと耳元で囁きながら、左手を長門の太ももに添える。触るか触らないかの位置ですら、長門の肌が小刻みに震えるのが分かった。過敏な神経は、不安から来るのか、期待感の表れなのかは俺には分かりそうも無い。ただ言えるのは、長門の全身が俺に触れられたがっているという事実だけだった。
優しく太ももを擦るだけで長門の唇から小さな悲鳴が聞こえる。下から上へ、けれど肝心な部分にはまだ触れない。ただ腿の部分を優しく擦っているだけで、下着の染みが大きくなっていくのが分かる。
「はんっ! ンッ…………は……あ……んんっ! あ、そ……そこ…………」
さて、新たなる快感を感じつつある長門には悪いが、ここは俺がもふもふしている最中なので今までの部分もしっかりとカバーしておきたい。右手で胸のポッチを摘んでいじりながら首筋を舐めてみる。もふもふって舐めるものなのかどうかは、後々調べれば分かる事だろう。肝心なのは、今ここで長門に対する行為は全てもふもふであるということだ。
「いやぁんっ! だ、だめ…………むね……は…………」
謀らずも巨乳は鈍感であるという都市伝説の逆説を証明したかのような感度を見せ付けてくれた長門の小さな懇願を、俺はあえて無視する方向で脳内会議を終えた。よく言うじゃないか、嫌よ嫌よも好きのうちと。それに当てはまるのかどうかは、この後の長門の態度で分かる事だろう。それ以前に、長門自身が拒否するような行動などしていない。
 首筋に舌を這わせ、耳たぶを咥える。頬にキスをする。両手で胸を撫で回し、突起部分を優しく摘む。腹を撫でながら、そのまま降ろして太ももを撫で上げる。長門を抱きかかえたまま、全身汲まなく手で触れていく。吸い付くような肌触り、滑らかな感触。虜となったように指の動きが早まる。
「あ……ふ…………や、あ、んっ…………ふわぁ……ん……」
 言葉にならない悶え声、これが長門の可憐な唇から出ているなどと思えないだろう? 実際は半開きになったまま切れ切れに喘いでいる、その声もまた俺の気分を高めているのだ。
 まだ触れていない肝心な部分は濡れそぼって湯気が上がりそうな程なのだが、あえて触れずに寸前で手を止めながら太ももを何度も擦っていた。もふもふしているんだから、撫でるだけでもいいはずだよな?
「…………あ、だめ……」
 駄目ならば触れない。下着は濡れすぎて白からグレーのような色になり、透けている肌にあるべき陰が見当たらない事に予想通りの安心感と背徳感を感じつつ、俺は未だにそこに触れないままだった。
「あなたは……」
 何だ? 健気にも感じまくりながら、捲り上げたスカートから手を離さない長門が思い切ったように呟く声に、俺は自分でも驚くほど冷静に答えていた。
「わたしの……意図をっ……り、理解しながら……んやっ! …………行為に……及ばな…………いんっ!」
 搾り出すような長門の声を遮るように胸を擦っていたのだ。過敏な突起は触れなくても痛々しいほど尖っていて、掌で転がすようにする度に長門の身体が跳ね上がりそうになる。それに合わせる様に流れ出ている液体は下にある俺のズボンを濡らしていた。冷たくない、生暖かい感触が俺の太ももにも感じられる。咽返るような匂いがそこから立ち昇っていた。長門の全身から香る芳香と、一部から溢れ出ている匂いが俺の脳内を溶かすように混ざり合う。
 今や匂いは部屋全体に充満している、という自覚すら感じられないほどに俺は長門に夢中になっていた。透けそうな程の白磁の肌は桃色に色付き、しっとりと汗ばんだ肌は吸い付くようで滑らかでもある。吐息と共に漏らす嬌声は耳の奥に入り込んで、俺の鼓膜を揺らしながら咽び泣いている。鼻腔をくすぐるのは長門の髪の甘い香りなのか、下から昇る雌の臭いなのか。首筋に這わせた舌は、長門でも汗をかくのだと理解させてくれた。そうだ、長門は無味でもなかった。汗は俺達と同じ様に塩の味がした。それなのに甘く感じるのは長門だからなのだろうか。



 全身で、全神経が、長門有希を感じている。



 これが、もふもふの真の姿なのだろうか。まずありえないな、かといって止められるはずもない。俺もそうだし、長門自身も。
 残された箇所は一つ。ここを触ることがもふもふなのかと言われれば違うと否定されそうでも、俺は長門をもふもふしたい。けれど、俺だけがそう思っていてはいけないだろう。だから、
「お前の意図って何だよ?」
 ここはあえて訊くしかないのだろう。スカートをめくり上げ、羞恥に頬を染めながらも俺にされるがままになっている長門の声を聞きたいんだ。
「…………あなたは、理解している」
「情報の伝達に齟齬が生じたらいけないだろ?」
 長門の発言を逆手に取るような言い方は、普段の長門ならば表情一つ変えずに流してしまったことだろう。普段の長門ならば。
 しかし今、ここにいるのは敏感で従順な可愛さ十倍増の長門だ。可愛らしく唇を噛んでも、胸の突起を両方摘まれては喘ぎ声しか出ないのだ。
「あっ……ん……やぁっ!」
 いい加減に素直になった方がいいと思うぞ? 覗きこんだ瞳は潤みながら虚ろに、表情以上の言葉を秘めている。数度唇を開いた長門は、言葉にならない言葉を発していた。
「あ、なたっ……はぁんっ! …………わ、た、し、の……」
 何だよ? 太ももを撫でながら次の言葉を待つ。目の端に涙を浮かべた長門は、誰も聞いた事の無い甘えた声で、
「…………いじわる」
 そう言うと太ももを撫でていた俺の手を取り、
「あなたは、わたしを…………触るべき……」
 自分の触れられたい部分へと導いていく。だがその前に、
「どこを触ればいいんだ?」
 態度ではなく、言葉で示してもらわないとな。意地悪と言われれば、その通り。俺は長門に対してのみ意地悪にだってなってしまうのだ。
 動かそうとしない手を持ったままの長門は泣きそうな瞳で、震える声で、
「わたしの…………ここを…………」
 捕られた手が濡れたそこへと導かれる。湿り気を帯びた熱が、そこには溢れていた。だが、俺の指はまだ届いていない。
「ここって、どこだ?」
 自分でもこんなに嗜虐的だとは思わなかった。それほどまでに涙目の長門は俺を狂わせたと言ってもいいだろう。あくまでも意地悪な俺に、長門は意を決した様に首筋に寄せていた俺の顔に唇を寄せた。長門が少し横を向けば俺の耳がある、そこに囁きかける様に、
「わたしの、性器を、触るべ…………触って…………」
 少し期待よりも表現が硬いが、それは後々にこっそりと教えてやろう。長門がもしもそんな言葉を使うと想像しただけで歯止めが効かなくなりそうだが。それよりも、長門の精一杯のお願いを聞いてやらないとな。
 俺は長門の手によってではなく、自分の意思でそこに手を伸ばした。布越しにでも、くちゅり、という音がする。指先で触れただけなのに、
「きゃぁぁんっ!」
 過剰な程の反応を見せた長門は、俺にもたれたままで荒く息をしている。わずかな胸部が激しく上下し、呼吸が整っていないのが分かる。その動きを止めるように胸を撫でてやりながら、立ち上がってる部分を掌で擦る。
「んやっ! あんっ! それ、や……」
 そんな嫌がり方は無い。唇から零れるのは喘ぐ声だけ、だらしなく舌を伸ばして涎が垂れそうになっていることにすら気付かない長門は、これ以上を望んでいるのだから。
 もう遠慮はいらない。太ももを撫でるだけだった右手を、思い切って下着の上まで持ってくる。既に潤みきっているそこに指を這わせると、形に添って下着ごと指が飲み込まれていく。しかも粘膜質が指を濡らし、布がまったく意味を成していない。
「ああぁぁぁぁぁぁっ! いやっ! そん、な……制御…………で、き、な……」
 そんな制御なんかいるか。俺はまだそのような事を言い出す長門に、おしおきの意味を込めて下着をずらして脇から指を差し入れた。手触りで分かる、長門のそこにはあるべきものが存在しなかった。具体的に言えば毛のような、というか、生えていなかった。おかげでスベスベして、しかも濡れすぎて滑りそうになる肌を堪能しながら、形がはっきりと判る割れ目に指をなぞらせる。
「きゅうぅぅぅぅんっ! ああっ! そ、こ、んっ! はぁ……だ……」
 駄目じゃないよな? これはもふもふ、なのだ。長門だっていいと言ったし、触ってほしいと言われたし。指は中でくちゅくちゅと音を立てながら割れ目の縁をなぞっている。小刻みに息をつきながら、快感に目覚めた長門は開きっ放しの口から嬌声だけを洩らしていた。小さな痙攣を繰り返し、「あ……や……」とうわ言のように呟きながらも、胸の隆起は痛いくらいに張っていて、俺の太ももに乗っているそれはズボン全体を濡らすまでになっていた。
「も……だ…………め……わ、たし……」
 そうだな、そろそろかもしれない。そう思った俺は、長門を全身で可愛がってやることにした。後ろから長門を抱えている体勢で、右手は下着の中に滑り込ませ、左手は胸の突起を摘み上げる。
 そして、長門の叫びをかき消すように唇に自分のそれを重ねて。開いた唇に重ねているのだから素直に舌を伸ばして咥内を蹂躙する。抵抗ではなく迎合として絡み付いてくる長門の舌を味わいながら、俺は全ての動きを加速した。
「んっ! んん〜っ! んむっ……ん…………んんんーっ!!」
 何を言ってるのか分からない長門の抗議にならない声を無視して、手を動かす。唾液を交換するように舌を絡めあわせながら、左手の摘む力を強めて引っ張り、右手の指が割れ目の中で飛び出した突起を見つけ出して激しく擦ると、
「んんーっ!!」
 叫ぶ事も出来ない長門の全身が大きく痙攣して、右手に温かい水がかかり、股間に生暖かい感触が広がっていく。どうやら絶頂を迎えると噴き出すらしい。もう俺のズボンもグチャグチャだ、脱いだ方が早いだろうな。
 強烈な快感に瞳から光を無くして力無く俺にもたれかかる長門。まだ入れたままの指を細かく動かすたびに痙攣する身体。その長門が、意識を取り戻すまで俺は胸の突起をいじったり、耳たぶを舐めたり、割れ目に指を這わせたりしながら、もふもふを楽しんだ。何もかも間違っているという意見を言う奴などいなかったのだから、もふもふと言えばもふもふなのだ。
 気を失った長門というのも、意識も無いのに反応する身体も可愛いと思いながら俺は長門を楽しんでいた。訂正しよう、もふもふしていた。