『SS』 三年Z組 キョン八先生 6

前回はこ、こちらですよ?

 キュッ、キュッとシューズが床で鳴る音が体育館内に響く。歓声で振動する館内でその音だけが大きく耳に残るように鳴っているのだ。
 『ディーフェンス! ディーフェンス!』声援と歓声の中、朝倉涼子がボールを受け取る。スリーポイントラインの遥かに手前にも係わらずシュート体勢を取った。
「焦ったな、朝倉!」
 しかし朝倉はニヤリと笑った。神経が鋭くなり、指先から離れたボールの軌道が見なくても分かる。
「今日の私は絶好調なのよ」
 そのセリフと同時にボールはゴールに吸い込まれたのであった。沸き起こる大歓声、その観客に向かって朝倉は大きく右腕を突き上げたのであった………………







「だから作品が違ーうッッッ!!」
 空間を引き裂くツッコミ。体育館が裂けて公園が現れた。そう、ここは公園。今やってるのは写生。本筋はそこなのに何故こうなってしまったのだろう?
「行数稼ぎだろ。そして俺は体力を回復したのであった」
 そしてキョン八は体力を回復していたのであった。
「え? 何でわざわざ同じ表現を?」
「いや、だから行数稼ぎだって」
 そんなキョン八は既に何事も無かったかのようにDSのスイッチを入れていたのであった。もちろんポケモンである。キョン八はラブプラスを買い損ねたのだった。
「いや、それはどっちでもいいから! というか結局ゲームなの?!」
「そんな事はないぞ、あれ買えなかったのって何か流行りに乗っかれなかったみたいでイヤじゃね? つか二次元彼女サイコーって気持ちがイマイチよくわかんねーんだけど。こう、なんつーの? 女ってのはやっぱ触ってナンボなとこがあると思うんだよ、俺は」
 手つきがエロいキョン八、思いっきりセクハラである。
「そういうのは童貞を卒業して本棚の裏に巧妙に隠してあるDVDと雑誌と写真集を処分してから言いなさい」
「うおっ! それはキョン八じゃない方の俺の極秘情報じゃねえか! どこで仕入れたそのネタ?!」
 朝倉は黙って両手で輪を作り、それを目にやった。どうやら眼鏡と言いたいらしい。
 そしてこの作品で眼鏡と言えば一人しか心当たりが無く、そいつならやりかねない事を知っているキョン八は納得せざるを得ないのであった。
「…………この件は水に流そうじゃないか」
「そうね、不毛過ぎるわ」
 しかし水に流そうとはしない人物がただ一人居たのである。キョン八の背後にいつの間にか何者かが忍び寄る。
 殺気を感じたキョン八が振り返るとこの話題から登場するにはあまりの危険人物がそこに居た。ご存知眼鏡の人である。
「な、長門さん? ほら、もうこの話は終わってるから! だから大人しく写生しましょ? ね?」
「そ、そうだぞ長門! 今回の話の流れはどこかおかしいんだ、もうこれ以上お前に口を開かせると本当に不特定多数の人間から石を投げられかねん!」
「そう」
 キョン八と朝倉が必死に宥めるものの、無表情クール淫乱どMという新たなる属性を身に付けた壊れかけのインターフェース様には通用などしなかった。
「解決策がある」
「…………何の?」
「あなたにはDVDよりも雑誌よりも写真集よりも有効且つ確実に童貞を卒業出来る方法がある。現在あなたの目前には使用可能な穴が三つある、どれもあなた専用。何時でも何処でも構わない、許可を」
 えーと、三つって多分アレとアレと、ま、まさかいきなり後ろまでか?! と妄想が爆発しそうになるが、本当に長門ファンの方々申し訳ありません。
「な、長門?! お前ちょっとキャラ壊し過ぎだろ! いいから、俺が悪かったから大人しく写生しておいてくれ!」
「大丈夫、あなたは全力で射精するといい。わたしが全て受け止めるから。むしろ望むところ」
「字も意味も違うじゃねえかァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
 キョン八が朝倉とアイコンタクトを取る。朝倉は一気に長門に詰め寄った。
「ごめんなさい、長門さんっ! でもこれ以上は無理!!」
 長門の背後に回った朝倉が麻縄を使って簀巻きにする。一体どのような効果があるのか、ぐるぐる巻きにされた長門は動けなくなった。
「…………迂闊」
 そして朝倉はそのまま長門さんを担ぎ上げると、
「どっせーいっ!」
 とばかりに空中へと放り投げたのであった。こうして長門さんは星になった。残されたキョン八と朝倉は大きく肩で息をしている。世界はある意味救われたのだった、が、ある意味誰も救われない世界でもあるなあ。
「うぅ…………」
 朝倉が跪いた。ポロポロと涙がこぼれてくる。思い出ボロボロである。
「もういやァ………これはあんまりよ、私の長門さんがあんなただのビッチキャラ扱いだなんて! もうさっちゃんとか関係ないじゃない! 何なの?! 長門さんは一体どうなっちゃったのよォォォォォォ!!」
「ただ長門のヤツ妙にノリノリだったもんなあ、あいつがあれだけ壊れるなんて思わなかったぞ」
 そう、長門さんの出番はこんなに多くなかったのです。それなのに方向性を無視するかのように出てきたんだから止めようが無かったのだ。本当にオチがつけにくくなってしまっているのでどうしたらいいんだろうか、キョン八ならずとも不安しか感じさせない現在の状況なのだったが。
「ねぇ、もう私出番が無くてもいいからァァァァ! 誰か、誰でもいいからオチをつけてくださーいッッッ!! そうよ、こんな時こそクラス委員長の出番じゃない! 私はたまたま属性的に委員長なだけで、この作品にはちゃんと委員長がいるはずなのよ! そいつにもう任せちゃえばいいじゃない! 私もう帰る! つかキラキラ光る粉になるぅぅぅ!!!」
 錯乱する朝倉のセリフに何やら危険なキーワードを感じたキョン八。そうだ、銀八先生における委員長は新八ではない。この世界での委員長は………
「ヅラか? あれは…………」
 ゾワッと背筋に悪寒が走る。この気配はヤバイ、しかも長門ではないことは先程の件で分かっている。誰だ、このプレッシャーは! キョン八のこめかみ辺りに光が走り、ピキーンとか効果音が鳴りそうな雰囲気の中で。
「ヅラじゃない―――――」
 背後から立ち昇る危険な香り。またこのパターンか、とばかりに振り返るキョン八! そこにはッ!
「――――九曜―――だ――――――」
 まったく気配も無く力強さを感じさせない必要以上のボリュームを持った黒髪の少女がはじめてのお使いに行くかのようなあどけなさで右手を突き上げていたところだった。
「……………ああ、そう」
 まあ黒髪だしパッツンだし確かに見た目はそうかもなあ。一気に脱力感が込み上げてくるのを隠し切れないキョン八はがっくりと肩を落としたのであった。まあ出オチといえばそうなるのだけれども。