『SS』 三年Z組 キョン八先生 7

前回はこちらさんでありんす

「で?」
「で?――――とは――――?」
 妙に威張っているクラス委員長、周防九曜キョン八のやる気ゼロの質問に質問で返す。その間延びした口調にちょっとイラッとしながらもキョン八は頭を掻きながら、
「だーかーらー! どうすんだよ、この空気! それまでも酷いもんだったけどもうグダグダだよ?! 誰も責任取れないからね、むしろ取りたくなんかないんだからねェェェェェッ!!」
 やけっぱちのように吐き捨てた。だが、相手は周防九曜である。思考する昆布、倒錯のクラス委員長は誰にも及ばない地点で哲学する海産物なのであった。
「お任せください――――不肖――――この周防――――九曜が――――ご期待に――――副ってみせますとも――――」
「その口調で信用出来るかよ」
 だが既に九曜の暴走は始まっていた。いや、彼女からすれば当然の結果なのだった。
「――――そういえば――――写生とは――――生を写すと――――書きますが――――何故――――無機物でも生なんでしょう――――?」
「はあ?」
「生――――そして――――死――――男――――女――――無限大――――」
 カッ! 目を見開く九曜。そして彼女は叫んだのであった。
「つまり――――私に――――医者になれと――――言うんですか、先生――――!!」
「言うかーッッッ!!!」
 キョン八が九曜の脳天にチョップをかます。大体何でこの流れで医者なんだよ! 意味が分からん!
「――――ベン=ケーシーですよ――――知らないんですか――――?」
「知るかァァァァ!! 大体作者の親の世代のアメリカのドラマじゃねえか! 白黒だぞ? 白黒ォ!!」
 知ってるじゃねえか。しかし九曜は止まらない、止めようがない。
「ドラマに――――いいも悪いも――――ありません――――――――ですが――――やはり――――ER――――でしたか」
「だから何で医療系ドラマなんだよ、しかも外国の!!」
 そこで九曜はそうか、とばかりに手を叩く。
「ああ――――――――振り返れば――――――――――――」
「奴はいねえェェェェェ!! ついでに言えば巨塔も無いし、ひげは赤くないし、ゴッドハンドもいらねーよ!!」
 先回りしたツッコミに九曜は反射的に反応した。
「ああさくらああああああああ――――!!!!」
「ここでナースになってんじゃねェェェェェェェェェェェ!!!!」
 やはり九曜は九曜でした。ああ、どうしよう、この空気。
「ねえ、呼んだ?」
 さっきまで跪いていた朝倉が顔を上げる。と、同時に九曜が朝倉をビンタした。
「って何でェ?!」
「そういう――――仕様――――だからよ?」
 吹っ飛ぶ朝倉さん、何も失敗もしてないのにご愁傷様です。と、起き上がった朝倉の雰囲気が変わっていた。
「ふっふっふ…………………やってくれるじゃない、天蓋領域だっけ? 私が消えてた間に好き勝手してくれてたようね…………」
 その手には再びナイフが握られている。あの頃や、あの頃の朝倉さんが帰ってきたでー。
「死になさい!」
「――――不当な暴力には――――屈しない――――」
 先に手を出したくせにナイフを軽々と避けながら、うまい棒で戦う九曜。それを横目で見ながら、『勝手にしろよ、もう』とキョン八は呆れて溜息をついたのだった。
 戦闘(というか朝倉の攻撃をうまい棒片手の九曜が避ける)事しばし。もうこいつら置いて帰ろうかなー、とキョン八が遠い目をした時だった。
「あぁ、いたいた。キョン八っつぁん、終わりやしたぜ」
 声をかけたのはすっかり沖田口調が板についた国木田で、見れば紙束を持っている。
「お? 何だ、他のヤツは全員描いたのか?」
「谷口がまだですけど、何とか間に合わせるって言ってやした。だけどまあ朝比奈さん相手ですから無いものだと思ってくだせェ」
「ああ、まああいつはいいや。そんじゃいいタイミングだから帰るとすっか。おい、朝倉ー! 九曜ー! 帰るぞー!」
 キョン八が今だ戦い続ける二人を呼ぶと、
「え? 私まだ描いてないんだけどォォォ?!」
 応えようとした朝倉の口に九曜がうまい棒を突っ込んだ。
「ふごォォッ?! ふぁにふんふぉよ!」
「――――うまい棒明太子味に――――諍いは通じない――――」
「ふがふが………あら、でも美味しいわね」
「そう――――うまい棒こそ――――全てを超越した――――平和の象徴――――」
 こうして銀河を二分するかもしれなかった宇宙大戦争うまい棒の活躍により回避され、世界に平和が満ちたのであった。
「あー! でも喉渇く! これめっちゃ喉渇くーっ!!」
「それが――――うまい棒の――――唯一の弱点――――今も――――尚――――解決策が見つからない――――」
「お茶! いいからお茶ちょうだーいッ!!」
 口元を押さえて走っていく朝倉を見ながら、
「いやぁ、平和っていいもんですねぇダンナァ」
「そうだな。だけど国木田、お前ちょっと違和感無さすぎじゃね?」
 のんびりと買っておいたペットボトルのお茶を飲み干すキョン八と国木田なのだった。
「あぁそうそう、次回でこの話終わりますから。だからいくらキャラを壊しても大丈夫だろうって腹積もりでさぁ」
「いや、キャラ壊れてないし違和感ないからね、お前」