『SS』 三年Z組 キョン八先生 8

前回はこっちなんだってばさ!

 所は戻って三年Z組。若干疲れすぎてたり(主に眉毛)、行方不明者(眼鏡とかWAWAWAなど)がいるものの、概ねサボれたし気分転換になったし、まあいっかー的に空気が流れていた。
「そんじゃまあ、これはちゃんと出しておくからな。絶対に金賞を取れよ」
 無責任にもそう言ったキョン八だったが、朝倉はもうどうでもいいやと思っていた。せいぜい留年だろ? 退学でもいいくらいよ。本気でそう思うほど再構成された現状を嘆く。
 なんだかんだで集まった紙の束を持っていくのを見て、朝倉は今日一日が無かった事になればいいのに、と真剣に思ったのであった。








 

 それから数日後。三年Z組はいつものようにダラダラと授業をしているのだが、珍しくキョン八が脱線もせずに授業が出来ているのはここからのフリだからだ。
 ということで校内放送が鳴ったのだった。前フリが終わったキョン八が開放されたとばかりに教科書を教壇に叩きつけ、朝倉が文句というかツッコもうとすると、
『三年Z組ィィィィィィィ!!! 担任はすぐ来い! 今すぐにだッッッ!!』
『こないと校長の命が無いと思います』
『いや、もうそういうのはいいから!!』
 兎に角えらい剣幕である。が、キョン八は頭を掻きながら、
「と、いう事で校長はお亡くなりになられた。故人の冥福を祈ってやろうな。さて、授業続けるぞー」
「いや、呼ばれたんだから行ってやれよ!!」
 朝倉に言われたからって訳でもないんだが、キョン八はやれやれと口癖を呟きながら結局校長室へと向かうのであった。校長危機一髪である。
 が、校長室に着くと、
「…………あー、遅かったか」
「いや、確かに放送流してからだと遅いけど何処見て言ってんだ?!」
 校長の頭頂部を見て淡々と呟くキョン八と視線が何処に向いてるのか分かった校長の怒鳴り声。そう、校長の頭にはあるべきものが無かったのだ。
「いやいや! あんな触覚いらねえだろ?! むしろ無い方がすっきりしていいよ!」
「そういえば忘れてました。はいどうぞ」
 校長の頭に教頭が触覚を突き刺した。
「脱着可能?! つかまた付けるなよ! なんで俺にだけ触覚が無きゃ駄目なワケー?!」
「個性ですよ。それよりも校長、先生に話があるんじゃなかったのですか?」
 冷静に触覚を生やした校長を蔑みの目で見下ろした喜緑教頭(ドS)は話を無理矢理戻そうとした。原因が自分にあっても関係は無い、そこが喜緑江美里なのだから。
 校長もこれ以上は言っても無駄というか墓穴を掘る結果にしかならないのでキョン八に向かいなおし、
「まあいい、それよりも問題はお前らだ」
 せいぜい威厳を持って言おうとしたのだが、
「いや、その触覚前後逆に付いてますぜ」
「えっ? そうなの?!」
「あぁ、すいません」
「……………あれェ?!」
 教頭がまたもズボッと触覚を抜き差ししてまたも変な空気になってしまった。
「あの〜、帰っていいっすか?」
 キョン八が流石に呆れて手を上げる。だが校長はハッと気付くと、
「そうはいくか! 大体何で呼び出されたのか分かってるのか、お前はァ?!」
「分かんないっすね………………あ、ボーナスですか?」
「なんでそんなにポジティブなんだよ! ちげーよ! 何なんだよ、お前らんとこのクラスの馬鹿どもは!」
 テーブルを叩く校長、タバコ(によく似たパイポ)に火を点けるキョン八。口の中に溜めた煙を校長の顔面に吐きかけながら、
「何やったんですか、あいつら? いや、いつも何かやってますけど今回は何もしてないですよ。多分」
「多分じゃねえだろ! やってくれちまってたんだよ! これ見ろ、これェ!」
 つまらなそうなキョン八の暴挙にも目もくれず、校長はバラバラと何枚かの紙を放り投げる。それは先日提出したばかりの絵だった。
「あぁ、それですか。どうしたんです、金賞連続受賞でもしましたか?」
モンドセレクションじゃねえんだから連続受賞なんかしてねーよ! それより見てみろ、こんなの提出出来るか!!」
 見れば確かに提出したはずの絵なのだが。
「どこか問題でも?」
「問題だらけだっ! まずこれ! 何だよ、この落書き! えーと、『マイスイートハート』? いや、これオランダ人の奥さんだから! 南極が何号かだぞ、おいィィィッッ!!」
「あー、これ描いたのはアホというかゴリですからしょうがないっすよ。そうか、結局描けなかったから精一杯の妥協だったのかもしれないなあ………………いや? まさか見たまま描いてこうなのかもしれないぞ? あいつなら見たもの全てをダッチワイフにしかねんからな」
 どんだけ下半身に直結してるんだ、あのWAWAWAは。しかし本能のままに生きる谷口(というかゴリ)ならばやりかねないのだ。良かった、朝比奈さんに見つからなくて本当に良かった。
「で、今度はこのスプラッタなんだが…………もうどす黒いよね? これもう乾いちゃってるから色が変わってるんだよ! 来た当初は真っ赤だったんだよ、これェェェェ!!」
「なるほど、繋がってたのか」
 その絵は、いや、絵というよりはこう、何と言うか、顔拓? 要するにキャンパスに顔面を押し付けられたような感じで、かろうじて目や鼻、口が判るので顔拓だろうと思われるのだが開いた口と、涙が流れているのが判断できる白い空間が鬼気迫るものを感じさせる。
 しかもそのキャンパスはどす黒く染まっていた。何で? さっき校長はこの絵は最初赤かったと言ってたでしょ? つまりはそういうことである。そしてこの顔拓はとある人物がモデルであり、恐らくそのモデルは先程のダッチワイフの製作者なのだろう。
『まずあの馬鹿が絵を見せる→朝比奈みくる激怒→ボコボコにする→顔面を紙に叩きつける→まあこれでいいや、何か前衛的だしーって流れなんだろうなあ』キョン八は一連の流れをそう予測し、それは完璧に正解だった。恐らく谷口は死んだだろう、顔面的に。いや、全体的に。
「まあ元々の見た目がアレですから、今更何をと言った感じですが」
 本当に酷い教頭は置いておいて、校長は不気味な顔拓をゴミ箱へと捨てた。
「あとは酢コンブとか、マヨネーズとか、静物画なのか単なるクロッキーなのか判らないやつもあったが、まあそれはそれでいいだろう。問題はこれだ!」
 そう言って取り出したのは、
「なあッ?!」
 キョン八が驚愕するのは当然だろう、それははっきり言って十八禁だった。具体的に言えば長門だった。全裸でポーズを取っている、M字開脚で両手で×××を開いている構図の。
「あー、朝倉は確か描き終わってないって言ってたしポーズが違うぞ? 一体誰だ、こんなにリアルに長門を描ききれるヤツは?」
「いや、そっちじゃなくてどう見ても無修正だろ、これ! つーか、これ絵画じゃなくて単なるポルノだからな! しかも児ポ法直撃レベルの!!」
 喚き散らす校長の背後に謎の影の存在を感じ、キョン八がそちらに気を取られた瞬間、
「ぶべらっ!」
 校長が顔面からテーブルに激突し、教頭が頭をぶつける寸前に絵を回収した。顔面を打ちつけた校長の後頭部から煙が立ち昇り、テーブルが鼻血で赤く染まる。
 キョン八が校長を襲った犯人は、と影の正体を見ると、
「…………」
 予想通りというか何と言うか、眼鏡をかけたショートカットの忍者で宇宙人というワケのわからないスペックを持ってしまった無口な少女が立っていた。
「ああ、長門か。お前、あの絵はやりすぎだろ? これ小説だからいいけどイラストなら一発で発禁もんだぞ」
「くぱぁ、は文化」
「いや、それ間違ってるから」
 思った以上に冷静なのはキョン八が長門の暴走に慣れてしまったからだろうか。それと、くぱぁ、は文化です。日本人に生まれてよかったと思えるほどに。
「とにかくこれは駄目だ、流石に見せるわけにはいかんからな」
「そう、これを見ていいのはあなただけ」
 キョン八が長門の絵を丸めて白衣の中にしまい込み、長門は校長の後頭部に手をかざした。
「対象の記憶を操作して先程の出来事を無かった事にする」
「こういう時だけ宇宙人スペック全開なんだな………まあいい、やっちまえ」
 長門の手から光が走り、校長の体が断末魔を迎えたかのように二、三度バウンドしてから静かになった。
「ふう、これでいいか? まああまり面倒な事はァァァァッッッ?!」
 キョン八が一息ついて長門を見ると、そこにはさっきのイラストとまったく同じポーズの長門有希(全裸)ガガガガガガッッッッ!!!!
「矢張り現物を見てもらうべき。くぱぁ、は文化」
「やばいって! そういうのは別の作品でやるから! これ全年齢だからね?!」
 キョン八が慌てながら作者にハードルの高い事を口走る。その時だった。
 ゴスッ! と鈍い音がして。
「迂闊」
 長門が前のめりに倒れた。いや、あなた今回迂闊すぎますから。
「まったく、ちょっと羽目を外しすぎですよね」
 笑顔で長門を気絶させた現在最強フリーダムキャラ(わかめ)はそのまま長門を窓から外に放り投げた。
「おい! 長門は全裸だぞ?!」
「大丈夫です、後からスタッフ全員(男性のみ)で美味しくいただきました。というテロップを入れますから」
「入れちゃ駄目だろうがァァァァァァァ!!」
 絶叫と共に窓に駆け寄るキョン八。だが、
「あ、あれ? 長門は?」
 そこには何も無かった。窓の外では校庭で体育の授業が普通に行われている。
「途中でワープさせました。放り投げたのはドラマ性を持たせるための視覚効果です」
 だからこれは文章だから。しかもここでネタばらしたら何の意味も無いですからね? そんな理屈はフリーダムWAKAMEには通用しませんが。
「とりあえず話を続けましょう。この死体に活を入れますから適当に話を捏造してください、私も協力しますので」
 言うなり喜緑江美里の前蹴りが校長の脇腹に強烈にヒットした。
「ぐっはァァァァァァァ!!!」
 と転がって壁に激突して止まる哀れな校長。それでも意識を取り戻した校長はヨロヨロと起き上がったのだった。 
「う、うぅ…………一体俺は…………うん? ここは何処だ? どうしたんだ、お前? あの馬鹿女はいいのか? いや、それよりも喜緑くんも俺も何でこんな格好してるんだ?」
「記憶が戻りすぎだー! この話そのものが無かった事になってやがる、どうすんだよコレェ?!」
「えみりんチョップ」
 えみりんチョップが火を噴いた。脳天にチョップを落とされた校長、再び気絶。
「申し訳ありません、長門さんがやりすぎたようです。ほら、あの子恥かしがりやさんですから」
 その恥かしがりやさんは全裸でくぱぁをやった挙句に外に放り投げられましたけど。
「それではもう一度やり直しましょう。では行きます、えみりんキック」
 えみりんキックが火を噴いた。
「ぐっはァァァァァァァ!!!」
 と転がって壁に激突して止まる哀れな校長。それでも意識を取り戻した校長はヨロヨロと起き上がったのだった。
「あ、そっからやり直しなんだな。で? 何の用ですか校長?」
「な、なんか頭痛が止まらんのだが…………あと脇腹も痛いし………」
「骨が折れてなければ大丈夫でしょうよ。それより用件を聞きたいんですけど」
 鬼のキョン八である。略して鬼キョンというと違う作品というか違う作家さんになるので要注意。という同人的小ネタを挟みつつ、キョン八は先程の出来事を全て無かった事にしてしまった。
「う、うむ、何だったかな? 確か三年Z組に絵を描かせて……」
 まだ記憶が混乱しているのか首を捻る校長に助け舟を出したのは教頭先生である。
「三年Z組が提出した絵画が見事に金賞を受賞したのでお祝いの一言を言うために呼び出したんですよ」
「そうだったかな? ところで俺が首を捻ったのを幸いとばかりに、そのまま両手で頭を捻じ切らんばかりに捻るのは止めてもらえないでしょうかァァァァァァァ?!」
 笑顔で人を殺せるのがえみりんクオリティ。そして首が九十度に曲がったままの校長が、
「まあ何だ? 何か良く分からんが三年Z組から金賞が出たのは事実だ。よくやった、留年だけは勘弁してやる」
 と、さっきまでの流れはどこへやらな笑顔で握手すら求めてきた。キョン八はここぞとばかりに、
「あっ、そーなんですか? それじゃお約束どおりに俺に臨時ボーナスなんか出ちゃったりなんかしちゃったりするんじゃないの? よっ! 校長! 伊達に禿げてないっすね!」
「ほんとにハゲてねーよ!! むしろ髪は多い方だよ?!」
 どこからか取り出した扇子で自分の額をペシッと叩く、ゴマすりモードのキョン八だったのだが。
「いえ、流石にボーナスとまではいかないでしょうね。まずは三年Z組が誰も落第しないだけでも感謝してほしいくらいです」
 冷静に水を差すのが海産物女王様こと喜緑さんである。キョン八としては不満を漏らそうとしたのだったが、『このくらいで済ませてやったんだから堪えろや、ゴラァ』というメッセージを瞳に込めて無言で微笑んでいらっしゃる。
 つまりは喧嘩両成敗というものであって、笑顔の教頭には何も言えないキョン八なのであった。
「ま、しょうがないっすね。そんじゃまあウチの生徒に賞状の一つでも持って行ってやりますか」
「うむ、これだ。とにかくよくやった!」
 有耶無耶なままに校長の機嫌も治り、キョン八も三年Z組もお咎めなしで無事クラスへと戻れたのだ。ある意味万々歳であろう状態でも、ボーナスが名残惜しかったりするキョン八なのだった。
「あ、忘れてました」
 教頭が校長の触覚を引き抜いた。
「結局やるのかよ?!」
「まあ、これがお約束というものですから」










「という事で無事金賞取ったどー!!」
 高々と賞状を掲げるキョン八。沸き起こる歓声、盛り上がる教室。いい意味でも悪い意味でも、このクラスは一体感があるのであった。
「とりあえず留年は免れたのね、よかったー」
 何だかんだで留年は嫌だった朝倉もホッと一息である。ともあれ、こんな面子でもクラスメイトは大切なのだった。
「はーっはっは! やはり俺の芸術が世間というものに理解されたようだな!」
 馬鹿なことを言ってるゴリラにもう天使の欠片も無いアイドルの鉄拳が飛ぶ。もう数えるのも面倒な空飛ぶWAWAWAは無視しておいてキョン八は賞状をヒラヒラと振った。
「んで、この賞状なんだけど一応そいつにやらなきゃならないんだよな。えーと、誰だ?」
 賞状の名前を今更確認するキョン八。ずっと持ってたのに一瞥もしていなかったところがキョン八らしい。
「えーと、ふじわら…………藤原かよ?! 居たんだ、あいつ?」
「自分とこのクラスなのに把握していないのかよ?!」
 朝倉のツッコミも無理は無い。だがキョン八は周囲を見渡すと、
「で? その藤原はどこだよ、あんまりいい気はしないがやるもんはやらんといかんからな」
 面白くなさそうに呟いたが実際藤原はいなかった。元々存在感がないヤツだったのだが。しかしもう金賞まで取ったのである、これがオチなもんだから内心は必死なのだった。
 そこで登場するのが設定上は繋がりのある連中である。
「おい、古泉。藤原知らねーか?」
「さて? 僕は見てませんねぇ。それよりも僕が描いたマヨネーズはいかがでしたか?」
「あれは商標登録とか著作権的にNGだろうな、というか三分クッキングの様子でも描いてりゃよかったんじゃねえか?」
「ああ、それは盲点でした」
 そんなキュー○ーな会話はいいとして。
「ああ、キョン八っつぁん、藤原ならほら、そこで」
 もう口調がすっかり変わった国木田が指差したその先には。
「ミントンやってますぜ、ミントン」
 汗水流して必死にラケットを振る藤原がいた。一人で。
「フンッ! フンッ! フフンッ!」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
 沈黙。ブンブンとラケットが空を切る音だけが室内を支配した。
「こ、これがオチかァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!」
 キョン八の絶叫と共にクラスメイトが藤原に殺到する。
 そして全員で藤原をボコボコにした。
「な、なんでだーァァァァァァァァ?!」
 そうしないとやりきれない思いがあったからだ。正しく酷い、このオチは。
「ま、まあ留年しなかったから良かったということでいいじゃない? だけどやっぱり情報解除してくんないかなぁ…………もうやだ」
 最終的に心の底から再構成された事を後悔する朝倉涼子なのだった。
「朝倉ぁ、眉毛落ちてるぞ」
「落ちてないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「違った、眉毛下がってるぞ。いいじゃねえか、そうやって後悔すんのも今を生きてるからってやつだ。これからもそうやって笑ったり泣いたりすりゃいいさ」
 紫煙を燻らせながらキョン八は明後日の方向を向いて呟いた。もしかしたら照れているのかもしれない、そう思うとなんとなく楽しかった。だから朝倉は笑顔で、
「そうね、それでも笑ってられるから勘弁してあげるわ」
 もう少しだけここにいてもいいかもしれない、そう思ったから。
「そうか? そんじゃ次回もよろしく」
「はい? 次回? 次回があるの、これェェェェェェェ?!」
 次回があるかは判りません。が。
 











 ご声援ありがとうございました。蔵人先生の次回作にご期待ください。
「打ち切りエンドだァァァァァァァァァァッ!!!」

あとがき

というかスイマセン、こんなのを記念SSにして本当にスイマセン。
でも楽しかったなあ、これだけキャラ壊せばいいだろうみたいな(笑)実は入らなかったネタも多数あるので本当にリクがあれば次回も書いてみたいもんですね。
でも今やってる真面目なやつから頑張ります。今後とも龍泉堂をよろしくお願いいたします。