『ＳＳ』あんたと指輪

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「ふっふ〜ん♪」
ついつい視線は自分の手に。あたしの左手の小指に光ってるのは小さな白銀の指輪。
シンプルだけど。石なんて付いてないけど。
だけど光り輝いてるあたしの指輪。
「こういうのって純度が高くないと肌がかぶれるんだとよ」
そういう事だけは知ってるあいつが精一杯選んで買ってくれた。
あたしの誕生日を最高にしてくれた指輪なんだから！！
どうせだから右手も見てみると、その薬指にも指輪がある。あたし達が付き合いだした記念の指輪。
同じ白銀に小さなダイヤ。このときはあたしがどうしてもって無理を言ったんだっけ…………

「おい、こんなちっこい石付いただけで何で桁が一つ上ってんだよ？」
そんなのあたしのせいじゃないもーん！　でもキョンはブツブツ言いながらでも、
「アー、チクショウ！　わーったよ、只しばらくデートはワリカンで頼むぞ」
文句の割りにちゃんとお金は持ってるんだからね。
「当たり前だ、お前の気に入るもんの値段なんか分からんからな。しかし用心の為だったのに全滅とはキツイぜ…………」
あら、さすがにちょっと悪かったのかな？　え、えーと、今ならもうちょっと安いのに替えられるけど？
「アホか、今更替えられるか。なによりお前が気に入ってんだろ？」
え？　うん…………でも…………
するとあいつは頭を掻きながら、
「悔しいがよく似合ってるぞ、ハルヒ。だからそれはお前のもんだ」
赤くなってる顔を見られまいとそっぽを向くあいつが可愛くて。
つい、
「ありがと！　キョン！！」
って抱きついちゃった。一生大事にするからね！
「あー、それは大変に嬉しいんだが、ハルヒ？」
何よ？
「ここはまだ店の中なんだが…………」
あ！！　あ、あ、あんたもっと早く言いなさいよ！！
「言えるタイミングがどこにあったんだ？　それより早く出るぞ」
こうしてあたし達は店員さんや周りのお客さんの暖かい視線を浴びながらそそくさと店をあとにしたんだったわね……………う〜、今思い出しても恥ずかしいわ。

「でも…………うふふ〜」
もう顔がにやけちゃって止まらない。あたしの両手に光ってるのは確かにキョンがくれたあたしだけのもの。
一人っきりの部屋の中で自分の両手を見てニヤニヤ笑ってるなんておかしいわよね？
だけど嬉しくって。
きっと左手の指輪の隣にも指輪が光るんだって。
それをくれるのもきっとあいつ。
いっつも間が抜けた顔してるくせに笑った顔は優しいあいつ。
絶対にあいつがくれる、それ以外の人になんか欲しくない。
だからあたしはこうしてにやつきながら待ってるの、左手の薬指に指輪が光るその時を。
「早く…………しなさいよね…………」
うわ、あたしドキドキしてる。どんな時よりワクワクしてる。
あいつはきっと初めて指輪を買ってくれたときのように顔を真っ赤にして。
少しだけあたしから目線を外して頭なんか掻きながら。
黙って小さな箱を差し出すんだろうな。
その時あたしはどんな顔してるんだろ？
同じように真っ赤な顔してるかな？
「遅いっ！」って怒るかも。
でも、
「泣いちゃうかも……………」
嬉しすぎて。まったくあたしらしくないんだけど。
それでもいいんだ、だってあたしがそれを望んでいるんだから。
「待ってるからね、キョン……」
ようやく降ろした両手で布団を引き寄せ、あたしは幸せな気持ちで寝ることにしたのだった…………

だけどたった一つだけ不満がある。それで目が冴えてしまった。
あたしは両手に指輪を貰っている。
それはキョンがあたしにくれたもの。
あたしがキョンのものなんだって証。
でもあいつは指輪なんかしてくれない。
「男がアクセサリーというのは性に合わん」
なんて言っちゃってさ。
でもあたしが指輪をしてて、あたしはキョンのものなんだから。
キョンもあたしのものなんだって分からせないと！
「うん！　決めた！！」
今度のデートは指輪を買いに行こう！　あたしがキョンに買ってあげる。
多分あいつは迷惑そうな顔するに決まってるけど、あたしのキョンなんだから！
どこの指かは決めてるの、あたしとお揃いで右手の薬指。
左手は二人とも空けておかないとね？
そう思ったら楽しくてまた眠れなくなってきちゃう！
ちょっと困りながらもあたしに付き合ってくれるあいつの顔を思い浮かべながら。
結局あまり眠れなかったあたしは翌朝キョンにいらない心配をかけさせてしまったんだけど。

まあそれは別の話ってやつね、うん。