『SS』意外とありそうで怖い世界崩壊フラグ:ピュア長門ver

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【意外とありそうで怖い世界崩壊フラグ】
 
放課後を告げるチャイムが鳴る瞬間にわたしは移動を開始する。もちろんクラスで気づいた者はいない。高速移動で文芸部室に到着、その間目撃された可能性はゼロ。
これは涼宮ハルヒの望む文芸部員として必要なキャラクター設定。ただし、最近はわたし自身が教室内よりもこの部屋に存在する事に安定感を感じているのは確か。 
通常通りにわたしは本棚から読みかけの本を取り出し、栞を挟んだページから読書を再開する。わたしにとってかけがえのない時間であることは否定できない。
そしてわたしが読書を開始して一分三十二秒後、
「あ、長門さん、こんにちわ」
朝比奈みくるが入室。彼女は到着と同時に鞄を置き、クローゼットから衣装を取り出す。
「すいません、急いで着替えちゃいますね」
これも最早定番となっている行動。わたしは読書を続行する。
朝比奈みくるが衣装を着替える為に要した時間は四分十秒。その二十秒後、
「おっまたせー! あ、みくるちゃんもう着替えちゃったんだ?」
涼宮ハルヒが入室する。部室のドアの損傷から推測すれば涼宮ハルヒがその腕力等に低下がない限りおよそ一年かからずにドアの蝶番は破壊されるだろう。
わたしとしては大事な空間であるこの部屋の損傷は出来る限り避けたい。その為にも涼宮ハルヒの行為には自重を促したいのだが彼女に通じる可能性は限りなく低いだろう。 
何かに固執するという不可思議なデータに自分でも答えが出せないわたしだが、今の時点では関係のないものである。その涼宮ハルヒは周囲を見渡し、
「あれ? 古泉くんはまだなのね。キョンは掃除当番だし、みくるちゃんは古泉くんから何か聞いてる?」
「いえ、わたしは何も…………」
「有希は?」
古泉一樹は現在こちらに向かっていることは分かっているが、それを伝える必要はないと判断。
「知らない」
そう答えた。彼女は質問しながらも関心がなかったように、
「ふーん、まあいいわ。そっか、つまりは今ここにはあたし達だけなのよね」
当然のことを呟いた。わたしにはどちらでもいい話なので読書を継続することにする。
古泉一樹の接近を感知、間も無く入室することだろう。だが別に彼でもないので無視することにする。
すると涼宮ハルヒが唐突に話を切り出した。
「ねえねえ、古泉君とバカキョンがいないから、女同士の話をしましょ!」
些か急な提案だがどうやら以前から話題にしたいと望んでいたのだろう、一般的女性としてはありえる反応。監視対象も例外ではない。
朝比奈みくるも、
「そうですねぇ、たまにはいいかもしれませんね」
と肯定の意思を示したので、わたしも首肯した。わたし自身も興味がないという事は無い。
この時点で古泉一樹が部室の前に立っていたのだが、どうやら入室の気配は無い。わたし達に遠慮しているのだろう、涼宮ハルヒの機嫌を損ねない為に必要な措置と判断した。
しかしここで彼も到着するとは想定外、わたし達の会話が聞かれているということになる。
わたしの身体が硬直しそうになる、これは…………………緊張といえるものなのかもしれない。
だが涼宮ハルヒ朝比奈みくるは気付いた様子はない。わたしも気取られないように態度を取る。
涼宮ハルヒは笑顔を浮かべ、わたし達に問いかけた。
「ズバリ、みくるちゃんと有希!あんた達好きな人とかいる!?」
その瞬間、部室の空気が凍りついた。ただし現実に気温が下がった訳ではない、あくまで比喩としての表現。
この質問は危険である。
まず涼宮ハルヒの意図が不明。彼女が我々にどのような回答を求めているのか推測できない。
とりあえずは読書をしながらシュミレーションを開始する、間違いなくこのような時にわたしの順番がくるまでは時間がある。 
「ふぇ!?好きな人…ですかぁ〜?」
素早く対応する存在がいるから。朝比奈みくるの反応は予想通り。
しかし涼宮ハルヒの言動はわたしの予測とは違っていた。
「そうよ〜みくるちゃん! 有希もほら、本ばっかり読んでないでお話しましょうよ!」
ここまで積極的に誘われるとは想定外。対象は今回の設問にかなりの関心を持っていると推測される。
これ以上の読書は対象の機嫌を損ねる可能性があり。わたしは読書の中断を余儀なくされた。
「……………」
バタン、と大きな音がする。その間もシュミレーションは継続、だが未だ明確な回答はなし。
わたしは涼宮ハルヒから出来る限り情報を引き出すことにした。
「……あなたの言う『好きな人』というのは、自分が好意を抱いている対象ということ?」
朝比奈みくるも追従してきた、どうやら彼女も設問の曖昧さを指摘したかったようだ。
「そそ、それって鶴屋さんとかみたいなお友達とかも入れてですか〜!?」
それを言うならばわたしとしてはSOS団のメンバーに抱くべき感情と呼ばれるものはそれに当たる。
だが涼宮ハルヒの望むものは違っていた。
「ふっふ〜ん! 甘いわよみくるちゃん! 愛は愛でも友愛じゃなくて恋愛の愛よ! 男共はいないんだし、カミングアウトしちゃいなさい! ほら!」
朝比奈みくるがそれを聞き動転する。
「ふえ〜〜〜!?」
わたしも…………恐らく動揺している。感情というものを理解出来たとは言えないが、彼女の言葉には多くの意味が含まれている事が分かる。
どうするべきか? 彼女は外に彼がいることを知らない、それを知っているわたしは何故ここまで動揺するの?
「………………」
気付かれてはならない、涼宮ハルヒにも、彼にも。
「ほらほら!白状しなさいみくるちゃん!」
涼宮ハルヒ朝比奈みくるに迫っている。だが耳たぶを甘がみする行為に意味があるのだろうか? 
「だっ、ダメですぅ〜! 言えませ〜ん! 『禁則事項』ですぅ〜!」
その言い方は危険、涼宮ハルヒにあなたの存在理由を考慮させるきっかけになりかねない。 
それよりもどこか含みがあるように聞こえたのはわたしだけだろうか?
もしかしたら……………………意味不明な推測。何故彼の顔が脳内で再生されてしまうのだろうか?
わたしは自分の脳内での映像の意味が分からないままに戯れる涼宮ハルヒ朝比奈みくるを見ている。
彼女たちも彼を? エラー。推測理由が分からない。
「もう! 面白くないわね〜」
質問の答えよりも朝比奈みくるの感触を楽しんだからか、涼宮ハルヒ朝比奈みくるに興味を失ったようだ。
「ふえぇ〜……」
開放された朝比奈みくるが力なく座り込む、その姿は彼などから見れば庇護欲をそそられるに違いないだろう。
わたしも同情といえるものがあるが、残念ながら彼女に関わる時間は無さそうだ。
何故ならば涼宮ハルヒの興味はすでにこちらに向いているから。
笑顔でわたしの傍に来た涼宮ハルヒは当然のようにわたしに質問する。 
「じゃあ有希は? 誰か好きな人いないの? クラスとかにカッコいい男子とかいるんじゃない? まあ有希はとっても優秀だから、あたしの眼鏡にかなう男じゃなきゃダメだけどね!」
それはわたしの恋愛というものには涼宮ハルヒの許可が必要ということである、という事だろうか? 参考とする情報が不足している為にその言葉の信憑性が理解できない。
「……………」
シュミレーションは継続しているが答えは出ない。わたしの経験では不足が多すぎる、しかも確定させるにはまずわたしの感情というものを理解しなくてはいけない。 
それはとても困難な事に思う、この考えが浮かぶことですら理解できないわたしには。
わたしの葛藤は理解できないだろう涼宮ハルヒが答えを性急に求めてくる。
「ほら有希! 言っちゃいなさいよ!」
わたしには答えが出せない。シュミレーションは失敗を繰り返している、それ以上に先ほどより浮かぶのは彼の姿。
理解不能なエラーがわたしの思考を占めていく。
このままでは状況が悪化する可能性を危惧したわたしは質問を返して時間を作ろうとした。
「まずはあなたのことを聞きたい」
すると、
「えっ!?」
涼宮ハルヒが過剰な反応をする。どうやら質問が返される事は予期していなかったようだ。 
「えっあっあたしは…!」
心拍数が上昇している。この話題は彼女にとっても禁忌だったのだろうか?
それなら何故あなたは聞くの? わたしに出せない答えを。
「こういう話題は、まず話題を切り出した者が初めに言うものだと考えている」
あなたは答えられるの? 人間の恋愛というものを知らないわたしに。 
「そ、そうですよ〜涼宮さんもいるんじゃないんですか〜? キョン君とか〜?」
そこでどうして彼の名前が出るの? いや、それは当然の事。
彼は『鍵』なのだから。涼宮ハルヒの為の選ばれた『鍵』
その瞬間、わたしの中から溢れ出したのは大量のエラー。
いや、違う。
これは沢山の思い出。わたしと彼の紡いできた大切な歴史。
「はあ!? な、何言ってんのよみくるちゃん! 誰があんな奴を!!」
それは嘘なのではないのだろうか? 彼女もわたしのように彼との思い出を共有しているはず。
恐らくわたしよりも………………
理解不能の痛みが胸部に感知された。この痛みはなに?
わたしは………………
「ほらほら〜涼宮さ〜ん♪」
朝比奈みくるが珍しく強気なのだが、わたしにはどうでもいいことだ。それよりもこのエラーの正体が知りたい。
涼宮ハルヒはうろたえながら誤魔化すように、
「う、うるさいうるさい! 今はあたしのことはいいの! 有希、まずあんたよ!」
そう、わたしも知りたい。わたし自身が出す答えを。
「……………」
もう少しでその答えが見つかるかもしれない。
見つけたい、わたしの想いを。
……………想い?
想いとは? その思考に辿り着いた理由は?
「ほら! そこで都合よくだんまりなんて許さないわよ! 白状しちゃいなさい!」
わたしは何を言おうとしているの?
自分ではコントロール出来なくなっている何かがわたしを支配する。
情報統合思念体ですら止められないほどの何かが。
そう、わたしは何かに操られたまま、自分の意思で話すのだ。
「………絶対?」
この話はきっと彼も聞いている、それがわたしの何かの背中を押す。 
「そうよ! 好きな人がいるならいる! いないならいない! ハッキリ言いなさい!」
好きな人。恋愛感情。
分からない。分かっていないのかもしれない。
だがわたしは、今の自分の行動に素直になりたい。 
「…………いる」
はっきりと、そう言った。 
「「え!?」」
驚く二人の女性。そうかもしれない、わたしも素直に出た言葉に驚いている。
しかもその言葉が止まらない、止められない………
「私が関わった人物において、あなたが知りたいような感情を抱いている対象がいる。その者は確かに私にとって、どんなものにも、何にも代え難い特別な存在」
聞いてる? ドアの向こうにいるあなたに伝えたい。
「ゆ、有希! 誰よそれ!? 教えなさい気になるから! いや待って、例えばそいつと世界を天秤にかけるとしたらどっちをとるの!?」
その質問はおかしい。でも今のわたしに答えられない質問ではない。
「…………私はその者の意志を最大限尊重する。しかし、もし許されるのならば世界を犠牲にしてでもその者といたい」
そう、だからこそわたしは世界を作り変えた事もあったのだ。その時はただのエラーの蓄積だったものが今は違うと分かる。
それを気付かせてくれたのは彼。あの世界から戻ってきてわたしを救ってくれた彼に教えてもらったこと。
「そ、そうなの……有希って大人しく見えて意外と熱いとこあるんだ……で、誰なのよそいつは!?」
言おう、彼の名を。それがわたしの望む全てだから。
わたしは静かに、はっきりとその名を告げた。 
「『     』」
ドアの向こうで息を呑む気配がする。ちゃんと聞こえただろうか?
「ふぇぇ!!?」
朝比奈みくるの動揺。彼女の未来とわたしの望みは違うのだろう、しかしわたしはもう決めたのだから。 
「え、みくるちゃん!? 知ってるのそいつ!? ……いったいどこの誰かしら……」
涼宮ハルヒは分からなかったのだろうか? 信じられない、彼の名前なのに。 
いつもあなたの目の前の席にいる人のことを。
「ねえ有希、そいつクラスが一緒なの? 部活とかは? 図書館での読書仲間?」
確かに彼と図書館には行くが読書仲間とは言えない。わたしはそれ以上を望んでいる………
わたしは真実のみを告げる。 
「同学年だがクラスは5組」
「え? そんな名前の奴いたかしら…」
「正式な部活には所属していないが、非公式の同好会にいる」
「へぇ、何て同好会?」
その名前を出せば分かるだろう。涼宮ハルヒに聞こえるようにしっかりと言い切った。 
SOS団
 
バキィッ
 
 
 

この場の空気を擬音化するならば、一番近い感じ音がこれ。先ほどよりも遥かに分かりやすく空気が凍りついた。
比喩ではない、気温が低下したのは涼宮ハルヒの能力が無意識に働いたのかもしれない。 
 
 
それから正確に1分後、時が動き出した。
「……有希?」
声に抑揚がない、硬いと表現できる、声。 
しかしわたしはあくまでも自分に対し正直に答える。
「何?」
「そいつって、SOS団団員の1人なの?」
「そう」
「……まさか、あだ名は『キョン』とかだったりする?」
「そう」
それ以外にありえない。わたしは彼の名を告げたのだから。
「「「……………」」」
形容できない沈黙がわたし達を包んでいった。 
『『…………………』』
外でも同じような沈黙。わたしの言葉に彼はどう思っているのだろう?
それをわたしは知りたい。
やがて涼宮ハルヒが沈黙を破る。わたし達の距離からすれば必要以上に大きな声で。
「だ、ダメよ!!」
理解できない。 
「何が?」
わたしは否定されるような事象を話してはいない。 
「何がって……あ、アレよ! 有希にはキョンなんかじゃ全っっ然釣り合わないわ! 例えるなら龍とミジンコよ! 勿論有希が龍よ!?」
涼宮ハルヒの言い方ではわたしは能力が高いと評価しているようだ。だが彼を否定される事に対して不快感を覚える。
だからわたしは彼を守る、たとえ相手が誰であろうと。 
「あなたが私達をどう例えようと勝手だが、少なくとも私は彼をそんな風には思わない」
彼がわたしに与えてくれた物の大きさは言葉では表すことが出来ない。わたしの世界は彼によって色を与えられたようなもの。 
しかし語彙に不備があったことは否めない、涼宮ハルヒも反論してきた。
「ぐっ……ででででも、有希にはもっといい人がいるわ!!」
いい人? それは恋愛対象という意味であろうか? わたしには分からないし必要がないもの。 
それでも涼宮ハルヒの趣向を調査するためには必要かもしれない、わたしは対象調査の意味で聞いてみた。
「誰?」
対する涼宮ハルヒの回答は彼女という存在からすれば平凡と呼べるものだった。
「そ、そうね……ほ、ほら! 古泉君とか! イケメンだし気は利くし色んな方面に顔が広いじゃない!」
だとしても興味がない。古泉一樹はあくまで役目としてここに存在している、それを知るわたしが古泉一樹に対して思考する意味がない。
それよりもわたしが望むのは彼。わたしは自分の主観を述べる。 
「確かに古泉一樹は一般的な高校生男子においても高い水準で整った顔をしているが、それと比較しても彼の顔が相当悪いとは言えない。また、彼もわたしをよく気にかけてくれる」
それが愛情と呼ぶものなのか、未だにわたしも分かってはいないのだが。 
「うっ……で、でもキョンはいっつもみくるちゃんとかのコスプレにだらしなく鼻の下伸ばしてるエロい男よ! 古泉君はそんなことない紳士よ!」
またも彼を貶める発言をする涼宮ハルヒに、わたしは嫌悪すら覚えた。彼には悪意はないのに、それが理解できないのだろうか? 彼女が思うSOS団というものはその程度なのだろうか。
わたしは彼の名誉を守るべく反論する。
朝比奈みくるを万人受けするマスコットキャラクターとして連れてきたのはあなた。それに彼が好意ある視線を向けたとしても、彼が思春期なるものを迎えた高校生男子ならばむしろ当然の行為と言える。ただ、朝比奈みくるにばかり目を向けていることが少々不満であるのは同意する。わたしは彼にもっと見てほしい。それに、一見では彼ほどではないが、古泉一樹朝比奈みくるの姿に精神の保養を図っている」
この際、彼を守るためには古泉一樹には犠牲になってもらおう。わたしとしては彼にもっと見てもらいたいという願望が伝えられれば良い。
「と、とにかくダメよ!! あんなバカでアホでマヌケで変態で役立たずでダメダメな男、やめなさい!!」
そんな評価を下す相手を傍に置いている意味が理解出来ない。
「それはあなたの評価に過ぎない。私には私の彼に対する評価がある」
わたしにとって彼と過ごす時間は貴重なもの、彼には賞賛と感謝の言葉以外にはない。それを分かってもらいたい。 
「そ、それでも!! 100人に聞いたら120人がキョンより古泉君がいいって言うわ!!」
涼宮ハルヒの論理が理解不能。わたしに向けた質問はわたしだけが答えを出せるものであり、それ以外の人間の回答はあくまで参考にしかならないはず。ただ一点、
「20人増える意味が理解できない。でも、1つわかった」
あなたが言いたい事が。 
「え?」
「あなたが言うところの大多数の人間、並びにあなたは、彼よりも古泉一樹に高い評価をおくということ」
それがわたしの出した結論。 
「そ、そうよ!!」
我が意を得たように頷く彼女に、わたしは告げる。 
「それはすなわち、」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あなたは少なくとも、彼ではなく古泉一樹に好意を寄せているものと理解した」
それ以外に説明出来ない。わたしは彼を彼女にとっての『鍵』と認識していたのだが、そうではなかったようだ。
「………………え?」
放心する涼宮ハルヒ。図星を指された事に対して動揺があるのだろう。 
全ての事象に説明がついたからにはもう遠慮はいらないだろう。あとは彼の返答をもらうのみ。
 
 
 

わたしは彼が向こう側にいるであろう扉を開く。
「「!?」」
「…………」
驚愕する古泉一樹と彼。 
わたしが気付いている事を知らなかった?
「………!!」
涼宮ハルヒは完全に硬直しているが、それよりもわたしには聞かなければならない事がある。 
「………聞いてた?」
わたしの言葉を。彼は気まずげに頭を下げた。 
「う、す、すまん……どんな話をしてるか気になってな……」
恐縮する彼を見て胸の奥が暖かくなっていく……………可愛い、という感情がこれ? わたしはそんな彼に言った。
「いい。罰ゲーム1つで」
「な、何を!?」
驚く彼の腕に自分の腕を絡める。わたしがここまで能動的だとは自分でも予測できなかった。
「これから、図書館に付いてきてもらう。それと、返事がほしい」
これは大事なことだから。 
「へ?」
「わたしは直接ではないが、あなたに告白ともいえる行為をした。……あなたは、わたしが嫌……?」
そうあって欲しくはない。わたしにはあなたしかいないのだから。
そして彼が出した答え。 
「………そんなことは、絶対にない。むしろ、お前は俺なんかでいいのか……?」
その瞬間、あれだけ大量にあったエラーが解消されていく。違う、今まで蓄積されていたのはエラーなどではなかったのだ。
これが愛しいということ、愛するということなの……………?
わたしは自分の望む全てを込めて言った。 
「あなたがいい」
と。彼は少しだけ頬を赤らめ、 
「………そうか。色々至らねえけど、よろしく…」
とだけ言ってくれた。 
「………こちらこそ…」
そう言ったわたしの顔はどうだったのだろうか? 体温の上昇から考えて、きっとわたしの頬も紅潮していたに違いない…………
 
 
「ちょ、ちょっとキョン!!」
いい雰囲気だったのに水を差される。なに?
「あ、あんたが有希に釣り合うわけないじゃない!」
それはあなたの独りよがり。そうわたしが言うよりも先に彼が言ってくれる。 
「別にいいだろ。俺は長門が嫌いじゃないし長門も俺がいいって言ってくれてるんだからさ。それと、話を立ち聞きしたのは謝る。古泉に言われてな」
「何ですって!?」
涼宮ハルヒは驚いているが、わたしは承知している。あなたはそのようなつもりはなかっただろうけど、結果としてわたしの想いを伝えられたのだ。古泉一樹には感謝しなければいけないかもしれない。 
「う……」
その古泉一樹は罪悪感からか何も言えないままだ、彼がその為に補足を入れる。 
「ああまあ、古泉を責めないでやってくれ。コイツはお前が誰が好きかって話の時、気が気じゃなかったみたいだぜ。お前も古泉に高い好印象があるんだから、付き合えばいいんじゃないか。結構お似合いだと思うぞ」
結論としては正しい、古泉一樹がドアの外で示した態度と涼宮ハルヒの言動はほぼ二人の関係が良好になることを推測させる。 
「「な゛………」」
彼に指摘された二人は一緒に硬直した。朝比奈みくるもいるから三人? どうやらわたし達の発言が余程衝撃的だったようだ。
しかしそのような事はどうでもいい、わたしには彼がいればいいのだ。
だからこそ行動で示そう、
「……………」
彼の腕を軽くつねって不満を目で表してみる。彼はすぐに理解してくれ、
「すまん長門、早く行こうか。図書館が閉まっちまう」
そう言ってくれた。わたしも早く図書館へは行きたい。でも、 
「そう。でも待って。少し屈んで」
「?」
彼は素直に膝を軽く折ってわたしと目線を合わす。
「……………」
彼の頭をホールドする。そして……
彼に目を閉じる暇も与えず、わたしは目を閉じて自分の唇を彼の唇に重ねた。
 
 
「「「………………!!」」」
 
ちょうど5秒ほど、誰も動けなかった。
 
 
 
「………ぷは……」
 
………彼の唇は甘かった………
長門?」
わたしが今出来る最大の手段。 
「………浮気防止薬。早く行こう」
わたしは腕をまた絡め、彼を引っ張る。若干焦り気味な歩調になってしまう、これが照れるというものなの?
そんなわたしを見た彼は笑いながら、
「わかったわかった。それじゃ早く行こうか、お姫様」
優しく歩調を合わせてくれた。 
 
 
わたし達は腕を絡めたまま、図書館まで向かった。
たとえこの後世界がどうなろうとも、わたしはあなたの傍にいる。 
その喜びを彼にも知ってもらおうと、わたしは絡めた腕に少しだけ力を込めたのだった……………





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
「「「……………………」」」
 
「あ、あの〜……涼宮さん?」
 
「………………………………」
 
「………あ、携帯が…………」
 
「…………滅びろこんな世界」
 
 

追記

あえてオチは変えませんでした。ピュアだから世界が変わるまでの恋人でもいいと思うだろうなと。黒長門はオチも変わる予定です。