『SS』 観測観察観賞感情 4

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 携帯が震える感触で俺は目を開けた。いつの間にか眠っていたらしいが、親も妹も制服から着替えてもいないのに起こしにも来なかったと見える。窓の外が暗いから夜だと分かるが、一体どのくらい寝てたんだ? 時間確認ついでにまだ鳴り止まない携帯を手に取ると、
「何だと?!」
 画面に表示された名前に驚いて時計も見ずに通話ボタンを押す。すると、
『………………』
 かけてきた相手から沈黙で返されてしまうのだ。だからと言って驚くことは無い、こいつの場合はいつもの事だ。なので、こちらから声をかける。
「どうした、長門?」
 すると、電話の向こうの長門は、もしかしたら切れてしまったのかと不安になるくらいたっぷりと間を空けて、
『問題が発生した』
 と、不安が的中したような事を言い出した。それを聞いた瞬間、ベッドの上から飛び起きる。
「何があった?!」
 電話を耳に当てたままで部屋から出ていた。妹が何か言っていたような気がしたが、長門の返事が返る前に玄関で靴を引っ掛けていた。
『…………分からない』
 そんな馬鹿な、お前が分からない事なんかあるのかよ! 言われた俺の方が訳が分からなくなりそうだ。それなのに、訳も分からないままで自転車を引っ張り出している。
 言い訳もしないで飛び出しているのは承知済みだ、後で親に何言われるか分かったもんじゃない。なんていうのもどうでもいい、俺は長門の元へ行かなければならないんだ。
「いいか、すぐに行くから待ってろ!」
 それだけを言うと電話を切り、自転車を走らせる。自分でもこんなに力があったのかと思うほど全力でペダルを漕ぐ中で、長門の瞳が閉じられた画が浮かんでは消える。
 待ってろよ、長門! 下り坂をブレーキもかけずに駆け下りる。俺に何が出来るか、なんて事もどうでもいいんだ、今は長門に会いたい。会わなければならないんだ。





 恐らく今までの中で最短時間で長門のマンションにやって来た俺は、自転車のスタンドを立てる事さえ忘れ、倒したままで放置する。
 エントランスまでの短い距離すらダッシュする。飛びつくようにインターフォンにかじりつくと、慣れているはずの部屋番号を押す手が焦りのせいで震えてやがる。くそっ! イラつきながら長門の部屋番号の次に通話ボタンを叩き壊す勢いで押した。
 すると沈黙の前にドアが開く。それが既に異常なんだ、長門は無口だが俺が何も言わないのにドアを開けるほど無用心な奴じゃない。たとえここに来た時点で分かっていたとしても、長門は先回りしてドアを開けたりなどしなかったのだから。
 何でエレベーターが上の階に居やがるんだ。そんな事にさえ腹を立てながら、いつまでも降りてこないランプを睨みつける。
 エレベーターのドアが開くと同時に飛び込んだ俺は、七階と閉のボタンを同時に押す。まだか、早くしやがれ! 逸る心と裏腹に、エレベーターは重い機械音だけを響かせてゆっくりと昇っていくのだった。







 エレベーターが七階に着いて、ドアが半開きになったところでこじ開けるように飛び出す。勢いがつきすぎて転びそうになりながら、足だけは長門の部屋へと向かっていた。
長門っ!」
 名前を呼びながら部屋の前のインターフォンを押す。もしも、反応が無ければ…………最悪の想像が頭をかすめ、俺は思い切り首を振った。万が一反応が無ければ管理人に言って鍵を開けてもらう、どんな手段を使ってでも長門に会わなきゃならないんだ。
 しかし、俺の心配は杞憂に終った。ゆっくりと、静かに扉が開いたからだ。ドアの向こうでは長門がドアノブを掴んでいる。その様子に変わりが無いように見えた俺は安堵の息を吐いた。
「無事だったのか……」
 思わず座り込みそうになったが、どうにか立ち直る。だが、ここで疑問が生まれる。何故長門は俺を呼び出したんだ?
 すると長門は、扉のノブから手を離すと、
「入って」
 そう言って先に中に入って行ってしまった。俺は長門の態度の変わらなさに呆然としていたのだが、慌てて後を追う。
 リビングに入ると、既に長門は正座をして俺を待っていた。いつもと変わらない無表情、視線だけを俺に向けている。まるで今までずっと正座していたかのようだ、さっき俺を出迎えたと思えない。
 長門の視線に促されるままに正面に座ると、入れ替わるように長門が立ち上がった。
「どうした?」
「待ってて」
 台所に下がった長門が茶を淹れて戻ってくる。そういうところも変わりは無いのかよ、と胸の奥で思いながら注がれる緑茶を見つめていると、
「どうぞ」
 促されるまま湯飲みを傾け、茶を飲む。ついさっきまで全力で走っていたのでようやく人心地がついた気分だ。二杯目を注ごうとする長門を制し、足を崩して座りなおす。
 急須を置いた長門は、見た目はいつもとまったく変わっていないように思えた。一体、こいつのどこに問題が発生したというのだろうか。
「なあ、とりあえず何も聞かずに来てしまったけど一体何があったんだ? お前んとこの親玉がまた何か言い出したっていうなら聞いてやるぞ」
 長門の言う問題といえば、ハルヒ関連か親玉関係だろう。可能性として第三勢力な異世界人も無いとは言えないが、それならばもっと切羽詰っているはずだしな。
 しかし長門は、淹れてくれたお茶を三杯くらいお替りできそうなくらいたっぷりと間を空けると、
「問題は解決した」
 確かにそう言ったんだ。俺を見つめたままの長門は、それだけで充分だとばかりに口を閉じてしまった。いや、お前だけ納得されてもそうはいかないだろ。
「本当なのか? もう何も問題無いんだな?」
ゆっくりと頷く長門を見て、俺は正直なところ拍子抜けしてしまった。あれだけ全力で走ったのは何だったんだ、おまけに長門の部屋に入るために何でもやるだなんて思ってたんだぞ。
何とも自意識過剰過ぎたのは俺一人だったようだ。物凄く空回りした一人相撲だよな、と自嘲したくもなってくる。まあ、長門が無事だったのならそれがなによりさ。
「分かったよ。それじゃ、俺は帰るからな」
とにかく一安心といったところで俺は、立ち上がろうとした。今から帰るのが些か気が重い、何も言わず出てきたからな。
だが、俺は浮かしかけた腰を止めてしまう事となる。長門が俺の動作を見た言葉のせいで。
「駄目」
たった一言、長門はそう言ったのだから。





…………何だって? 中腰の間抜けな姿勢のまま、俺は呆然と長門を見つめていた。当の長門といえば俺以上に間抜けな事に首なんぞ傾げてやがる。
「ええと、長門?」
「何?」
何って何だよ、こっちのセリフだぜ。何がどうなったら駄目とか言われなきゃならないのか、説明しやがれ。
「…………帰るぞ」
「嫌」
今度は嫌と言われた。しかも即答で、首を傾げたままで。
「あのなあ……」
呆れて座りなおすと長門の首も元に戻る。結局元の体勢に戻った俺と長門は、奇妙な事に見つめあったまま会話をするのだった。
「問題は無くなったんだよな?」
「そう」
「だったら帰るわ」
「駄目」
埒が明かない。本当に問題は無くなったんだよな? 疑いたくもなるが、長門が嘘を吐くとは思えない。特に俺に対し嘘など言うはずがない。
オーケイ、状況を整理しよう。その上でちゃんと伝えれば、長門なら必ず分かってくれるはずだ。
「いいか、まず今日は平日だ。それは分かるな?」
頷きで了承。
「つまり、明日もまた学校に行って授業を受けねばならない。お前も、当然俺もだ」
承知しているという頷き。
「学校に行く為には様々な準備が必要だ。特に睡眠は人間の持つ三大欲求の一つと言われているように重要なのは、お前にも理解出来るよな?」
当たり前だと言わんばかりの頷き。
「だから、俺は帰って寝る。分かったか?」
「駄目」
はい、ふりだしに戻った。バカにしてるのか、と言われるかと思うほどに分かりやすく説明したのに即答された。何でだよ。
「あのな、長門?」
もう一度馬鹿馬鹿しいやり取りを繰り返さんとした俺は見てしまった。大きく首を傾げ、自らの言葉に戸惑う長門有希の姿を。
「情報の伝達に齟齬が生じている。わたしの語彙が不足している為」
恐らく長門の脳内では俺などには想像出来ないほどの速度で言葉が回転しているに違いない。それでも、語彙が足りないというのか?
長門は、未だ解決していない数式を解いているかのようにたっぷりと間を空けて、
「本日夜半、わたしにエラーが発生した。原因は不明。わたしは今まで起こり得た全ての事象に基づき、あなたへの連絡が最適の手段と判断し、実行に移した。そして、あなたの到着を確認、あなたを視界に捉えた瞬間にエラーの消去を確認した」
首を傾げながらという凡そ長門らしくないポーズで俺に説明してくれた。つまりは俺が来たことによりエラーとやらが解消されたので問題が無くなったということなのだろうか。
「そう」
そう、と言われても。そんな馬鹿な話があるかい。それに、さっきの話には矛盾とも言える疑問がある。
「おかしくないか? 問題があるのなら、まず最初に俺に話をするんじゃないだろ。現に、前は古泉と朝比奈さんに先に連絡してたじゃないか」
一万回以上繰り返されたはずの夏休みで、俺は最後まで知らされるのは最後だった。当たり前だ、あくまで俺は何も特徴の無い一般人で、事後承諾のような状況を見て驚くのが関の山なのだからな。
それなのに、今回の件に限って俺が一番だなんておかしいじゃないか。そりゃ長門の力にはなってやりたいが、自分の無力というのも承知しているつもりだ。少なくとも俺を見たくらいで解消されるような問題などあるはずがない。
だが長門は傾げていた首を元に戻し、俺を真正面から見つめて、こう言ったんだ。
「あなたしかいなかった。あなたが視界にいない、それを認識した瞬間からエラーは発生した。わたしの記憶メモリの全てがあなたの映像で占められ、消去不可能。わたしは、ただあなただけを脳内で見つめ続けていた。それを解消する為には、現実のあなたを確認、認識するしかないと判断、あなたにわたしの部屋まで来てもらうことにした。結果、あなたの存在を目視することにより記憶メモリが上書きされ、わたしのエラーは解消された」
 分かった? とばかりに上目遣いで俺を見つめる長門の顔を、俺はまともに見る事が出来なかった。あのなあ、お前とんでもない事言ってるんだぞ、分かってんのか?
エラーの原因が不明だなんて言ったけど、分かり易過ぎるほど分かりやすい。要は、俺がいないからエラーが起こって、俺の事ばかり考えていた。そして、どうしようもないから本人を呼んで、俺の顔を見たからエラーが治ったと。ということは何か? 長門は俺を見ないとエラーを起こしてしまうほど、俺を見つめていたとでも言うのか? そんなアホな、自意識過剰だと思っていた長門の視線が本物だったとでも言いたいのかよ。
「あ、あー、あのな、長門?」
「なに?」
本当に分かっていないのか、いつもと変わらない無表情で長門は俺を見つめている。いいや? 長門は話をする時は正面から人を見る奴だったが、こんなに目を覗き込むように話すような事はしなかった。
つまり、分かっているんだ。長門は、俺を見つめている。俺だけを、見つめている。
 その黒く大きな瞳が俺を吸い込むように捉えて放さない。整った鼻筋、桜色の薄く小さな唇。いかん、意識するとこれだけの美人と二人っきりというシチュエーションがおかしい。長門は誰からみても美人の範疇に入れていいくらいの美少女で、それが同級生の男子を一人暮らしの家に夜中呼び出して二人っきりで見つめ合っていて、あなたを見ていないと駄目だとか言われている。
「な、長門……」
「わたしは、」
 長門の唇が小さく開く。その動きすら目で追ってしまう。
「現在、あなたを視界から失えば同様のエラーを起こす確率が92%、残りの8%はエラーを起こす以前に機能を停止する可能性。あなたを見失いたくない、だから駄目」
 いつの間に移動していた? 真正面から捉えていたはずの長門が俺の隣に座っている。そして、俺の制服の袖をそっと摘んで。見上げた瞳が潤んでるように見えるのは気のせいだろうか? 半開きになった唇が悲しげに見えてしまうのも俺が勘違いしているんだと言ってくれ。
 だが長門は俺の袖を摘んだまま俯いてしまう。こんなにも弱々しく、こんなにも寂しげな長門など見た事がない。





 やがて、顔を上げた長門は俺の顔を正面から見つめ、
「…………駄目」
 小さく呟いた。
「情報を正確に伝えることが出来ない。わたしの中でエラーが増加してはあなたを見て解消されている。その事象をあなたに伝えることが出来ない。わたしは、わたしのエラーの原因も解決手段も持たないままで、あなたに全てを委ねるしかない。わたしは、どうすればいいの?」
 それは不安、なのかもしれない。今まで長門が経験したことのないであろう自分自身の変化に、自らがついていけずに戸惑っている。
 けどな? それは当然なんだ。お前が戸惑い、不安になる原因が俺には何となく分かる。ただ、照れくさいだけで。
長門、お前はそのー、俺を観測してたのか?」
「そう。あなたの観測は必要事項」
「観測と観察は違うのか?」
「観測はデータとしてあなたの存在を認識すること。観察は視認してあなたの存在を確認すること」
「……観賞ってなんだ?」
「あなたを見つめているだけで満足していること」
 満足、ね。それが答えだ、お前は既に正解を導いていた。それを気付いていないだけだ。
「なあ、そういうのを俺達は感情って呼んでるんだ。今までお前がやってきた事は、感情の趣くままに行動してたってだけなんだよ」
 観測は役目なのだろう。観察は役目の中に楽しみを見つけた。そして観賞は趣味というか、楽しみそのものだ。その全てが俺、というのが面映いが。
「感情…………これが、感情?」
 ああ、間違いないだろうな。ただ、
「わたしの現状を感情という概念に当て嵌めた場合、エラーに該当する部分も説明が可能。わたしの感情、それは……」
 待ってくれ。俺は長門の言葉を遮った。
「何故?」
「あー、あのな? 多分だけど、お前の次に言うセリフが分かるんだ。だから、それを言うのを待ってくれないか?」
「どうして?」
 それは、俺自身がバカだからだ。長門も一人の女の子なのだということを失念して、ここまで言わせてしまった。感情というモノに戸惑い、不安になっている長門がようやく見つけたその言葉は、何よりも俺がかけるべき言葉だったのだから。
 俺がかけるべき言葉? それは何だ? つまりは俺が長門に対してどういう感情を持っているのか、そういうことなんじゃないのか。
 俺にとっての長門有希とは何だ? ハルヒを観察する為にやってきた宇宙人の作ったアンドロイド? 何でもアリのインチキ能力を持ったSOS団の頼れる守護神? 何度も俺を救ってくれた命の恩人? 
 


 …………アホか。



 長門は確かに頼りになる俺達の大事な仲間だ。けど、それだけか? あいつは全部を背負い込んで、感情っていうものに悩んだ挙句に世界まで改変しちまったじゃないか。
 そんなあいつは誰よりも真面目に、真剣に自分と向き合っている。戸惑い、悩みながら、それでも成長しているんだ。その長門有希を見ていた俺は、長門にどういう気持ちを抱いていたと言うんだよ。
 結論は、出ていた。今までは無自覚だっただけで。実行する度胸も無かったと言えるのかもしれない。
 しかし、全ては言い訳だ。長門が導き出した答えに、俺も真剣に応えよう。
「いいか、長門。お前が今感じている感情が俺と同じものならば、俺も持っているものであって、それは多分だけど女のお前に先に言われるより男の俺が言うべきものだと思うんだ」
 黒曜石の瞳に浮かぶ光を覗き込むように、俺は長門を正面から見つめる。一度大きく息を吐き、決心を固める。言えよ、言うんだ、俺。思い切り腹に力を込めて、俺は長門に自分の感情を告げた。
「間違いじゃなければ、お前もそう思ってくれていると思う。だから、俺から言うぞ。…………好きだ。俺は、長門、お前が好きなんだ」
 これが俺の出した答えだ。今までも長門を見ていた。そして、いつの間にか惹かれていた。頼りすぎている自覚はある、だからこそ頼られる自分でありたい。それが、俺が長門に惹かれた理由なのかもしれない。今まで気にしていなくても、長門を目で追っていた。その感情の名前を、長門、お前が今名付けてくれたんだ。
 そして長門は、時が止まったかのようにたっぷりと間を空けて、
「…………そう」
 それだけ言うと、糸が切れたマリオネットのように俺の胸に倒れこんできた。
「な、どうしたんだ、長門?」
「分からない。分からないけれど、溢れ出したエラー…………感情が抑えきれない。行動、言動、共に制御出来ない」
 俺の胸に抱かれた長門が見上げてくる。その瞳に輝く光を湛えて。
「あなたが、好き。わたしの感情を表す語彙が足りない。ただ、聞いて。あなたが、好き。好き、という単語に様々な意味が込められている、それを理解した。故にわたしは、あなたに告げたい。あなたが、好き」
 いや、分かったから連呼しないでくれ。流石に恥ずかしすぎる、上目遣いで見つめられながら好きだと言われ続けているなんて。
 長門は、自分に芽生えた感情が制御出来ないと言った。その結果が俺の胸に埋まって上目遣いで告白の連呼だ。分かっていただろ? 長門という奴はこういうヤツなんだよ。
 だから俺は、何も言わずに長門を抱き締めた。言葉じゃなくても伝わるものがあるんだって事を伝える為に。
「……わたしも」
 そっと腕が回されて、お互いに抱き合う。長門の温もりを感じ、胸が熱くなるようだった。何も言わなくても分かるだろ? お互いの気持ちが繋がっているんだっていう事を。
 返事は無く、回された腕に少しだけ力が込められた。分かってもらえたってとこだろうな。







 こうして、俺は長門と所謂恋人、と云われる関係となったのだった。
「なあ、長門
「なに?」
「そろそろ帰らせて貰えないか?」
「やだ」
 ああ、そうですか。どうやら今晩は帰れそうも無い。親への言い訳は…………恋人の情報操作に頼りたくなってしまうのはまずいよな。
「任せて、情報操作は得意。わたしとあなたは既に入籍していて、このマンションにて生活している事にする。週末に実家に帰ってお義母さんと義妹に会うのが習慣、早く孫の顔が見たいと言われるのが常」
 そこまでやらないでくれ、まだ高校生活を満喫したいから。しかし、感情というものを手に入れた俺の彼女は上目遣いで、
「情報操作の必要は無い。これは、わたしとあなたの未来。わたしは、それを望む。あなたも、そうであって欲しい。駄目?」
 なんて首を傾げるものだから。
「駄目な訳無いだろ」
 軽く頭を撫でてやると、長門は目を閉じて満足そうに「そう」と囁いたのだった。
 やれやれ、これからどうなるんだろうな。SOS団の連中には何て言えばいいんだ? 先の事を思えばため息も吐きたくなってくる。
 だが、差し当たっての問題は。
 この感情を抑えきれない甘えん坊の恋人に、明日以降家へ帰らせて貰うように交渉する事なのだろうな。何だったら家に呼んでもいいかもしれないくらいだ。





 この俺の胸に顔を埋め、幸せそうに目を閉じている可愛い恋人、長門有希を、だな。