『SS』 惚気話:Dialogue

「うーっす、って何だ? 朝から機嫌悪そうだな。寝不足か?」
「そんな訳ないじゃない、あんたと違うわよ」
「だったらな、月曜日の朝から人の後ろの席で重い空気を流さないで頂きたいもんだ。それでなくても憂鬱な一週間が始まるってのにな」
「うっさい、どうせ碌に授業も聞いてないくせに。そんな事より団長が不機嫌なときにはまずお伺いを立てるくらいの気遣いはないわけ?」
「へいへい。どうしたんだ、ハルヒ? 何か良いことあったのか?」
「そのネタがいつまでも使えると思わないことね。まあいいわ、ちょっと聞いてよ。あのさあ、昨日は日曜日で何も予定がなかったの。それでつい昔の知り合いに会ったのよね」
「昔の? それは何時の時代の知り合いになるんだ?」
「中学の時ね、実際は顔だけ知ってる程度で話したことなんかほとんど無かったんだけど」
「中学というと東校か。谷口あたりも知ってる奴か?」
「知ってると思う。あたしは谷口にも興味無かったからどうでもいいけど」
「さりげなく酷いな。その知り合いってのは女なんだよな?」
「当然よ、あたしが男に誘われてホイホイついていくとでも思った? あんた以外に誘ってくるような奴もいないから心配いらないわよ」
「誘った事はないはずだけどな。それに、今のお前からは想像も出来んが告白されて断らなかったんだろ? だったら、」
「だからこそよ、今更中学時代の男なんかに誘われたくもないわ。今はあんたの相手だけで十分手一杯だし、あんた以外の相手なんかしたくもないもの」
「そんなもんかね、人間とは成長する生き物だと思うんだが。まあ十数年経った同窓会で絶望したりするパターンも無きにしもあらずだがな」
「同窓会ねえ、あたしとあんたはどうせ一緒だから代わり映えはしないと思うけど、他の連中がどうなってるのかは興味あるところね」
「一緒なのは前提なのかよ。それはそれとして、中学時代の知り合いはどうした?」
「そうそう、何か大ニュースがあるって言うから珍しい化石でも発見したのか、宇宙人にでも会ったりしたのかと思ったのよ。どうせ暇だったし、あたしも全然話さなかったとはいえ昔の馴染みを無視するほど心狭い人間でもないから、会ってあげることにしたわけ。奢ってくれるらしいし」
「最後の一言が全てだな。それで、どんな不思議体験を聞かされたら機嫌が悪くなるんだ?」
「それがさあ、わざわざ出向いてやったら何を言い出したと思う? その子に彼氏が出来たらしいのよ」
「ほう、それをお前に言う理由が分からん」
「あたしが中学時代に告白されては振ってたから、嫌味のつもりなんじゃない?」
「なるほど、それはありえる」
「大体、あたしは前から恋愛なんて精神病だって言ってるのに、意味が無い事まくし立てられても迷惑だっていうのよ。久しぶりに昔の知り合いに付き合ってあげようなんて思わないほうが良かったわ」
「まあそう言ってやるな、連絡してくれるなんて実はいい奴かもしれないじゃないか」
「だーかーらー、それが迷惑だって言ってるのよ! 着くなり写メなんか見せられても、ふ〜ん、としか思わなかったわよ! それに大した顔してなかったし、相手の男。アレね、まだあんたの方がまともに見えるわね」
「色々な意味で失礼なこと言うな。その彼氏とやらの顔は知らんが、好きで付き合ってるんだろ? 嬉しいんだろうから自慢くらいは聞いてやれよ」
「嫌よ! 何であたしがほぼ見ず知らずの連中の惚気話を聞かなきゃならないわけ? だから、ちょっと反論してやったのよ」
「反論? おいおい、また何かいらん事言ったんじゃないだろうな」
「あの色ボケした女に恋愛なんてくだらないってのを説教してやっただけよ」
「それがいらん事だって言うんだよ。第一、お前が恋愛について語れるとも思えんし、語られたくも無い」
「大丈夫よ、男なんてつまらないって言えばいいんだから。幸いな事につまらない男なら目の前にいるしね」
「俺かよ? それに男がつまらないって言い方は、暗に禁断の関係に誘ってるように感じるのは俺の気のせいか?」
「馬鹿ね、禁断も何もみくるちゃんクラスならともかく同性愛なんて精神病以下よ。あくまであんたがつまらないって分かれば恋愛なんて興味なくなるでしょ」
「それで俺が一方的に悪く言われるのかよ…………」
「まあいいじゃない、相手も何も言えなくなったんだし」
「やれやれだ、その子から見れば俺ってどういう人間になったんだか」
「大丈夫よ、会うことなんかないだろうから。それよりもうすぐホームルーム始まるから前向きなさい」
「はあ…………俺の名誉とかってどうなったんだろうなあ」
































『もしもし? うん、私。ちょっと聞いてよ、昨日ね? あの子を呼び出してやったの。うん、涼宮ハルヒ。あの生意気な』
『あの子ちょっとモテるからって男子に告白されては振ったりしてたじゃない? だけどあんな態度だからすぐに誰にも相手されなくなっちゃって…………そうそう、暗い顔してたじゃん』
『それで、私の彼がいるでしょ? そう、あの人。涼宮は多分彼氏なんかいないだろうし、高校に入っても一人だろうから自慢っていうか? 嫌味じゃないよ、あの子ずっと人を馬鹿にしたような態度だからさあ』
『だけどね? あいつ、待ち合わせ場所に着くなり「今日はあんたの驕りね!」って言ってさっさと喫茶店に入っちゃうし。ムカついたけど、まあいいやって店に入って写メ見せたのよ。そしたら何て言ったと思う?』
『「大したことないわね」だって! 何様なのよ、あいつ! しかも、自分の携帯から写メを見せてきたの。それがまあ普通っちゃ普通の男の子なんだけど。でも、何枚も、本当にメモリ一杯分見せ付けられたんだよ? それも一枚づつどんなシチュエーションで撮ったのか解説付きで!』
『おまけにその男の子は毎回デートの度に、ああ、デートじゃないって言ってたけど。でも土曜日になったら必ず私服で会ってて一緒に出かけてたらデートよね? それも毎週服を選ぶのが大変なんて言ってんだから。それで、土曜日にデートしてご飯奢ってもらって、買い物したら荷物は必ず持ってくれてって、どれだけ大事にされてんだって』
『しかも同級生で、クラスの席は目の前で、部活も一緒で、帰りも一緒なんだって! 部活のHPも作るし、野球やったらホームランだし、ゲームでも連戦連勝なんだってさ。いや、信じられないけど。でも、涼宮も成績とかだけは良かったから、彼氏も可能性としてはあるかもなーって』
『…………それでね? うん、その彼氏なんだけど、涼宮が暴走したらちゃんと怒ってくれるんだって。あんなに嬉しそうに怒られた事話すなんて、おかしいと思わない? ううん、そうじゃないって。…………本気で怒ってくれる彼氏なんていないよね』
『あのさ、自分が泣きたくなりそうなくらいに困った時ってない? うん、そんな時に必ず居てくれるんだって。あの子、ずっと一人だったから。うん、そう。一人だった時に抱き締めてくれたんだって………………………いいよね、そういうの』
『そうなの、自慢するつもりがずっと惚気話を聞かされちゃって。そうそう、最後に「だから恋愛なんてやるもんじゃないわ!」なんて言いやがったの! それも凄く嬉しそうに! 自分が幸せですよーって露骨なくらいに分かるっていうの!』
『…………分かってるわよ。私の負け、そんなに尽くしてくれる彼氏なんて居ないもん。男は顔だけじゃないなんて、今更言われたくも無いしね。その彼氏モテるんだってさ。そりゃ優しくて気も使えて頼んだら何でもしてくれて、本気で怒ってくれて、泣きそうな時に傍にいてくれるって完璧じゃない! それが自分一人を見てくれてるなんてさ』
『あーあ、誘うんじゃ無かったわ。こっちが羨ましくなっちゃった…………私もそんな彼氏が欲しいなあ』