『SS』 キョン攻略法

「ねぇキョン。」

今日も部室には、あたしとキョンの二人だけ。
最近、このシチュエーションが多いと思うけど、まあラッキーってとこかしら。
みくるちゃん、有希、古泉くんはまた、それぞれ私用があって部室にいない。

こう言うときはキョンにおねだりするに限るわね。

「ダメだ」
「けち」
「お前な、俺をなんだと思ってんだ?」
「彼氏。あたしは?」
「彼女。ってそうじゃない」

キスとかおねだりしたらホイホイOKしちゃうのかしら? でもあたしがおねだりしたいのは、

「漫画売ってお金入ったんでしょ?」
「ああ、5000円ほどな」
「だったらアクセサリーの一つでも買ってくれたっていいじゃない」
「却下だ」
「むぅ…」

ちょっとだけ拗ねてみる。可愛いと思ってくれてるかしら?
たまには違った一面を見せておかないといっつも笑顔なんてつまんないもんね。

それはともかくとして、しつこくねだればいくら拒否したってキョンは折れてくれるのだ。


「………仕方ないな」

ほらね? あたしの顔が輝やく。

「いくらだ、それは?」
「うーんと、3200円ぐらいかしら?」

まあ結構リーズナブルでしょ、とはいえキョンには大変かもね。
ところが今回はキョンがとんでも無い事を言い出したのよ!

「そうか。ただし、条件がある」
「ん?」
「これより16日間(3200円÷200円←1日分)、俺に対する二人称はご主人様で語尾に『にゃん』もしくは『にゃ』を付けて生活し、部室内ではエプロンドレスと以前買ってきたらしいネコミミ及びネコしっぽの着用を約束すれば買ってやる」

えーと、何を言い出したのかしら、このアホは?

「………本気?」
「ああ、もちろん。やらないなら買ってやらんがな」

どこまでが本気かは分かんないけどキョンがこんな事言うなんて面白いじゃない! あたしだってそういうのが嫌いな訳じゃないんだからね?

「わかったわ」
「ん? 何だって?」

う、ここからスタートなのね……………いいわよ、言ったからにはやってやるわよ!!

「わ、わかったにゃん」
「ん、よろしい」

そう言ってキョンはあたしの耳元で囁いてきた。凄く低い声で、甘くなってくるように。

「可愛いよ、ハルヒ

正直、死ぬほど恥ずかしかったんだけど―――

「どうだ、本当にやるか?」
「やる、やるにゃん。だから買ってにゃ、ご主人様」
「ああ、買ってやるよ」

―――あたしは耳から首まで真っ赤にしてるけどキョンもそうだし、おねだりは成功したらしいから良しとしておかなきゃね!

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翌日。

「おはようにゃん、ご主人様っ」

その時、クラスに冷気よりも冷たい風が吹きすさんだわ。

「おはよう、ハルヒ。今日も可愛いな」

さらに、クラスの空気が重くなったわねっていうかキョンったら!!

―――ぷしっ

あたしは思わず鼻血を吹き出して、机に突っ伏した。

「うううっ…」

は、反則だわ、まさかそんなにストレートな言い方するなんて。

キョン、それはズルすぎ…」
「どうした? ハルヒ?」
「…なんでもないにゃん」

最っ高!
エクスタシー、つまり法悦とはこういうことを言うのよ!
つまり、あたしが現在行っているのは、キョン攻略法ってこと。
キョンはちょっと甘えた行為をすると調子に乗る事に気が付いたあたしは、思い切り譲歩すれば直球になるんじゃないかって家で甘える練習をしたのだ。

イメージトレーニング(妄想じゃないわよ)をやりまくって、キョンの写真に対して「〜だにゃん」とか「ご主人様っ!」って端から見れば変態まがいの特訓を積んだ結果がこれなのよ。

勝ったわ、キョンに勝ったのよ!
今までだってあたしが勝ち続けたけど、絶対に負けない。
その上、キョンの機嫌を損ねる事なんてない。
ああ、すばらしいわ世界平和。

喜びのあまり、一瞬我を忘れて変な事を考えた気もするけど、それは置いときましょ!
まぁ、この16日間でキョンも変わっていくだろうと確信したわね。
だから16日後、またあたしはおねだりをするの。

ハルヒ、まさかとは思うが癖になってないよな?」
「まさか、そんな事無いにゃん」

まさか、ね?