『SS』 朝倉涼子の逆襲 3
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朝倉涼子の逆襲(3)
「ずいぶんと面白い真似をしてくれましたね。朝倉さん」
場所は午後も三時を回った並木通りだ。SOS団御用達スポットの一つ、俺が誰と組んでも何回かに一回は必ずここを通っている。
さて、手紙をひらひらさせながら、実に爽やかで人を殺せそうな笑顔を浮かべる喜緑さんに、
「よよよよよよよよくぞ受けてくださいましたっ!」
あーやっぱりまだ震えてるなぁ……朝倉のやつ。顔が引きつってるし思いっきり涙目で、へっぴり腰の上に内股になっているから今にも漏らすんじゃないかと勘ぐってしまうぞ、これは。
「……今から決闘するってのに、やる前から気圧されてどうするんだろ……」
煽った本人が言うな、って気はするが、腕を組み、嘆息している魔法使いの呆れた言葉に俺も同意する。
もうちょっと何とかしないと、本当に三十倍返しされてしまうぞ。
「アサクラさん!」
「は、はい!」
呼びかけたのは魔法使いさんだ。
「相手の力を知らずに挑むのは単なる馬鹿だけど、相手の力を知って挑むのは勇気なの! それが分かっていれば震えは止まるわ!」
「あ――!」
一瞬、朝倉が何かを閃いたような顔になって、
「分かりました!」
次の瞬間、実にいい笑顔に――そうだなーあんまり思い出したくはないが、あの夕日の教室のときのような笑顔だ。無邪気だけど自信に満ちている、とでも言えばいいのか……止めよう。思い出すと、とってもダークになる。
「その後を思い出せばいい。わたしたちが初めて触れ合ったあの日、わたしはあなたの言葉が胸に染みたことを今でも昨日のことのように覚えている」
なるほど。やっぱり、お前がメガネをかけなくなったのはそういうわけだったんだな。
「そう」
うん、可愛いなぁ、こいつ。クーデレに素直デレが加味されるってのはいいものだ。俺も人目を憚らず、有希を抱きしめてやれるってもんだ。
「……カメラの準備できてる?」
う! なんつードスの利いた声。
「バカップル行為は二人きりのときに心置きなくやってちょうだい。さっき、ナガトさんにもそういうのに役立つ魔法教えてあげたから」
は、はい……
魔法使いの凄みに押されて俺は右手にハンディカメラを構えた。その近くでは、有希に呼び出された長門がレフ板を持って掲げている。
だよなーイチャラブ風景は当人たち以外は誰しもがやさぐれるからなぁー。
以前、迷い込んだ並行世界でそんな俺とハルヒを見たことがあったが、あん時ほど、あの世界の長門に協力を承諾してもらうことに困ったことはない。なんせ、自分もそっちの世界に連れて行け。そうでなければ協力しない、なんて言われて、なかなか応じてくれなかったもんなぁ……
「あらあら。本当にわたしに勝てると思ってるのですか?」
「やってみなければ分からないです! こう見えてもわたし、喜緑さんの知らない力を身に付けているんですよ!」
言って、朝倉は蒼葉さんのマジックロッドを目の前に翳し、
「ところで、その格好は何ですか? それは以前、映画のときに長門さんが扮していた格好ですわよね?」
喜緑さんが問いかけているがそうなのだ。朝倉は今、有希が映画撮影のときに着ていた、紺のトンガリ帽子と北高セーラー服の上に帽子と同じ色のマントを羽織った魔女っ子スタイルでここにいる。
いちおー出るところが出ていて、締まるところは締まっている朝倉だから、
「何かイタい」
「イタいって言うなー! 自覚してるんだからー!」
ツッコミを入れる有希に、真っ赤になって肯定して逆ギレする朝倉。
それよりもいい加減に始めないと、決闘の雰囲気が台無しだ。つかとっくに台無しになっているけどな。
ちなみに俺はなぜ、朝倉がこんな格好をしているかの理由を一つだけ知っている。
それは、この魔法使いの提案で、(向こうの世界にも映画ってあるのか?とは思ったが)わざわざ映画撮影の形を取ったからだ。それは何故かというと、喜緑さんと朝倉が超常現象的な力を使おうが、彼女がこの場にこの格好でいようが問題ないようにするためである。
まあ、映画撮影であれば派手なアクションがあろうと、髪が桃色だろうと、宝石の嵌ったごっついショルダーガードを付けていようと、ライトグレーのマントを靡かせていようと、誰しもが演出だとしか思わんからな。しかも完璧にその作戦は的を得ている。
いつの間にか周りをギャラリーが埋め尽くしているんだけど、好奇の視線には晒されてはいるが、それは俺たち全員に注がれているのであって、誰しもがこの人のことを怪しんでいない。つってもよく考えたら超常現象的な力ってやつは後々コンピューターグラフィックやヴィジュアルエフェクトで入れるものだと思うのだが、ここが魔法が認知されている世界から来ているこの人には分からない部分なのかもしれない。もっとも、それでもおそらく、周りのギャラリーは、今、この場で超常現象的な力が起ころうとも、「撮影だから」という強力なフレーズで気にしない可能性が高いのも確かだ。
ただ他の理由については知らん。この魔法使いが教えてくれなかったからだし、どうやら有希にも見当が付かないようだ。じゃあ何で、他に理由があることに気づいているのかというと、映画撮影の形を取ると提案した彼女が一通りの説明の後、わざわざ「まあ、他にも理由はあるけど」と言ったからである。
そしてこの魔法使いは、さっき朝倉も言ったように、俺たちと出会ったのが午前の話で、この呼び出し時間までの間、有希に一つ魔法を教えていた以外に、朝倉にも結構多くの魔法を教えていた。んで、あの杖を貸したんだ。なぜ有希にも教えたかというと、長門を呼び出してもらうための交換条件だそうだ。そりゃ、ひょっとしたら(喜緑さんは俺の予想通りのことをしてくれていたので)長門は来るのを拒む可能性があったけど、それでもオリジナルである有希の指示には基本、従うようになっているからである。有希を動かすためにわざわざこの魔法使いが有希が望む魔法を一つ提供したんだ。
どんな魔法かって? そりゃ、ご多聞に漏れず、後ほどってやつだ。つーか、現時点の俺は知らん。
もっとも有希も朝倉もさすがは宇宙人が創り上げたヒューマノイドインターフェイスだけあって、魔法使いの教えた魔法を情報プログラミング化し、インプットするのは容易かったらしい。ただ有希曰く、魔法、言い換えて意図的に超常現象を発生させる力のプログラミング化は有機生命体である『人』には不可能とのことだ。
「そろそろ始めましょうか――」
「はっ!」
先ほどまでの和みに和みまくった空気はどこへやら。
喜緑さんの、冷徹な笑みが朝倉を一気に緊張の渦へと巻き込んで、
「ええ!」
叫んで朝倉も対峙する。しかし、その表情には、喜緑さんとは正反対に余裕の『よ』の字もない。
「では――」
喜緑さんがすっと左手を翳し、
強烈な光が放たれる!
それが戦闘開始の合図だった!
「ん?」
その光は何か熱線のようなものだったのだろう。朝倉が宙を舞うように避けて――
「おやおや。飛んで逃げるとは。それでは狙い撃ちにしてください、と言っているようなものですよ」
「今度はこっちの番よ!」
が、朝倉は喜緑さんの嘲笑に耳を貸さずに、空中でゆったりした鳥の羽根の羽ばたきの様に両腕を交互に上下させ、そして、徐々に上体を逸らし、半身になって、片足を少し上げ、右手を高く、左手を低く、しかし平行に翳す。その佇まいはあたかも優雅な白鳥のようだ。
ん? 待てよ、このポーズ、どこかで見たような……
「ダイヤモンド――」
あ。思い出した。
「ダストォォォ!」
朝倉が拳を喜緑さんに向けて突き出すと、をを! 本当に巨大な雪の結晶が飛び出すじゃないか!
「あら? この情報操作はわたしたちにはありませんでしたね?」
しかし、喜緑さんもさるもの。余裕の笑顔を浮かべて後方に飛び退いてそれを避ける。雪の結晶が舞い降りた、元は喜緑さんが立っていた場所は一気に凍り付いていた。
むろん、朝倉も単なる牽制でしかなかったはずだ。要は、自分が着地するための時間を稼いだに過ぎない。そして、着地すると同時に、
「まだまだぁ!」
今度は腕を目の前に拳を組んで引っ付けたぞ? んで、即座に水平に広げて……
「鳳翼天翔!」
待てい! 本当にそれで――って、マジで炎の孔雀が飛び出しますか!?
「ええっと……その魔法の名前はアルゲイルフォルスなんだけど……」
あれ? 何かこの人、苦笑を浮かべているし。
「おや? これもわたしたちに無い情報操作ですね」
しかし、その割には喜緑さんは余裕の表情で目の前の炎の孔雀に手を翳す。
わぁお! 何をぶつけたのか知らんが孔雀が消えたじゃないか!
「くっ!」
「なかなか面白いことができるようになりましたね。真空をぶつけて情報連結解除しましたけど、いいんですか? 朝倉さん、局地的な環境情報の改竄は惑星の生態系に後遺症を発生させる可能性があるのですよ」
そう言えば!
「問題ない。朝倉涼子が発動させている情報操作は、環境情報の改竄ではなく、環境情報を読み取って、それに応じた情報に変化させたもの。よって改竄ではなく利用。これが魔法。朝倉涼子が身に付けた新しい力」
「そうなんですか?」
有希の説明に喜緑さんがややきょとんとした顔をした。
「でもまあ、あれくらいじゃ、わたしを追い詰めるなんてことはできませんね」
「う……」
「では、こちらの番です」
今度は喜緑さんが両手を広げて、
「ちょっと、ゲームでもしましょうか」
前にSOS団でエンドレスゲームクリエイトの状況に陥った際の、数多く作ったゲームの中の内の一つ、『SOS大戦』のラスボスであった朝倉のように呟くと、周りに相当な数の翡翠の粒子が現れた。さながら、ディオが承太郎に時間を止めて雨あられのように周りにナイフを待機させたアレによく似ている。
「避けきれたら、あなたの勝ち、でどう? 今回のわたしの攻撃ターンはこれだけにしておくわ」
決闘の勝ち負けじゃない、ってところが喜緑さんらしいな。というか攻撃ターンて。ずいぶん余裕だな。まあ実際、余裕なんだろうが。
で、喜緑さんが両手をクロスさせると朝倉めがけて翡翠の粒子が猛スピードで飛来する!
「負けないわ!」
を? 同時に朝倉は両手を胸のところでクロスさせましたよ?
「クリスタルウォール!」
その両腕を開くと、あたかも鏡が回りながら大きくなっていく錯覚を覚えて光の壁ができる!
「いや……ギンプロデクション……物理攻撃を100%カットする障壁魔法……」
魔法使いが何か寂しそうに呟いているがとりあえず放置!
なぜなら朝倉が作り出した光の障壁が粒子の散弾をことごとく防いでいるからだ! しかもヒビ一つ入らない!
しかし、それで喜緑さんが引くはずも無く!
「あらあら粒子散弾だけだとお思いで?」
などと言いながらにっこり微笑むと両手が、いつぞやの朝倉のように槍と化す! そして朝倉に向けて突出させた槍が澄んだガラスが割れるような音を立てて、光の障壁を打ち砕いた!
「そんな!」
「当然でしょ――粒子と違ってこの槍はわたし自身を変形させたもの――単純に戦闘力の差がそのまま出てしまうのよ――」
――っ!
朝倉に残された手段はたった一つ! もちろん、それは無駄な足掻きでしかないのだが、迫ってくる光の槍に対して、持っているロッドを盾とすることである!
「なっ!」
しかし驚嘆の声を漏らしたのは、なんと喜緑さんのほうである。
なぜならば、
「わたしの攻撃を止めるなんて……!」
そうなのだ。朝倉が苦し紛れに翳したロッドで喜緑さんの槍が止まったのである。
「あり得ない」
有希?
「喜緑江美里の情報操作ならば、この銀河において破壊できないものは無いはず。あのロッドは――解析開始」
呟くと同時に有希の目がロッドを凝視して、って、何だいきなり左目にスカウターが現れるってのは。雰囲気作りか?
「信じられない……」
どうした?
「……こんな原子があるはずがない」
珍しく有希の声が震えている。マジでどういうことだ?
「破壊の根本は原子を砕くことにある」
どこかで聞いたような理論だな。
「ところがあのロッドの原子は通常考えられない形態をしている。通常、原子の周りには電子が回っており、その運動が激しければ激しいほど温度は上昇する。逆に鈍ければ鈍いほど温度は下がる」
それで氷の闘法を身に付けている聖闘士は原子を砕くのではなく、原子の動きを止めることを前提にしていたっけか。
「しかし、あのロッドを構成する原子には電子が存在しない」
は?
「つまり最初から絶対零度で凍っていることになる。しかし、朝倉涼子やかの魔法使いが持つことができるということは温度はあるはず。だから説明が付かない。しかも、その原子は固体ではなく軟体。あれではどれだけ強力な攻撃だろうと、衝撃のすべてが吸収されてしまう。これがあのロッドを喜緑江美里に折ることができなかった理由」
「へえ、そんなことになっていたんだ。いつも思ってたんだけど、どうりで丈夫なはずね」
って、あれ? あなたは知らなかったんですか?
と問いかけて、俺と、そして有希も桃髪の魔法使いへと視線を向ける。
「うん。知らない。だって、あたしの専門は魔法だし、あのロッドはあたしのじゃなくて、あの子のだもの。そもそもマジックアイテムの構成原理とかなんてさっぱり。でも今のナガトさんの説明は理解できるわ」
そ、そうですか……少しだけ背中が寒くなる台詞回しだったことは伏せておこう……
「何はともあれ!」
「え?」
朝倉の瞳がぎらついた! 同時にロッドで喜緑さんの腕槍を受け流す、ということはガードを取り払ったということ!
さらに右手を一度引いて!
「マーブルトリパー!」
Vサインを水平にして喜緑さんへと突き出した途端、発生する突風的な暴風!
「……ハウリングストーム……」
どこか魔法使いが物悲しげに呟いているがとりあえずそれはおいといて、今回の喜緑さんはガードを下げてしまったのと虚を付かれていたことから風の衝撃が直撃する!
地を削りしばし後退させられて――
「ふふ……このわたしをここまで後ずさりさせるとは大したものですね……」
まだまだ不敵な笑顔は浮かべているが、えっと、その台詞はマーブルトリパーを撃つ方が言ってたよな?
「……効いてない!?」
ところが優位に戦いを進めているはずの朝倉が漏らしたのは愕然とした声色だった。
「喜緑江美里と朝倉涼子の間には予想以上の開きがある」
ということだよな。いくら喜緑さんが使えない情報操作、イコール魔法を駆使しても、元々の実力に差があるんじゃ目くらまし程度にしかならないもんな。
俺と有希がそういう会話を交わして、
「そうでもないわよ」
え?
「少なくともアサクラさんが使う魔法は、キミドリさんって人にとっては未知の力であることは確かだから」
「どういうこと?」
「キミドリさんからすれば、何が飛び出してくるか分からないので迂闊に近づけないのよ。元来、魔法って遠距離攻撃の手段だから間合いを空けて対峙している間は、アサクラさんの方に勝機があるわ」
「……それは効果があれば、では? 効かないと理解できれば構わず接近できると思うんですけど……」
「まだ大丈夫よ。アサクラさんは覚えた魔法、全部披露したわけじゃないし、中には、実力差関係なしで効果があるものもあるから」
そ、そうかなぁ……ということは披露すればするほど、朝倉は不利になっていく、ってことなんじゃ……
「それでも、よ。さっき、キョンくんはあたしが朝倉さんに何か耳打ちしたの知ってるでしょ? あれは必勝の作戦を授けたのよ。まあ、まだ使うチャンスは訪れていないんだけどね」
ウインクを見せる魔法使い。
はてさて、いったい何を吹き込んだのだろうか。ここは有希も認める百戦錬磨の、この魔法使いのお手並み拝見といきますか。
どうやらお互い、今度は隙の探り合いが始まったようだしな。間合いを取ったまま、じりじりと横に動きながら相手の動きを伺っている。
「ふふ。期待以上ですよ、朝倉さん。ここまで楽しめるとは思いませんでした」
「……」
まだまだ余裕の表情の喜緑さんに対して、朝倉からは、少しずつではあるが焦燥感が高まりつつあるようである。喜緑さんの軽口に何も返せないもんな。
「今度はどんな『魔法』とやらを見せてくれるのでしょうか?」
「……」
「まあ、そう単純には披露できませんわよね。何せわたしに見せてしまえばしまうほど、攻撃の幅が狭まってしまうのですから」
「……」
朝倉は終始無言。挑発には乗らない、と言ったところか。
「違う。朝倉涼子はすでに仕掛けている」
「は?」
「それを喜緑江美里に察知されたくないから無言を貫き通している。喜緑江美里は油断している。気づいたときは手遅れ」
なんだと!?
「おや?」
有希の解説が終わり、俺が驚嘆の声をあげた途端、喜緑さんの動きが鈍くなった。いや、ほとんど動けていない……!?
「あらあら、いつの間にわたしの周りに気流ができていたのでしょうか? これは気づきませんでした。やりますね朝倉さん。弱い風を起こして、それを徐々に強くしていったなんて」
「……」
「でも、まさかこの程度でわたしの動きを封じることができたとてもお思い?」
「もちろん、思ってないわ」
おお! やっと朝倉が喋った!
「だけど、この気流はどんどん激しさを増すのよ。喜緑さんが動けなくなったなら、もう動くことはできない。ただ、この魔法って発動までにやや時間がかかりすぎる欠点があるの」
「くす。ずいぶんと自信満々ですね。まさか、このわたしがこの程度の気流を打ち破れないとでも?」
「言ったはずよ。気流は激しさを増すって。そして最後には気流が嵐に変わる」
あー、なんとなく繰り出す魔法の名前が想像付いたぞ。
「先に断っておくけど、アサクラさんが何と言おうが、今から使う魔法の名前は『ウィングソードストーム』だから」
魔法使いが釘を刺したと思ったら、
「ネビュラストーム!」
俺の予想通りの名称で、朝倉は術の名前を叫ぶと、猛烈な暴風が、あたりの木々の葉をも巻き込んで、喜緑さんを吹き飛ばす!
宙に吹き上げられた喜緑さん! さっき、喜緑さんが言った通りで、空中では回避行動を取れないことだろう!
ということは朝倉は連続攻撃を仕掛けるってことだ!
って、おお! 朝倉の腕の動きがペガサスの星の位置を示している! ということはここで来るのか!
「あ、それはさすがに時期早々」
あれ? 何を使うか気づいた魔法使いが、少し困った表情を浮かべているぞ?
「ペガサス――!」
もっとも朝倉には魔法使いの声が聞こえていないのだろう。というかどこか陶酔しているようでもある。
うむ。俺にも朝倉と翼を持った白馬・ペガサスの幻影が交互に重なって見えるぞ。
「――流星拳!」
朝倉が、エコーすら響かせて吼えて、右こぶしを突き出すと、そうだ! あの日、ハルヒの創り出した閉鎖空間で、蒼葉さんが撃った《神人》五体を一気に吹き飛ばした、銀河の星々を打ち砕きながら疾走する姿を連想させる数多の流星が放たれたんだ!
「……スターダストエクスプロージョン……数多くの光輝く炎の弾丸を猛スピードで相手に打ち込む……」
ああ、やっぱり術の名前が違うことが面白くなさそうだなぁ……彼女……
ただ、この魔法使いには悪いが、俺には朝倉が使っている名称のほうが分かりやすくて助かるんだよな。
おっと、現状に戻るけど、あの《神人》を瞬殺粉砕する術だ。さすがの喜緑さんもこれは――!
って、空中で旋回したりガードしたりしてる!? 凌ぎ切れるのか!? ひょっとして!
「うん、それ無理」
だから有希、その言い回しやめろって。
などと俺がツッコミを入れている間に、喜緑さんが着地する。ただ、有希の言うとおりですべてを避けきれたわけではないようだ。
ところどころ、着ている北高セーラー服が裂けている。
「……やってくれますね……」
喜緑さんの声にも笑みにも憎悪が満ちていた。
「そんな……!」
朝倉もまた、喜緑さんの様子に、信じられないものを見る白黒反転した戦慄の表情を浮かべたのである。