『SS』 ちいさながと:放課後プレイ

今日も今日とて何ら変わり映えのしない授業を終えた放課後の話である。俺はいつものように有希を肩に乗せて文芸部室までの道のりを歩いていた。
すると、見覚えのある後姿が前を歩いている。どのくらい見覚えがあるかと言えば、俺の肩の上の恋人くらいに見慣れた姿だ。
「よう長門。珍しいな、こんなとこで会うなんて」
最近はすっかり同期もしないので有希ですら長門がどこで何をしているのか把握しきれていないのだ。それは、有希と長門が同じ長門有希でありながら違う個人なのだと互いが思うこその成長なのだろう。
そんな訳なので俺と有希は長門の隣を歩きながら部室に向かっている、いつもは俺たちが部室に入ると必ず居る相手なので新鮮な感じだな。
「どうしたんだ? 掃除当番とかじゃなさそうだが珍しいな」
 有希の今までを考えれば例え掃除当番であっても一番乗りしていそうでもあるのだけどな。実際どうやっていたのか、有希に訊くタイミングは無くしているが。どうせ今は俺と一緒にのんびり部室へ行くのが有希には当然なのだから、訊く必要は無い。
 だが、長門は有希よりも文芸部室を愛しているようなのだ。愛着ある部室にどのような手段を使ってでも一番で存在していそうだよな。そんな長門が何故だ、という事だ。
「クラス委員の仕事を任された」
 対する長門の意外な言葉に、俺も有希も驚いた。いや、あの長門がクラス委員だと? 積極的に手を挙げるタイプではないだろうから誰かに推薦されたのだろうか。
 しかし、どのような経緯にしろクラス委員なんて長門からすれば積極的な挑戦だ。俺と有希の知らないところでまたも新たなる成長を見せる長門に心強くもありながら、どこか寂しい気持ちを覚えてしまうのは何故だろう。
キョンくんと有希ちゃんは長門さんの両親みたいなものだからね」
 いや、一応長門も同級生だぞ。というか、
「いつからいたんだ、朝倉?」
 苦笑して立っている五組のクラス委員に俺達は気付かなかった。どうも長門と話していると周りに注意がいかないな。それよりも長門に何か用なのか?
「だって、私が長門さんに委員の仕事を頼んだのよ?」
 何だって? 長門がやったクラス委員の仕事というのは朝倉が頼んだやつかよ。
「お前なあ、長門を使うんじゃねえよ。別にお前一人でも出来るというか、やらなきゃならない仕事だろうが。長門も朝倉の言う事に一々従わなくてもいいんだぞ?」
「そう。あなたには朝倉涼子の言に従わなくてもいい権限がある。むしろ朝倉涼子に対し、あなたには命令権が発生する。彼女はあくまでバックアップ」
「ちょっと、二人とも酷くない? なんで長門さんにはそんなに甘いのよ」
 それは長門だからだろう。そしてお前が朝倉だからなのだ。有希も大きく頷いた。
「ええっと…………なんかツッコんだら負けな気がするからスルーしとくね。それに長門さんに一方的に頼んだんじゃないのよ? ギブアンドテイクなんだからね」
 どういうことだ? 朝倉と長門の間でギブアンドテイクなんて、と思ったら長門があっさりと回答した。
「この後、コンピューター研究会へ」
 朝倉も、そうだと頷く。なるほど、長門の助っ人か。お互いに手助けなんかいらないような気もするが、コミュニケーションの一環なのかもしれないな。何よりも楽しそうな二人を見れるというのは良い事だ。
「と、いう訳で長門さんと私は放課後団活に参加出来ないから。涼宮さんには後で私から言っておくね」
 そう言うと朝倉は長門を連れて先に行ってしまった。並んで歩く姿を見ると本当に仲いいな、あいつら。それにしても長門が自主的に欠席とは珍しい、これも朝倉のせいなのかね。
涼宮ハルヒの観測については、わたしがいる。彼女にも自由な時間があってもいい、朝倉涼子に任せる」
 そうだな、ハルヒも朝倉から言われると妙に聞き分けがいいもんな。長門もそうだが、朝倉はいつの間にかハルヒにとっても居なくてはならないようなポジションになりつつある。
朝倉涼子は優秀」
 だよな。あいつのお節介スキルは朝倉だから、なのだろう。まあ長門が満足しているなら、それでいいさ。





 という事で、長門の欠席が決まったのだが俺達の目的地は変わらない。むしろハルヒへの報告もあるから先に部室に入っておきたいところだ。
 ところが今日は珍しいことに廊下で関係者と会う日らしい。
「おっ? キョンくん、丁度良かったよ!」
「こんにちは、キョンくん」
 前方から歩いてきたのは鶴屋さんと朝比奈さんである。一旦部室に寄ってきたらしいのだが、
「どうしたんですか? 鶴屋さん、朝比奈さん」
 朝比奈さんはともかく、鶴屋さんが部室まで来るのは珍しい上に待つこともないままで出てくるなんてな。
「いやね? ハルにゃんにみくるが今日欠席するよって伝えに行ったんだけど居なかったからさ」
「朝比奈さんが欠席ですか? 何かあったんですか、朝比奈さん」
 これは珍しいというか、偶然は恐ろしいな。長門に続き、朝比奈さんも欠席か。それにしてもどうしてなんだ?
「あ、あの、鶴屋さんに誘われてというか、ちょっとお買い物とかに行きたいなあって」
「あたしが無理に誘ったんだよ、ちょろんと出かけるのに一人じゃ寂しいかんね」
 鶴屋さんの気持ちも分かるし、朝比奈さんもたまには友人と二人で買い物なんていいんじゃないか? どうせ暇しているだけの団活よりも余程充実しているような気がするぜ。
「分かりました、ハルヒには俺から言っておきます」
「お願いします、一応書置きは置いてますから涼宮さんも分かってくれると思うんですけど」
 そこまで聞き分けのない奴でもないですよ、ハルヒは。それに鶴屋さんも一緒ならついて行きたかったという事はあっても文句は言わないと思います。
「そうだね、今度はハルにゃんや有希っこも誘うようにするよ」
 そうしてやってください、そう言うと丁寧に頭を下げてくれた朝比奈さんと元気に手を振ってくれた鶴屋さんは買い物に行ってしまった。本当に珍しい事もあるもんだな、有希。
「…………わたしも行きたい」
 あー、そうだな。長門に頼んでみたらどうだろう? 但しその場合は俺は留守番みたいだからちょっと寂しいんだけど。それでも新しい私服に身を包んだ有希が見れるならば我慢も出来るというものだ。





 まさかのSOS団二名欠席という事態にも、俺達は文芸部室へと足を止めることは無い。むしろ部室で待って、ハルヒと古泉に伝える責任がある。などと理由付けしなくても自然と足が向くようになっているのだが。
「これで古泉まで欠席だったら、ハルヒが何言い出すか分かんないな」
 旧校舎の階段を昇りながら軽い気持ちで有希に話しかけると、
「迂闊な発言は慎んだ方がいい」
 と釘を刺されてしまった。おいおい、ハルヒならともかく俺が何か言ったところで、と苦笑しかけたところで携帯が鳴り出す。
 計ったようなタイミングに一瞬怯んだが、有希が見てる中で携帯を開いて見て、
「おいおい……」
 本当にため息を吐くしかなかったのだ。メールの文面は欠席の詫び、送信者は古泉一樹だったからな。内容としては『機関』での報告の為で、ハルヒにはバイトの会議ということで前日から言っていたが一応もう一度報告してくれとの事だった。昨日の時点で聞いていたくせに何も言わなかったのだから、ハルヒの奴は忘れてる可能性が高いな。
 やれやれ、本当に迂闊な事は言えないな。有希の方を見ながら肩をすくめると、肩の動きに合わせて腰を浮かせた有希に軽くおでこを叩かれた。
 言ったとおりだろ? ってな具合にな。まったくもって、その通りですともさ。俺はため息で返すしかなかった。






 こうして現在は文芸部室である。しかも俺と有希の二人きりで。二人で居る事は当然となっている俺達であるが、放課後の文芸部室内でというシチュエーションは珍しい。というか、ほぼ皆無だ。大体ここは長門、もしくは朝比奈さん辺りが先に居るのが当然であり、昼休みの弁当タイムはともかく団活で誰も居ないなどという事は無かったからな。
「まあ、たまにはゆっくりするか」
 という事で、久々に有希も俺の肩から降りて向かい合わせで団活である。普段は見えないとはいえ、気を使って俺の肩もしくは長門の肩にしか居ない有希が俺の正面に居るというシチュエーションはなかなか新鮮である。しかも正座ではなく、足を伸ばして座ったままで本を読んでいる姿が可愛すぎる。
 眼福ものの有希を眺めながら、俺は幸福な時間を過ごしていたのだが。
「…………暇だな」
 当たり前だが、古泉がいないのでボードゲームなどは出来ない。有希のように読書もいいが、生憎とそれで時間を潰せるほど活字というものに愛着も無い。ネットでもするか、と思ったが有希から離れるのも何となく嫌なんだよな。
 有希さえ見ていれば退屈しない、などとは流石にいかなかったようで、要するに俺は今退屈なのである。
 そして、恋人同士が誰にも邪魔されない状況で二人きり。その片方が暇を持て余している。と、いう事はやることは一つしかない。
「ゆ〜き〜」
「なに?」
 何も何もない。単にじゃれているだけだし。
「じゃれるとは、スカートをめくる行為?」
 多分違う。けど暇だからいいじゃないか。そして見慣れているとはいえドキドキするな、やはり。
「穿いてない方が良かった?」
 そこまで特殊なプレイは求めて………………次回に回すということで一つ。まあ退屈な状況がそんなにあるような気はしないが。
「家でなら何時でも可能」
 それだとつまらないだろ、ここであるからこそ価値があるんだ。
「…………変態?」
 いや、俺はあくまで紳士だ。たとえ十二分の一サイズの恋人のほっぺたを指でつついたり、スカートをめくって今朝着替えているシーンを見たから知ってるはずのパンツの柄を見たりしていても俺は紳士のはずなのだ。確かに部室でやっているからこその良さを痛感しているとはいえ、恋人同士ならおかしくない行為しかしていない、と思う。
「嫌だったら止めようか?」
 俺の問いに有希は無言だった。無言だったが雄弁だった。本を傍らに置いて俺の指に擦り寄ってくる彼女の瞳の光が読めないようなら、長門有希と付き合う資格などないのだ。
「いいよな?」
 部室だからこそ燃える、と言ったらいいのだろうか。いつの間にか俺も有希も何かのスイッチが入ってしまったらしい。気付けば俺の手の上に有希がいて、それを持ち上げている俺がいる。というか、キスしていたりする。
 ここからは割愛させて頂くが、有希が珍しく積極的だったのはシチュエーションの違いから来ているのだろうと思う。俺だって同様だったものだから、何というか、高まっているとしか言い様がない。
「背徳感?」
 そういうものとかだよな。言いながら瞳を潤ませる有希など、そうはお目にかかれない。放課後の学校、部室で恋人と二人きり。お互いに愛し合っていて、昨晩だってそれなりに、などという若い男女が見逃せるシチュではなかったのだ。と、思うのが俺だけじゃなくて良かった。むしろ、有希の方がこういうのに弱いんじゃないか?
 などとイチャイチャ(とても優しい表現)していた俺と有希だったのだが、すっかり忘れていた事がある。
 長門も、朝比奈さんも、古泉までも欠席したのだが、肝心のあいつはどうだった?
 そう、ここはSOS団の部室であり、SOS団の団長は、
「おっまたせー! って、キョンだけ? なんで?」
 けたたましくドアを蹴り上げてきた涼宮ハルヒは別に欠席するなんて一言も言っていないのだ、単に掃除当番だっただけで。
 見えないはずの有希を慌てて机から降ろして制服の中に滑り込ませてしまったのは、平常心が欠けていたからだとしか言えないだろ。しかも有希までそれに素直に従ったのはお互いに夢中になりすぎたからに他ならない。何に夢中だったかなんかは語る必要は無いだろう。
「もう、みくるちゃんも有希も古泉くんもどこ行ったのよ!」
 文句を言いながら団長席に座るハルヒ。幸いな事に長机の傍で有希と戯れていた俺の様子までは見えなかったようだ。俺は焦る心を抑えて、平常心で会話を心掛ける。
「朝比奈さんは鶴屋さんと買い物だそうだ。長門は朝倉とコンピ研の助っ人で、古泉の欠席はお前に真っ先に伝えてるはずだが」
 するとハルヒは携帯を開き、
「あ、そういえば古泉くんバイトの会議だっけ。何か色々任されて大変らしいわね」
 主にお前のお守りだがな。大変なのは事実だ、今頃お偉方に囲まれて冷や汗かいてるかもしれないぞ。しかし、古泉のおかげで朝比奈さんと長門の欠席の件はハルヒの追及を受けずに済んだ。
「何よ、珍しい事もあるもんね。だったら今日は帰ろうかしら」
 そう言いながらも、とりあえずパソコンのスイッチだけは入れるんだな。俺としてはもう帰りたい、というか逃げ出したい。さっきまでイチャついていたから罪悪感と羞恥心と、そんなことより続きをという欲望がない交ぜになって熱が上がりそうなんだけど。すると、
「おおぅっ?!」
 素っ頓狂な声を上げてしまい、ハルヒがモニター越しに覗き込んできた。
「どうしたの、キョン?」
「い、いや、何でもない。ちょっとうたた寝しかけただけだ」
 たるんでるわよ、というハルヒがまたもモニターに集中しようとして、俺は声を上げさせた犯人を制服から引っ張り出そうとシャツの中に手を突っ込む。いつの間に中に入り込んだ、そして舐めるな。
「あなたは右の方が敏感」
それは分かったから。だから、いじるな! ちょっと固くなってきちゃってるじゃないですか、男だってそこは感じるところなんだぞ。
「それは理解している、昨夜のあなたもそうだった」
ならば何故に今この場で俺の急所を攻めてくるんだよ! あ、やめて、舐めないで! 何、この羞恥プレイ? すると、ハルヒからは見えないだろうが、不自然に膨らんだシャツの中で有希がそっと囁いた。
「興奮する?」
いや、まあ、はい。表情は変わらないのに潤んでいる瞳を見て、俺は思わず生唾を飲み込んだ。一体有希のどんなスイッチが入ってしまったというのだろう、少なくとも俺を酷い目に遭わせる気満々じゃねえか。
「そう」
無表情のままの有希が俺の手を避けてシャツの中へと潜り込む。ちょっと待て! まさか、それはまずい! まずいなんてもんじゃない、ヤバイ! それだけは! しかしハルヒが居る手前、立ち上がって跳ね除ける訳にもいかず、
「―――!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。有希のヤツが、シャツからズボンの中へと移動したからだ。つまり要するに、男として本当に急所を掴まれたというか、掴まれた。まんまなアレを掴まれています、さっきまでの名残りで半分元気だったのが災いしたんだよ。しっかりと、且つ優しい手つきでゆっくりと刺激を与えられたら、そりゃ元気にもなりますよ、ええ。
これが公開処刑というものなのだろうか? ハルヒが目の前にいるのにウチの有希さんに男性のシンボルたるものを触られまくっているのですけれどもぉぉぉっ?!
「あ、う………っ!」
ヤバイ、声だけは出してはならない! 必死に喉を押さえて前のめりに机に伏せる。有希、それはまずいって! じゅるっという音と共にアレが生暖かい感触に包まれてって、この間習得した技をここで使わないでくれ! もごもごしないで、舌を這わせるなーっ!
「いつもより……硬い……はむっ」
はむっ、はいらん! あー、まずい、何か目の前がチカチカしてきた。星のようなものが瞬いてる、これは快楽のせいなのか緊張がもたらしたものなのか。というか、俺が今背中にかいているのが冷や汗なのか脂汗なのかを誰か説明してくれないか。気持ちいいけど声も出せず、むしろこんな事を止めさせなければ俺が殺される。まだ気付いていない今のうちしかないんだ、気付かれたら即俺が死ぬ。いや、今も死ぬ寸前だ、快楽殺人ってこういうのをいうのかなあ。
「快楽殺人とは、殺害行為そのものに快楽を覚える事。快楽で死ぬことではない」
ならば、今のお前が快楽殺人者なんじゃないか? と言おうとして再び喉の奥まで入れられた感触に口を塞がれる。だから、いきなりは止めろ! 声が洩れたら御終いなんだぞ!
 これは危険だ、危険すぎる遊びだ。衆人環視の状況で舐められている、なんてアダルトビデオも真っ青だ。ああいうのは見て楽しむものであって、決してプレイヤーになりたい訳じゃないっ!
しかも、この状況で、
「ねえ、キョン
なんて声をかけられてしまって、俺の緊張はピークに達した。「!」有希の口の動きが止まる、我ながら一瞬で固さが増したのが分かる。
「な、なんだ、ハルヒ?」
よし、それでも声が出せただけマシだ。しかも震える事も無かった、自分で言うのもアレだが俺って凄いかもしれない。
「ちょっとお茶淹れてくれない? みくるちゃんがいないし、しょうがないからあんたでいいわ」
無理だ。まず立てない。一部が立ち上がっているからこそ立てないのだ。しかもそこには有希がいる。ハルヒには見えなくとも、それなりの形に盛り上がっている股間を見せる訳にはいかないだろうが。おまけに有希さん、離してくれないんですけどー! って、今もゆっくり動かしてる! せめて会話だけでもさせてくれっ!
ダメだ、どうしたらいいんだ。すぐに動かなければハルヒの機嫌を損ねるが、動ける訳ないだろ、コンチキショー! もう頭の中は霞がかかってきている、こんなプレイあってたまるか。
「ちょっと、キョン!」
「いや、だったらハルヒ、お前がお茶を淹れてくれないか?」
「はあ? なんであたしが、」
「いつも朝比奈さんの淹れてくれるお茶を美味しく飲んでいるけどな? たまには違う味も楽しみたいというか、ハルヒの淹れてくれるお茶が飲みたいと思っていたんだよ。いや、むしろハルヒが俺の為にお茶を淹れてくれる姿が見たい。だから俺の為にお茶を淹れてくれないか?」
などと言いながら爽やかに笑顔まで決めてみせたのだが、何を言ってるんだ、俺は。こんなもんでハルヒが、って、
「な、何言い出してんのっ?! まあ、でも、あんたがそこまで言うならお茶くらい淹れてあげてもいいけど」
真っ赤な顔をしたハルヒが立ち上がってコンロに向かう。まさか上手くいくとは思わなかった、あいつ誉められ慣れてないからなあ。今後も使い方によれば有効な手段かもしれないぞ、って!
「アーッ!」
「な、何?!」
「い、いや、ああ、楽しみだなって……」
そんなに待ち遠しいの? なんてハルヒに笑われたが、それどころじゃない。そりゃ声も出るだろ、噛まれたんだぞ。有希、それはダメだ、そこは噛んでいいとこじゃない、出来れば歯を立てないでくれというか、もう止めて!
「ふふぁひふぉの」
咥えたまま、しゃべるなーっ! いいか、そこが使い物にならなくなったら、俺だけじゃなくてお前も悲しむ事になるんだからな、後々に!
「では、止めを」
え? 血の気が顔面から引いていき、下半身に集中していっているような錯覚に陥りそうになりながらというか、有希が喉奥までストロークしているというか、温かくぬめった感触に包み込まれてって、スピードアップしやがったーっ!
「はい、お茶。大事に味わって飲みなさい!」
こんなタイミングで持ってこないでくれ! ってのも言えないから、ああ、なんて重く頷いたふりして下半身が全部有希に持っていかれそうなんだけど。
と、とりあえずお茶を。誤魔化す為にも、落ち着く為にも必要だ。どうにか霞む目で湯飲みを取り上げ、一口飲んで置いた瞬間だった。
「………………イって」
全体を揉まれながら舌先が射出口に入り込んでいく感覚に耐え切れるはずが無かった。って、さっきから限界だったんだって。うわ、出てる。すっげえ出てる、それを全部飲まれてる…………これは…………すごい…………
「どうよキョン、 味の方は?」
「ああ…………最高だね…………」
薄れそうになる意識をどうにか保ち、誤魔化すように俯くとズボンから顔を出した有希と目が合った。
その口元から垂れた白濁をじゅるりと飲み込んだ有希の顔を、俺は忘れたくとも忘れなくなるだろう。まず間違いなく味を占めやがったからな、こいつ。





その後の話である。結局ハルヒが淹れたお茶を五杯ばかり飲み干す羽目に陥った俺は、それでも機嫌のいいハルヒが早めに解散を告げたので即時撤退と相成った。何というか、居た堪れない。
先に出たハルヒが待っているだろうから、部室の鍵を閉めていると、丁度お隣から長門と朝倉も出てきたところだった。
「よ、よう長門、今終わったところか?」
「…………」
返事は数ミクロンの頷きだった。いつもより余所余所しさを感じた俺と有希だったのだが、
「早く行かないと涼宮さんが待ってるわよ」
と朝倉に言われて、何も聞けないままでハルヒと合流した。帰りは長門がコンピ研の助っ人に行った事を朝倉が擁護してくれた為にハルヒの機嫌を損ねる事も無く、俺達は無事に長門のマンション前で解散する事となったのだった。ただ、その間に長門と会話は無かったのだが、それもいつもの事なので俺も有希も気にしてはいなかった。
「それじゃ、また明日!」
ハルヒを見送って、俺たちも帰るかと思ったら、
「ちょーっと、有希ちゃんとキョンくんには言いたい事があるの。付き合ってもらえるわよね?」
などと、物凄い迫力の笑顔で迫る朝倉に脅されるように長門の部屋に拉致された。
そして俺と有希は正座で朝倉に延々と説教される事となったんだ。原因は勿論アレである。
「あのねえ、長門さんと感覚をリンクしたままでそういう事しないでくれる? コンピ研の中で大変だったんだからね!」
見れば、あの長門が俺たちにしか分からないレベルだけど頬を赤く染めて俯いてしまっている。これは気まずい、俺も有希も黙って項垂れるしかなかった訳だ。
こうして深夜にまで及んだ朝倉の説教が終わり、もう二度とやらないと固く誓わされて帰り着いた我が家で俺と有希は就寝の用意を終えてベッドに寝転がっていた。
「さすがにやりすぎだぞ、有希」
もうこういうのは勘弁してくれ、ハルヒにも長門にも朝倉にも申し訳が無さ過ぎる。
「反省している」
有希は俺の胸の上にうつ伏せで寝ていて、俺の顔を覗き込みながら淡々と話している。お前、懲りてないだろ。
「でも、興奮した?」
沈黙で答える。
「また…………したい?」
あー、えー、それはちょっと。が、見てしまったのだ。
有希の瞳を。そして小悪魔的に浮かべた微笑み。いつの間にそんな表情が出来るようになったんだ、お前は。
「…………長門とのリンクだけは切っておけよ」
俺はそう言うしかなかった。
「了解」
有希が俺の胸に顔を埋め、俺はいつもの口癖を呟いた。
まったく、やれやれなのだ。だが、それがいい。どうやら俺達の付き合い方も新たなる方向へと目覚めつつあるかもしれないと思う今日この頃なのであったとさ。