『SS』 たとえば彼女で……… 3

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 こうして多少荷物が増えたところで昼食となる。キョン子の事だからファミレスにでも行くのかと思いきや、
「ふっふーん、あたしだってこのくらいは把握してるってのよ」
 連れて来られたのはちょっとアンティークな雑貨に囲まれたシックな喫茶店だったりもする。日曜の昼時の割には人も少なく落ち着いた雰囲気で、マスターと思しき初老の男性とその奥さんだろう女性の二人だけでやっているという隠れ家のような店なのだ。
 しかもメニューを見れば日曜のランチタイムなのに非常にリーズナブルなのだ、これでやっていけるのか? 
「脱サラで趣味の拘りでやってるんだって。味もいいから常連さんも多いみたい」
 ほう、今時にしては頑張ってるということか。しかし本当に良く知ってたな、こんなとこ。
「―――――――」
 ああ、なるほど。九曜が自分の髪を両手で掴む。そこから連想されるやつの情報か、こっちのツインテールはそういうの詳しそうだよな。
「九曜、余計なことゆーな」
「―――――えー?―――」
 まあキョン子が普通の女子高生ライフを満喫しているのはよく分かった。俺が苦労しているのに比べれば佐々木という神の質がいいのか、それともキョン子の立ち振る舞いがいいのかは分からないが。
「うーん、あたしはノーコメントだな」
「―――――もなずく」
 え、何で苦笑い? キョン子たちもそれなりに大変だってことなのか?
「いや、お前が苦労してるって点で」
 何でそんな事言われちゃうんだよ。
「だって、そこにあたしいないし……ハルヒとか長門とか朝比奈さんって女の子だし、佐々木も女の子のままだし……ちょっと悔しいし」
 何か言ったか?
「ううん、何でもない。それより何食べるか決めちゃおうよ」
 そうだな。九曜、もう手を離していいぞ。
 という事で俺はカレー、キョン子カルボナーラ、九曜は――――――何頼んだ?
「――――から揚げ――――弁当――――――」
 無いだろ、と思ったら本当にあった。さすがに驚いた。何に驚いたって九曜がちゃんと注文出来た事にである。
「そっち?」
「まかせて――――――」
 と薄い胸を張るお子様宇宙人。ただお冷は持ってきて貰えてなかったんだけど。すいません、お手拭きとお冷お願いしまーす。





 食事風景など大して描写するものではない。キョン子が言うとおりに確かに味は良かったから満足出来たしな。これならばカレーの王女様なウチの文芸部員も太鼓判を押すだろう。
「むう……」
 どうしたキョン子
「鈍感」
 え? 俺何か変な事言ったか?
「――――ある意味――――さすがよ――――――」
 褒めてねえだろ、お前。何でカレーを褒めて居心地が悪くなるんだよ、キョン子が薦めた店なのに。
「いいからそれ一口ちょうだい!」
 って、いきなり俺のスプーンを奪ったキョン子にカレーを食われた。おい、お前はハルヒか? 人の食ってるものがそんなに美味そうに見えるのかよ。
「うん、ほんとに美味しいね」
 いいからお前のカルボナーラもよこせ、不公平だろ。と、
「はい、これでいい?」
 あれ、素直にフォークにパスタを巻いて差し出してくれた。若干拍子抜けだが、ありがたくいただく。む、確かにこれも美味いな。
「じゃあ、あたしももう一口ちょうだい」
 はいよ、これでいいか? 適当にスプーンに取ってキョン子に差し出すとカプッと食いつく。なんか小動物的な可愛さだな、どことなく和む。
 そんなキョン子を見ながら自分のカレーを食べていると適度なところで、
「ほい」
 とフォークが差し出されるのでカルボナーラも十分満喫出来たのだった。当然キョン子にもカレーを食われたのだが。
 そんな時、周防九曜はというと、
「―――――美味」
 うん、美味いんだろうけど何故から揚げ弁当で煮豆しか食わないのだ。から揚げ食べろよ。
「お楽しみは―――――これからだ―――――」
 そうか。
 オチとしてから揚げを半分食べた時点で満腹の意思を示した九曜に言われるままに俺が全て平らげた。結果としてから揚げまで味わえたのであるから文句は無い。それにカレーをキョン子と分けた感じなので丁度満腹になったみたいだし。
 何事も上手くいく時はこんなもんなのだ、うん。
 その食事が終わり会計の時である。まあ何と言ってもデートなのだ、ここは俺が持つべきだろう。
「お、分かってるじゃない」
 そのくらいはな。と、いうことでレジに向かう俺を見送るキョン子と九曜。何かこそこそ話してるがこの後の予定でも話してるのだろうか?





「――――――――」
「あによ?」
「――いえ―――――上手い事―――――やりました―――――?」
「九曜うっさい」
「あーん――――は――――言わない――――だから―――――ばれない――――――」
「言うな、それ言っちゃ駄目だから!」
「――――でも―――――鈍感―――――だよね――――?」
「うん…………でもまあ、それがあいつだしね」
「――――頑張る――――」
「まあね、ってお前に言われちゃってもなあ」
「――――私も――――」
「む、負けないけどね! お前にもあっちの連中にもね」
「――――――そう」




「何やってんだ?」
 会計を終えた俺が二人に近づくと、
「―――ううん―――」
「何でもないよっ」
 笑顔と無表情に迎えられたのだが、何というか仲良いんだな。同性というだけで俺とあいつとの繋がりとは似て非なるものなのかもな、宇宙人とのコンタクトは良好のようだ。
 …………少しだけ羨ましいかもな。俺もあいつにもっと出来る事がないのだろうか、と考えてしまうくらいには。
「むっ!」
「――――むっ―――!」
 いきなり何だ? キョン子と九曜に両腕を抱え込まれる。
「顔に出てるぞ」
 それだけ言ったキョン子はやっぱり当てちゃっているのだった。おい九曜、俺の何が顔に出てるんだよ?
「―――鍵は――――全ての扉に―――合う――――かも―――?」
 ふむ、意味が分からん。だが両腕を抱えられて引っ張られているのは現実だったりするので、
「もう少しゆっくり歩いてくれ、コケたらシャレにならん」
 少しだけ足取りを遅らせた。するとようやく歩調を合わせてくれた二人は、
「――――デート――ですから――――――」
「あたし達だけ見てればいいのっ!」
 イーッって感じに笑うキョン子と自分で頬を引っ張って同じ様な顔をする九曜。
 やれやれ、確かにそうだ。こいつらが笑ってくれるのが今は最優先なんだからな。
「分かったよ、次はどこに行くんだ?」
「えーっとね…………」
 結局引きずられそうになりながら、俺は午後もデートを楽しむ事にしたのだった。