『SS』 ミエナイキズナツナグトキ

『ミエナイキズナツナグトキ』

 あたしはいつも自分が特別なんだと思っていた。世界があたしの見たことの無い不思議で楽しい事に満ちていて、あたしはそこで笑っている。そんな未来を夢見ていた。
 だけど現実は厳しくて、あたしはあの時、世界であたしはちっぽけなんだと思い知らされて。それでも納得いかなくて、あたしはただ我武者羅に不思議な事を追いかけた。
 周りのみんなはそんなあたしを馬鹿にした。哀れむ人もいた。同じ様に考えてるって言ってくれる人だっていた。だけど、それが同情なのが見えてしまった。
 中学の時なんかは皆あたしの見た目だけで判断する。好きだ、付き合ってくれ、あたしを見なくて何か違うもの見てる。それがあたしを馬鹿にしてるとしか思えなくて、そんな気持ちしか持てないなら恋愛なんてしたくないって思ってる。
 でもあたしも結局人生の流れっていうのに逆らえないままで、親の言うとおりに高校も進学校の光陽園なんかに進んでしまい、勉強と恋愛なんてものにしか捕らわれない連中の中で自分の気持ちを殺そうってさえしてた。
 どうしようもないほど自分に絶望したくなる、ただあたしは自分が楽しくて、みんなと笑いたいだけなのに。だけどあたしはやっぱりその他一員って感じで現実の中に埋もれていっていて。
 
 そんな時、あいつを見た。

 なんで目に入ったのかは分からない。そんなに目立つ顔じゃない。むしろ間抜けね、ネクタイもきちんと締められないようなヤツ。
 それなのにあたしは、そいつの顔を忘れられなくなっていた。すれ違うだけの顔はいつも眠たげだったけど。
 春が来て、あいつと会って。あたしは何か変わっていく気がした。
 入学してしばらくして転校生がやってきた。古泉一樹くん、ハンサムで笑顔が爽やかな好青年。でもあたしはそんな事よりも時期外れで転校してきた彼の事情が気になっていた。何か謎の事情なんかあったりするんじゃないかって。
 結果はつまらないものだったけど。それでも彼はあたしに気を使ってくれてるから相手をしてあげてた。周りはそんなあたしたちを見てすぐに付き合ってるって言い方したけど、そんな思考にしか持っていけない連中をあたしは軽蔑した。あたしは楽しく過ごしたいだけだったし、古泉くんはそんなあたしの我がままによく付き合ってくれてたから。
 でも、古泉くんだってやっぱりあたしと付き合いたいってだけで。そこにあたしが望んでるものはないんだって気付いてきたら、ただ男の子を振り回してるだけのあたしがいて。
 
 そんな時でも、あいつはやっぱりあいつのままで。

 何故かあたしの前にいつも現れるあいつは変わらないままで。あたしの話を呆れながら聞いて、そういうのもいいんじゃねえかって気軽に言ってくれちゃって。
 だけどそれが嬉しく思うのは何でだろう? あたしの話をまともに聞いてくれるのはこいつだけだった。それが分かってしまうのも何でだろ?
 梅雨も明け、もうすぐ夏が来るんだなって思った。あいつは半袖で、汗を腕で拭いながら笑っていた。名前も知らないけど、あいつの顔は忘れない。気がつけばあいつと会うのが当たり前になっていた。
 そして夏休みが訪れる。古泉くんは色々と旅行とか企画してくれてるけど、あたしは乗り気になれなくて。下心がないなんて言ったら嘘になるなんて、あたしじゃなくても気付くわよ。
 もう転校生でもなくて、ただの同級生の古泉くんの好意は嬉しいけど何か重たくなってきた。恋愛っていうにはあたしの心は冷め切っていたのかもしれない。

 でもあいつと会ってるあたしは笑ってる。

 私服もセンスないって笑いながら。憮然としながらも付き合ってくれるんだから、こいつもよっぽど人がいいわね。夏休みだから学校はないのに、何故かあいつと会う頻度は変わらない。
 まるであたしが行くところにあいつがいるみたい。それとも、あたしがあいつを追いかけてるの? 分かんない、だけどあいつと会ってる時のあたしは本当の自分になってるみたいだった。
 またねって約束してるわけじゃなくても、きっとあたしはこいつと会う。確信じゃないけどそう思うの。
 …………あいつもそう思ってくれてたらいいのに。何故かあたしはそう思うようになっていた。
 この気持ちが何なのかは、まだあたしには分からない。だけど凄く大事なものだと思うんだ、あたしが変わっていく為に。
 そして、あいつがあたしを連れて行ってくれる。まだ見た事無い面白い世界へと。その時にあたしは……………………

 
 あいつと一緒に笑っていたいとは思っている。そこだけは確かなんだから。