『SS』 イチャラブ? なにそれおいしいの(笑) 後編

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 午後の授業は特に筆記するような出来事は無かった。やってることは午前中と代わり映えのしないハルハルが背中に『すきすきキョンたん❤』などと指で書いてくる感触を楽しんだり、たまにわざと消しゴムを落として拾うふりをして二人で手を繋いだり、休み時間にどうしてもトイレに行きたくなったので行こうとしたらハルハルがぐずるので仲良く腕を組んでトイレに行ったくらいである。ちなみに男女で同時にトイレに行った場合、大抵は男の方が早いのだが俺もそれに洩れず廊下でハルハルを待つ羽目になった。それにしてもハルハルがいないというだけでこの寂寥感は何だ? まるで半身を捥がれたかのような。ダメだ、ハルハルがいないなんて耐え切れるワケがない。
 思わず女子トイレに突入しようとした俺だったのだが、いいタイミングでハルハルが出てきてくれた。良かった、このままではハルハル欠乏症で俺がおかしくなるとこだったぜ。しかもハルハルはトイレから出てくるなりに俺にしがみ付き、
「ごめんね、キョンたんを待たせちゃうなんて。一瞬でもキョンたんが居ないのが寂しかったの」
 なんて言うものだから思わず俺もだ、と抱きしめそうになった。だが休み時間は短く、仕方ないので腕にしがみ付いてもらったまま教室へ帰るしかなかったのだった。何だ、この周囲から沸き起こる殺意を込めた視線は? 俺がハルハルを連れて歩いて何が悪い。それと同じくらいの羨望の視線も感じているのだが誰にもハルハルはやらんぞ。するとハルハルが小さく「あたしのキョンたんなんだから」なんて言っていたが、そうとも、お前だけのキョンたんだ。
 こうして俺達は何らおかしくもない授業を終え、放課後の鐘を聞いたのでいそいそと文芸部室までやってきた。勿論手を繋いで―――――






―――――――――――
「………………というワケだ」
 多少長くなったがそれでも出来るだけ簡潔にまとめて話をしたつもりだったのだが、
「あー、そ、そうですか……」
 反応はあまり芳しいものではなかったのは何故だろうか。古泉は大食い大会で準決勝敗退したような苦しげな顔をしていたのである。何だ、気分悪いのか?
「いえ、何と言ったらいいんでしょうか、確かにいい気分にはなれないような、皆さんに同情すると言いますか」
 何を言っているのか分からない。回りくどい言い方しか出来ないヤツだとは思っていたが俺とハルハルの手に汗握る攻防を聞いてこの程度の感想しか抱けないほど感受性の無い奴だとは思わなかった。
 まったく、俺達がどれほどの苦労を重ねているのかすらも理解出来ないのか、ねえ朝比奈さん?
「はあ?」
 そこにいたのはSOS団が誇る愛らしい天使ではなかった。面白くもなさそうに椅子にもたれて座る落ち目のやさぐれアイドルがそこには存在していたのだ。何か一気に数歳年取ったように見えるんだけど。
「へーへー、大変そうでよござんしたねぇ。あ、お茶なら勝手にどーぞ」
 反論を許しそうもない横柄な態度のSOS団マスコットに流石の団長も何も言えなかったのは致し方ないのであろう。しかし朝比奈さんに何があったというのか、話が長すぎて理解出来なかったのかもしれない。
 いや? もしかしたら何か謎の力が働いた可能性が無いともいえない。俺とハルハルの行動が未来的にやばかったらまずい、俺にとってハルハルは人生の全てなのだから万が一離れ離れになることにでもなれば未来なんぞ叩き壊してやる。規定事項? 知るかそんなもん、俺にとっての規定事項はハルハルが俺の傍にいることだけだ。
 しかし本当にハルハルとの関係になんらかの障害があってはいけない。だが、こういう時こそ我がSOS団には頼れる万能選手がいてくれるのだ、なあ長門
「知らない」
 素っ気無かった。それどころか感情の籠もらない冷めた目で見られた。まるで極悪人を見る冷徹な裁判官のような目だった。というか絶対零度の蔑みだった。何故だ、俺が何か悪い事したのか? 
「わたしには有機生命体の感情は理解出来ない。だがしかし、現在の心境と呼べるエラーバグを一言で言えば、知るかコンチクショウ」
 淡々と長門さんらしくない暴言を吐かれた。完全に死んだ魚のような目をした対有機生命体コンタクト用インターフェースは昔の長門を思い起こさせる。
「それと、」
 何だ?
「それは人の話を聞く態度ではない」
 俺は何もしていない。ただ単に背中にハルハルが乗っかっているだけで。ついでに言えば当ててんのよ、状態なだけである。ああ違った、当ててんのよ、で俺の肩の上に顎を乗せてほっぺがくっ付いている状態なだけだ。要は後ろからべったりとくっ付かれていて気持ちいいなあ。というだけの話なのであって何らおかしな状態ではない。
「えー? これも活動よ、か・つ・ど・う!」
 どんな活動なんだよ?
「さっき手を繋いでたのに何で満足出来ないのかっていう不思議を解明するのよ。その為にも、もっとキョンたんにくっ付いてないとダメなんだから!」
 そりゃさっきまで授業もあったからしょうがないだろ。それで触れ合う範囲を広げたってことか。
「うん❤」 
 それでどうなったんだ?
「ん〜、キョンたんの背中って広くって暖かくて好き〜❤」
 そっかー、俺もハルハルは柔らかくて暖かくて好きだぞー。
「えへへ〜❤」
 えへへ〜❤ ほんとハルハルは可愛いなあ。頬と頬をくっ付けてニヤニヤしている俺とハルハル。やべーなー、ハルハルのほっぺがスベスベでぷにぷにだー。ちょっと首を動かせばハムハム出来ちゃうぞ、はむはむ。てなことでやってみよう。
 はむはむ。
「や〜ん、キョンたんえっちぃ〜❤」
 なんでだよ、先にほっぺにちゅーしたのはハルハルじゃないか。そんな可愛いこと言っちゃうとこうしちゃうぞ? ほんのちょっと首を回すとほっぺより向こう、つまり耳まで見えてくるわけで。午前中を思い出せ、ハルハルは側頭部に弱点があるのだ。即ち今目の前にある耳たぶを。
 はむはむ。
「んっ❤ やだっ、それズルい〜! 反則よ、反則っ!」
 そんな事は無い、反則というのならハルハルが可愛すぎるのが反則なのだ。何だこのほっぺと耳たぶは。ぷにぷにで気持ちいいじゃないか。おまけに背中に当たってるのもむにむにで柔らかくってどうにかなりそうなんだぞ。
「も〜、キョンたんったら〜❤❤」
 だってハルハルが可愛いからじゃないか〜❤ 肩に乗せられた頭を抱えるようにして指でほっぺをぷにぷにと突いたら「やんやん❤」ってハルハルが嬉しそうに言うものだから調子に乗ってほっぺを突いたり、ハルハルに反撃されて俺の耳たぶをはむはむされて新たなる快感を見出したり、お互いの目を見詰め合ってたら照れてはにかんでみたりとハルハル曰く不思議を解明する為の行動に終始していたわけである。
 しかし分からないなあ、どこまでいってもハルハルは可愛いし。何が不思議って全然満足してないし。ということでキャッキャウフフと不思議を解明していたのだが、段々と見詰め合う回数が増えてきて。
 二人いつの間にか何も話さなくなり。見詰め合うハルハルの瞳が潤んできていて。ほんのりと染まる頬、物欲しげに半開きした唇。その全てに釘付けになる。
 やがて俺の唇とハルハルの唇の距離がゼロになろうとしたその瞬間だった。
 大音量と共に風が巻き起こった。
「キャアッ?!」
 ハルハルを庇って風が吹いてきた方向を見ると、そこには沈黙の文芸部員が本を閉じていた。正確に言えば元本だったものを両手で押し潰していた。さっき真っ二つになった分厚いハードカバーは今はせんべいのようにペラペラになっている。物凄い圧力がかかったに違いないのだが、あの本を愛する長門がここまでやるなんて何があったのだろう。
 とにかくハルハルにばれてないよな? 無駄な宇宙能力を使ってしまった長門にどうしたと訊きたいところでもある。しかし長門の答えは沈黙と刺し殺しそうな視線だけだった。朝倉と対峙したときだって浮かべなかった殺気に俺の背筋が凍りつく。
「ゆ、有希? まだ終わるには早いと思うんだけど……」
 ハルハルも異様な雰囲気だけは感じ取ったのか長門に恐る恐る尋ねる。それに答えたのは長門ではなくやさぐれ未来人だった。
「はいはい、着替えるから出てってくださーい」
 有無を言わさず俺と古泉を追い出した朝比奈さんは「ったく、いい加減にしてよね」などとブツブツ呟きながらドアがまだ閉まりきってないのに服を脱ぎだしていた。見られちゃいますよ、古泉に。俺はハルハルしか見てないですけど。
 とりあえず廊下に追い出された俺と古泉はやる事も無いのでぼんやりと待っているのだが。
「どうしたんだハルハル? お前まで出てくることは無かったんだぞ」
 いつものハルハルなら朝比奈さんの着替えを手伝いという名の妨害をして遊んでいるはずだ。流石にそこまでハルハルを拘束するつもりもなかったので普通に出て行ったのだが。
「だって〜、キョンたんがいないんだもん」
 それは俺も同様だ、ハルハルと一秒以上離れる事の苦しさはよく分かってる。それでもハルハルが喜んで朝比奈さんをいじり倒すなら俺は涙を飲んでそれをドア越しに聞いていようと思っていたのだ。
「ううん、みくるちゃんのおっぱいで遊び倒すのも楽しいけどキョンたんがいない方が寂しいの。だからあたし、みくるちゃんのおっぱいを諦めてキョンたんを選んだわ」
 なんと、あの朝比奈さんの胸よりも俺を選んでくれたのか?!
「ありがとうハルハル〜!」
キョンた〜ん❤」
 俺達はしっかり抱き合った。少し離れたところで「朝比奈さんはいじられるの前提なんですね……」などという声が聞こえたが無視だ。あの朝比奈おっぱいよりも俺を選んだというハルハルに感動しなくてどうするんだ。
 そしてハルハルは少し照れたように、
「あ、あのね? みくるちゃんだけじゃなくて、キョンたんが喜んでくれるならあたしもコスプレしようかな? 団活の間だけでも」
 なんて素晴らしい提案なんだ。あの可愛いハルハルが俺の為にコスプレを!
「メイド服は?」
 似合うに決まっている。
「ナース服」
 隅々まで診てください。
「ウェイトレスなんかどう?」
 注文はハルハルで。
「バニーもあるわ!」
 正直たまりません。
「カエルの着ぐるみは流石にどうなの?」
 脱がすからオッケーだ、その時に汗でうなじに後れ毛が張り付いていたりしたら最高だな。
「つまりはハルハルなら何着たって似合うし何でもアリなんだー!」
キョンた〜んっ!」
 俺達は再び抱き合った。ああ、なんて可愛いんだハルハル。俺のためにそこまでしてくれるなんて。
「あの〜、ちょっと僕は席を外しますね」
「どうしたの、古泉くん? 顔色が悪いわよ」
 本当だ、顔が青いぞ。まったく、ハルハルに心配をかけるんじゃねえよ。
「いえ、ちょっと避難、もといトイレに行ってきます。ああ、何だったら玄関で待っていてください」
 そう言いながら古泉は去っていった。足元がふらふらとしていたのだから余程体調が悪いのだろうか? その後廊下から何かを蹴飛ばすような大きな音がしたのだが悪い奴もいるものである。
「大丈夫かしら、古泉くん」
 多分心配ないと思うぞ。ああ見えて丈夫だからな、あいつ。そう言うと上目遣いのハルハルの唇が上向いた。
「ふっふ〜ん♪ もしかしてヤキモチかな? キョンたんは」
 何でだよ。俺が古泉なんかに嫉妬せねばならん理由など無い。何故ならばハルハルは俺のものであるからだ。
「むしろ団員の心配をちゃんとするハルハルの優しさに萌える!」
キョンた〜ん❤」
 三度目の抱擁を俺達が交わそうとしたら上手いタイミングで部室の扉が開いた。
「…………」
 無言で出てきた朝比奈さんと長門に蔑みの目で見られ、俺とハルハルは我に返ったのであった。
 ……………………帰るか。






 下校風景はSOS団全員というのが毎日の光景なのであるが、本日よりそのポジションに多少の変更があったことはご理解頂くしかない。
 何と俺がこの集団の先頭を歩くという本人ですら思いも寄らなかった状態なのだから。しかしそうせざるを得ないこともまた確かなのだ、だってハルハルが腕組んでるから。もう俺の腕と一体化してるかのようにしがみ付いてるハルハルは当ててんのよ、じゃなくて挟んでんのよ、である。いやあ、ハルハルのサイズだと俺の腕ってすっぽり入っちゃうんだなあ。
 もう俺の左腕はむにむにのふにふにでハルハルなのだ、おまけに肩口から見上げる上目遣いのハルハルはニコニコと微笑んだままだし。それを見ている俺の顔はどうなんだろう、多分ニコニコではなくニヤニヤな気もするが。
 それを数メートル離れたところで見守る残りのメンバー。いや、何か遠くないか? いつもならもう少しは近いと思うんだけど。しかも朝比奈さんと長門が何かブツブツ呟いている。正直怖い。それを古泉が必死に宥めているようなのだが両手に花で羨ましい話だよな。
「ぶ〜、キョンたんはみくるちゃんや有希の方がいいの?」
 いや、あくまで一般論だ。俺にはハルハルがいるし、ハルハルがいれば両手どころか世界中が花満開ってとこだよ。
「そ、そう? あたしもキョンたんがいてくれたら幸せよ❤」
 いや、それはもう可愛かったんですよ。思わず反対の手で髪をかき上げておでこにキスするくらい。
「や〜ん❤」
「いやだってハルハルが可愛すぎてさー」
 照れたハルハルが益々しがみ付いてくるのでむにゅむにゅが腕全体に広がって。しかも肩に顎を乗せてきて吐息が耳をくすぐってくる。左半身をハルハルに支配されたかのようだ、いっその事融合しちゃえばいいのになんて思うくらいに。
 そんな俺達を見て、背後から舌打ちが何度も聞こえてきた。多分空耳だろう、俺とハルハルが仲良しなら都合がいい連中ばかりのはずなのだからな。
 こうして長門のマンション前で解散となるのだが、長門も朝比奈さんもここまで無言のままだった。何か色々呟いていたようだが俺達には聞こえなかったしな、後で古泉に聞いてみよう。と思ってたら古泉に全力で拒否された。あの古泉がここまで慌てふためくとは何を言ったんだ、あの二人?
「……………」
 それでも長門は最後の精神力を発揮して(いつも通りのようで俺にはそう見えた)数ミリの会釈をするとマンションへと入っていった。その足取りがさっきの古泉のようにふらふらしていたのが気がかりだったのだが、古泉曰く仕方ないとの事だった。超能力者と宇宙人が同じ症状なのは何かの異常なのだろうか?
 しかしそれは特殊履歴を持つもの全てに共通していたのかもしれない。
「はあ〜…………さよならー」
 大きく溜息をついた朝比奈さんがおざなりに挨拶してその場を去る。その足元も何故かふらふらしていた。おい古泉、これはまさかSOS団への敵対勢力の仕業とかじゃないのか?! ハルハルに聞こえないように(少し寂しそうにしているハルハルに胸を痛めながら)古泉に問いかけると、
「あー、まあ。彼女達にとっては敵対行為に等しいでしょうねえ。僕も現在ギリギリですから」
 意味不明の事を呟いて大きく溜息をついた。とにかくハルハルには影響がないのだな?
「それについてはまったく影響無いですよ、断言出来ます。それより僕は朝比奈さんを送ってきます。あのままだと何を仕出かすか分かったもんじゃありませんからね」
 朝比奈さんが? あの天使が何をするというんだよ。しかし古泉は疲れたように俺を見て溜息をつくと何も言わずに朝比奈さんの後を追った。何なんだ、嫌味ったらしい。しかし古泉がハルハルに影響は無いと言うのだから信じるしかないんだろうな。
 すると古泉と俺の会話に遠慮していたハルハルが(こんな気遣いをしてくれるハルハルなんて見たことなかった、感動である)静かに俺に寄り添うと、
「ねえ、みんな大丈夫なのかな……」
 ほら見ろ、ハルハルが憂いを帯びた目で俯いちまったじゃねえか。まったく、ハルハルを困らせて悲しませるなんて団員失格だぞ。俺はハルハルの肩を抱くと、
「大丈夫だ、ちょっと体育があったりで疲れていただけだってさ。ほら、朝比奈さんなんかは疲れが溜まってたんだろ。何だかんだで受験生でもあるし」
 確かに受験生でもあるのに休まずSOS団に来ているのだから疲れていてもしょうがないのかもしれないな。
「そっか、それで古泉くんが送っていってあげるのね」
「ああ、やはり同じ団員として心配なんだろうな。長門は目の前に家があったから良かったけど」
 長門の足取りもふらふらしてたからな。俺に出来る事なら力になってやりたいところだが。
「あたし、団長失格なのかなあ。みんなの事気付いてなかったのかも」
 俺の胸に顔を埋めて泣きそうなハルハル。不謹慎ながら弱々しいハルハルにキュンとくる。だがそんなハルハルだけを見たくはないので俺は髪を優しく撫でながら、
「そんなことないさ。現に古泉の心配もしてたじゃないか、それにみんなもハルハルが団長だから一緒にいるんだぞ? ハルハルは笑顔でいてくれればいいんだ、悲しむ顔なんて見たくない」
 そのままハルハルを抱きしめる。どんなに強気でもやはり女の子なのだ、俺が守ってやらないと。
「うん…………ごめんね、キョンたん」
 いいんだ、俺の胸から顔を上げて優しく微笑んだハルハルを見れば全てが許せるってもんさ。
「帰ろうか。送ってくぞ」
「うんっ❤」
 ハルハルが再び俺の腕にしがみ付いて、二人の影が一つになる。ハルハルの温もりを腕全体に感じながら俺は帰宅の途に着いたのであった…………






 季節的に日もすっかり暮れたハルハルの家の前。さっきまで組んでいた腕を離すときに寂しそうだったハルハルは今俺と向かい合っている。このまま帰るだけでいいのに離れがたい、一分一秒でもハルハルと一緒にいたい。それはハルハルもそう思ってくれている、だから何も言えないままでこうして立っているのだから。
「じゃあ、帰るな」
「うん……」
 ああもう、そんなに寂しそうな顔をしないでくれ。足が動かなくなってしまうじゃないか。これはゲームだよな、今から帰れば一回リセットのはずなんだよな? それなのに何でお前は泣きそうなんだ。
キョンたん…………また明日もね?」
 チクショウ、もうダメだな。こんなハルハルの顔を見てまともな思考なんか出来る訳が無い。俺はハルハルを抱きしめた。
「ああ、明日は俺が迎えに来てやる。弁当、忘れんなよ?」
「うん❤ 遅刻しちゃダメなんだからね?」
 任せろ、何があっても必ず迎えに行ってやる。
「…………明日こそギャフンと言わせちゃうんだから」
「それは俺のセリフだぜ」
 最後にお互いの立場を確認するようなフリをして。だけど言っている唇の距離は近づいて。




 俺とハルヒはキスをした。




 離れる唇の感触すらも惜しまれる、そんな時間。だがこれ以上は流石にまずい、俺は後ろを振り返らずにハルハルの家を後にした。
「また明日ね❤」
 キスした後の真っ赤な顔のハルハルに見送られて。