『SS』意外とありそうで怖い世界崩壊フラグ:黒長門バージョン

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【意外とありそうで怖い世界崩壊フラグ】
 
今日という日付を選んだことに意味はない。ただ時間の都合が全て合ったというだけ。
学生生活というスケジュールに縛られている中で、このような機会が訪れないはずはない。わたしの情報操作の必要性がないほどに。
放課後はわたしは文芸部室にいる、これはあの女の意思。そしてわたしの意思。
だからこそわたしはせいぜい利用させてもらおう、この空間に存在することを。
わたしの為に。
彼の為に…………………






わたしがいるこの室内には現在三名の人間が存在する。わたしという個体を人間とカテゴライズするならば。
それは三人の女性体。わたしと涼宮ハルヒ朝比奈みくる
この三人だけが部室にいる確率は実は低い、何故ならば涼宮ハルヒは必ず彼を伴うから。古泉一樹もこの女の機嫌を取るために早めの出席を心がけている。
朝比奈みくるは不確定ながら、着替える時間を取るために早く来るのだろう。全ては我々が扉と呼ぶ少女の為に。
そしてこれは貴重なタイミングであったのだ。あの女にとっても、わたしにとっても。




室外に人間の反応を感知、この部屋に通常訪れる人物は二人。その内、身長・体型データが古泉一樹と一致。
どうやら彼よりも先に到着したようだ、これも想定内。いや、古泉一樹には先に来てもらわないと困る。
あの存在が狂言回しとして必要なのだから。精々その役割を果たしてもらおう。
この時点で部室の扉には情報操作をかけている、わたし達の会話内容が聞かれなくてはいけないのだから。
古泉一樹がノックをする前にタイミング良く涼宮ハルヒが口を開く。
それはわたしが望んだものでもある、ドアの外で古泉一樹が動きを止めた。
「古泉君とバカキョンがいないから、女同士の話をしましょ!」
その顔はいつものように自信に満ちている、だがデータとして彼女がこのような状況で同性と会話していた事はほぼ皆無だろう。
要するに慣れてはいないはずだ、それはわたしも同様だけど。でもわたしには勝算がある、彼の接近を察知した事でわたしはこの後の会話の流れを組み立てていった…………






予測どおりに彼は古泉一樹に促されるままにこの部屋の様子を窺っている、後は涼宮ハルヒが話すのを待つだけ。
わたしの立てた予測どおりなら、
「ズバリ、みくるちゃんと有希! あんた達好きな人とかいる!?」
的中した。彼女はこのような話題に飢えていたのだ。
ドアの向こうでは彼と古泉一樹も会話をしている、どうやら古泉一樹も予想していた展開のようだ。
『いやはや、やっぱりですか』
『おいおい、こんな会話立ち聞きするのはマズくないか? 明らかに会話が終わってから入るのは不自然だろ』
『そうですが、かといって外で長い時間を潰すというのも、涼宮さんからすれば疑われる要素になりうると思いますよ』
そこについては心配は無用。わたしの話が終われば涼宮ハルヒに疑う余裕などないだろうから。
それよりももう少し彼の興味を引いてもらわねば。 
『それに……興味はありませんか?あの涼宮さんをはじめ、未来人とはいえ学校一と言っても過言ではない美しさを持つ朝比奈さん、そして情報生命体である長門さんが、果たして誰か異性に恋心もしくはそれに近い好意を持っているのかいないのか、もし持っているのならその対象は誰か?』
『う……そりゃ、まあ……興味がないと言えば嘘になるな…』
それでいい。あなたはわたしにもっと関心を持つべき。
『別に落ち込むことでもないと思いますよ? むしろ一般的な思春期の高校生ならば、こういったことに興味を持たない方がおかしいのでは?』
古泉一樹の意見は正しい。ただし、興味を持つのはわたしに対してだけでいい。
『ええ。適当に入るタイミングをとれば大丈夫です。もし追及されれば僕が言い出しっぺだと名乗りますよ』
『ふーん……信用していいんだな?』
『ええ』
彼の被害は軽くなるかと言えばそのようにはなるまい。だが、わたしから見れば道化である古泉一樹は彼を上手く誘ってくれた、行動パターンの把握に成功していることにわたしは満足している。
これによりわたしは室内に集中できるだろう…………




 
 
 
 
「ふぇ!? 好きな人…ですかぁ〜?」
このような場合、最初に反応を示すのは朝比奈みくるの役目である。 
「そうよ〜みくるちゃん! 有希もほら、本ばっかり読んでないでお話しましょうよ!」
涼宮ハルヒに誘われるまでもなく、わたしは参加予定。今回はわたしが望んでいる話でもあるのだ。
「……………」
バタン、と大きな音をさせ、わたしは本を閉じた。
この後の会話はわたしが誘導する、あくまで気付かれない様に。まずは対象を制限する、 
「……あなたの言う『好きな人』というのは、自分が好意を抱いている対象ということ?」
「そそ、それって鶴屋さんとかみたいなお友達とかも入れてですか〜!?」
わたしの言葉に対する朝比奈みくるの追従も予測通り、このようなパターンで自滅するのが常。果たして、 
「ふっふ〜ん! 甘いわよみくるちゃん! 愛は愛でも友愛じゃなくて恋愛の愛よ! 男共はいないんだし、カミングアウトしちゃいなさい! ほら!」
涼宮ハルヒはそう言いながら朝比奈みくるを背後から抱擁した。いつもながら朝比奈みくるの反応の鈍さには意図的なものすら感じる。
「ふえ〜〜〜!?」
されるがままの朝比奈みくるをわたしは冷徹に見つめていた。 
「………………」
正直なわたしの意見を言えば、このような茶番には付き合いきれないし、彼を付き合わせたくない。だからこそ今回の手段に至ったのだから。
しかし当事者同士は飽きることを知らないようだ、 
「ほらほら! 白状しなさいみくるちゃん!」
「だっ、ダメですぅ〜! 言えませ〜ん! 『禁則事項』ですぅ〜!」
…………余計な事を。そのような言い方であの女が勘付いたらどう責任を取るつもりなのか?
何よりもその中で彼を匂わせる発言は慎むべき。彼はわたしのものであり、それ以外の者に渡すつもりなどない。
『…………古泉』
『何でしょう?』
『今の朝比奈さんの反応…俺の気のせいか知らんが、『好きな人はいるけど言えない』ってニュアンスに聞こえるんだが…いないんならいないって言うと思うんだが…』
『………かもですね……』
あなたはそのような心配はしなくていい。古泉一樹も余計な口はいらない。
「もう! 面白くないわね〜」
「ふえぇ〜……」
言葉とは裏腹に朝比奈みくるを蹂躙して満足したようだ、朝比奈みくるから回答を得ないままにわたしの方に向かう涼宮ハルヒ
あなたは自分の欲求だけを解消することしか考えていない。
ならばわたしにもそうするだけの権利があってもいいはず。涼宮ハルヒにも、彼にも分からせる。 
「じゃあ有希は? 誰か好きな人いないの? クラスとかにカッコいい男子とかいるんじゃない? まあ有希はとっても優秀だから、あたしの眼鏡にかなう男じゃなきゃダメだけどね!」
やはり自分のことだけ。わたしはあなたの許可なしで恋愛出来ないとでも言いたいのか?
あなたにはわたしの意思を左右する事は出来ない、それが彼の教えてくれた自由というもの。
「……………」
わたしはそれを実行する、彼と共に迎える自由の為に。 
「ほら有希! 言っちゃいなさいよ!」
この女にも分からせねばならない。自分の言葉の意味というものを。 
「まずはあなたのことを聞きたい」
「えっ!?」
急に言葉に詰まる、経験不足が露呈。
『おい、切り返されただけで何をテンパっとんだハルヒの奴。自分が振った話題なんだから自分が聞かれることもあるだろうに』
『何ででしょうね〜』
彼にすら指摘されているようでは駄目。古泉一樹は意図が見えるがそうはいかない。
「えっあっあたしは…!」
慌てる涼宮ハルヒには追い打ちをかける。 
「こういう話題は、まず話題を切り出した者が初めに言うものだと考えている」
「そ、そうですよ〜涼宮さんもいるんじゃないんですか〜? キョン君とか〜?」
……………本当に余計な事ばかり言う朝比奈みくる。彼の名前を軽々しく出さないで。
「はあ!? な、何言ってんのよみくるちゃん! 誰があんな奴を!!」
それが本音ならいいのだが。
『っ!』
『ふ〜ん、わかりきったことだがああハッキリ言われると少し傷つくな…』
あなたがそう思わなくてもいい。ドアの向こうの彼に対してそう呼びかけた。 
「!!」
古泉一樹の脈拍が早い、想像している事柄は予想できるがそれはわたしの意図するものとはかけ離れている。
とりあえずは古泉一樹の存在を無視する、だがわたしのシナリオには組み込まれているのでそこまでは好きにさせておこう。きっと予測通りに動くのだから。
室内では朝比奈みくる涼宮ハルヒに詰め寄っている、非常に珍しい光景だがわたしとしては茶番の域にすぎない。
「ほらほら〜涼宮さ〜ん♪」
「う、うるさいうるさい! 今はあたしのことはいいの! 有希、まずあんたよ!」
このような戯言が望みなのだろうか? それならばわたしが行う行為も正当化されて当然。 
室外では古泉一樹が、 
『ちっ!』
と舌打ちする。 
『!?』
彼も驚いているようだ、古泉一樹の苛立ちも理解出来る。わたしとは異なる理由であろうが。 
でももう大丈夫、わたしが彼を救う。あの女から、この理不尽な世界から。
「……………」
「ほら! そこで都合よくだんまりなんて許さないわよ! 白状しちゃいなさい!」
先ほどまでの動揺もなくなり、わたしに迫りよる涼宮ハルヒ。その顔に浮かぶ笑みがわたしにとって最早不快なものであることを彼女はまだ知らない。 
その顔に彼は惑わされているのだ、わたしではない笑顔で。
もうわたしは限界、エラーの蓄積などというものではない、与えられた感情が悲鳴を上げているのだ。彼にもらった大切な想いがわたしを変えた。
それを今、わたしは実行する。誰にもわたしの邪魔はさせない。
「………絶対?」
絶対にわたしは手に入れる。 
「そうよ! 好きな人がいるならいる! いないならいない! ハッキリ言いなさい!」
苛立つような声、わたしが今まで受けたそれを味わえばいい。
「…………いる」
わたしははっきりとそう告げた。 
「「え!?」」
扉の向こう側でも驚愕の気配がする、わたしの発言がそれほど意外と思われることは心外。だが彼にもわたしの言葉が正確に伝わったようだ。
わたしは自らの想いを込めて話を続ける、今までのわたしには持ち得なかったものを持って。 
「わたしが関わった人物において、あなたが知りたいような感情を抱いている対象がいる。その者は確かにわたしにとって、どんなものにも、何にも代え難い特別な存在」
そう、わたしにとって彼の存在はわたしという個体が今あり続けることの全て。
聞いてる? 扉の外にいるあなた。
『……何を興奮しているのですか?』
『スマン、取り乱した。なんつーか、大切に育てていた娘が嫁に行くときの親父の心境にシンクロしちまった』
『………そうですか…』
……………多少心外。確かに今のわたしはあなたによって作られたといっても過言ではないが、それでもわたしが望むものは親子や肉親の関係ではない。
「ゆ、有希! 誰よそれ!? 教えなさい気になるから! いや待って、例えばそいつと世界を天秤にかけるとしたらどっちをとるの!?」
混乱の余り理解不明な発言を展開する涼宮ハルヒをわたしは冷ややかに見ていた。
世界と天秤? それは自分が世界を構築していると無自覚に認識しているのだろうか? それならばわたしの出す答えは明白。
あなたが作ったような世界などいらない、わたしには彼という存在があればいい。 
「…………私はその者の意志を最大限尊重する。しかし、もし許されるのならば世界を犠牲にしてでもその者といたい」
室外で彼が息を飲む。そう、わたしにとって世界とはあなた。あなたこそがわたしの世界なのだから。 
「そ、そうなの……有希って大人しく見えて意外と熱いとこあるんだ……で、誰なのよそいつは!?」
それを待っていた、わたしは想いの全てをその名前に込めて室内と外にいるであろう全員に告げる。
「『     』」
わたしの想う人の名前、それを口に出すだけでわたしの中で理由なきエラーが増幅していく。
それこそがわたしの望むものである事に気付いてしまった今では心地よいエラーなのに。
『!!!??』
ちゃんと聞いてくれただろうか、いつもあだ名で呼ばれているあなた。わたしはあなたをこの名で呼びたい。
「ふぇぇ!!?」
「え、みくるちゃん!? 知ってるのそいつ!? ……いったいどこの誰かしら……」
驚愕する朝比奈みくると不審がる涼宮ハルヒ。その姿の滑稽さが疎ましい。
彼の事を何も知らない、知ろうともしないくせに彼を独占しようとする忌まわしい神と呼ばれる少女。
「ねえ有希、そいつクラスが一緒なの? 部活とかは? 図書館での読書仲間?」
その質問そのものが愚か。あなたは何一つ彼を知らない。
だからわたしが教えてあげよう、わたしの愛する人の事を。
「同学年だがクラスは5組」
「え? そんな名前の奴いたかしら…」
首を傾げる必要はない、彼は不本意ながらあなたの目の前に存在させられている。 
「正式な部活には所属していないが、非公式の同好会にいる」
「へぇ、何て同好会?」
まだ理解できないほど愚かだったのか、彼女の何処に進化の可能性があったのか既にわたしには理解できない。 
しかし彼をこのような愚かな女から引き離さねば。わたしは今自分が在籍する非公式の同好会の名を上げた、すなわち、
SOS団
と。
  
バキィッ
 
 

 
室内に、擬音化するならそのような空気が流れ、凍り付いたような気配が支配した。
 
 

 
その空気のまま1分後、時は動き出す。
愚かな質問をした愚かなる神の声によって。 
「……有希?」
それは感情を失くした、いや、少しだけ前のわたしのような声。 
「何?」
今のわたしならば違う声で答えることができる、彼のおかげで。 
「そいつって、SOS団団員の1人なの?」
「そう」
「……まさか、あだ名は『キョン』とかだったりする?」
「そう」
何も恥じる事もない、わたしは彼の名を出す事を誇りに思う。
「「「……………」」」
『『…………………』』
そして再び訪れる沈黙。わたしの言葉が衝撃となって波紋を広げていく。
沈黙を破るのはまたも涼宮ハルヒ。この女が話さねばわたしの意図する展開にも繋がらないから。
予想通り否定から入る涼宮ハルヒ。 
「だ、ダメよ!!」
その独占欲がわたしには不快感しか催さない、彼を渡すつもりは毛頭無いのだから。 
「何が?」
「何がって……あ、アレよ! 有希にはキョンなんかじゃ全っっ然釣り合わないわ! 例えるなら龍とミジンコよ! 勿論有希が龍よ!?」
非常に不愉快、あなたが言う事は彼を傷つけるだけでしかない。わたしの能力の高さはあくまでも現存する地球のレベルからすれば当然のこと。
わたしは自分の不快さをもう隠そうとは思わない、だから反論する。
「あなたがわたし達をどう例えようと勝手だが、少なくともわたしは彼をそんな風には思わない」
自分が否定されることを微塵も考慮していなかっただろう少女は言葉に詰まりながら反論する。
それがわたしの誘導とは気付く訳がない。 
「ぐっ……ででででも、有希にはもっといい人がいるわ!!」
「誰?」
聞くまでもない、彼女の交友範囲内での男性など限られている。
だが、ここで涼宮ハルヒに話させねばならない。おそらく彼女が上げる名前は一人しかいない。
「そ、そうね……ほ、ほら! 古泉君とか! イケメンだし気は利くし色んな方面に顔が広いじゃない!」
予測の域から出ない名前。別にわたしにとっては価値など無に等しいが、仮にも同じ名の元に集まっているのだ、彼女からすればこの名前しか出ないだろう。
結論を言えばその名前が出た時点でわたしのシナリオ通り。後は涼宮ハルヒという名のパーソナルデータがわたしの観測のままなら自然と話は進んでいくはずだ。
それを実践する、わたしの目的のために。 
「確かに古泉一樹は一般的な高校生男子においても高い水準で整った顔をしているが、それと比較しても彼の顔が相当悪いとは言えない。また、彼も私をよく気にかけてくれる」
これは真実。わたしが見る限り、彼は一般男子高校生の水準ならば上位だと判断している。もちろん、わたしは彼を贔屓している。 
「うっ……で、でもキョンはいっつもみくるちゃんとかのコスプレにだらしなく鼻の下伸ばしてるエロい男よ! 古泉君はそんなことない紳士よ!」
その言葉が自滅への道。古泉一樹を持ち上げ、彼を貶めればすなわち彼の心は離れていくのに。
涼宮ハルヒはこの会話を彼に聞かれている事を知らない、それにより自らの印象が左右されていることに気付かないままなのだ。
逆にわたしは彼を擁護していればいい。わたしは広い心で彼を迎い入れてあげられるから。 
朝比奈みくるを万人受けするマスコットキャラクターとして連れてきたのはあなた。それに彼が好意ある視線を向けたとしても、彼が思春期なるものを迎えた高校生男子ならばむしろ当然の行為と言える。ただ、朝比奈みくるにばかり目を向けていることが少々不満であるのは同意する。私は彼にもっと見てほしい。それに、一見では彼ほどではないが、古泉一樹朝比奈みくるの姿に精神の保養を図っている」
どう? わたしはどんなあなたをも受け止められる。 
『『………………』』
『………………古泉』
『………何ですか?』
『お前も……男だったんだな……』
『…………否定はしませんよ……』
古泉一樹はどうでもいい。精々、朝比奈みくるでも愛でておけば良い。
そして涼宮ハルヒは予定通りに発言を暴走させていった。
「と、とにかくダメよ!! あんなバカでアホでマヌケで変態で役立たずでダメダメな男、やめなさい!!」
そのような評価を下す相手を傍に置いている事に意味があるの?
自らの発言が自らの首を絞めている事に気付かない愚かなる彼女にかける情けは無い。
彼も同じ事を考えたようだ、
『……本気、ですか? いや、本気でわからないんでしょうね……』
古泉一樹の嘆息が聞こえた。勘違いしないで欲しい、彼はわたしの事だけ見ていてくれればいいの。
だからそれを確定させる、涼宮ハルヒはどんどんと墓穴を掘っていくのだ。 
「それはあなたの評価に過ぎない。私には私の彼に対する評価がある」
「そ、それでも!! 100人に聞いたら120人がキョンより古泉君がいいって言うわ!!」
見事に誘導に引っかかる事に哀れすら思える。しかし何故人数が増えるの? 
「20人増える意味が理解できない。でも、1つわかった」
「え?」
「あなたが言うところの大多数の人間、並びにあなたは、彼よりも古泉一樹に高い評価をおくということ」
そう言うと涼宮ハルヒは我が意を得たように大きく頷く。
「そ、そうよ!!」
それはあなたが迂闊ということ。わたしは次の言葉を告げる為にここまで話をしたのだ。 
「それはすなわち、」
 
 
 
 
 
 
 
 




 
「あなたは少なくとも、彼ではなく古泉一樹に好意を寄せているものと理解した」
気付かなかった? 自分の発言の愚かさに。
「………………え?」
その顔だと気付かなかったのだろう、やはり迂闊。
扉の向こうの彼も同じように思っただろう、あなたはもう彼には選ばれない。
最早これ以上の議論は無用、わたしが求めるのは彼の答のみ。
それもわたしには確信がある、わたしは選ばれるべき。いや、選ばれたい。

 
 


 
だからわたしは扉を開く。
『『!?』』
驚いた顔の二人がいた。聞いてるとは思われなかったと思った?  
「…………」
彼の顔を見れば気まずそうな表情、もしかしたらわたしが気付いてる事にも気付いていたかもしれない。
「………!!」
涼宮ハルヒは完全に硬直している。聞かれた事に今更気付いても手遅れ。
わたしは彼に質問する。 
「………聞いてた?」
彼は恐縮しながら謝罪してくれた。 
「う、す、すまん……どんな話をしてるか気になってな……」
気にする必要は皆無、わたしはあなたに聞いてもらいたかった。
だけど知らないふりをして、 
「いい。罰ゲーム1つで」
「な、何を!?」
そう言って彼の腕に腕を絡める、できるだけ密着できるように。
ここから肝心な質問、いや、わたしにとっては念を押す。
「これから、図書館に付いてきてもらう。それと、返事がほしい」
「へ?」
戸惑う彼にわたしの想いを、今度は直接ぶつける。
「わたしは直接ではないが、あなたに告白ともいえる行為をした。……あなたは、わたしは嫌……?」
答えは分かっている、はず。それでも拭えない不安は情報操作ではない、あなたの声が聞きたいから。
「………そんなことは、絶対にない。むしろ、お前は俺なんかでいいのか……?」
そしてわたしは選ばれた。わたしの望んだままに。 
「あなたがいい」
あなたでなければ嫌。そう、あなただからこそ。 
「………そうか。色々至らねえけど、よろしく…」
少し紅潮した彼の顔、何度予想を立てた時でも必ず彼はこういう表情だった。 
「………こちらこそ…」
わたしの顔もほんの一滴赤い絵の具を垂らしたように朱に染まる。これも何度やっても同じことだった…………
 



 
「ちょ、ちょっとキョン!!」
いい雰囲気だったのを怒声で壊される。なに?
もうあなたに用はない、それが理解できない?
「あ、あんたが有希に釣り合うわけないじゃない!」
それはあなたが決めることではない、何よりもうあなたは選ばれなかった。 
「別にいいだろ。俺は長門が嫌いじゃないし長門も俺がいいって言ってくれてるんだからさ。それと、話を立ち聞きしたのは謝る。古泉に言われてな」
彼がわたしを選んでくれた。その喜びと共に、彼が古泉一樹を利用してくれたのは好都合。 
「何ですって!?」
「う……」
涼宮ハルヒの怒りの矛先が古泉一樹に向けばそれでいい。
その上で彼はこう言ったのだから。
「ああまあ、古泉を責めないでやってくれ。コイツはお前が誰が好きかって話の時、気が気じゃなかったみたいだぜ。お前も古泉に高い好印象があるんだから、付き合えばいいんじゃないか。結構お似合いだと思うぞ」
流石は彼だ、それは心からの提案なのが分かる。そしてそれが目の前にいる人々にどのような影響を与えるのかは無関心のようだが。 
「「な゛………」」
やはり二人とも衝撃を受けたようだ、同時に硬直した。やはり息が合っている、あなた達は。
ああ、朝比奈みくるもいるから三人。彼女については同情するが、わたしの望むものにあなたの未来はない。
それよりももうここにわたし達がいる理由はない。 
「……………」
わたしは彼の腕を軽くつねって非難の意を眼で表わす。
「すまん長門、早く行こう。図書館が閉まっちまう」
彼の優しい言葉に首肯する。だがこれで終わらせるわけにはいかない。 
「そう。でも待って。少し屈んで」
「?」
言われた通りに膝を軽く折って目線を合わせてくれる彼。
「……………」
これは大切な儀式、わたしと彼の為の。 
彼の頭を軽くホールドする。そして……
彼が目を閉じる暇も与える事無く、目を閉じたわたしの唇で彼の唇を塞いだ。
「「「………………!!」」」
5秒ほど、誰も動けなかった。わたしはある目的を果たしながらも行っている行為に優越感で恍惚となっていた…………
 
 
 
「………ぷは……」
………彼の唇は予測よりも遥かに甘かった………これは新たなる発見、何度でも検証せねば。
「………浮気防止薬。早く行こう」
あの女に現実を見せつけるため。それともう一つの理由も。 
わたしは腕をまた絡め、彼を引っ張る。焦り気味な歩調になるのは、照れてるの? わたしが。
それを見る彼の優しい微笑み。わたしだけのあなた。
「わかったわかった。それじゃ早く行こうか、お姫様」
 
 
 
そしてわたし達は腕を絡めたまま、図書館まで向かうのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
「「「……………………」」」
 
「あ、あの〜……涼宮さん?」
 
「………………………………」
 
「………あ、携帯が…………」
 
「…………滅びろこんな世界」
 
 




…………………涼宮ハルヒの能力の発動を感知。予測通り世界を崩壊させようとしているようだ、だがそれも無意味。
先ほどの口づけでわたしと彼にはナノマシンを注入済み。
確かにわたし個体には涼宮ハルヒの能力を止めることは不可能、よってわたしはその情報爆発を利用することにした。
ナノマシンでバリアを張ったわたし達は涼宮ハルヒの情報爆発の力によって別の平面世界に移動するのだ。
そこではどのような事になるのかは、わたしにも予測不能。だが少なくとも何も変わっていない彼と共に過ごす事は出来る。作り替わった世界などには興味がない。
それに平面世界に移動すれば情報統合思念体の影響下からも解放されて一石二鳥。
わたし個体の能力は激減されるが、それでも彼と共に一般生活をするには十分な能力は保持できる。
全てはわたしの望みのままになった。わたしは彼を手に入れ、役割から解放され、愛する者と過ごすことが出来る。
接近する移動時に対して離れないようにしっかりと彼の腕にしがみつく。
「どうした、長門?」
優しい彼の言葉。
「離れたくない」
答えるわたしに微笑んだ彼は、
「よし、しっかりくっついとけ」
そう言ってより密着できるよう肩を動かしてくれた。わたしは抱きかかえるように彼の腕にすがりつく。
その様子に苦笑する彼。
もうすぐ二人だけの毎日が始まる………………
わたしは自分でも分かるほど微笑みを浮かべることが出来た。






「しあわせ……………………」
そう、呟いて。

ちょっとだけあとがき

どうでしょうか、オチも足してみたのですが。まあここまで徹底してこそ黒長門でしょう。
せっかくならどちらの長門がお気にめしたか聞きたいですね。