『SS』 三年Z組 キョン八先生 2

前回はこっちだって言ってんだろ、コラァ!

 ということで場面は校長室。キョン八はふっかふかの革張りソファーにふんぞり返り、DSでポケモンをプレイ中であった。
「いや、あったじゃなくて呼び出されていきなりポケモンやってるヤツがいるかよ?!」
 鋭いツッコミを入れたのは校長である。眼鏡でオールバックで冷酷そうなキャラの校長は会長でもある。だから名前を出してください、ややこしい。
「いや〜お互い本名不詳は辛いものですねえ、かいこうちょう」
「それだと怪しい校長みてーじゃねえか! それとポケモン止めろ!」
 眼鏡を外して不良モードになった校長を一瞥したキョン八。その目はキョンとは違い死んだ魚のような濁った目をしている。いや? あんまり変わってないのかもしれないけど。
「それより校長、あんた何でこのポジションなワケ? こういう権力あるポジションは鶴屋さんとかじゃねえの?」
 既に視線は画面に集中しているので説得力は皆無なんですけど。しかし生徒会長改め校長(間抜けにも触覚付き)は轟然と胸を張って、
「それは俺が何よりも権力が大好きだからだ! 常に相手を上から目線で見下ろし、人間が蟻の様だと叫ぶ。そんな選ばれし男に俺はなりたい!」
 どう聞いても小物の発言です、ありがとうございました。そして小物発言に対して行動を示したのは、
「人間ごときが偉そうに言うんじゃありません」
 そう言いながらタッチペンで校長の両目を突き刺した緑の髪のわかめである。間違った、乙女である。
「目が!? 目がああああああああああっっっっ!!!!」
「あ、そういや喜緑さんは何で教頭なんすか? 校長とセットっていうのは解らなくもないですけど。それと俺のマリルにでんきポケモンぶつけるのやめてください」
「この立場だと合法的に会長、もとい校長をフルボッコに出来るからです。それとわたしのイワークとあなたのピカチュウをトレードしてください」
 目を押さえてのた打ち回る地獄絵図の隣でポケモンをトレードするキョン八と教頭。彼らのポケモンマスターへの道はまだ始まったばかりだ。
「いや、お前ら少しは心配しろよ! というか喜緑くん? どんな立場でも俺をフルボッコにしちゃいけなんだからねェ! どんな合法なんだよ、校長ボコれるって!」
 今更何を。と両目を真っ赤に充血させた校長が五月蝿いのでキョン八は渋々ゲームを中断した。ちなみに教頭はまだプレイ中である。
「で? 一体何の用ですか、校長? こう見えても俺も生徒達を待たせてるんです、忙しいんです、まだバッジが三つしかゲット出来てないんです」
「さりげなくポケモンを混ぜ込んだな、てめえ。まあいい、君に見てもらいたいものがあるんだ」
 そう言って校長は一枚のチラシのようなものをキョン八の前に差し出した。受け取ってみると、
「絵画コンクール? なんですか、こりゃ?」
 そこには『高校生絵画コンクールのお知らせ』と書かれている。どうやら各学校に配られたもののようで、一般的にはもう少し派手に絵とか描かれているのだが。これは簡単な募集要項だけが書かれた簡素なチラシだった。
「見てのとおりだよ、高校生向けの絵画を募集していてそれがウチの高校にも回ってきたということだな」
 ようやく本筋へと戻った校長が嬉々として説明する。
「あー、それならこういうのは美術部とかの役割じゃないっすかね。ウチのアホどもは絵心なんか皆無ですよ、全員マンガみたいな顔してますけど。というかマンガですよね、そういえばツガノ版ハルヒはどこまでやるんですかねえ、佐々木とか出るといいんですけど何となく見た目が長門と被りそうな気がしません? あの絵柄だと」
「最後の部分についてはコメントを差し控えるし、自分のクラスの教え子をアホ扱いすることにも目を瞑るが、君達には拒否する権利などないのだよ」
 嫌味な顔をしている校長。どうやら何か言いたいらしい。
「大体君達のクラスは我が校一の落ちこぼれやはみ出し者が集まって形成されているお荷物クラスなんだぞ? こういう機会にでも学校の為に役に立たなくて一体何のためにあるんだ?」
「多分、話が進まないからじゃないですか」
 元も子もない言い方をするのは喜緑江美里ポケモンプレイ中)である。
「それを言ったらお終いだろうがっ! それといい加減ポケモンやめろォォォ!!」
 激高する校長を完全に無視してゲームを続ける喜緑さんはさて置いて、キョン八は面白くなさそうに、
「確かにあいつらはお荷物ですけど一応俺の生徒なんでね。俺がいくら馬鹿にしようが構わないけど人に言われるのは癪に障るってもんだろ。で? 結局ウチに何させたいんですか、校長」
 どうやらキョン八なりにはクラスに愛着はあるようで、ようやく重い腰を上げようとしたのであった。
「うむ、このコンクールで最低一人は金賞を出すように。でなければ全員留年にするからな!」
 理不尽な事を言い出す校長に、
「で? 金賞取ったらいくらになるんです?」
「は? 何を言ってるんだ、お前は?」
「いや、金賞を取るような生徒を持ったクラスの担任には臨時ボーナスの一つも出るんじゃないかと」
 呆れんばかりの自分勝手な理屈をぶつけるキョン八。だが、これこそがキョン八の真の目的だったのだ。
「フン、まあいいだろう。もしも金賞が取れたのならウチの高校の評判も上がるからな、何だったらボーナスも考えてやらなくはないぞ」
 どうせ無理だろうがな、という態度を隠そうともしない校長にキョン八の瞳が怪しく光る。
「よーし、それなら俺に任せてください! きっちりボーナスは払っていただきますからね! つか出さなかったら触角引っこ抜くからな、コラ!」
「いや何でそんなに偉そうなんだよ! それにいきなり脅迫?! 大体俺が触覚付けてるのおかしくない? 喜緑くんには付いてないのに!」
「私、そんなダサいもの付けたくありません」
「それ付けさせられてるんだよ、俺はァァァァァァッッッ!!!」
 やはりダサかったか、その触覚。それでも特徴なので付けておくしかないから。
「まあいいや、俺は貰える物が貰えればそれでいいんで。んじゃあの馬鹿どもにちょっと言ってきます、な〜に、ちょちょいと描いたら何とかなりますよ」
 気楽に言ったキョン八は、チラシをヒラヒラとさせながら校長室を出て行ったのであった。
「ふむ、せいぜい吠え面を掻くがいい」
「いかにも小物な負け犬感丸出しの小悪党のセリフが良くお似合いです。流石は校長、チンピラ臭さが漂ってますね。最高です」
「いやそれまったく褒めてないからね? しかもDSの画面から顔上げてねーじゃねえか!」
「いえ、今やってるのはモンハンです。PSPとDSの違いも分からないんですか、あなたは?」
「勝手にゲームやっといてそんな言い草があるかっ! 大体説明文が入らなかったら何やってるかなんかわかんねーんだよ! 上手い事入れとけよ、そーいう説明はよォォォォ!!」
 いや、会話でネタを作るにはこういう技法も必要なのです。とりあえず今更ながらもモンスターハンターポータブルセカンドGをプレイしている喜緑江美里教頭先生は、
「そんなことより今からクエストに出るから早く参加してください、居ないよりかマシなんです。校長は最高の盾なんですから」
「盾前提かよ?! じゃなくてゲームやめろよ、いい加減によォ!」
「うっさいですよ、ハゲ」
 ゲーム画面からようやく顔を上げた教頭は不機嫌そうに校長の触覚を引っこ抜いた。
「あるぅぇ?! 俺の身体的特徴、あっさりと無くなっちゃったよ?! つか、結局抜かれるのかよ!」
「これもお約束というものなんですよ」
 喜緑さんが納得したように頷いて、校長室でのドタバタは終わるのでありました。