『SS』見て見ないふり

 インターフェースとは万能無敵だとまあ思っていたんだが、それでは長門ハルヒのイメージだけで眼鏡をしていたのかと言えば甚だ疑問である。
何よりハルヒのイメージというのが良く分からんし、文芸部のイメージがそれだと言われてもピンとこない。それでも長門が眼鏡を外したのだから問題はないのだろう、と思っていた。
 ところが、である。なんとも奇妙な光景を見てしまったのだから話がややこしい。
 それはとある休日のことだった。俺はたまたまコンビニに出かけ、たまたま公園の側を通り過ぎようとして、たまたま長門を発見した。
おい長門、とまあ声をかけようとすれば長門は絶賛読書中な訳で。それなら悪いかと遠慮しようと思ったところで妙なものを見つけてしまった。
 というかだな? 長門のすぐ横に張り紙がしてあるんだよ、それも結構分かりやすく。そこにはお約束と化した文字が踊っていたりするんだよな、こういう時ってさ。
『ペンキ塗りたて注意』の文字がやけに目立って見えるのは何故だろうね? まっ黄色なベンチに白い張り紙、その横には人形のような長門
 おーい、お前まるで気付いてないのかー? さすがに声をかけるしかないだろ、これは。
「おい、長門?」
 その声にようやく本から視線を動かすSOS団の万能選手さんだが、
「なに?」
 本当に俺がいるのが分からなかったのか? 普段の長門はここまで警戒心がないとは思わなかったのだが。
「お前なんでそんなとこ座ってるんだ?」
 すると長門はそれは不思議そうに俺を見て、
「これは座るためこの公園に設置されたもの。わたしはそれを有効に活用している」
 と述べられた。いや、そんなもん俺だって分かってる。ただし何故そこに座っているのかが疑問なだけだ。
「………………?」
 首を傾げる長門を見て、こっちが首を傾げたくなってくる。
「張り紙があるだろ? それを見てないのか?」
 いやまさか長門に限って……………ってその見開いた目はなんだ?!
「…………迂闊」
 それで済むことかよ? とにかく長門には張り紙が見えていなかったようだ……………見えてない? まさか、
「おい、まさかとは思うがお前、張り紙の字が見えてなかったとか言うなよな?」
 しかし長門は俺には分かるあの頷きで答えたんだよ、おいおい勘弁してくれ。
 と、言う事はだ?
長門、お前本当は視力悪いんじゃないか?」
 思い切り核心を突いてみれば、あの長門が多分俺にしか分からんだろうが動揺を隠さずに、
「本は読めている、心配は無用」
 などと言うもんだからやはり長門は目が悪かったのか。てっきりポーズだと思った眼鏡はマジで必要だったのかよ。
 やれやれ、なんて言うもんじゃないな。ため息と共に俺は言った。
「眼鏡でも買いにいくか……」
「必要は…」
「あるだろうが」
 とにかくこいつが目が悪いというのが分かったのだ、何たらインターフェースも万能じゃないんだな。
「とりあえず行くぞ、ハルヒが知ったら何しでかすか分からん」
 散々騒いで眼鏡屋を困らせるよりはマシだろう、それなら今のうちに何とかしといた方がいい。
「了解」
 長門も了承したようだ、やけにあっさりと立ち上がってくれた。
 ……………そして俺は愕然とする。
「あー、長門?」
「なに?」
「…………まずは家に返って着替えろ」
 背中一面を黄色に染めた宇宙人を前に頭を抱えたくなる俺なのだった………



 長門が着替えて家から出てくるまで、約三十分。
 長門にしては遅いなと思ったりもしたが、長門は無事着替えて出てきた。
 しかし何で元々制服だったのに着替えた後がまた制服なのか――なんて、野暮なことは聞くべきじゃないんだろうな。長門の家のクローゼットを見たわけじゃないが、こいつが家の中にはきっと同じ制服が何着も有るのだろう。
「よう、遅かったな」
「……着替えに手間取った」
 もしかしてそれも近眼のせいか? 他に理由があるとも思い難い。そういや、さっきは気にもかけて無かったというか、先に他のことに気づいたせいでその点まで気が回らなかったが、こいつは何で外で本を読んでいたのだろう。天気が良いから外に出ました、というようなタイプじゃないだろうに。
「部屋の電灯が壊れたため」
「……全部か?」
 長門の家は3LDKだ。ってことは全部で三部屋とリビングダイニングなわけで、合計四か所だ。もしかしたら細かい電球なども含めたらもっと有るのかも知れないが、そんな幾つもある電灯や電球が全部同時に壊れるとは思い難い。
「先日部屋にノートパソコンを導入したためだと思われる」
 へえ、そんなものを買ったのか。
「コンピュータ研究部の部長氏に勧められた」
 経緯は別に良い。というか何でパソコン導入が電灯のショートに繋がるんだ。俺には理解出来ない。
「ノートパソコンでのプログラミングの最中に部屋の電源全てが落ちた。その後、電灯を含めた電化製品の幾つかが再起不能に陥っていることを確認した」
「あー……分かった。いや、良く分からんが、なんとなく理解できた気がする」
「……そう」
 それはつまり、パソコンで無茶をした最中に電圧だか電流だかに負荷がかかり、その影響として、ってことだよな。詳しい仕組みは知らないが、雷が落ちて電化製品が壊れるようなものだろう。しかしまあ、一体何をしたんだか。雷レベルってことは、この星の人類の技術水準を超過したよなものなんじゃ――まあ、その点については深く追求しまい。マンションの他の住人に迷惑をかけているというのなら考えものだが、被害が長門の家だけだと言うなら俺が口を出すようなことじゃないさ。
「で、それは何時の話なんだ?」
「昨日。……ノートパソコンも壊れてしまったため、修理に出そうと思っていた」
 と言って長門がとり出したのは、黒いバックだった。その中にノートパソコンが入っているらしい。ノート、というから小振りの物を想像していたが、どうやら結構大きな物のようだ。
 しかし、長門がノートパソコンを修理に、ね。自分で修理できるんじゃ無いのか?
「……部品と道具が足りない」
 道具が有ればできるってことか……まあ、良い。
 先ずは買い物に行こう。眼鏡とノートパソコンの修理用の部品と道具、それに電灯が数本。
 やれやれ、俺は眼鏡だけを買いに行けばいいと思っていたんだが。




 何はともあれまずは眼鏡だろう、そうじゃなきゃ危なっかしくていかん。第一目が悪いくせにプログラムだのパソコンの修理だの何故細かい事ばかりしたがるんだよ?
 というわけで眼鏡屋へと向かう俺たちだったのだが、今まで気付かなかったのがおかしいくらい長門はふらふら歩いている。なんというかそのうち電信柱にぶち当たるんじゃないか、こいつ?
「なあ、お前今までそんなに見えていなかったか?」
「違う。単純に寝不足、昨夜はプログラミングから事故の処理まで行いほぼ寝ていない」
 ならなんで本を読んでんだという話なのだがなあ。いや待て、こいつが寝不足ってのもおかしくないか?
 どうにも疑惑が尽きないのだが長門の表情からは読めないままに眼鏡の専門店へと入ってみる。おかげさんで俺には縁がないとこだったんだが、まさか付き添いで来るとは思いも寄らなかったぜ。
 大量の眼鏡が整然とディスプレイされているのを多少の好奇の目を持って見回しながらも、とにかくここでは客は長門だ。だから突っ立てないで奥に行ってくれないか?
「お客様は眼鏡は初めてでしょうか?」
 そういや眼鏡を売ってるのに店員が眼鏡をしていないってのはどうなんだろうか、などと長門に話しかける店員の顔を見ながらくだらない事を考えていると、
「初めてではない。わたしが眼鏡を損失後、再構成を忘れたが彼が不要と言ったので放置していたまま現在に至る」
 待て長門、それじゃ俺が悪いみたいじゃねえか! というかさっぱり分かっていない店員が不審そうな顔で俺たちを見てしまってるし!
「あ、あー、ほら、俺がこいつの眼鏡を壊しちゃったんでまあお詫びに買い換えようかなーって事ですよ!」
 苦しすぎる言い訳なんだが、それでも客は客と割り切ったのか店員はあっさりと長門に向かい、
「ではまず視力検査しますね、こちらに顎を乗せてください」
 多分検査の機械だろう、学校での視力検査とは違ってなにやら覗いたらいいようだ、へと促した。
「………………」
 長門も黙って従ったので一安心と思った矢先に、こいつはまたやってくれたんだよ。
「………右」
「………………あの〜、2.0なんですが……?」
 そんなアホな、さっきまでは確かに……………って待てよ? 
「あのー、ちょっとすいません。おい、長門ちょっと来い」
 ふと思いついた俺は店員から見えないように長門を一旦席から離す。店員の視線が突き刺さるようで痛いんだが最早気にしていられない。
「なに?」
 普通に聞いてきた長門に俺は小声で話す。
「お前、今インチキしただろう?」
「していない」
「嘘つけ、お前の能力なら誤魔化せるだろうが」
 その言い方が気に入らなかったのか、長門は珍しく口調に力が入っているように答えた。
「誤魔化してはいない、わたしは検査直前に両目で見た検査表を正しく記憶して述べたのみ。その意味ではわたしは自分の能力を超えた力は発揮していない」
 ……………俺はほぼ予想通りの答えに溜息をつくしかなかった。あのなあ、それをインチキというのだよ、世間では。
「いいか、まずその記憶した検査表を頭の中から消せ。そして検査前に表を見て記憶をするな、その上でもう一回検査を受けてくれ」
「何故?」
「そうしないと正しい結果が出ないからだ」
「…………了解」
 もしかしなくても今までの学校での検査もこうやって凌いできたのだろう、道理で誰も気付かない訳だ。
 そして再検査の結果といえば、
「0.03ですね」
 こうして長門の近視は見事証明されたって事だ。やれやれ、眼鏡一つでこの有様とはこの先の買い物はどうなる事やら………
 その後、「これでいい」と言う一言で前にかけていたものとよく似た眼鏡をかけた長門と俺は、今度はパソコンを修理するための部品と道具を買いに行く事となったのであった。





 眼鏡屋を出てからというもの、長門は何度も何度も眼鏡に蔓やフレームに触れている。何時も最低限の動作しかしない長門にしては珍しい。そんなに眼鏡が気になるんだろうか。
 やれやれ、眼鏡をかけた長門と一緒に居たら落ち着かないかもしれない、などと思っていたが、どうやら落ち着かないのは俺では無くて長門の方らしい。
「眼鏡、慣れないのか」
「……あまり」
 長門の指先がくいっと蔓を押し上げる。サイズが合って無いってことはないよな。サイズに関してはさっき調節済みだ。合わなかったら何時でも持ってきてくださいと言われたが、まさか買ったその足で戻るというわけもいかないだろう。第一、今から眼鏡屋に戻っていたら他の買い物をする時間が無くなる。
「視界はどうだ? 随分違って見えるだろ」
「……」
 長門は無言で首を引いた。と思ったら、そのまま立ち止まってぐるりと周囲を見渡した。景色が気になるのか? そういや、こいつは記憶に頼る方法で検査を凌いできたらしいが、もしかしたら検査以外も似たようなもんだったんじゃないのか。例えばの話だが、階段がぼやけて見えたとしても、正確な段数を把握していればなんとかなるものだろう。視覚障害の人なんかはそうしているはずだし。
 しばらくの間周囲を見渡していた長門が、ぴたりと静止した。じいっと俺の顔を見上げてくる。
「……なんだよ」
「かお」
「……は?」
「顔立ち……少し、変わった」
 すっと伸びた右手、その指先が、俺の頬に触れた。前置き無しで触れてきた指先の冷たさに、思わず肩が大きく震えた。おいおい、いきなり何を言いだすんだよ。俺は俺だ、別に顔なんて変わって――ああ、そういうことじゃないのか。
「変わったっていうか、成長したってことだろ」
 俺もまだ十代後半、まだまだ成長期の途中だ。これから大幅に容姿が変わることは無いが、細部の特徴はまだまだ変わり続けていく。
「……そう」
 長門が指を引き、前に向き直る。どうやら、事実を指摘する以上のことがしたかったわけじゃないらしい。成長、というごく当たり前のことが、こいつにとっては不思議なものに映ったんだろうか。
「なあ、長門……変わっていくのは、俺だけじゃないぞ」
「……」
「俺以外の連中も、人だけじゃない、物だってそうだ。建物が古くなったり、新しい建物が建ったり、季節ごとに違う花が咲いたり……その眼鏡を通せば、日々変わっていくものがちゃんと見えてくるはずさ」
 記憶は少しずつ上書きされ、古いものが消え、新しいものを正しいものと認識していく。眼鏡を通さなくても見えるのかも知れないが、眼鏡が有った方が良く見えるってことに間違いはないだろう。
 なあ、長門
 俺に眼鏡属性はないが、やっぱり、ぼやけた世界よりはクリアな世界の方が良いんじゃないか。
「……わたしは?」
 長門が、足を止める。
「は?」
「わたしは……あなたに、どう、見えている?」
 そして長門は、いきなり話の矛先を俺に向けて来たのだ。





 それはどういう意味で解釈すりゃいいんだ? 仮にも長門は女の子であり、そのー、なんだ? 女の子にどう見えているか聞かれたら素直に可愛いよ、なんて言えばいいんだろうか?
 しかしそれじゃ俺はどこかのナンパ大好き高校生と似たり寄ったりな感じもするし、今更そんな事意識するってのもおかしな話な気もするな。というかこんな事考えている時点で動揺しているな、俺は。
 そんな考えを持っていたのを知ってか知らずか、長門はこう言ったのである。
「わたしは………成長している?」
 自分の考えを後悔したね、なんて馬鹿なんだ俺は。こいつはこいつなりに不安だったりもするはずなんだ、新しく見える世界に。
 それを単純に考えた自分に腹も立ってくるが、それでも長門にはこう言った。
「成長してない訳ないだろ、お前だって」
 そうさ、こいつだって変わってきている。少なくとも俺が見る限りはSOS団というものに愛着だって出てきているし、表情だってまあ無表情だが分かるようにはなってきた。
 いきなり変わっていくなんて誰だって無理だ、でも少しづつでも変わっていくもんなんだよ、物も人だって。
 その変化を長門もはっきり見えるなら実感していってもらいたいもんだ、それが成長って言えるもんかはこれからの俺達次第ってもんだろ。
「まあせっかく見えるようになったんだ、色んなもんを見ていけばいいさ」
 そこから何か感じ取ってくれるだろう、長門ならな。そのくらいは俺でも分かるくらいはこいつも俺も成長したって事でいいんじゃないだろうか?
「………そう」
 長門はそう言って小さく首肯した。頷いたときにずれた眼鏡を直しながら。
「さて、買い物の続きだ。今度ははっきり見えてるからって変なもん買うんじゃねえぞ?」
「心配無い、購入すべき品目は全て記憶済み」
 それだけじゃないって事にならない事を祈るよ、こと買い物ってのはそんなもんだって事に長門ですらならないとは限らないからな。
 まあその心配が的中してしまうなど夢にも思ってなかった俺が大量に買い込まれたパソコンの部品、修理道具、あとはブレーカーの増幅だっけ? だの電球だのを持たされたあげくに、
「これにも興味がある」
 の一言でさらに組み立て式のパソコン一式の箱まで持たされたあげくに、
「お礼をしたい」
 と言う事で大量のインスタントカレーの缶、しかも長門の奴はじっくりと何種類も吟味した挙句だ、までも抱える羽目になってしまったのはやはりクリアな視界で長門も舞い上がっていたと思えばいいもんなのかね?
 長門からすれば軽いもんだろうが、カッコをつけたがる男子の常としてどうにか俺一人で抱え込みながら長門のマンションに戻って来た俺達は、
「…………おい長門?」
「なに?」
「お前、昨日は処理で寝てないって言ったよな?」
「そう」
「それならパソコンがどうとかよりまずこの惨状をどうにかするべきだったんじゃねえか?」
「……………障害物による弊害はなかった」
「見えるようになったら分かるだろ」
「分かった」
 部屋中に広がる分解されたパソコンだの、暗闇の中で無理やり動かそうとした電化製品だの、あげくに外された際に落としてしまったのか破片が散ってる蛍光灯だのを見て俺は大きな溜息をつくしかなかったんだ。
 これ、片付けないと駄目だよな……………電球も長門の身長じゃ届かないとこだらけだし。
「とりあえずは掃除だ、修理はその後にしろ」
「了解」
 俺達は黙々と部屋を片付けるしかないのであった。なんとなく散らかしたおもちゃを片付ける親の気持ちを味わってしまった気分なのは気のせいなんだと思いたいもんだな。





「なあ、長門、これはどこにやれば良い?」
「あっち」
「あっち……ってあっちには戸棚が有るじゃないか」
 出会った頃には殺風景だった長門の部屋も、今では随分物が増えた。主にハルヒが持ち込んだ品々では有るが、以前よりは生活感が有って良いんじゃないか。ゲームや手品の道具ばかり転がるこの場所を、果たして生活という単語と結び付けて良いのかどうかという疑問は有るが。
「で、この戸棚はどこにやれば良い?」
「向こう」
「……なあ、長門。これってただ物を移動させているだけじゃないか?」
「そうかも知れない」
「おいっ」
「あなたは掃除をすると言った」
「それはそうだけどなあ……」
 掃除と片づけは別物だ。俺は散らかった品々を片づけに来たのであって長門の部屋の模様替えを手伝いに来たわけじゃない。いや、そもそも片づけに来たわけでもないんだが、それはそれだ。
「……いや?」
「嫌とか良いとかいう問題じゃない。とりあえず、必要なことからやるぞ」
 ぺしっとその頭を軽く叩いて、床の端にまとめられただけのゴミを片づけ始める。長門はとことこと俺の隣に着いてきたかと思うと、俺の隣で腰を下ろした。
「どうした?」
「わたしが壊した物」
「ああ、そうだな」
「わたしの部屋に有った物」
「ああ」
「つい先日までは機能していた物。わたしの不注意で壊してしまったもの」
 ……なあ、長門、お前は何を言いたいんだ。まさかいきなり、物にも心が有るとか言うんじゃないだろうな? 長門自身真っ当な人類とは違うわけで、まかり間違って機械と会話出来たりするのかも知れないが――いやまさかそんな、さすがにそれは無い……と、思う。
「愛着が有ったのか?」
「……わからない。そもそも、愛着、という概念自体わたしにとっては理解し切れないもの。何かを大切に思うのは、そこに相応の価値が存在するから。……価値の無いものを愛する感覚は、わたしには理解出来、」
 長門の言葉が途中で途切れたのは、俺がその頭をぽんっと叩いたからだ。結構強くたたいてしまったかも知れない。長門が俺の方を見上げている。何だよ、謝らないからな。俺は別に間違ったことをしているわけじゃない。間違ったことを言ったのは長門の方だ。
「理解とか、そういう次元の話じゃない」
「……」
「物の価値とか、愛着とか、そういうのは心で感じるもんだ。……お前にだって、役には立たないけど気にいっている本の一冊や二冊あるだろう? そういうものなんだよ。後、壊したのが悪いって思うなら、反省しておけ」
「……する」
「なら、それで良いんだ」
「……ごめんなさい」
 短い謝罪の言葉が、壊された物達に向かって投げかけられた。