『SS』 ちいさながと そのに 24

前回はこちら


 その後の話もしておこう。翌日は当たり前のようだが学校だった。俺は一旦家に帰り、結局遅刻ギリギリだったのだが教室に着いた時に朝倉が俺の席でハルヒと話をしているのを見た時はホッとしたもんだ。
「相変わらずおっそいわねー、そんなんじゃ成績以前の問題で進級出来ないわよ?」
 失礼な、遅刻まではしてねえだろうが。
「あら、さっきまでキョンくんが来ないからソワソワしてたじゃない。それじゃ私は席を外すわね、ここは座る人が決まってるもの」
 おい、その言い方は、
「ちょ! な、何言ってんのよ!? それにあたしは別にキョンが来てないからってそんなにソワソワなんかしてないもん!」
 いや、そこで顔を赤くするな! それを見て笑いながら朝倉は自分の席へと戻っていった。おい、こいつはどうするんだよ? 残されたハルヒは、
「何よ、涼子が言ってる意味を勘違いするんじゃなわよね! そりゃSOS団から落第者が出るなんて不名誉な事があったら団の権威も失墜するから当然気にするけど…………」
 一気に不機嫌オーラを撒き散らしながら机に伏せてしまっている。その前に座らなきゃならない俺はどうすりゃいいんだよ? 仕方なく自分の席に座って恨みを込めて朝倉を見れば笑って手なんぞ振ってやがる。それに、
朝倉涼子を敵性と……」
 こらこら、やめなさい。有希から黒いオーラが立ち昇る、後ろと横から暗黒オーラに挟まれて身を縮めてしまいたくなる。
 結局俺は不機嫌なオーラを背中で感じながら一日を過ごしてしまったんだよ。うん、復活させるんじゃなかった。
「ひどいなあ、せっかく涼宮さんと友達になれたのに」
 それについてはハルヒの機嫌もいいのは分かる。古泉も何も言わなくなったから『機関』も黙認といったところなのだろう。だがそれと俺達をからかうことは別問題だ。
「まあ観測対象への多少の刺激は必要なのよ」
 と言った朝倉が喜緑さんに頭を叩かれる光景も既に見慣れつつあるしな。昼休みに文芸部室で飯を食おうと思った俺を呼び止めた喜緑さんに頭を下げさせられた朝倉を見ながら、俺は平和なのだな、と思った。
 

 朝倉涼子がこの世界に戻り、小さいが俺達の日常は確かに変化があった。ハルヒと朝倉はまるで莫逆の友のように教室内で話し込むようになった。その朝倉をきっかけにクラス内でのハルヒの立場も少しはよくなっていると思う、女子限定だが周囲に輪も出来てきたしな。
 ただ積極的にハルヒを煽るのは止めてもらいたいもんだ、おかげでSOS団の活動はどんどんとアクティブさが増していき、古泉や『機関』の連中は右往左往とするはめに陥っている。ああ、朝比奈さんのコスプレ衣装も増えたもんだ、あの二人にかかられている心中お察しいたします。
 そして一番の変化といえばやはり長門だろう。同じマンションに住んでいるから仲良くなったという理由で朝倉と長門は晴れて一緒にいる機会が増えていった。今や朝倉が長門の弁当をもって昼休みに六組に行く光景は学年全員が知っていると言っても過言ではない。何も話さない長門に朝倉が一方的に話す姿は心温まるそうだ、おかげで六組で長門がクラスメイトと話す機会も増えたそうなので朝倉のお節介スキルはどこでも発揮されるものらしい。
 それに週末の不思議探索もだな。SOS団の正式メンバーとなった訳ではないが、朝倉は当然のように待ち合わせ場所にいるようになった。当然のように最後にしか到着しない俺は美男美女がグループとして存在する中に飛び込む哀れな凡人である。これが引き立て役というものなのだろうか。
「あなたが一番素敵だと思う」
 ああ、ありがとな。俺も別にお前さえいればいいんだが、流石にこれは哀しくなってきただけだ。だが有希に心配されてちゃ世話無いな、何と言っても有希も美人なんだし。
「遅い! 罰金!」
「ごちそうさま、キョンくん」
 くそう、当たり前のように奢られてる朝倉に腹が立ちながらも何も言えないのはハルヒが満面の笑顔だからだ。あいつにとってはほぼ初めてだろう、近い同年代の気を使う必要のない友人というのは。
 それは情報統合思念体にとっても嬉しい誤算ってやつだったのかもしれないな、少なくとも朝倉がいるせいでハルヒの明るさは数倍増しである。
「…………………」
 おう、お前もな。長門は制服から私服の機会が増えた。今日も空色のワンピースに白いカーディガンを羽織っている。朝倉の仕業であることは一目瞭然なのだが、長門自身も悪い気はしていないようだ。ただしたまにお揃いの格好で来るのはいかがなものかと思わなくはない。
 まあこっちも目の保養にもなることだしな、と思っていたら思い切り耳を引っ張られた。分かってる、お前が一番可愛いって!
「……………私服の再構成を増やしたい」
 ああそうだな、デザインを見るためにも明日はウィンドウショッピングと行くか? 小さく頷く恋人の頭を撫でていると、
「早く行くわよ! 喫茶店に最後に入ったら奢り追加ね!」
 などと行ってハルヒが走り出し、
「あ、それなら私食べたいケーキがあるから! 行くわよ、長門さん!」
 朝倉が長門の手を引いて走る。おまけに古泉が苦笑しながら済まなさそうな朝比奈さんを促して走るものだから俺たちは置いていかれそうになってしまっていた。
「………急いで」
 分かってる! 俺も走りながら、こういうのも悪くないもんだと思っている。
 まあ先頭を走るハルヒと朝倉の笑顔に免じて奢りも悪くないもんだ。
「……………負けたら明日デート出来ない」
 などとも言っていられないので恋人に急かされながら全力で走らざるを得ない俺なのだった。
 ああそうだ、そう言った時の有希のほのかな笑顔は前の二人に負けずとも劣らない。いや、誰よりも最高だったって言うのは贔屓のしすぎだろうか? そんな恋人を肩に乗せ、俺はいつもの日常を楽しむのであった。


あとがき的なもの

一応当ブログのSS100作品目となっておりますので初心に戻って「ちいさながと」の長いヤツを書こうと思ってみたのがきっかけです。それと朝倉涼子を出したいということで今回の構成となりました。
その途中で有希と長門の関係も見直したいと思ってたらいつものうだうだ展開に(笑)
まあ途中暗そうでしたけど最後まで上手くいったんじゃないかと。それはもう喜緑さんのおかげです。今回で自分の中でのTFEI三人の立ち位置が固まってきたんじゃないかなあ、ただ朝倉が面白い子になったのは他の皆さんの二次創作の影響ですね。
しかし100作目なのに連載中に他のを挟んだりしたからもう103作品くらいあったりするし、連載中なのがまだあるしで数数える意味あるのかなと自分でも疑問に思いながらも、どうにか形をお見せできたのは嬉しいですね。
50万ヒットも100作品も通過点なんだって言えるように頑張りますので、どうか見捨てずお付き合いくだされば幸いです。
「ちいさながと」はまた短編をしばらく重ねていくとは思いますが書いていきたいと思ってます。有希とキョンものんびりしてもらえれば。というかどんどんかけ離れていってますね、原作。
そんな感じでまた有希とキョンをご覧頂けるように頑張ります。





                                        蔵人