『SS』 たとえば彼女の……… 2

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「それでどこに行けばいいの?」
 それを俺に聞かれても困るんだが。まあ俺なので仕方が無い、しかし俺も俺なのでどこがいいかなど分かりはしないんだがな。
「じゃあ解散で」
 なんでやねん。関西弁でツッコミを入れてみる。
「――――負けた――――――」
 あ、芸人志望がへこんでる。というかまさか関西弁でツッコまれたかったのか?
「というか九曜ってそんなに芸人なの?」
 ああそうだ、何を観測しにきているのか分からないがお笑いについての情熱なら負けてないと思うぞ。
「ふーん、あたしのところの九曜は別にそんなことないけどね」
 そうなのか? こっちの九曜もそっちの九曜も同じじゃないのか?
「―――――女には―――――裏の顔が――――あるのよ―――?」
 ふーん、そうなんだー。まったく表情が変わらない点では裏表があっても分からないだろうな。
「九曜が言っても現実味ないわね」
 多分お前が言ってもそうだと思うぞ? そう言うと頬を膨らませた時点で図星じゃねえか。
「ふん、お前に言われなくてもあたしに裏表があるなんて思わないわよ」
 そうだな、俺もそう思う。お前の事は俺が一番よく分かってるからな。
「う! あ、お前その言い方は反則だろ!」
 急に顔を赤くするキョン子は俺と同じ人物のはずだよな? どこかおかしな事言ったか、俺? しかし赤い顔のキョン子が先に行ってしまいそうなので九曜と二人で急いで後を追った。
 というか、どこにいくんだ? こいつ。



「………で、ここかよ」
「悪い? あたしだってそんなに知ってるとこなんかないんだから」
「―――――コーヒー―――――まだ?」
 九曜、お前には悪いが店員がお前の存在を認知したかどうかが甚だ疑問だぞ。一応俺も言っておいたけど。
「―――――にょろ〜ん―――――」
 お前、それだけは言っちゃダメだろ! キョン子、分かってないのか? これはツッコミどころなんだ!
「え? 九曜の持ちギャグじゃないの?」
 おお、神様(黄色いカチューシャ不可)まさか俺がボケだとは思いませんでした。どこから説明したらいいのか分かりません。
「とりあえずそれは許可がいると言う事だけは分かってくれ。頼む、これは笑いが取れるとかだけじゃいかん問題なんだ、何と言うか俺達のいる空間の危機を迎えるかもしれん」
「そこまで卑屈にならなくても…………」
「――――どうせ――――見てないわ――――よ―――――?」
 お前ら、実は知ってるな?! 何でこんなに危ない橋渡ってるんだよ!
「あ、コーヒー来たぞ」
「―――――私のも―――あった――――」
 しかし三杯ということはやはり九曜が頼んだものは無視されていたんじゃないだろうか? しかもさっきまでの流れは完全にスルーかよ?
「…………まあいい。それでこれからどうするんだ?」
 いくら異世界でもここは慣れ親しみすぎなんだけどな。SOS団御用達の喫茶店でしかもいつもの席で俺はコーヒーを飲んでいた。ちなみに味も変わらなかったのは良かったんだかな。
 という事でどうする?
「どうしよう?」
「――――どうしよう?」
 何も決めてなくて人を呼び出すなよ。しかしハルヒみたいな人間がいないと話も進まないもんだな、まあ俺自身だから仕方ない。
「まあ適当に道案内してくれればいいさ、行きたいとこあるわけじゃないしな」
 この面子で期待するのもどうかと思うしなあ、一人は俺と同じくやる気はないし、もう一人は語るに及ばないだろう。
 とりあえずは一息ついたんだ、どこに連れて行かれても俺の世界と変わりがあるようにも思えないしな。
「んー、そうだなあ……………」
 そういえばこれだけは趣向が似ているのか、俺と同じくコーヒーを飲みながらキョン子はしばらく考えていたのだが、
「そういや、映画なんてどう?」
 などと言い出した。映画? なんで映画なんだ?
「いやほら、あたし達が性別が逆になってるじゃない? だったら映画の俳優とかもみんな逆転してんのかなーって」
 なるほど、それは考えたこと無かった。しかしそれは俺から見ればなかなか気持ち悪そうな気がするな、あのグラビアアイドルが男になっていたなんて目も当てられない。
「ああそうか、本屋とかでどうなってるのか確かめるのも面白いわね」
 しまった、いらん事言ってしまった。しかし俺にしては積極的ではあるな、これも環境の違いというものなのかね? まあ佐々木相手なら仕方ないかもしれん、あいつは社交性はあるが積極性はないからな。
「でも橘の応援してるアイドルが女の子だったら面白いわねー」
 前言撤回。どうやらこいつは面白ければいいらしい。というかだな、これじゃハルヒ鶴屋さんだ。俺は間違ってもこんなキャラじゃないよな?
「―――――――それは―――――どうでしょう?」
 どうでしょうって、どうなんだよ? いや、間違っても俺はあんなに笑いながら予定を語るキャラじゃない。仏頂面で文句を言ってこその俺だろ? ということでキョン子の笑顔は俺と同じ人物のはずなのだが、驚きをもって見るしかないわけで。間違っても見とれてはいない、俺はそんなにナルシストじゃないんだ。



 

 
 
 という訳でハルヒコ(こっちの世界のハルヒらしい)や佐々木たちの目から逃れる為に電車に乗り込んだ俺達は、前回のように繁華街に繰り出すことと相成った。ちなみに交通費はワリカンなのである、素晴らしい世界だ。
「あんた本当に苦労してんのねえ………」
 ありがとう、そう言ってくれるのもお前だけだ。それだけでこの世界に来てよかったよ。
「なっ?! お、お前そういうのは反則だっていってるだろ!」
 いや、自分で自分を慰めてるのかもしれないけど誰かに言ってもらえるのは嬉しいもんだなあってな。で、何で反則なんだ?
「…………いや、自分でも分かんないけど」
 なんだそりゃ? しかし電車の中で顔を赤くされるとこっちまで照れてくるんだけどなあ。
「おまわりさーん――――――チカンですよ―――――」
 やめて、本当にヤバイから。キョン子、早く元に戻ってくれ! 顔を赤くして俯くキョン子と無表情に人を犯罪者にしようとする九曜を前に、何故か焦りながら電車の揺れにバランスを崩してしまい、
「キャッ!!」
「あ、すまん……」
 ついキョン子を抱えるような体勢になってしまってだな?
「……………」
 そのままキョン子を腰抱きしたまま目的の駅に着いてしまったのは大変だったのだ。しかしこいつ本当に俺か? 妙に細いし、何かいい香りするし、何よりも赤くなって黙り込むなんてキャラじゃないだろうが?
 どうにも調子が狂ってくる、何故かお互いに黙ったまま改札口まで出てきてしまった。ついでに九曜は改札はスルーである、現金チャージは十分らしい。
 さて、着いたはいいけどどうするんだ?
「え? あ、映画! 映画行かなきゃ!!」
 あ、そうか。どこかぎこちないキョン子が、
「こっちよ!」 
 と言って先導するのだが、
「あー、そっちじゃない。こっちの方が近いぜ」
 生憎と俺の住む世界とあまり変わりが無い。というかまったく同じなので俺の方が道を知っているという変な状況なのである。この辺はハルヒのせいで不思議探索の行動範囲内なんだから俺の方が道を知っていても不思議はないのだろう、佐々木達がこんなとこまで遊びに来るなんてあまりなさそうだしな。
 しかしまあ、キョン子とすれば、
「う、うるさいなあ! あたしだってこんなとこ来るの久しぶりなんだからしょうがないじゃない!」
 うん、これは悪かった。今度は別の意味で顔を赤くしてしまったキョン子に何かフォローしてくれないか、九曜?
「―――――庭みたいな―――ものですよ――――?」
 うん、そんなに得意気に人の上着の裾を掴んで言うな。というか離すな! ふらふら歩こうとするな! お前、迷子になる気満々じゃねえか!
「……………しょうがないなあ、そっちの方が近いんでしょ?」
 そしてお前までかよ。小さく袖口を掴んだキョン子を振りほどく気にもなれず、反対側は九曜に裾を掴まれて歩くことになってしまったのであった。
「はあ、やれやれ………」
 とまったく同じタイミングで俺とキョン子は同じ口癖を呟いたんだが、俺はともかく何でお前がそれを言わなきゃいけないんだよ?
「そんなもん我ながら不明なのよ」
 なんでこうなっちゃうかなあ、と呟くキョン子を見ながら、俺はこいつが俺なら何を考えてるのかと思い、すぐに諦めた。俺だから大した事は考えてないだろうし、女の考えも分からんからな。
 とりあえずはこんな風に女の子二人に囲まれてる俺は周囲からどう見られていることやら、とか実際映画がどうなっているのか想像しながら俺達は映画館へと向かうのであった。



「ちょっと、歩くの早い」
 ああ、そうか。ハルヒなんかは俺を置いていきそうな勢いでいつも歩くからな。
「って! どこ行く気だ九曜?!」
 いつの間にか裾を離してふらふら歩こうとする九曜をとっさに手を握って繋ぎとめた。
「まあ――――大胆――――」
 やかましい、いいから行くぞ。そのまま九曜の手を繋いで歩き出そうとしたのだが。
「………ん」
 あれ? いつの間にお前まで俺の手を握ってるんだ?
「だから早いんだってば」
 ああそうかい。こうして両手をキョン子と九曜に繋がれてしまったのだが、これはちょっと恥ずかしいぞ?
「…………行くぞ」
「――――ごー」
 そして俺の周りの女性陣は俺の意見を聞かないというのが特徴らしい。はいはい、どうせ俺は保護者ですよ。
 今度こそ俺は一人でため息をついたのであったよ、これは一体いつになったら映画館に行けるのやらだな。