『SS』 ちいさながと そのに 1

 長門有希情報統合思念体の意思とやらで十二分の一サイズになってからどのくらい経つのかといえば、俺と長門有希が恋人になってからだとしか答えられなくなっているほど時間というものはあっという間に過ぎて行っていた。
 その間、様々な出来事があったし、これからもそれは続いてゆくのだろう。俺はそう思っていたし、俺の右肩が定位置になっている恋人もそう思ってくれていると思う。多少のケンカやすれ違いがあっても俺達は結構上手くやっている方だろう、こうして一緒に暮らしながら日々思い出を作っているのだから。
 だが、それは俺達が守られていたからだ。それを忘れてはいけなかった、その為に有希は悩み、悲しみ、そして俺は何も出来なかったのだから。
 俺達は今、重大な決意を迫られている。正確には有希が決断をしなければならないのだが。
「…………………」
 普段は冷静そのものの有希の動揺が肩の上から伝わってくる。それが分かりながらも声もかけられない、俺にだって判断がつけられる訳がないからだ。
 沈黙だけが場を支配する。そこにいる誰もが口を開けない。
 そう、ここには俺達だけじゃない。
 俺と有希、正面に長門と喜緑さん。そして……………




「………ごめんなさい」




 俯いているのは俺も良く知る女性である。というか、俺にとってはトラウマの種でしかない。どうしてお前がここにいるんだよ、そしてまた俺達を悩ませるのか。
 朝倉涼子は、またも突然に俺達の前に現れた。混乱と、決断を俺達にもたらす為に。
「…………わたしは、」
 長門は静かに口を開いた。
「オリジナルの意思に従う。朝倉涼子は優秀、それはわたしも理解出来る。わたしは、あなた達のおかげで存在している、それは朝倉涼子も同様」
 それを聞く有希の肩が震えている。全ては有希の意思に任されているのだから。
「…………辛いかもしれませんが、長門さんには決断してもらわなければなりません」
 喜緑さんの声が空間に響く。そうだ、何故あなたは、
「私は自分の決断を過ちとは思いません。それは、あなたが知らない朝倉さんを私が知っている、そう説明したはずです」
 俺の言葉を遮るように話す喜緑さんに、いつもの微笑みは無い。この人も真剣なのだ、それは確かに俺は知らない有希と喜緑さんだけが知っている朝倉がいるのだろう。
 だからといって今の状態を受け止めきれない俺がいる。何故だ、どうしてこうなってしまったのだろう?
 俺と有希を取り囲む状況の急激な変化に翻弄されながら、それでも有希の決断を待つしかない。そっと手を伸ばしても有希は固まったままだった。
 そして有希の決断を俺も受け止めなければならない。
 …………たとえそれにより長門が俺達の前からいなくなったとしても、なのか? それを俺は黙って見ているしかないのだろうか、そんな事出来るのだろうか。
 なあ、聞いてくれないか? 何故こうなってしまったのかを。
 有希と長門と朝倉が何故ここにいるのか、そして俺はどうすればいいんだ?! 


 重苦しい空気が流れるこの空間を語るには今から三日前の出来事まで遡らねばならなかった……………