『SS』 三年Z組 キョン八先生

 ――――――子曰く、学びて時にこれを学ぶ。又楽しからずや――――――孔子
 
 ――――――あ、60万ヒットありがとーございまーす――――――坂田キョン
 
 ――――――ねえ、ここまでパクる意味ってあんの?!――――――朝倉涼子







『だれもがみんなチラシの裏は落書き帳だったはず』



 朝倉涼子は後悔していた。それはもう「なぁ〜にぃ〜? やっちまったな!」とクールポコに言われても反論出来ないくらいにやっちまったからである。
「はあ、いくら出番が欲しかったからって、これは無かったわ。いやいや、そりゃギャグでもいいからって言ったような気がしたけど。確かに二頭身でもないし、普通の姿で出られましたけど!」
 溜息をつきながら席に着く朝倉涼子、彼女は学校にいるのだから当然である。ただしここは北高ではない。それに彼女はセーラー服も着ていない。
「これ、違和感ありすぎじゃね?」
 彼女は学ランを着ていた。まあ学ランに何か特徴があるわけでもない、しかも委員長属性持ってるから襟まできっちり止めてるし。なんつーか、普通。
 そして彼女は周囲を見回し再び溜息をつく。一応設定的には慣れているはずなのだが、どう見たって慣れたくはない。そんなクラスメイトに囲まれている事を不幸だと呪いたいのだが生憎と出番を頂いた手前、文句の言えない立場なのであった。
 いや、私って結構前半で消えちゃったから知らないキャラが多すぎるんですけど! というのも『分裂』のキャラとか入ってるし。早くもネタバレなのも無視しておいて、朝倉涼子は再構成された事を後悔しながらホームルームを待つのだった。
 憂鬱な朝倉さんはさて置いて、ここで場面は廊下へと移る。そこを一人の男が歩いていた。どう考えてもやる気を感じさせない猫背で歩くだらしなさを撒き散らすかのような男である。
「あ〜、これってダブルクロスってやつ? でもただ単に中の人ネタだよね? 大体作者ダブルクロスって意味分かってないよね? みんなに言われて「あー、そういうのいいね」って思いっきり知ったかぶりしてるけど別にパロディなら何でもいいやって思ってるだけだし。大体『涼宮ハルヒ』の元の設定なんて良く知らないからね? いやむしろ『銀魂』の方が好きですから! それに俺は高校生であって何でこんな白衣とか着て先生やっちゃってるわけ? それじゃ今まで俺の成績低飛行って設定はどうなってんだよ、先生になれちゃってるじゃん」
 長々とセリフで説明させるのは楽なのでもうちょっとどうぞ。
「あー、本来同級生なんだよな、何で俺だけ授業とかやらなきゃなんないんだよ。それにあれだ、中の人も一応キャラの使い分けしてんだからこれって失礼じゃないのか? 誰でもいいから杉田ならいいだろっていうか有名作品同士をパクっておけば何とかなるって思ってんだろ、作者ぁっ!」
 まあその通りですけど。いきなり天井(神の声)に逆ギレした主人公はズルペタとサンダルを引きずるように歩きながら、
「あ〜、だる。本当に俺以外の奴、今すぐ代われ、そんで俺帰って寝る。よし、ホームルームをいいことに次の先生決めよう、そうしよう」
 とまあドアを開けた。寝癖のついた頭。眠たげな目。よれよれの白衣。一応このクラスの担任であり、本編の主人公である。その名も坂田キョン八先生という。
「いやだから恥かしいんですけど! 大体本名にあだ名組み合わせちゃってどうすんの?! 俺の本名どこ行っちゃったのー!」
 そんなツッコミを入れる先生を見て、クラス全員がツッコんだ。
『いや、違和感無さすぎだろ!』
 ここは私立銀魂高校。クラスは言わずとしれた三年Z組。分かりやすいほど分かりやすい、これはパクリの話である。
「パクリ認めちゃった! ダブルクロスなんてカッコいい言い方じゃなくてパクったって言っちゃったよ!」
 んじゃインスパイアでいいよ、意味わかんねーけど。とりあえず設定を使って何か書けば二次創作として成り立ってんでしょ?
「うう…………やっぱり再構成なんてされるんじゃなかった………」
 一人なんか嘆いてますけど話は進んじゃうんです。
「よーし、お前ら席に着けー。そんで私語は禁止な、んじゃホームルーム始めるぞ。今朝は『この後先生役を誰がやるか』って話なんだが」
「その話題引っ張るの?!」
 ダルそうに黒板に議題を書いたキョン八に朝倉涼子のツッコミが入る。ここで朝倉は気付いてしまった。
「あ、あれ? 私、学ランでツッコミってまさかこのポジションって新八ですか? 全然接点無さそうなキャラなんですけど!」
 ようやく気付いたかとばかりにニヤリと笑ったキョン八。
「そーだ、お前はぱっつぁんのポジションなんだよ。まあいいじゃねえか、ツッコミは必要だし、共通点って言えば顔に特徴あるというか、ぱっつぁんは眼鏡だし、お前眉毛だし」
「ひどっ! 私の存在意義を眉毛だけで断定したよ、この人! 他に特徴あるでしょ、こう見えても人気キャラなんだし!」
 さりげなく人気をアピールする朝倉さん。確かに出番の割には人気は高いからこうして出番があるのだが、自分でアピールするのが厭らしい。そんなに欲しいのか、出番。何より新八に人気無いみたいじゃないか、眼鏡に謝れ。
 だがキョン八はつまらなそうに白衣のポケットから取り出したタバコを咥え、
「そんな事言ったらよー、あとお前に残された特徴といえば太ももムチムチキャラだったり、そこから派生したちょっとお腹を気にするダイエットキャラだったり、どMだったり、露出狂だったり、痴女だったりって主にエロ専門じゃねえか。つかお前の人気って企画物のAV女優の人気に近くね? これ」
 いや、それ言っちゃ駄目だろ、そういや朝倉さんって男性向け同人誌でしか見たことないかもなあとか思わせちゃいかんでしょ。 
「それ全部二次創作で植えつけられた間違ったイメージですから! 公式では私は清楚で真面目な委員長さんですからっ! 大体作者が好んで私のエロ同人買ってるだけでイメージ固定されたくないわよ! それにキョンくんタバコ吸っちゃ駄目じゃない!」
 一息に状況全てにツッコミを入れた朝倉。さすが新八ポジションを良く分かっていらっしゃる。しかしキョン八、ゆっくりと紫煙を燻らせながら、
「まああれだ、そんだけツッコんだら十分だろ。お前はなるべくして新八だし、居るべくして眉毛なんだからな。それとさりげなく委員長的なツッコミ入ったけど一応これ禁煙パイポな」
「いや、煙出てるんだけどそれ! しかもさりげなく眉毛アピールされちゃってるしィ!」
 本来高校生がタバコを吸ってはいけません。だが彼はあくまで先生であり、どちらかというと、というよりかなりの率でダメなオッサンキャラである。よって彼は禁煙パイポ(ニコチン及びタール配合の煙が出るタイプ)を愛用しているのである。
「だからそれただのタバコじゃないのォォォォッッッ!!」
 パイポです。タバコ、よくない。あれだよ、銀魂の本編でも土方がアニメだとタバコの表現がどうとかで愚痴ってたよね。
「俺もいっそドラゴンでクエストしたボールとか捜したいよな、もう銀八やめてボール捜そうぜ。ほら、せっかく攻撃能力だけは高い連中揃ってるんだし、フリーザにだって勝てるって」
「勝たなくていいから授業進めてちょうだいって!」
 朝倉さんの涙交じりの懇願に、流石に本編を進めないとシャレにならないと思ったキョン八だった。
「いや、これ以上この会話に行数使うと怒られるかなーって」
「そう思うなら進めてください…………」
 ぐったりと机に伏せて、委員長キャラも崩壊してしまった朝倉を放置してキョン八は本当に話を進めていった。出席簿を手に持ち、
「そーいや忘れてたが、ホームルームの前に出席を取るぞー。いいか、ここでのアピールが次回への布石となるので各自コメントには十分に注意するようにー」
 どこのオーディションだか分からないが、アメトークのひな壇の二列目のような貪欲さを持って迎えられる教室内である。
「はい、では出席取りまーす。えー、朝倉………はもういいか、後は安達とか多分いたよね? 俺アニメ版の設定持ってないからクラスメイトの名前とかよくしらねーんだけど」
 元も子もないなあ。だが作者は残念な事に設定集などは買っていないので、原作小説に出てきた名前しか覚えがないのであった。
「いや、自分のクラスの生徒くらい覚えててよ」
 これは生真面目な委員長キャラである。
「まあいい、呼ばれた奴は返事するように。って返事の前に弁当食うなハルヒ!」
「ふぇ? これはあくまでキャラ作りアルよ? そんなにハラペコキャラをアピールしたくはないけどヒロインなんだから我慢してあげてるんだからね! アルよ」
 などと言いながら堂々と早弁をしているのは言わずとしれた涼宮ハルヒである。セーラー服に髪型は一応お団子を作り、それでも主張するようにカチューシャだけはしている。それと銀八バージョンなのでダサダサの丸メガネも欠かしていない、意外と拘るタイプなのだ。
「いやまあ神楽をヒロインだって言うならそれでもいいけど。だがお前絶対に後で後悔するからな、ゲロ吐いた後とかで」
「えっ?! もう確定なの? アル」
「いやわざわざアルってつけなくてもいいから」
 キャラ付けに微妙な間違いを起こしながらも出席は取られ続ける。
「えーと、沖田は誰がやってるんだ?」
「僕だよ、キョン八さん」
「なるほど、お前か国木田。まあ何となくわからなくはないな」
 学生服でにこやかに微笑む童顔の美少年風。確かにイメージはそんな感じだが、その本質はどちらも腹黒い。恐らくそれが決め手だな、と思ったけど口には出さないキョン八であった。
「んじゃ次ー、お? 古泉もいるのか」
「はい、一応メインキャラに近いところで設定してもらったのですけどキャラが違いすぎてどうすればいいのか分からないんですよ」
 学生服を珍しく襟元まで締めていない古泉一樹は微笑みも苦笑気味である。その手にはマヨネーズ。
「あー、無茶してんなあ。お前それでキャラ立てたつもりか? いっそ脱いだらどうだ、そっちの方が多分お前には合ってる」
「いや、それをやるなら僕よりも適任がいますので」
 苦笑して顎を向けた先には、
「み、みくるさ〜ん! どうですか、俺出世しましたよ?! 何と言っても風紀委員長なんですよ!」
 などと叫びながら騒がしく走り回る馬鹿がいる。WAWAWA〜などと歌わないだけマシなのか? いや、どっちにしろウザイ。キョン八もどうでもよさそうに、
「ああ、アレか。まあ確かにヨゴレではあるし、すぐ脱ぐしな。んじゃ続けて出席取るぞ〜」
 と、華麗にスルーしようとしたキョン八のすぐ真横を重量のある何か物体が吹っ飛んできた。
 ドグシャアァァァァァァッッッ!!!! と少年漫画特有な擬音と共に頭から壁へと突っ込んだのは先程から戯言遊びを繰り返していたWAWAWAだった。いや、この場合はゴリラだった。あえて言うならこういう仕事が良く似合う中の人だった。
「さっきから気安く下の名前で呼ぶんじゃねえよ! あたしは可愛くて優しいみんなのアイドルなんだからな!」
 とアイドル感ゼロの啖呵を切っているのは確かに見た目は巨乳でふわふわカールの髪型でちょっとたれ目などう見てもアイドルそのものな萌えキャラだった。ここも原型とは違う気もすると言うとお姉さんにしばかれそうなので自重する。が、
『つまりは中の人で統一しやがったんだな』
 とキョン八は思ったのであった。案外キャラ崩壊してねえなあと感心したものの、
「んじゃゴリと妙はそれでいいや、後誰かいたか? 本当にキャラが多いと一々把握するだけで大変なんだからね?! それにキャラ紹介だけでスペース取ったら本編どこに行ったのか分からなくなるから読者さん飽きちゃうんだよな」
 そろそろ飽きてきているのはキョン八自身なのであるが、それもこれもキャラクターが多い原作を選んだからであり、二次創作の難しさを実感する作者であった。だって銀魂好きなんだもん! 本当は銀魂SSで良かったんじゃないかというツッコミが入ったらどうしよう、などとは思えない社会の底辺を走る龍泉堂であった。
「いや、自分の事はいいでしょ! 大体作者が出ずっぱりな作品なんて読者から見れば飽きられる条件第一位よ?! そんな事よりあたしの出番がもっとあるようにしなさいよ!」
 自分の願望をさりげなく織り交ぜながらも進行を促す眉毛に言われたからでも無いが、物語は進行する。と言うのも、出席を取るのに時間を掛け過ぎたのか、いきなり校内放送が鳴り響き、
『あー、三年Z組の担任は今すぐ校長室まで来るように』
『来ないと校長の前髪の生え際が五ミリ後退します』
『いや、なんで?!』
 何かスピーカーの向こう側で不穏な会話があったものの、それでも校長に呼ばれれば行かなければいけないのが平教師であり、そんなもんサラリーマンと変わりはない。
 非常に面倒臭そうに頭を掻きながらも、
「あ〜、何だってんだよあのハゲ。まあいいや、どうせお前らも自習の方がいいだろうからちょっと行ってくる。いいかー、うるさくすんなよー、俺が何か言われてもお前らのせいにするからなー」
「いや、責任ないのかよ?!」
 朝倉のツッコミを背中に受けて軽く手を振りながら教室を出ようとしたキョン八なのだが、そのままいかないのが小説を面白く見せる展開というものである。序盤に詰め込みすぎると後半がもうグダグダで結局『この作品って勢いだけで構成力が無いから最後まで印象に残らないというか』云々と言われてしまうのもまた当然なのである。言わないでください。
 とりあえずキョン八が何事かと振り向けば、がたがたと掃除道具を入れたロッカーが動いている。ああ、このパターンはと思うでしょうけど、そのパターンです。
 ロッカーの扉がどかーん! と開き、中から飛び出したのは。
「…………なに」
「いや、こっちのセリフだ。なにやってんだ、長門?」
 長門有希は眼鏡をかけて無表情で立っていた。いつもと違うのは制服もセーラー服であり、
「キャーッ! 長門さん可愛い!!」
 というキャラ無視な眉毛は放っておいて。とにかく長門はロッカーの中にいたのだ。キョン八は流石にキャラを少しだけ戻して、
「なあ、どんなキャラ設定なのか分からんが嫌なら断わっていいんだぞ?」
 いや、断わられたら困るんだけど。それなりに考えてるし。だが長門は小さく首を振ると、
「それよりも重要な件がある」
 真面目そうにそう言った。何事かと顔色が青くなるキョン八。長門の言う重要な件とはいつもキョン八には何らかの苦労をかけさせられると言っても過言ではないからだ。それでもいう事を聞くのは何でだと言いたくもなるが。
 しかし今回の長門はいつもの長門ではなかった。だって銀八なんですもの。
「………わたしの名前は?」
「はい?」
「出欠を取る際に、わたしの名前が呼ばれる直前にあなたは退席しようとしている。なぜ?」
 言われたキョン八が戸惑うような質問である。あの長門がこんな理不尽な我が儘を言い出すなどと思いもしなかったからだ。一体どんなキャラなのか、キョン八は原作(銀八先生側)を必死に思い出していた。
「………これは放置プレイ?」
「はあ? 何言ってんだ長門?」
「そうやって、わたしの名前がいつ呼ばれるかと不安になったり、呼ばれた瞬間にエクスタシーを感じる事を期待していると推測する。あなたがわたしをそうして貶めて喜びを見出すことは既に周知の事実」
「お、おい………」
「わたしとしても望むところ」
 長門が小さく何かを呟く。これは例の呪文!? とキョン八が驚く間も無く。
 そこにいたのは亀甲縛りで横たわる長門有希だった。器用に身動きが取れなくなった長門を見て、
「さっちゃん?! いくら眼鏡繋がりだからって無理ありすぎるだろ!」
 キョン八の容赦無いツッコミが入る。だが長門さんは無表情に淡々と、
「好きにすればいい」
 なんて言うものだから。想像してみよう、あの長門有希が。無表情に亀甲縛りで身動きが取れないのだ。しかも眼鏡。そしてキョン八にだけ分かる、赤く染まる頬。どうだ、この破壊力!
 しかしさっちゃんと銀八の関係といえばどSとどMを越えた無視とどつきあいの関係である。こんな従順な長門をどうする、キョン八?!
「仕方ねえなあ……」
 そう言いながらキョン八はベルトを緩めようとしたのだった。どうやら自分の欲望に素直なキャラを選択した模様。
「「さっせるかーっ!!」」
「ぐっはああああああっ!!」
 Wドロップキックを喰らって吹っ飛ぶキョン八。放ったのは当然朝倉とハルヒである。
「とっとと出てけ、この変態!!」
 ハルヒに蹴っ飛ばされて教室を追い出されたキョン八は、
「何なんだよ、朝倉はともかく何でハルヒにまでこんな目に遭わされるんだ………」
 とまあ、相も変わらずフラクラな事を呟きながら遅れっぱなしで校長室に向かうのであった。
「…………残念」
 何が残念なんですか、長門さん? それといい加減縄を解いてください、朝倉さんの目がやばいです。
「ながーとさーんっ!」
 言ってる傍からルパンダイブで飛びかかろうとした朝倉だったのだが、いつの間にか自由になっていた長門にカウンターで顔面に拳を浴びて綺麗に吹っ飛び、壁に頭からめり込んだ。ちなみに隣にはゴリがまだ埋まっていた。
 長門有希朝比奈みくるがGJ! とハイタッチを交わした所でカメラはキョン八を追うように展開するのであった。いや、カメラってなんだよ。
「ねえ、これって女子生徒が歩いたらパンツ写んない?」
写んねーよ。