『SS』 北高新聞 号外『大ヒット御礼』

まあいつもいつもで申し訳無いくらい当たり前の放課後の光景であるところのSOS団であるのだが、ここ最近は来訪者も多くなってきたもんだ。
と言っても別にとっかえひっかえ客が来るわけではない、むしろ来る人間は限られている。
キョンー、お客さんよー」
妙にニヤニヤしているハルヒの声を聞くまでも無い、俺を指定してくる客なんぞそんなにいてたまるかという話だ。
つまりは客というより厄介事としかいえない訳で。そいつはウチの副団長もかくやのスマイルで立っている。
「………毎回ご苦労さんですね」
新聞部の部長氏は今日も今日とてSOS団の部室を来訪されたという事さ。



「そんで今日は何の用ですか?」
何故だかハルヒの許可をあっさりと貰え、俺と部長氏は新聞部の部室にいる訳なのだが。よく見りゃなんか備品が増えているような、そんなに部費が貰えてるのかね?
部長氏はいつものように笑顔で、
「いやあ、今日はキョンさんにお礼を是非言いたいと思いまして」
などと言われたのだが、生憎とこちらにはお礼を言われる筋合いがない。
「どういうことですか、別に俺は礼なんか言われるような事はしてませんけど」
すると、
「何を言ってるんですか、キョンさんのおかげで最近の北高新聞は創立以来の大反響なんですよ」
そう言われても俺のある事無い事を書きたてて大反響と言われてもなあ………
「今日のお礼だってほら、これ見てください」
なんだ? 部長氏は部室にあったパソコン(というかいつからあったんだ?)のスイッチを入れ、何やら操作している。
と、とあるホームページを見せてくれたんだが、
「なんじゃこりゃあ?!」
そこには『北高新聞・PC版』の文字が踊っていた。しかもPC版ってことは、
「もちろんモバイル版もばっちりです。それでこの北高新聞がこのたびめでたく10万ヒットを超えたんですよ!」

な、なんだってーっ!!

知らない俺がアホだったのか、ウチの新聞部を舐めすぎていたのか? とにかくそんなに人気があるなんて思いもしなかったぜ。
ん? 待てよ? これは北高新聞だよな、ということはこれに載ってる記事って、
「はい、キョンさんのインタビューなんかヒット数の多さにカウンターが故障したのかと思いましたよ」
ちょっと待てい! あの間抜けな記事の数々が北高だけじゃなくて全世界に配信されてたっていうのか?
「おい、なんでこんなもん作ってたんだよ?!」
「それがキョンさん、僕が予想していたよりも外部から新聞が読みたい、という声が多くてですね? 特に匿名ですけどSさんとか」
いやそれ絶対佐々木だろ? というか今更匿名にする必要あるのか?
「それ以外にも他校の女生徒からの声が多かったんです、キョンさんの事を通学中に見ていたとか」
「ありえないだろ、それ? そんな視線なんか感じたことないぞ」
「まあ普段は涼宮さん始めSOS団女子に朝倉さんもいますから。最近は佐々木さんに橘さんもいますからねえ」
だからといってそれがいいのかは分からんが。あいつらも下校時間が同じなだけだしな。
「…………まだそう言えるのが凄いですね」
そりゃそうだ、あいつらにだって選ぶ権利はあるだろ。
「はあ、選ばれた側がそう言いますか………」
何やらため息をついた部長氏だが俺は変なことを言っただろうか?
「まあそれはそれとして10万ヒットの記念でキョンさんにも一言いただこうと思いまして」
どう考えても被害者なんだけどな。しかし部長氏の言うように何にしろめでたいことだ、それで一言と言われれば何か言っておくのもいいだろう。
「では早速なんですけど北高以外で見てくれてる人たちに何かありますか?」
「いや、とりあえずありがとうって俺が言っていいんですか? まあ気恥ずかしいもんがあるんだが」
「いえいえ、キョンさんあっての北高新聞ですから。ではせっかくなのでキョンさんの好みの女の子でも読者さんに向けてどうぞ」
「結局そこかよ?! まあ好みと言われても……」
「北高の誰か、というのではなくてあくまでヒットしてくれた人たちに向けてですよ」
そう言われても困る。第一何で自分の好みを世間に向けて晒さねばならんのだ。
「まあキョンさんがこんな子がいいなあというのがあればいいんですけど」
「ふむ…………」
ちょっと考えてみれば俺の周りにはハルヒ長門、佐々木、朝比奈さん、朝倉、あとは橘もいるのか、皆個性的かつ魅力的であるのは否定できんな。
「どうでしょう? 容姿に拘りがなければ何かこれは出来て欲しいとか?」
そう言われれば、
「そうだな、料理は出来た方がいいと思うぞ? 例えば昼なんか俺は弁当だがやはり家庭の味ってのはいいもんだ」
ふと思いついたので言ってみた。ベタな感じだが理想ってのはそんなもんだろ。
「ほう、結構具体的に出ましたね。ありがとうございます、皆さん喜びますよ」
そういうもんかね? とにかく記念インタビューとやらは終わり、俺は報酬というかお礼として図書カード(この辺りは学生らしいな)をいただいた。
長門にでも譲ってやるか、いつも世話になってるしな。
「あなたはまた無意識にそういうことを………」
部長氏の嘆くような声の理由は分からないままだったんだがな。






その後、何がどうなったのか昼休みになると俺の机の周りにSOS団+朝倉が集まり机の上が弁当箱に占拠されたりだとか、休日に佐々木に誘われてピクニックに連れて行かれ弁当を食った話だとかはまた別の件なんだろう。