『SS』マヨルカ島殺人事件

さて、皆さんはマヨルカ島という地名を耳にした記憶はあるだろうか?
大概の日本人には聞きなれないかもしれないが、それは西地中海に浮かぶスペイン王国バレアレス諸島自治州の中心となる島で、州都パルマ・デ・マリョルカの所在する島のことである。
とあるサッカーの日本代表がパルマ・デ・マヨルカに本拠地を置くRCDマヨルカにレンタル移籍したことでサッカーに興味のある人は知っているかもしれないな。
ちなみにこの年の全仏オープンテニス男子シングルス優勝者、ラファエル・ナダルマヨルカ東部の町、ポルト・クリストの出身者である。
スペイン語を母国語とする者の間では、島名のMallorcaを「マジョルカ」「マヨルカ」「マリョルカ」のいずれの発音も見られるが、マドリード首都圏では「マジョルカ」と発音する者が多い。なお、英語ではMajorca(マジョーカ)、フランス語ではMajorque(マジョルク)である。
なかなか聞きかじった知識としてはいい方だな。
ところでマヨネーズは知ってるよな?
マヨネーズ(mayonnaise)は、食用油・酢・卵を主材料とした半固体状ドレッシングで本来はフランス料理のソースの一種だそうな。
一般的には、サラダ等に使用されることが多い。近年では調味料として様々な料理に広範に利用されている。時々「マヨ」と略されて呼ばれることもあり、英語でもmayo(「メイヨー」)と略される。
ついでに卵は卵黄のみ使用するものと全卵を使用するものがある。
日本では愛らしい人形がデザインされたやつがおなじみのやつだ、まさか知らないやつはいないだろう。
なんの関連性もなさそうな二つの話題なのだが、なんでもこのマヨルカって島の名前がマヨネーズの語源だとする説があるそうだ。





だが、それをまったく踏まえなくて今回の話は進むこととなる。まあ雑学が身についただけ良かっただろ?
話は十月の三十一日の出来事だ。この日付を聞いてピンときたら結構なことだが、まあ日本にどれほど定着しているか分からんから説明すれば、この日はハロウィンである。
ハロウィンとは、あるいはハロウィーン(Halloween) は、カトリック諸聖人の日万聖節)の前晩(10月31日)に行われる伝統行事で諸聖人の日の旧称"All Hallows"のeve(前夜祭)であることから、Halloweenと呼ばれるようになったそうな。
ケルト人の収穫感謝祭がカトリックに取り入れられたものとされていて、由来と歴史的経緯からアングロ・サクソン系諸国で主に行われる行事であって地域性が強く、教会と不可分の行事ではないため、キリスト教の広まる地域であれば必ず祝われるという訳ではない。
なんでもケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いていた。601年に法王1世が宣教師にケルト人へキリスト教改宗の策として、「ケルト人の信仰法である木の伐採は行わずに、木の真上にはキリストの神様がいてそのために木を信仰し続けなさい。と広めなさい」と言ったのがいまのハロウィンになったきっかけでもある。
……………キリストってなんでもありだな。まあいい、家族の墓地にお参りし、そこで蝋燭をつけるという地方もある。墓地全体が、大きなランタンのように明々と輝く。日本のお盆の迎え火、送り火にも似ているかもしれない。ただ、これに合わせて欧米では、放火事件などが頻発するらしい。
これに因み、31日の夜、カボチャをくりぬいた中に蝋燭を立てて「ジャック・オー・ランタン」(お化けカボチャ)を作り、魔女やお化けに仮装した子供達が「トリック・オア・トリート(Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)」と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねる。家庭では、カボチャの菓子を作り、子供たちは貰ったお菓子を持ち寄り、ハロウィン・パーティーを開いたりする。ここ、重要だぞ。
ハロウィンのテーマは不気味なものや怖ろしいもので、死、不死の怪物、黒魔術、伝承の怪物などが含まれる。ハロウィンに関連する登場人物には、幽霊、魔女、コウモリ、黒猫、ゴブリン、バンシー、ゾンビ、魔神、それにドラキュラやフランケンシュタインの怪物のような文学作品上の登場人物が一般的に含まれる。ハロウィン前後の時期には、これらのシンボルで家を飾る。
とまあ以上がハロウィンの概要だ。どこから得た知識か? ネットだ、そんなもん。
ここまで調べたのだって俺の意思じゃない、どこぞの偉い団長さんが、
「せっかくある面白そうなイベントを見逃す手はないわ!!」
とまあいやになるくらい張り切ったおかげで、俺はテストにはまったく出てくる気配のないいらん知識ばかりが増えていくって寸法さ。
ここまでの前説が長くなってしまったが、要は十月末日はハロウィンなんだよ。
なんでもキリスト教的に大したことないだとか何とかで、例え平日だろうがハロウィンはハロウィンらしいんだがな?
それを逆手に取るやつもいるんだ、例を出せば黄色いリボンが付いたカチューシャをつけてる女子高生とかな。
無宗教だが騒ぐ事だけはしたがる日本人の例に漏れず、ハルヒもこの手のイベント事には滅法弱い。
しかも残念な事に平日だった今年のハロウィンは何の呼び出しもせずにSOS団やその周辺の人間を集められる格好のきっかけだったようで、
「パーティーをやるわよ!!」
その一言であっという間に文芸部室は仮装パーティー会場と化した訳だ。しかも俺以外の連中はちゃっかり準備万端というおまけ付きでな。
「おや、あなただけ知らなかったとはまた意外な」
嘘つけ、どうせお前ら口止めされてただろうが。俺はフォーマルな燕尾服をきっちり着こなしたにやけ面のハンサムに悪態をつく。
いつもの笑顔から牙が覗いているところを見ると、お前は吸血鬼ってとこか?
「はい、衣装が手に入りやすかったので」
そうかい、いっそのことハリウッドばりの特殊メイクでもすりゃいいんだ。
「さすがにそこまでの時間はありませんでしたよ、この部屋の飾りなども用意しましたので」
ちょくちょく荷物を増やしてたのはこれか。傍らのジャック・オー・ランタンを見て俺はため息をつく。
「結構重かったので早めの登校で車を使わせてもらったりしたのですが」
責任持って片付けろよ、俺んちはこんなばかでかいカボチャはいらんからな。
肩をすくめる超能力者から視線を外せば、
「………………」
なあ、それは手抜きと言わないか?
「…………わたしは魔女」
そらそうだな。いつかの映画で使った衣装そのままの魔法使いの長門はランタンの蝋燭の明かりだけで本を読んでいる。
長門、さすがにそれは目に悪い、いらん心配される前にやめとけ。
「……………もしもの時は眼鏡を」
俺には眼鏡属性はないぞ。
「わかった」
素直に長門は本を閉じた。最近は長門の扱い方も上手くなったなあ、俺。
「それよりも涼宮さんのコントロールに長けてほしいのですが」
あれは俺の手に負えるもんじゃない、そういうと古泉のやつはまた肩をすくめた。何が言いたいんだ、お前は?
「いえ、何も」
なんとなく癪に障るがもう放っておく。それよりも俺は一言言いたい事があるのだ。
キョンくんはい、今日はイングランド風で紅茶ですけど」
ありがとうございます朝比奈さん。ですがその格好は…………
「えへ、ちょっと恥ずかしいですけどあまり肌が見えないからいいかなって」
それにしてもハルヒのセンスを今回ばかりは疑うぞ。
なにが悲しくて朝比奈さんがカボチャの着ぐるみを着なきゃならんのだ? あの抜群のプロポーションを真ん丸いカボチャで隠してしまい、頭にちょこんとヘタのついた帽子を被ったそのお姿は………………なんか可愛かった。
「ふにゃっ!!」
しかも歩きにくいせいか、さっきから転んでばっかだ。幸い着ぐるみのクッションのおかげか、大した怪我などしてはいないが。
だがなあ、朝比奈さんとはあの人類の英知の結晶のようなプロポーションがあってこそ完全なる天使であって、今のだるまのような朝比奈さんは………
「うにゃん!!」
………それもそれでありだな。転ぶ朝比奈さんには悪いが、どうしても癒されてしまう。
とにもかくにも、
「ほらキョン! コンピ研の部室に行くわよ!!」
と一人だけ露出の高いネコミミスーツのハルヒに引っ張られて渋々コンピ研に向かったりする俺だった。
ついでに俺の衣装と言えば何も持ってなかったのは当たり前なので、
「あんたはこれで十分でしょ?」
ハルヒは満面の笑顔で俺に近づき、有無を言わさず俺の顔面を包帯でぐるぐる巻きにしたのだった。
まあ安易だがミイラ男の完成ってことだ、少々息苦しいが。
「トリック・オア・トリート!!」
すでに悪戯されてるようなもんだけどな、などと思いながらもSOS団プレゼンツのハロウィンパーティーは賑々しく開催されて華々しく終わったのであった。
残ったのは包帯のせいで酸欠気味の俺である。嫌々ながらも無理やり持たされた半端にでかいカボチャお化けを持ったままくそ長い坂をヒイコラ言いながら運ぶしかなかったのだった………………






家に帰れば妹はもうカボチャに夢中である、これに気を取られて俺に平穏が訪れるならいいのだが。
などという俺の望みはそんなに甘いものだったか? ようやく開放されたと思ったハロウィンはしつこくも俺にまとわり付いてきたんだよ、しかも意外な奴の手によってな。
とにかく飯も食ったし風呂にも入った、幸いな事に妹はカボチャさんオンリーで久々に俺とシャミセンは安らかな時間を過ごしていた。
そんなまったりとした時間帯が急に崩壊したのは、突然鳴ったチャイムと、
「あー!! 久しぶりー!!」
という妹の大声だった。なんだ、客か? 時計を見ればこの時間に来るとは結構遅いと思うぞ?
しかも妹の声のトーンからすればかなり親しい間柄のようだ。親戚が来るとは聞いてなかったんだがなあ……………
まあもしもそうなら挨拶の一つもしなければいかんだろう。俺はシャミセンに移動していただき、おっとり刀で部屋から階下に降りてみた。
結果から言えば親戚ではなかった。というか何故ここにいるのか分からん。
「やあキョン、ハッピーハロウィン」
そこに立っていたのは確かに妹も知ってる奴だろう、何度かウチにも来た事はあったはずだ。だがなあ、
「何の用だ、佐々木?」
そうだ、中学時代の同級生が突然夜中に尋ねてくれば誰だって驚くと思うぞ?
とりあえずこいつは何しに来たんだろうか? 女の子がわざわざ来てくれたというのに嫌な予感しかしないという事も含めて。
「クックック、先ほど言ったとおりだよ。ハロウィンを祝おうかと思ってね」
お前がクリスチャンなんて初耳だがな。
「別にクリスチャンといっても東方教会正教会東方諸教会)の広まる地域(東欧・中東など)においてはハロウィンは一部大衆文化として受容されたものを除き、あまり普及してはいないんだよ? ロンドンにあるロシア正教会の司祭はハロウィンを「死のカルト」であると批判しているくらいだし。またロシアにおいては一般への普及が進んできた為、ロシア教育省が宗教行事の一環であることを理由に、公立学校に対してハロウィンの関連行事を行わないよう通達を出しているほどなんだよ」
そうかい、だがそれとお前が俺の家に来ることとの関連もないと思うのだが?
「もちろんだとも。僕がここでいうハロウィンとは青少年・児童向けの英語教材やアメリカの映画・テレビドラマなどを通じて、アメリカの子供たちの行う行事として知られているものだよ。日本で一般的に行われた例は、昭和時代以前(または1980年代以前)には稀だったようだけどね。クリスマスが大正時代に日本でも一般化したこととは対照的だけど、それは日本において秋に神社による秋祭りが盛んであること、子供がらみの行事では11月に七五三があるなど、日本の伝統行事との競合が一因だったかもしれないね。だが最も可能性があるのはハロウィン特有の怪奇趣味の装飾が日本人の好みに合わなかったと考えるのが妥当のようだけどね」
ふーん、そうなのか。で? お前はアメリカかぶれでウチに来たってことでいいのか?
「ああ、最近ではようやくこの行事も一般的な市民権を得たようだし、そういうきっかけでもなければなかなか君に会う勇気もないものだからね」
そうは見えないが、まあ懐かしい友人に会える機会というのはないものだ。
「そう思ってもらえると嬉しいよ。さて、では定番のやつといこうか」
はあ? なんだ定番って。と言えば佐々木は嬉しそうに口を開いた。
「もちろん、トリック・オア・トリートってやつさ」
そりゃそうだろうけどな。ただしそれは子供に限ってってやつだ、俺たちの年齢で嬉々としてやってるやつなんて…………………………まあいなくもない。
キョン、どうするんだい? トリック? それともトリート?」
そう言われても菓子なんぞ持ってりゃせんぞ。妹ならもしかしたら隠し持ってるかもしれんが。
「そうか、それならば僕は悪戯でもすることにするよ」
そう言うと佐々木は靴を脱いで家に上がりこんできたのだ、おい! お前何考えてやがる?!
「何ってお菓子をくれないキョンが悪いんじゃないのかい?」
分かっててやってるだろ、いつものように喉の奥で含み笑いをしながら佐々木はさっさと階段を昇っていってしまった。
何なんだよ、まったく。とは言え佐々木のようなタイプの人間がここまで行動的というのも珍しい。
仕方ない、ハロウィンらしいから付き合ってやろう。ここまできたら物のついでだ。
やれやれと肩をすくめて俺も自分の部屋へと戻る事にした………………






さて、部屋には当たり前のように佐々木が座っている訳なのだが、
「そういやお前、なにも仮装してないじゃねえか」
これじゃただ遊びに来ただけだろ。すると佐々木は、
「ふむ、君から見ればそうかもしれないな。でもちゃんと仮装はしているんだよ? ただし、君に対してしか見せる気がしなかっただけの話さ」
クックックと楽しげに笑う佐々木のどこに仮装などしているのか全然検討がつかない。しかし佐々木が嘘を言うとも思えないので、
「それじゃ、ここでその仮装とやらは見せてもらえるんだろうな?」
と聞いてみた。すると佐々木は急に笑いを止め、
「そんなに見たい?」
まるでさっきまでの表情が嘘のように上目遣いで聞いてくる。頭のどこかで警鐘がなったような気がしたが、その時の俺は、
「お、おう…………」
と答えるしかなかったんだよ。何故か口の中が乾き、ゴクリと生唾を飲みながら。
「それでは少々待っててくれないかな?」
そう言うと佐々木は優しくシャミセンを抱き上げると部屋の外へと追い出してしまった。こういう時にウチの猫は抵抗一つしやがらねえ。
しかもそのまま俺の部屋に鍵をかけてしまう、おい、これは大袈裟じゃあるまいか?
「言っただろう? 僕は君以外に見せるつもりはないんだって」
だからと言ってこれはちょっと…………さすがに密室に若い男女が二人っきりってのは、
「いいんだよ、僕がそう言ったんだから」
それはいつもの佐々木からは想像できないほどの、なんというか艶を含んだ声だった。
そのまま俺の目の前まで歩いてきた佐々木はおもむろに上着を脱ぎだした、っておい?!
驚きのあまり声も出ない俺の前でどんどんと脱ぎだす佐々木。上着を脱いだらスカートに手を……………まずい、まずいって!!
しかしあっさりとスカートまで脱いだ佐々木は、
「どうだい? 趣向としてはなかなか過激かもしれないけれど」
そこにいたのは下着姿の、ではなく白い布に包まれた佐々木の姿であった。
「な、なんちゅう格好してんだお前は………………?」
見れば白い布とは包帯である、つまりは佐々木は包帯を全身に巻いていたってことで。
いや、じっくりと見た訳じゃないぞ? というか直視など出来るもんじゃない。
なんといっても包帯をピッチリと巻いているだけなのだ、その、なんというか胸元を持ち上げる二つのふくらみとか、くびれている腰のラインとか、その下の線までしっかり見えてしまっていることとかだな?
いかん、刺激が強すぎるなんてもんじゃない! どうする、とてもじゃないが佐々木の方を向く事などできん。
かと言ってそのままの格好でいられたらそれこそ俺の理性が焼き切れそうだ。俺は出来る限り佐々木の方向を見ないようにしながら、
「あー、あれか佐々木? それはミイラ女と言いたい訳か?」
それなら俺が放課後やった事と変わりはないだろうが。ただ顔だけか全身かというだけだが、それが大きく違うんだっていうの!!
だがそんなことは佐々木は知らない事だし、なによりも知っていたところで変えるとも思えないが。
「クックック、キョン、君は人と話をするときは相手の方を見るように習わなかったのかい?」
それは時と場合と言うやつによるだろう、閉鎖された空間でほぼ全裸の美少女と顔を突き合わせて会話できるほど俺は肝が据わってないぞ!!
むしろこんな状況なのに会話を成立させようとする俺をむしろ褒めていただきたいものだ。俺は全精力を行使して出来る限り平静に話した、はずだ。
「あ、あー、佐々木さん? もしそうならよく似合ってるぞ、うん。だからもう服を着てくれていいからな?」
とてもじゃないが直視など出来はしない。確かに俺以外には見せられない格好だ、というか俺も見れる格好じゃないぞ。
しかしそんな俺の思春期真っ盛りな葛藤など意にも介さない態度で佐々木はいつの間にか膝をついて俺ににじり寄ってくる。
「なにを言ってるんだ、キョン。それでは何のためにわざわざ仮装してきたのか分からないじゃないか」
そうかもしれんが、何故両手をついて四つん這いで迫ってくるんだよ? その、なんというか協調されてるんだよ、胸元が!!
いやー、中学時代にも佐々木の水着姿とか見てたはずなんだけどなー。あれだ、人ってしばらく会わないと変ってるもんなんだねー。
そういっても差し支えないほど佐々木のボディラインは曲線が美しいというかいやらしいというか、まあ裸と変わらないほどまでに強調されているからなんだろうけど。
そんな佐々木の顔が俺の視線を覆わんばかりに近づいてくれば、蛇に睨まれた蛙の方が逃げ道があるんじゃないかと思えるほどに動けないんだな。
「あー、そうか。それなら十二分に堪能させていただいたよ、うん。だから服をだな………」
というセリフは最後まで言うことは出来なかった。何故ならば佐々木が俺の耳元に唇を寄せて、
「それにまだ僕は君に悪戯をしていないんだけど?」
なんて囁きやがったもんだからさー。その声の色っぽさと吹きつけられた息の生暖かさが俺のどこかにあったはずの理性の糸を断ち切ったに違いない。
「佐々木ィー!!!」
気がついたら俺は佐々木を押し倒していた訳で。
「ちょっとここではムードにかけるんだが、まあ君の理性を崩せただけでも成功と言うしかないかな?」
成功じゃない、今からやるのは性交なのだ。
「誰が上手いことを言えと、」
最後まで言わせるか!! 俺は上手いことを言うのではなく上手いと言わせたいのだ!
「期待してるよ?」
任せろ!! 俺は包帯姿の佐々木をお姫様だっこで抱えあげ、ベッドに向かい一直線にダイブする。
「ところでこれは必要かい?」
どこからか取り出したのはマヨネーズ。何故? とは聞かない。あるものは使うに限るのだ、例えば、
「こういう風にだね?」
指先に軽く乗せたマヨネーズを佐々木が差し出す。俺はそれを舌で舐め取る、指先から根本まで一本ずつ丁寧に。
「ククク、僕はそこまでつけていた記憶はないんだけど?」
そう言いながらも手を引く様子はまったくない。俺は指を根本まで咥え、口の中で舌を転がすようにする。
「………ふう、なんとも不思議な感じだよ………指先とは敏感なものだけど……………この………………」
あの佐々木の顔が上気して紅潮している。心なしか息も荒くなってきたようだ、俺の舌も熱を帯びてくる。
キョン……………」
潤んだ瞳の佐々木に上目づかいに見つめられ、俺の背筋にゾワゾワと何かが昇ってくる。
なんだ、俺ってこんなに嗜虐的な気持ちがあったのか? そう思わされるほど弱々しいのだ、今の佐々木は。
「あの……………指だけじゃなくて……………その………………………もう…………………」
佐々木、そういう時はどうすればいいか分かるだろ? 俺は黙ってマヨネーズを……………
「ああ、分かっているさ………………」
佐々木はおもむろにマヨネーズを胸元に……………






そこからはまあご想像にお任せしよう。色々と都合があるんだ、こっちにも。
とはいえ一気に飛ばすのも何なので、ダイジェストでお送りしてやろう。ギリギリセーフのはずだと思う。
「佐々木、もう包帯が透けてお前のピンクの、」
「いや…………言わないで…………」
「ふっ…………キョン…………そんな…………包帯をずらすだけなんて……………」
「十分だろ? それにこの方がお前だって興奮するんじゃないか?」
「ああっ! そんなぁ〜、そこにマヨネーズ塗っちゃダメェ………」
「充血して立ってきてるぞ……………」
「そんな……………舌先で転がされたら…………」
「どうなんだよ?」
「……………もっと…………」
まあこういう流れから、
「そろそろか?」
「そうだね、僕ももう…………」
「なんだ、ちゃんと穿いてるのか?」
「……………さすがにそこまでは出来なかったよ……………」
「だが紐パンというセレクトはナイスだ!」
「これでも悩んだんだけどね………」
「いや、これはこれでいいもんだな」
「ねえ……………紐を外してくれないかな……………?」
「当たり前だろ、俺がやらなくてどうする」
「自分で外しても、」
「それはロマンじゃないな」
ということで佐々木のパンツを繋ぎ止めていた紐は俺の手によって外され、ただの布きれとかしたそれはハラリと落ちたのであった。
もちろん俺の手にはマヨネーズがあったことも明記しておこう。
「そこにも……………塗っちゃうのかい?」
「当然だ、隅々まで味わい尽くさないとな」
「クックック、僕だって!!」
「うわっ!!」
「今度は僕が君からお菓子をもらおうか」
なに? 俺はお菓子なんか……………
「あるじゃないか、ここに」
そういう佐々木の手は俺のズボンにかかっていた訳で。そこからの流れはもう分かると思うだろうが、
「ククク、ほら、チュッパチャップスがあるだろ?」
商品名を出していいのか分らんが、まあ露骨な表現よりはいいだろう。
キョンのチュッパチャップス……………大きい…………」
いや、どういう表現でも駄目そうだ。
「入るかな……………口の中に…………」
そこは佐々木の努力に期待しよう。
まあ大変美味しそうに舐めていらっしゃいました、それは俺の快感が保障しよう。
「中身はちょっと苦いかな」
それは流石に……………甘いと俺の体調が心配だ。
「そうだね、しかもまだまだ元気だよ?」
嬉しそうに佐々木は言うと仰向けに横たわる。
「さあ、僕はまだ悪戯したりないよ?」
悪戯するというよりされる格好だけどな。しかし俺もまだまだ悪戯されたいので黙って佐々木に覆いかぶさった……………






その後はギシギシというベッドのきしむ音と、
キョンの……………やっぱり大きい………………」
とか、
「マヨネーズを潤滑油にするなんて…………」
とか、
「ああ、そっちまで……………滑りをよくしたのはその為だったのかい…………?」
とか、
「あっ! あっ! いや…………おしりで………………」
というような主に佐々木の声がしていただけである。
俺は声を出す余裕もなく動いていたぜ? まあ息遣いが荒かったのは仕方ないだろう。
最終的にはまあ佐々木が、
「な、中でいいから……………」
などと言うものだから、俺と佐々木がが同時に、
「アアッ!!!」
と声が揃ったのだけは確かだったよ。






さて、何だかハロウィンも終わりのようだ。
何と言っても首謀者の佐々木が俺の傍らで力なく横たわっているのだから。
まるで死体のように。
「……………これはまさに殺人だよ…………」
妙な事を呟くなよ、どこで人が死んだんだ?
「君に…………嬲り殺されたんだよ……………」
汗とマヨネーズと唾液とそれ以外ので光る佐々木の体。もちろんもう一糸も纏ってない。
その姿が恐ろしいまでに煽情的なものだったから。
俺は自分でも分かるほどにやけた面で、
「それだけ話せるという事はまだ死んでないよな?」
「えっ?」
「よし、佐々木を殺してやろう」
「……………クックック、望むところだね……………………………………………………きて…………」
俺は再び佐々木の上に。
いつまでもハロウィンパーティーは続くのであった…………………






翌日も学校は通常営業なんだなー、俺は重すぎる脚を引きずるように坂道を登る。
佐々木の奴はえらくツヤツヤした顔で、
「今日は流石に学校は遠慮するよ。なにも気にすることはないさ、すぐに追いつけるレベルだからね」
そう言うとついさっきまでとは別人のように颯爽と帰っていったのだった。
まあ女というものは元気なもんだな、特に俺の周りの奴らは。
しかし俺は学校を休んでしまえば見舞いと称してSOS団の連中に乗り込まれ、今回だけは確実に痛い腹をこねくり回されるに決まっているのだ。
そんな精神的、恐らく肉体的にもだが、危機を迎えるくらいならダラダラと学校で愚痴を聞きながら過ごした方がマシだってことさ。
とにかく学校まで死にそうな勢いで辿り着き、どうにか教室までやってきた俺は倒れこむように自分の席に座った。そのまま何も考えず机に伏せる。
すると俺よりも早くからいた後ろの席の住人に、
「なによ? 来た早々から景気悪い顔しちゃって。元がボーっとしてるんだから朝くらいシャンとしなさいよ!」
随分な言われようだな、だが反論する気にもなれん。
ギャーギャーと姦しいハルヒを無視して俺はどうにか顔を上げた。
窓の外の景色がぼんやりと見える。
ああ、太陽が黄色く見えるって本当なんだなあ……………
そうだ、まるで昨日見たような色だぜ。







あの、マヨネーズのような……………………と言うかあの佐々木を思い出し、つい前かがみになる俺なのだった。