『SS』 放課後リトライ

表紙


 ピンポーンとチャイムが鳴れば当然のように確認もせず玄関のドアを開けるのが当たり前になっていて、
「チャーッス、来たよー」
 といつものように笑っている彼女を迎え入れるときに不機嫌そうな顔に見えるのは照れ隠しであったりしながら、
「何の用だ?」
 と言ってしまって、
「いいから上げろ」
 とヒールの感触を頬に味わうのがほぼ毎日の繰り返し。内心など悟られる事無く、というかそこまで気を回せそうもない彼女を部屋へと招き入れ、
「で、今日は何やってるワケ?」
 などと言いながら当然のようにベッドを占拠している彼女に背を向けてコントローラーを手にゲーム画面に集中する。
 ここでいつもならゲームについての薀蓄もしくは文句を言いながら人の頭を足で小突くのがいつもの流れのはずなのに、虚しく伸ばした足を空中で彷徨わせながら、
「…………………」
 赤い顔をして視線を宙に舞わせているのは何故なのかなどは訊けないワケで。原因は火を見るより明らかだし、原因の一部どころか大多数は彼にもあるのであって、そこに責任を求めるのは酷な話なのだった。
 第一本人がゲームをしながら画面の中は全く意味不明な動きをしているし、集中しているふりをしているようにしか見えないのだ。それを自分でも分かっているし、勿論彼女も知っている。
 だから彼女の瞳が段々と潤んできても無視しなければならないし、その頬に赤みが差しても見てみない振りをしないとダメなのだ。それでも彼女は諦めないのだけれど。
 やがて潤んだ瞳の視点が合わなくなり、舌なめずりが指を咥えた猥らな音に変わる頃、集中してない画面よりも背後を気にしているくせに無視を続ける彼に我慢が出来なくなる。それは何かが始まる合図。
 空を彷徨っていた足が彼の頭を小さく小突き、無視する事が分かっているかのごとく両足で頭を挟み込む。足の指先で耳を刺激してから首筋へ。
「やめ………」
 お約束な否定などは関係無い。開けている学生服の襟元からつま先を滑りこませた時。


 
 それが始まり。



「むっ………ンッ………!」
 絡み合う舌の感触すらどうでもいいように貪る二人に言葉も理性も無いようで。ただ粘膜がぶつかり合う音だけ室内に響いて、汗が湿気となって立ち込めていくようで。
「あ………ん………っ……!」
 荒い呼吸がリズムとなって二人の意識を高めてゆく。いつしかこうなる事も当然となっていたような、初めてからそんなに経ってないような。時間は結局どうでもよくて、そこに二人がいればいいとしか。
 飢えている? というには羞恥心が勝りそうだけど、枯れているなんて事は死んでも言えない。求めているのは確かなんだし、求められている事は喜びなのだから。
 キスをしながら考えることなんか出来るワケないのでどうでもいいけど、ただ気持ちいいってコトは気持ちいいので。
「くふぅ………は………あぁ………」
 だから何も言わなくてもいいから舌は出していただきたいと。二人がお互いの唾液を交換していて、その味がどうなのかをお互いに聞けなかったとしても。
 自分の口の中の味が相手の唾液の味で満たされながら、それでもまだ足りないから唇は離せないままなんですけど。
 しかもそれで満足出来るほど彼は欲求が少ないワケではないのだから、自然と手は伸びていき。
「んむぅッ?!」
 気が付けばブレザーのボタンは外されて、シャツの上から胸は鷲掴みにされている。ぎこちなく荒々しい手つきは経験不足と若さの暴走なのだから自分で制御なんか出来るはずもなく。
「んっ………んんっ!」
 痛いけど、痛いというか痺れるような。これが誰の手でもそうなるなんて思えないから、つまりは彼の手だからって理屈はもうどうでもいいんだけど。
 シャツの上からでさえそう感じるのだからボタンがはじけ飛ぶように乱暴に外されてしまえば、隠すことも出来ずにただ空気がひんやりとするだけで。どうしようもないくらい熱はあるから触れる外気で冷えたところを温めて。





 乱暴な手つきなんてすっごく好きだったり、それがあの手だからよかったんだと思ったりで、
「ふあああっ!」
 って声は自分のどこから出てきてるのか分からないけど、脳天まで痺れるような感覚は胸から確かにやってきている。どうしよう、助けを求めようにも助けてくれる王子様が加害者なワケでって、王子様って柄か、こいつが。
 でもやっぱり乱暴な手つきが胸を押し潰しそうになっている感覚が痛いんだけど気持ちいい。汗が谷間を伝わってるのが敏感な肌で感じていて、それは気持ちよさを倍加させていっちゃうので不快なんて思わない。
「ひうっ?! ひゃ………あ……ん…………っ!!」
 急に手つきが変わる。さっきまでとは別人なタッチは触れそうで触れない感じで、しかも外側からじわじわと中心に向かってきている! そう、それを期待するように膨らんで尖ってきているピンク色した乳頭が張ってきてしまうくらいに。
 早く早くって急かそうとしているのに、羞恥心が先に来ちゃっているから何も言えないから、
「んっ、んっ、んうっ!」
 指を咥えて声を出さないようにしている彼女がやっぱり可愛いと思うのだから、わざとゆっくり指先だけを乳首に沿って滑らせてみる。
「ひゃあああああんんっっ!!」
 いつもと違う可愛い声に自分の方が我慢出来なくなって、結局順番なんかどうでもよくなって、いきなり乳首に吸い付いた。すごく甘く感じるのは何故だなんていってる場合じゃない。もう歯止めは利かないのだ、というか歯止めなんかあったのか? とにかく乳首を吸って、それに軽く歯を立てて。コリッとした感触と、
「ひいっ!!」
 絶対に上げない悲鳴を聞いてしまえば脳の中まで白くなる。その声をもっと聴かせろ、危険な欲求に支配されていても抵抗できるはずがない。それは彼女も。






「あぁう………あ………あう………」
 声にならない声でひたすら求めているのは彼の舌だったり、そうじゃなくって違うものだったりなので。
「んむっ………ん………ふっ………」
 汗ばむ息と共に吐き出したくなるのは欲求の声だったり、彼女への想いだったりで。
 そう思う二人が最後にどうしたいかと云えば、単純な話で繋がりたいという。それは本能だし、願望だし、現実だし、真実。
「……………」
 無言でタイツとパンツを一緒に一気に下ろそうとするから、腰を浮かせて下げやすいようにしてみたり。だからって一気にはないよな、焦りすぎにも程があるだろ、なんて少しだけ頭が冴えてきたんだけど。
 でも必死な彼も可愛いからさ。片足だけ上げて自分で一気に脱いだ。もう片方はそのままで、逆にエロいんじゃないかと思った時は遅かった。
「いくよ……………」
 いつの間に、などと言える筈もなくって、
「ま、まって……………」
 待てるはずがないから一気に挿し入れる。ぐにゅっとした感触が包み込もうとしながら押し返そうとする中で入り口から締め付けられるような感覚が脳髄に針を刺すような快楽となって、目の前が真っ白になるかと思った。
「か………は………あ……」
 まだ慣れていない押し込まれるような感触に違和感と内臓を抉られたような圧迫感を感じてるはずなのに頭の中をよぎるのは気持ちいいという言葉だけ。
 もっと、もっと、もっと! 原始的な腰の動きがリズムになるにはまだ時間はかかりそうだけど、それでも伝わる快感は十二分に過ぎるもので。それは多分好きな人だからなんだっていう単純な思考だけで今は大丈夫なんだろう。
「あんっ! あっ、あっ、あっ! は、あ、んっ! んむっ!」
 ひたすら動こうとする、腰も、脚も、腕も、唇も。キスをしながら覆いかぶされば身長差があるから彼女は窮屈に腰を折ることになる。その分奥まで入り込んでくるそれの感触を膣内いっぱいに感じ取ってしまうことになるのだけれど、それを求めてしまってるのだからどうしようもない。
「はっ! はっ! ふっ! んっ!」
 優しい言葉も何も、言葉が出てこない。何故って気持ちがいいからで、それは腰が止まらない事でも分かるのだけれど、そろそろ痛みというのも無くなっているだろう、自分だけ快感を味わっているんじゃないと思うんだからどうしようもない。 
「……………」
 これもまた本能なのか、そろそろ新しい事に挑戦したいのか、
「んやぁ……ん………」 
 一度彼女からそれを引き抜き、
「へ? えっ? キャアッ!」
 乱暴に彼女をひっくり返してうつ伏せにした。
「ちょ、なにすん…」
 抗議の声など聞きたくもないので、細い腰を持ち上げて形のいいお尻の方から挿入する。太ももをしっかりつけてるから入り口が余計狭く感じたけど。
「うっ……はあああああああんっ!!」
 その声を合図にするように、腰を打ち付ける。初めての体位だけどこれは気持ちいいだろう? たまに全体を撫で回すようにお尻の感触を味わいながら屈服させるように腰を振るえば、形のよい胸が揺れているので手を伸ばしたりする。






 けれど、快感を越えるものもあったりするものなのだ。
「…………ヒック………うぅ〜………」
 夢中になりすぎていた意識が彼女の泣き声と震える肩に冷水をぶっ掛けられたような気分で戻ると、
「だ、大丈夫か? 痛かったのか?」
 と、まあオロオロと聞くしかなかったのだけど挿れっぱなしだし、勃ちっぱなしなのはどうなんだろうかと思わなくもない。だけど訊いてしまったのは心配だからなのは間違いじゃない。
「痛くない………痛くないし気持ちいいけど……」
 けどなんだ? 脳内でクエスチョンマークを勝手に並べる。すると彼女は小さく、
「………やだ」
 一回呟いてしまえば堰を切ったように溢れてくる。段々声も大きくなる。
「これって気持ちいいけど顔が見れないから嫌! 顔も見れないと自分だけ気持ちいいんじゃないかって不安なんだよ! それにいつだって顔が見たいんだから!」
 挿れられながらそこまで考えてたと思わなかった、ただ自分は快楽だけ求めていたみたいで。
「ご、ごめ…」
「謝るな馬鹿ぁっ! こんなこと言わせんじゃないわよ! もう抜け、この変態っ!」
 慌てて抜くと、ぬるっとした感触と愛液の余韻が糸を引く。だがそんなことに構っていられないくらい、どうしようかとオロオロすると、
「……………もういいから」
 両手を広げ、脚も開いてる彼女が少しだけはにかんで言ったのは。
「ギュッと抱きしめたら許してあげる」
 最終的にどっちが、ということじゃなくて二人がキスをしたまま果てたのは何度目であっても同じなのかもしれない。




 あれだけの事をした後でも。あれだけの事をしたからかもしれないけど、やっぱり手を繋ぐのは恥ずかしかったりする。
 ふたりとも何故か顔が赤くなっているのに手は離さないままで、
「それじゃいこっか」
「うん」
 何の事はない、ただ単にゲームソフトを買いに行くだけだったとしても。
 それでも二人が繋がっているんだってことを手から伝わる温もりが教えてくれればいいってだけのことであって、それは当然なのだったりする。
 結局二人がお互いに好きなんだって事といつも繋がりを求めているんだって事を知っているのはお互いだけでいいのだなと当然のように思っただけの事だった。






 出かける前に玄関でキスをするのも当たり前なんだって。