『SS』 観測観察観賞感情 3

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 翌日。この日は朝から意外な展開だった。というのも、妹に叩き起こされたのはいつもどおりだったのだが枕元の時計を見て驚く。
「おい、随分早いじゃないか! もう少しは寝かせろよ!」
 何なんだ、今日は何もイベント事など無いだろうが。ところが妹は満面の笑顔で、
キョンくん、お迎えだよ〜」
 って、お迎えだと? 一体誰だ、ハルヒか、それとも古泉なら異常事態だぞ。俺は急いで着替えて顔を洗い、飯もそこそこに玄関まで飛び出してみると別の意味で異常な光景だった。
「何でお前がここにいるんだ?」
 玄関先で待っている小柄なショートヘアに、俺は項垂れて訊かざるを得ない。
 しかし、長門は朝飯をゆっくり食えば良かったと思うくらいにたっぷりと間を空けると、
「迷惑?」
 とだけ言って首を傾げてしまった。迷惑と言われれば、貴重な朝のひと時を、
「んな訳ないだろ、それにしても何でわざわざ迎えに来てくれたんだ?」
 長門が迎えに来るなど異常事態への幕開けかもしれない。なので、不満を飲み込み疑問を口にする。それに対する長門の回答は、
「…………特に意味は無い。迷惑?」
 い、意外過ぎる一言と斜めになった首に呆然としてしまった。意味も無く遠回りしてわざわざウチに来たというのか、こいつは。
 呆れながらも長門の首の角度を戻せるのは俺しかいないので、
「迷惑だなんて言ってないだろ? わざわざ迎えに来てくれてありがとうな」
 そう言うしかない。「そう」と、ようやく元の位置に頭を戻してくれた長門は相変わらずの無表情だったのだが、
「早く」 
 と、俺の制服の袖を引っ張るのだった。
「はいはい、分かったよ」
 もしかしたら昨日の件で俺が遅刻するとでも思ったのかもしれないな、ハルヒに注意でもされたのかもしれん。そう考えれば長門が先回りして俺を迎えに来るというのも頷けなくはないな。
 こうして妹が嬉しそうに手を振る中で俺と長門は並んで通学する事となった。自転車に二人乗りは違反なのだが、そんな事は目を瞑っていただこう。
 長門は荷台に横座りで座る。普通なら落ちないように注意するところなのだろうが、長門だから心配もしていない。そんな長門が制服の背中をそっと摘む、その遠慮がちな態度がらしくて笑いそうになった。
 まあ、たまにはこういう登校もいいもんだ。俺は機嫌よくペダルを漕ぐのであった。





 教室に入るとハルヒが窓の外を眺めている。どうやら俺に気付いていないようなので、国木田と目でだけ挨拶をしてそうっと近づき、
「よう、ハルヒ
 と、後ろから声をかけると、「ヒャアッ?!」と裏返った声を出した挙句に、
「な、な、な、何でこんな時間にあんたがいるのよっ?!」
 などと言われて首根っこを掴まれてしまうのだった。しまった、やり過ぎた……
 俺は午前中の授業を刺す様な視線と、実際にシャーペンが刺さる背中の痛みに耐えながら過ごさねばならなかったのであった。







 昼休み。弁当箱を持ったまま俺は立ち尽くす事となる。まさかの三日連続昼休みに長門の顔を見る事になるとは予想だにしなかったからだ。
「おい、まさかまた財布を忘れたなんて言い出すんじゃないだろうな?」
そうだとすれば些か困った事になる。まず、俺の財布の中身とて有限であるという事、そしてハルヒが機嫌を悪くするだろうという予測だ。長門に奢るという点については、学食という事もあり負担は少ないので是非も無いのだが、そうするとまた何も言われなかったとハルヒが機嫌を損ねるに違いない。かと言って長門ハルヒの気持ちを読まずに俺に話しかけるとも思えないのだが、そこんとこはどうなんだ?
しかし長門は、不安のあまり財布を取り出しかけるくらいにたっぷりと間を空けると、
「これ」
と言って手に提げていたビニール袋を持ち上げた。中身はコンビニ弁当だ、どうやら俺の家に来る前に買っていたらしい。
「ええと、弁当を買ってるならいいんじゃないのか? わざわざ俺のとこに来なくてもさ」
ちゃんと買ったぞ、と自慢してるつもりなのだろうか。だとすると、俺は「良く出来ましたねー、えらいぞー」と、長門の頭でも撫でてやればいいのか? どこの『はじめてのおつかい』だ、それは。
だが他に理由など………………あるな。というか、最初にそっちに気付けよ。
「つまりは何だ? 一緒に弁当を食おうって、そういうことか?」
一番分かりやすい結論に達するのに時間がかかったのは、俺だけのせいではないはずだ。あの長門有希が誰かと昼食を過ごす為に誘うなど考えられないだろ? 少なくとも俺は考えていなかった。百歩譲っても、誘うならハルヒか朝比奈さんのはずだしな。つまり、何で俺なんだよ。
「そう」
けれど、頷かれてしまえば何にも言えない。長門が俺と昼飯を食う為にわざわざ弁当を買って、しかも誘ってくれている。これは凄い事なのではないのか? 女子に一緒にご飯食べようと言われる日が来るとは、妄想していても現実になるとは思ってなかった。
思わず即答でいいぞ、と答えそうになったが、改めて考えれば危険性が高い。どのような危険かと言えば、ここに居ないヤツの存在ということになる。もしもハルヒがここにいれば、長門が俺を待っていただけでぶっ飛ばされそうだ。主に俺が。
なので、教室内を振り返って確認してみれば、口の軽い奴は既に弁当に夢中であり、口の堅い奴は承知したとばかりにオーケーサインを送ってくれた。持つべきものは友人だ、WAWAWAとか言わない方の。他のクラスメイトは、大体ハルヒとは距離を開けたがっているか、無関心の為、そんなに気にしなくてはいいようになっている。何より、長門もSOS団の一員である事は校内の人間なら大抵は知ってしまっているので、目くじらを立てるのはハルヒ一人なのだ。
「分かった、そんじゃどこかで飯にするか。出来ればハルヒに見つからない程度で、静かなとこがいいけどな」
考えられるのは部室辺りだが、旧校舎での飲食は基本禁止のはずだしな。まあ、朝比奈さんのお茶の件もあるのでSOS団の部室ならいいような気もするが。
「こっち」
それを聞いた長門が俺の袖を摘むと引きながら歩き出した。おいおい、またか。昨日の再現に苦笑しながらも俺は長門に促されるままに歩き始めたのだった。

 
長門に連れて来られたのは屋上だった。鍵がかかっていたはずだが、そこは長門だからな。二人で弁当を広げてのんびりと弁当を食うと、天気もいいし気分も良くなるというものだ。
「けどさ、昼飯はいいけどコンビニ弁当ばっかじゃ体にいいとは言えないだろ?」
「…………栄養価に問題はない」
 いや、そういうもんでもないんだよ。こう、精神的なもんとかさ。それに、栄養価でいうならコンビニ弁当は栄養過多のはずだ。まあ、長門のエネルギー消費量を知っている訳ではないが、普段の量からすれば足りないのかもしれない。
 だが、俺がお袋に作ってもらった弁当(栄養価でいうなら冷凍食品が多いこれもどうかと思うが)の横でコンビニ弁当というのも物悲しいというか、悪い気すらしてくるもんだ。長門は一人暮らしであり、自分で作らない限り買ってきた弁当だけなのが分かるだけに余計に申し訳ないというか。
「今度お袋に頼んでお前の分の弁当でも作ってもらうか。まあ今まで世話になってるしな、但し量については足りないかもしれんぞ」
 ふと思いついて口にしてみた。お袋がどう言うかは分からないが、まあ一人分くらいならどうにかしてくれそうだしな。弁当箱は妹の遠足などに使うやつがあるからいいだろ、長門の食欲に見合うとは思えないがそこは我慢してもらうしかない。
 考えてみれば実現性も高く、俺としても長門の食生活は出来合いやインスタント中心であることに一言言いたいところもあったのでいいかもしれない。
「期待している」
 それを聞いた長門は、無表情に一言で答えた。けどな? そんなに瞳を輝かされるとお袋の方がプレッシャーを受けちまいそうだ、俺としても頼みにくいというか。そうだな、少しは料理でも習ってもいいかもしれないなんて思えてきちまうな。
 そんな感じで食後も屋上でまったりと過ごしてしまい、午後の授業は始まる直前まで教室に居なかった俺がハルヒの追求をどうにか逃げ切れたのはあいつが学食組で昼休みの間何をしているのか知らないからだろう。ついでに、口の堅い友人を持ったこともプラスだったと言っておこう。中学時代から世話になるな、国木田。

 





 放課後。ハルヒは今日は掃除当番ということで俺一人で部室へと向かう。たまには首周りが楽な状態で歩きたいもんだ、って毎回あいつに引っ張られてる訳でもないはずなんだが。
 まあ、気楽にのんびりと思いながらも部室に行かないという選択肢を持たない自分に苦笑いは浮かべたっていいだろう。すると、偶然なのか隣のクラスから出てきた長門と合流する。
「今日は遅いじゃないか、掃除当番って訳じゃないよな?」 
「…………?」
 そうか、首を傾げるのか。どういう意味なんだ。それと、背後から興味津々といった感じの視線を感じるのも気のせいだよな? 何故か六組が騒がしいようなんだけど。
「まあいいか、どうせ部室に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」
 珍しく長門が数センチ単位で頷き、後ろから女子の歓声が聞こえた。何故だ。しかし、そのような背後関係は長門には無縁なのか、
「早く」
 と、俺の制服の袖を引っ張るのだった。随分積極的というか、今朝もあったな。
「はいはい、分かりましたよ」
 どこか生暖かい雰囲気に送り出されるように、俺は長門と文芸部室へと向かうのであった。それにしても長門の行動がゆっくりしているような気がするな、それだけ平和だということなのかね。
 部室に着いたらノックをするのは礼儀であり、危機回避である。すると中から、
「はあい、開いてますよう」
 と聞こえたら安心していい。ドアを開けばそこにはメイドさんが待っていてくれるからだ。ついでにニヤケ面のハンサムもだな、さっきまで二人きりだったというのが羨ましいやら腹立つやらだ。それでも優しき天使にまずは挨拶だな。
「こんにちは、朝比奈さん」
「こんにちは、キョンくん。と、長門さんも」
 ここで朝比奈さんが不思議そうに訊いてきた。
「めずらしいですね、長門さんはいつもあたしより先に来ているんですけど」
 やはり誰が見ても珍しいものであるらしい。俺の横に立つ長門は何のことも無さそうだが、俺も不思議だと思ったくらいだからな。それでも長門が何か言い訳をするでもない様子なので、朝比奈さんもそれ以上追及するつもりはないらしい。
「それじゃ、お茶淹れますね」
 いそいそと用意を始めたので、俺もいつもの席に着く。すると正面に座っていた古泉が、
「これは珍しい組み合わせですね、涼宮さんは掃除当番ですか?」
 と訊いてきたので、そうだと答える。
「そうですか、では涼宮さんが来るまでに一勝負といきましょう」
 古泉が優雅な手付きでカードを切る。お前、そういうのは上手いのに何で勝負になると弱いんだよ。それに一勝負と言ったが、ハルヒが来るまでに何回も決着がつくと思うぞ、主にお前の敗北で。
 そんな勝負が見えているとも言える俺達のカードゲームなのだが、どこかおかしい。古泉も考えながら視線がよそを向いてばかりだ。
「あ、あのぅ〜、お茶はどうしましょう?」
 朝比奈さんもお盆を手に戸惑っているのだが、俺だってやりにくさを感じる。だから、こう言うしかない。
長門、せめて座って観てくれないか? 妙なプレッシャーを感じちゃうからさ」
 机の傍に棒立ちで見下ろされてもなあ、朝比奈さんもお茶をどこに置いたらいいのか困ってるじゃないか。
「そう」
 長門は何事も無かったように窓際から椅子を持ってきて座った。どちらかといえば俺の方に寄っているような気もするが、隣にくっ付かれた訳じゃないから気のせいだろうな。
 朝比奈さんも安心したようにお茶を置いて、俺と古泉はゲームを続ける。長門も別に口を出すわけでも無く、俺達のゲームを眺めていたのだが古泉の出す手が悉く裏目に出るのを見て面白いのだろうか。
「おっはよーっ! みくるちゃん、お茶よろしく! って、何してんの?」
 掃除当番で遅れていたハルヒがけたたましくドアを開けた途端に俺達を見て疑問を投げかける。
「何っていつものゲームだが」
「そうじゃなくて、有希が何してんのって訊いてるのよ」
 すると長門は、俺と古泉が1ターンずつ行動が終ってしまうくらいたっぷりと間を空けて、
「観賞」
 とだけ言って再びゲームへと視線を移す。ほぼ勝敗は決しつつあるのだが、それでも面白いもんなのかね。
「観賞ねえ、キョンと古泉くんのゲームなんか見て面白いのかしら?」
 失礼な、これでも毎日やってるから腕は上がっているはずだ。但し、相手の実力が上がってないから保障は出来ないがな。





 結局、ハルヒまでゲーム見学を始めてしまい、仕舞には口まで出してきたので普段よりも賑やかに団活は過ぎていった。俺相手にですら勝てない古泉がハルヒに圧勝されて少しへこんでいたのは仮面では無く本音かもしれないな。
 朝比奈さんまで参加した、ちょっとしたSOS団ゲーム大会はハルヒの圧勝で終わり、ご機嫌を取る事が出来た古泉も勝敗はともかく安心したようだった。
 しかし、あの負けず嫌いの長門がほとんどゲームに参加しなかったのは何でだろう。ハルヒ相手なら分かるが、俺と対戦した時も視点を固めたままでカードも見ずに負けてしまったのだから。
 もしかしたらハルヒに遠慮したのかもしれないが、それも長門らしくないな。などと思いながら珍しく罰ゲームでジュースを買いに行かされる古泉を待つ俺なのだった。







 帰り道。ゲーム大会での結果に満足したハルヒが朝比奈さんと話しながら帰っている。
「偶然とはいえ助かりましたね、ここ最近の涼宮さんとしては一番安定しています」
「まあな。それに面倒なイベントなんかやらなくてもハルヒの機嫌を取る方法も分かっただろ」
 皮肉に気付いた古泉が肩をすくめる。しかし、それだけで済まさないのがこいつだ。
「それでも、何度も使える手段ではないでしょうね」
そりゃそうだ。結局何らかのイベントが必要になってくる時期が来るのは間違いないだろうな。それが分かってるからこそ、俺も肩をすくめて答えてやるしかないのさ。
「それにしても、長門さんにしては珍しい一日でしたね。いや、我々と交流を持たない訳ではないのでしょうが、ここまで積極的というか、アプローチを長門さん側からかけてくる事など少ないものですから」
「そうだな。けど長門はカマドウマの件もあるが、ハルヒの退屈を紛らわすイベントなんかをやる事はあるぜ?」
「あれは涼宮さんの描いたロゴが起因だったじゃないですか。それを上手く利用したのは流石ですが、今回のように自主的に行動するパターンというのは初めてと言ってもいいのではないですか?」
言われてみるとそうかもしれない。かと言って、何か裏があるようにも思えないのだけどな。
「あいつもたまには俺たちに交ざりたいとでも思ってくれたんじゃないか? それだけ慣れてきてくれたと考えた方が正解だと思うぞ」
「そうですね、長門さんの変化がいい方向に向かってくれていると思ってもいいかもしれません」
そういうことだ。まあ、俺達の付き合いもいい加減長くなってきてるからな。
「けどですね? このままでは僕がゲームにおける最弱の謗りを免れなくなってしまいます。それだけは何とか回避したいところですが」
心配するな、このまま卒業までお前のゲーム最弱の座は譲られる事はないだろうからな。そう言うと、片手で顔を覆って嘆息する。そういう姿まで様になるのが腹立つんだけどな。まあ、こいつらしいと言えばそうなるのだが。
しかし、長門のいい変化か。確かにゲームなどに興味を持って俺たちと遊んだりする事に喜びを見出してくれるのなら、それはとてもいい事なのだろうと思う。そうやって、少しづつでも俺たちに近づいてくれるのならば。
ふと、前を歩く長門が振り返った。そして俺と視線が合う。ちょっと笑って手なんぞ挙げてやると、黙って振り向いてしまった。
「どうやら聞こえていたのですかね?」
かもな。怒ってる訳じゃなさそうだが、あまり話題に挙げるなってとこか。古泉と二人、顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
そんな集団下校もいつもの場所で、
「それじゃまた明日! 有希、今度は真剣勝負よ!」
ハルヒが元気良く手を振り、朝比奈さんと古泉が後に続いて、残った俺と長門もここでお別れとなる。
「じゃあ、俺も帰るか。長門、今日は楽しかったか?」
楽しくなければしないとは思うけれど、長門が何を思って俺たちとゲームなどしたのかを訊いてみたかった。
すると長門は、もしかしたら機嫌を損ねてしまったのかと不安になるくらいたっぷりと間を空けると、
「かなり」
とだけ言った。良かった、と胸を撫で下ろす。いや、何で長門の機嫌をそこまで伺ってるんだ、俺は。
「充分に観賞出来た。わたしはそれだけでいい」
観賞ねぇ、ハルヒも機嫌が良かったから長門的にも満足出来たのだろう。そう思った俺もかなり面白かったと言えるしな。
「たまにはいいだろ、ハルヒのご機嫌取りって訳じゃなくて読書ばかりじゃない方がいいぞ」
 ところが長門は首を傾げる。あれ? 何かおかしな事を言ったか、俺。読書よりも、ってのが悪かったのだろうか。
「あ、あー、すまん。けど、読書ばかりが大事じゃないんじゃないかと思うんだ。俺ももっとお前の事が知りたいというか、お前と話したりしたいんだよ」
 いかん、何か失礼なような気がする。というか、ナンパじゃないか、これ? 長門の事が知りたいって、女子に何言ってるんだ。
 少々穿ちすぎなのかもしれないが、何となく照れてしまって話せなくなった俺に、
「わたしも」
 長門は静かに口を開き、
「もっと知りたい」
 それだけ言うと、不思議そうな目をしたまま俯いた。何を知りたいって言うんだ、長門。それを訊く前に顔を上げた長門はいつもの無表情だった。
「…………また」
「あ、ああ。またな」
 どこかぎこちなさを感じつつ、長門がマンションのエントランスに消えるのを見送った。





 自宅の部屋にまで戻った俺は、着替えもせずにベッドの上に倒れた。やばい、思い出すだけで顔が赤くなりそうだ。
「何やってんだ、俺……」
 言うに事欠いて長門に対してお前の事が知りたいなんて、長門じゃなければ誤解されかねないぞ。間違いなくハルヒなら勘違いして俺を責めるに違いない、二人の時で助かった。って、考えてみたら二人きりというのもまずいだろ。
 いかん、何かおかしなループを繰り返している。そういえば、ここ数日長門と視線が合う。俺が長門しか見てないような気すらしてくる。それとも長門が俺しか見ていないというのか。
 自意識過剰なのか? それとも俺は長門を、長門しか見ていないというのだろうか?
 分からないが、長門の瞳が脳裏に浮かぶ。それは俺を、俺だけを見つめている。
「アホか」
 自分に呆れながらも、長門の顔しか浮かばないのでとりあえず目を閉じた。
 やはり長門が俺を見つめていたのだけれど。