『SS』 涼宮ハルヒの別離 9

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その日は抜けるような青空だった。
 朝の陽の光を浴びながら、あたしと有希が駅までの道を歩く。あたし達の大切な人を、笑顔で見送る為に。
 結局有希の部屋で一晩過ごしたあたしは、有希と一緒にキョンを見送る事にした。それはあたしが望んで、有希も望んで、きっとキョンも望んでくれている事だと思うから。
 いつもどおり無口な有希と、何も話さなくても大丈夫。だってあたし達は分かり合えたから。だから二人で歩く、この時間も大切なもの。


 

 そして駅前に着くと、何も連絡をしてないのに有希と同じくらい大事な人たちが待っていてくれた。
「どうやら僕らの方が早く着いたようですね」
 みたいね、いつもと同じように爽やかに微笑む古泉くん。
「おはようございます、涼宮さん」
 おはよう、みくるちゃん。あなたのおかげよ、今あたしが笑えるのは。
「………おはよう」
 有希と一緒に来たことも、あたし達が制服のままのことも、二人は何も言わなかった。言わなくても分かってるって、そう言われてる気がした。
 これがあたしの大事な人たち。そして今からあたしの、あたし達の大切な、大好きな人に会うんだ。
 だから笑って。あたし達は笑ってあいつに会える、またねって言う為に。
 だから大丈夫。あたしは大丈夫だから。心配しなくていいよ、だって絶対会えるから。



「やれやれ、ここまで盛大に見送られるとは思わなかったがな」
 そう言いながら嬉しそうに笑う顔。引越しのトラックが嫌になるほど違和感があるけど、キョンの笑ってる顔は変わらない。
「晴れの門出をみんなで送り出そうと思いましてね」
 古泉くんの台詞に、面白くもなさそうに肩をすくめたりして。
キョンくん、体には気をつけてくださいね」
「ありがとうございます、朝比奈さんこそお元気で」
 やっぱりみくるちゃんには嬉しそうに。
「…………また」
「ああ」
 有希とはそれだけで通じるのよね。それぞれが、思いを交わすように別れを告げる。そしてキョンも。
「古泉、頼むからハルヒを調子に乗らせるなよ。まともに学校生活は送ってくれ」
「肝に命じておきますよ」
 失礼ね、あたしだってそこまで馬鹿な事はしないわよ。でも古泉くんまで嬉しそうに頷かないで欲しかったわ。
「朝比奈さん。あなたのお茶が飲めなくなるのは心残りですが、ハルヒをよろしくお願いします」
「わかりました…………また美味しいお茶を煎れられるように頑張りますからね」
 うん。あたしもみくるちゃんに甘えるだけじゃダメね、それにキョンの為に美味しいお茶の煎れ方でも習おうかな。
長門……………ハルヒを、頼む」
「任せて」
 それだけだった。それだけで通じる二人をやっぱりあたしは羨ましいと思う。でも二人があたしを想ってくれる心が伝わってきて、それだけあたしは二人の事が好きなんだって思う。
 もうすぐ出発なんだな、そう思った時、
ハルヒ
 キョンがあたしを呼ぶ。どうしたの、と言う前に抱きしめられた。
「ひゃあぁ〜!」
「おやおや」
「………」
 ちょ、そんな、みんなの前で! でも振りほどけないのよね、だって嬉しいに決まってるから。
「………絶対に戻ってくるからな」
「………絶対なんだからね」
 この絶対だけは信じたい、信じられる。キョンが、あたしに約束してくれたんだから。だから絶対なの、絶対あたしのところに帰ってきてくれるんだ!
 その想いをしっかり込めて、あたしもキョンを抱きしめた…………




「それじゃ、行ってくる」
 そう言い残してキョンは行ってしまった。さよなら、じゃない。行ってくるだけなんだって。
 あたし達四人はトラックが見えなくなるまで送って、それぞれの家へと帰る。その途中、
「ねえ、今後のSOS団の活動なんだけど」
「それについては僕に一つ提案があるのですが」
「あ、あたしもやってみたい事があります」
「…………わたしも」
 面白い偶然ね、みんなやりたい事があるなんて。
「ねえ、みんな何がしたいの?」
「そうですね、アルバイトなどどうでしょう?」
「あ、あたしもそれを言おうと思ってました!」
「奇遇」
 そうなんだ、実はあたしもね?
「はい、一定の場所で不思議を探しながら金銭的にも潤うのでいいのではないですか」
 上手い事言うわね、それに週末に奢ってくれる奴もいないしね!
「ま、せいぜいおこづかいを稼いでおきましょう」
「………旅費には充分」
 う、それを言わないでよ! というか、みんな分かってるんだ。見れば嬉しそうに笑う顔。
「それでは! 次回SOS団の遠征に向けて、アルバイト大作戦を慣行するわよ!!」
 待ってるだけなんて、あたしじゃない。キョンが来てくれる前にあたしから会いに行こう、そして驚くあいつの胸に最高の笑顔で飛び込んであげるんだ! 最高の友達と一緒にね!
「さーて、明日から忙しくなるわよー!!」
 あたしは思い切りよく、空に向かって叫んだのだった。 


 
 みんなの笑顔と、大好きなあいつの笑顔を胸に抱きしめて………

あとがきです。

 と、いうことであとがきです。いやー、長かった(笑)
 この作品を書くきっかけは最初に言いましたがスレまとめなどでよく見るシチュを自分なりに書いてみようというものでした。キョンがいなくなるっていうのは本当によくあったもんで。
 ただ、死んじゃうのは違うかもなーで転校という形にしましたけど。本当に決めてたのはそこだけですね。
 そこからストーリーの軸として考えたのがハルヒの成長でした。好きだと言える事、好きな人との別れ、それを囲む仲間達との関係で人間的成長をする、みたいな。
 すると自然と他のキャラも成長の跡を見せてくれていったようで、朝比奈さんと古泉のくだりはまったく予定には無かった部分です。基本的には定番なシチュエーションを重ねてるだけなんですけど。
 長門ハルヒの対決、ハルヒの告白と我がまま、キョンの涙、長門ハルヒを親友と呼ぶシーンは初めから頭にありました。というのも、ハルヒを打ち負かすなら長門しかいないだろうなと。長門の成長に比べればハルヒは子供ですから。言っちゃ悪いけど、人間らしい長門ハルヒよりも純粋ですよ。そこはしっかり書いてあげたかったです。だからこそ最後に親友、と戸惑いながらも言えるんです。これはハルヒの成長ものであり、長門の成長ものでもあります。
 どうしてもハルヒ視点だと男性陣の出番は少ないけど、それでも古泉は組織の一員ではなくキョンを救おうと必死になってますし、キョン自身も素直になれてますよね? 男の子は無理して大人になろうとしてます、だからこそハルヒが優しくなれるんです。
 しっかし女心が分からないランキングなら上位に食い込める自信ありありの俺がここまで女の子を書いて大丈夫ですかね? 前回「指輪」シリーズで書いた乙女ハルヒをとことんまで書いてみたかったのです。女性のご意見を聞きたいところではありますね、全てが勉強です。
 そして裏テーマが「ハルヒをめちゃくちゃ泣かせよう」ですから(笑)寂しくて、哀しくて、怖くて、そして嬉しくて泣かせてます。あまり泣かないイメージのキャラなので、ここぞとばかり泣いてもらいました。弱弱しくみえるかもしれないのですが、これもハルヒという女の子だと思うんですけどね。あくまでも一人の女の子として涼宮ハルヒを書いてるのであって、能力や性格は二の次です。だって恋する女の子を書きたかったんだもん(笑)
涼宮ハルヒ」らしくない純粋な恋愛物になったでしょうか? 定番なシチュエーションは裏返せば必ず入れないといけないものでもあるわけで、そこを自分なりに料理できていればいいなと思ってます。
 もっと色々言いたい事もあるような気もしますが、まあそれはこれ以降の作品で活かした形でお見せできればいいですね。
 では、長々とこんなとこまで読んでくれた方には感謝します。また次回お会いしましょう。

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