『SS』 イチャラブ? なにそれおいしいの(笑) エピローグ

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 その後の話もしておこう。結論から言えば勝負の行方は未だについていない。
 初日の翌日は俺が迎えに行ったのだがそれ以降はハルハルが俺の家に来るのが定番となっている。俺が起きれないかもというのもあるが、ハルハルがどうしても迎えに行きたいと言うからだ。その分ハルハルは早起きせねばならなくなるので交代でいいと言ったのだが、
「だって寝起きのキョンたんが見たいんだもん」
 などと可愛く言われて反論を封じられてしまった。そう、今やハルハルは俺の部屋まで上がり込んで俺を揺り起こすところまでを朝の日課としてしまったのである。ただし、
「キョ〜ンたん、起きないとキスしちゃうぞ〜❤」
 と言われて素直に起きると思っているのだろうか。まあ一回もそれで起きた事は無い、キスされて初めて起きたフリをするのである。毎朝が白雪姫な俺達(立場は逆)は当たり前のように俺の家で朝飯を取ってから二人仲良く登校するようになっていた。今や妹もすっかりハルハルに懐き、ハルお義姉ちゃんと呼んでいる。文字にすると些か違うような気がするが気のせいだな。
 そしてハルハルの胸の感触を背中いっぱいに感じて自転車を漕ぐ。もう焦ったり戸惑う事もなく、ハルハルも狙っていなくとも俺にくっ付くのを当然としているから胸くらいなんでもないのだ。それに自転車を降りたら即ハルハルは俺の腕を抱え込むので胸が当たってない時間の方が少ない登校時間なのだった。
 俺の腕にしがみ付いたハルハルと話しながら歩けば憎い坂道もなんてことはない。むしろバランスを崩しそうになるハルハルを支えてやっては、嬉しそうにありがと❤なんて言われてニヤニヤしているのだから坂道があと一キロくらい延びても平気ってなもんだ。
 この登校中、俺達に合わせて登校する奴らが増えたとの事で必要以上に人が多いのだが早くしないと遅刻するぞ? 朝練をサボった運動部の奴もいたらしいのだが何を考えているのやら。まあ人は多いが俺とハルハルには何の関係もないので普通に登校するだけなのだ、その割りに毎朝周りは騒がしいけど。
 そんなざわめく中を学校に着いて、出来るだけ手を離さないようにしながら上靴に履き替えて教室に向かう。
「はよーっす」
 教室に入れば当たり前のようにクラスメイトが迎えてくれるのだが最近の視線は温かすぎる。季節は雪が降ってもおかしくないのに室内は常春なのだった。毎朝の恒例なのにも係わらずいつも泣いている阪中はどうかと思うのだが。ハンカチを片手に泣いている阪中の前を通り、国木田の席の近くに行くとこいつは普通に笑顔で手を振ってくれる。分かってたよ、と言われたときは何を分かっているのかが分からなかったのだが。
 ちなみに谷口を最近見ない。何でも脳の血管が切れたらしいのだが一体何をしでかしたんだ、あいつは。憎しみで人が殺せたら、とか物騒な事をほざいていたらしいがその前にお前が死んじゃうだろ。まあ国木田がアレはアレだから平気じゃない? とか言ってたから平気なんだろう。あんなのでもクラスメイトで友人なので出席日数が足らずに留年しない事を願うだけだ。
 ホームルームも授業中もハルハルの指先のメッセージにノートの切れ端のメモで応えながら過ごすのも当たり前になっていた。授業内容などは頭に入っていかないけれども、後からハルハルが付きっ切りでフォローをしてくれるから成績について何ら不安がなくなったのだ。それどころかこんなに授業を聞かない俺の成績が急カーブを描いて上昇中なのだから(元々が悪かったというのもあるが)教師も親も俺とハルハルに何も言えないのである。
 こうして授業中も休み時間も二人だけの時間を過ごす俺達は昼休みも当然のように屋上で過ごすようになった。二人で一つの箸でハルハル特製弁当をつつき(口移しで食べさせあわないだけ俺は理性があると思っている)、残り時間は抱き合って寝てるだけなので健全なものである。どうやって鍵のかかった屋上に行けるのかなど愚問だろう、ハルハルがそんなに迂闊な女なんて思わないほうがいい。ちなみに天候が悪い日は文芸部室で同様の行為を行っているのだが、確か昼休みは長門がいたと思っていたのに一回も遭遇することは無かった。もしお邪魔だったらコンピ研の部室を乗っ取ろうとハルハルと相談していたんだけど。
 まあそれはそれとして。
 俺とハルハルはまったりとした昼休みを過ごした勢いそのままに午後の授業もまったりづくしで乗り越える。つまりは午前中と何ら変わらずハルハルの指の感触を背中で味わいながら、ふいに振り向いてその手を握ってハルハルをドキッとさせたりするくらいの一日を過ごすのだ。
 そんなことばかりしていたら時間はあっという間に経つもので、気付けば放課後を迎えているといった次第である。今日は昨日よりも二回『すきすき☆キョンたん』と書けなかったと不満げなハルハルに明日はもっと書いてくれと頼みながら頭を撫でる。
 すると、えへへ〜❤ と笑いながら俺の腕にしがみ付いて、団活へと赴く訳なのだ。ネクタイを引っ張られなくなって首周りは楽になったが腕にはいつもハルハル付きなので実際は歩きにくかったりもするのだけれど、むにむにがふにふにで挟まっているから良しとする。何が何処にって、俺の腕がハルハルおっぱいに、だ。何か文句あるか?





 そして団活なのだが、これはもう特筆するような事は何も無い。いつも通りに俺は古泉とボードゲームをして朝比奈さんはお茶を淹れ、長門は本を読んでいる。
「あの〜……」
 何だ?
「その体勢ではやり辛くないですか?」
 何でだ? 俺はハルハルを膝の上に座らせて抱いたままゲームしてるだけだぞ?
「いや、だから…………もういいです」
 何を諦めたような口ぶりなんだ? 授業中はこんな事出来ないから今やってるだけであって、出来れば一日中こうしていたいのを我慢してるんだぞ。
「でも重くない?」
「ハルハルが重いなんてありえないだろ、むしろ何故俺とハルハルの席が別になっているのか訊きたいくらいだぜ。最初からこうしてればいいのにな」
「うん、あたしもずっとこうしてたいな❤」
 だろ? まあ結果として足が痺れて立てなくなってハルハルが泣きそうになったりするのも日常茶飯事だったりするんだけどな。それでも懲りたりはしないのだ、膝の上のハルハルとはそこまでの魔力を持っているのである。
 そういえば少しだけ変化があった。俺とハルハルではない、長門と朝比奈さんだ。
 長門は本と顔の距離が近くなった。というかほとんど本に隠れてしまうようになった。そんなに近づけて読んだら目を悪くするぞ、と言ったら、
「眼鏡をかけるからいい」
 と言われた。あれって伊達眼鏡じゃなかったのか? それに今更眼鏡なんて無いほうがいいぞ。だが俺の忠告にも関わらず長門と本の距離は縮まる一方なのだった。
 朝比奈さんも冬限定だった編み物を今や日課のようにやっている。最初にお茶を淹れた後は集中しているのか俺達の言葉を無視することも多くなった。一日にセーター一枚を編んでしまった事もあるくらいなのでもしかしたらプロにでもなるのかもしれないな。
 そんな二人なのだが、何故かいつも小さく「見ないように、見ないように………」と呟いているのは何だろう? 不思議属性が集まりすぎて磁場がどうとかと言っていたので俺には見えない何かが見えているのかもしれない。
 ただ朝比奈さんはともかく長門なら何とかしそうなのだが、それを古泉に言っても肩を落として溜息をつくだけだった。よくは分からないが俺達には無害らしいので任せる事にしよう。
 それとたまにハルハルがコスプレをしてくれるようになった件なのだが、凄く嬉しかったけど着替えを待つ時間が惜しいという理由でそこまで回数は多くならなかった。実際、家に帰ってからゆっくり見ればいいだけだったし。その時はわざわざ着替えるからって部屋を出る必要もないのでそっちの方がいいだけで。それにハルハルのコスプレ姿は俺だけが見ればいいのであって他の連中になど見せる気もないからこれはこれでいいのだろう。
 という事で、団活もつつがなく終了まで俺とハルハルはくっ付いたままなのであった。
 そう言えば朝比奈さんの着替えを待つ間、古泉のトイレに行く回数が増えたような気がするが高校生にして頻尿というのは些かいただけない。なまじ顔がいいだけに古泉ファンの女生徒が知れば暴動でも起きかねないレベルだ。
「いいお医者さんでも紹介したほうがいいのかしらね?」
 大丈夫だろ、あいつの親戚には医者の一人や二人はいるはずだ。てな訳で朝比奈さんと長門が冷ややかな目で俺達を見つめる為に部室を出るまでイチャイチャしているのであった。
 ついでに言えば下校中の立ち位置が俺とハルハル、その他三名になったくらいか。段々後ろの三人が距離をおいているように見えなくも無い。どうでもいいけど何故三人とも疲れきったような顔をしてるんだ? 俺とハルハルなんかまだまだ元気そのものだぜ。
「だってキョンたんがいるからね❤」
 ああ、俺もハルハルがいる限り元気百倍ってやつだ。
「えへへ〜❤」
 えへへ〜❤ とか言ってたら長門のマンション前だった。ここで一旦解散となるのだが、長門は何も言わずにふらふらと家へと帰り、朝比奈さんはおざなりに挨拶して古泉が後を追うのも定番の光景となりつつあった。
「ねえ、あの二人って付き合うのかしら?」
 さあなあ、案外お似合いかもしれないけど朝比奈さん側の事情というのもあるから、とはハルハルには言えないので曖昧に頷いた。
「まあ、あたし達には敵わないけどね!」
 まったくだ、俺達に勝てるもんならやってみろってもんだな。
「あたしのキョンたんラブ❤ は最強よ!」
「俺のハルハルラブ❤ だって負けないぜ!」
 えへへ〜❤ と笑ったところで俺達も仲良く帰宅する。この場合の帰宅とはハルハルを家まで送り、別れ際にキスをしてから自宅に戻って電話でハルハルと二時間ばかり会話するところまでを指す。電話はもっとしたいとお互い思っているがハルハルの睡眠時間を削りかねないので自粛している最中だ、朝にハルハルに起こしてもらえなくなるなんて想像しただけで絶望する。
 こうして何ら変わりの無い平穏な一日が過ぎていくのであった。





 そんな毎日の中でも俺達の戦いは続く。今日は日曜日、不思議探索でも何でもない一日なのだが俺は早起きして一張羅といってもいい洒落た服に着替えて駅までの道を急いでいた。
 待ち合わせの場所にはこれまた気合の入った服装の涼宮ハルヒが立っている。少しだけ伸びてきた髪を後ろで一つにまとめて。
 俺を確認したハルヒが大きく手を振った。俺もそれに応えて走りながら手を振る。つい昨日、正確に言えば数時間前まで話していたのにまるで何年も会っていなかったかのような新鮮な気持ちで。
「今日こそは決着つけるわよ!」
「そのセリフそのまま返すぜ!」
 言うと同時に俺の腕にしがみ付くハルヒ。俺もそんなハルヒをリードするように歩く。
 今日はゲーセンでプリクラを撮ってやる、それもハルヒをお姫様だっこでだ。するとハルヒは分かっていたとばかりに俺の頬にキスをする。
 それでも決着がつかないままで。
 俺達はきっと笑っている。
 一体いつになったら勝敗が決まるのやら、まあこのままでもいいけどな。なんて事を思いながら腕にかかる柔らかい感触を楽しむ俺なのであった…………




































































「なんて事もあったわね」
「で? 結局お父さんとお母さんの決着ってのはついたの?」
「さあ、どうかしら? でも今でも勝負してるのかもしれないわ、どっちがもっと好きなのかってね❤」