『SS』ドロー・ゲーム

休日というものは神が作りたもうた休息の為の日であることは別にイエスに信奉を抱かない僕らにでも等しく訪れるものであり、それが世界の基準となった時点で欧米主義を非難する資格は僕らにはないと思うのだがどうだろうか?
そして安息日とは一週間という概念における七日目であるということであり、それはエルサレムから遠く離れて時差があるここ日本においても同様である事を当日になって自覚したりもするわけだよ。
残念なことに僕の学生生活というものは神の創造よりも多忙なのかもしれなく、この休息日にまで塾という学業の補填行為に費やさねばならないことも多数あるのが僕にとっても不本意であったりもするのだが、これも自らが選んだのだから誰かに不満をぶつける訳にもいかないからね。
だがそれでも僕にとっての休息は必要なのさ、そう今日のようにね。
前回このような休日を過ごしたのは何時だろうか、まるで卒業後の人生を前倒ししたかのようだ、といえば大げさになるのかな?
とりあえずは休暇を楽しもうと一人散策に出かけたのはいいが、どうも僕も気を緩めすぎたようだね。
気がつけば僕の両手は大量の紙袋。どうやら女性のストレス解消手段としてのショッピングというのは僕にも当てはまるらしい。
最近は橘さんのような新しい友人の影響も受けているのかもしれないな、彼女はファッションにはうるさいようだしね。
苦笑しながらも紙袋をどう整理するか考慮していると、
「お、佐々木じゃないか?」
と、僕に話しかけてくる男性がいる。いや、男性という言い方もないな、彼の声を僕が間違えることも忘れる事もないのだから。
「どうしたんだい、キョン? こんなところで会えるなんて奇遇だね」
まさか彼に会うとは想定外だ、こんな出会いがあるのならば僕だってもう少しは普段着に気遣いを…………それはいいだろう。
それに彼は僕の衣装などには大して興味を持たないようだ、そこはとても彼らしい。
いつものように、と言っても最近の彼を理解している訳ではないがキョンは中学時代と同じように、
「いや、ちょっと暇つぶしに買い物にでも出かけるかと一念発起してみたはいいんだがな」
そうだね、君が自発的に外出するというのはなかなか無い事だ、どうにもそこは治らないものなのかな?
「まあ家で寝てるだけってのも芸がないしな、うるさい連中もいないし息抜きってとこさ」
そう言いながらも君は彼女達といる時には顔が輝いてるよ、決して君に伝える事はないけどね。
「その割には何も持ってないじゃないか、どうやら収穫は無かったようだね」
「ああ、大したもんはなかったな。というかどうにも俺には服など選ぶセンスは皆無らしい」
苦笑いで答えるキョン。確かに君は無自覚に自分の存在を消そうとするような地味な服装を好むところがあるね。
だからこそ君の本質を知る人間は少なかった、それを知るのは僕や一部の人たちだけだったんだ。
それに優越感を持っていた、と君が知ったらどんな顔をするんだろうね?
「それよりもお前はかなり買い込んだもんだな」
紙袋を見て感心したように言うけど、僕としては女性である自分を暴露されたようで赤面せざるを得ないんだけれども。
「まあ女の買い物ってのはそんなもんらしいな」
どうやら似たような経験があるのだろう、キョンはさも当然のように頷いている。
が、そこに僕の知らないキョンを見た気がして。
何故だか理解できないままに胸の奥に小さな痛みが走った、感触を覚えた。
「まあ僕も一般的女性の範囲から逸脱はしていないということだよ」
そういう言い方しかできないけれど。
「当たり前だろ、お前はどこからどう見たって女の子さ」
笑ってるけど君の言い方は常に僕の一番奥底に眠らせようとしている僕の本質を揺さぶってくるんだよ。
「それで君はどうするんだい?」
早くこの場を離れたいのかもしれない、僕は君といるとこの『僕』でいられる自信がなくなりそうなんだ。
「うーん、まあ買い物って言ってもこんな調子だからな…………」
そういうものかもしれないね、決して僕も計画的に外出した訳ではないから。そうでなければ君と会えるはずもないのだし。
「そうだ、せっかく会ったんだ。お前が良ければ荷物持ちの一つでもしてやるぞ?」
え? な、何を言い出したんだキョン?!
「というかだな、こうして旧友と会ったのも何かの縁だろうし、こう女の子が荷物を抱えてるのに何もしないでつっ立てるというのもどうにも極まりが悪くていかん。よかったら手伝うがお前の都合の方はどうだ?」
そんな……………キョンがいいなら私の都合なんて………………!! いけない! だからキョンは侮れない、こうして僕が『僕』でいることにどれだけ腐心しているのか分かってるのかい?
だがここで断わってもキョンの親切を無にするようで、それは僕としても不本意極まりない。
「そうかい? 君から労働の申し出を受けるとは光栄の限りさ、ではお言葉に甘えさせてもらおうかな」
あぁ、結局こういう話し方しか出来ないけれども。
「なーに、いいってこった……………っと結構重いな、お前よくこんなの持って歩いてたな?」
「クックック、女性の買い物はこういうものなんだろ?」
君が言ったんだよ、キョン
「やれやれ…………まあ乗りかかった船さ、好きなだけ付き合ってやるか」
!!!………………いや、顔色を窺わなくても分かっているさ。君は僕の買い物に付き合ってくれているだけなんだってね。
だがキョン………………まったく、君の言葉はどこまでも無意識に僕の心に染み入ってくるのだから。
「私が言いたいくらいなのよ………」
「何だ?」
「何でもないよ、ではよろしく頼むよ」
「へいへい、任されましたよ」
うん、やはりキョンキョンのままだったね。その事が僕にとってどれほどの喜びなのか、どれほどまでに安心してしまえるのか。
それを君は知る事は無いのかな………………?
それとも僕が伝える事が出来る様になれるのだろうか。
両手一杯に紙袋を抱えて悪戦苦闘する親友を横目にみて、僕はつい微笑んでしまったんだ。




さて、それから僕はキョンと共に買い物を続行することとなったのだが、
「……………ふう、しかし佐々木もこういうのが好きだとは意外といえば意外だったな」
結局キョンを連れまわして店をはしごしただけで無収穫の結果に終わったのは僕の買い物が実際にはキョンと出会う以前に終わっていたという事情もあるが、何よりも、
「何を言ってるんだい、君は最終的に意見を聞いても上手くはぐらかすだけだったじゃないか」
「だから俺にそういうセンスを求めるなって言うんだ、どれも似合ってたと思うんだからしょうがねえじゃないか」
それを鵜呑みにしてたら僕の財政は一瞬で崩壊してしまうよ、何度財布の紐が緩みかけたと思ってるんだい。
しかしキョンの「似合ってる」という言葉は魔力でもあるかのようだったね、同行した女性の買い物袋が増えるのは君のせいでもあるんじゃないか?
そうか、キョンは似た様な経験があるんだったね、恐らく彼女と。
自分の想像に自分で胸を痛めていても仕方ないんだけどね。
「まあ荷物を持ってもらっている側の僕が不満を漏らすのはいささか理不尽でもあるだろう。少々待ってもらえるかな?」
それだけ言って僕は近くの自販機に向かった。
何台か並ぶ自販機の中から目当ての種類が売られているものを探す。最近は少なくなってきてるからね、駅構内などでは見かけるのだけど。
だが僕の記憶が確かであればここにはあるはずなんだよ、そして自分の記憶中枢に異常が無い事は目前のそれを見れば一目瞭然な訳でもあるんだ。
目的だった物を手に入れた僕は紙袋を下げて佇むキョンの元へと戻る。
「やあ、待たせたね。思いのほか手間取ってしまったようだよ」
「そうでもないぞ、というか何買ってきたんだ?」
おや、君には見えないのかい? 僕が買ってきたのは紙パックの飲料だった。
キョンはコーラなどは飲む割りに甘い飲み物については少々苦手なようなので無難なお茶にしておいたんだが、これでいいかな?」
「ああ、何でもいいさ。すまんな、奢ってもらえるとは思わなかったぜ」
「何を言ってるんだい? これはささやかなお礼さ」
まったく、君は自分が行っている事に対して受ける好意などには鈍感すぎるきらいがあるね。
「まあ素直に礼は言っとくよ。ただせっかくの礼なんだがあいにく俺の両手は塞がってるぞ?」
分かってるさ、それは僕の買った荷物なんだから。
「だからこそわざわざこれを買ってきたのさ」
パックにストローを挿しながら僕は答える。
「どういうことだ?」
「こういうことさ」
僕はパックを持ったままストローをキョンに差し向ける。
一瞬だけどういうことか分からない顔をしたキョンだったが、すぐに僕の意図は理解してくれたようだ。
「すまんな、ありがたく頂くよ」
そう言ってキョンは素直にストローを口に咥えて中身を飲みだした。
「ふう、意外と喉が渇いてたんだな」
一息ついたキョンを見ると僕の心まで潤されるようだ、パックを持っていた僕の顔と彼の顔の近さに喉が渇いたのはこちらかもしれないけど。
しかしキョンはそんなことには気付く様子すらないのは親友としての信頼からかな? 女性として見られていない、ということがないことだけは祈るよ。
二人並んで歩きながら、タイミングよくキョンの口元にストローを。
周りから見ればかなり親密に見られている事だろう、気付かないのはキョンだけだろうね。
こうして歩けるなんて思ってもみなかったんだ、僕は抗いようのない幸福感に包まれていた……………




だがその時に感じた視線に気付いてしまった。気付かされた、と言った方がよかったのかな?
といってもそれに気付いたのは間違いなく僕一人だけだったろう、何故ならば同じ状況ならば僕が向けるべき視線と同じ力なのだから。
明確に向けられる敵意、キョンには殺意かもね?
その気配は止まることなく一直線にこちらに向かってくる。キョンに注意を促す暇さえも無く。
僕たちの背後からいきなり伸びた手は無言のまま僕の手からパックを奪い去った。
「な?!」
キョンが驚きの声を上げる。今まで君は気付いてなかったからね。
そのまま手の持ち主は僕とキョンを遮るように目の前に現れた。
ハルヒ? どうしたんだ、こんなとこで?」
どうやら君の声は届いていないようだよ、キョン
だって彼女は僕を睨みつけているからね。分かってるよ、『私』が貴女ならきっとそんな目をしてしまうに違いない。
そのまま彼女、涼宮さんは黙って残ったお茶を飲み干した。グシャという音が聞こえそうなほど力任せに握り締められたパック。
キョンの口をつけたストローで自分も飲んでるって気付いてないんだろうな、そんなことよりも僕がここにいることの方が重要なんだろう。
その目が、堅く結んだ唇が、全身から立ち上る雰囲気が全てを物語ってるよ、『自分のものだ』って。
そうだね、涼宮さんの気持ちはよく分かる。だから分かるだろう? 『私の邪魔しないで』ってことも。
僕らは何も言わずただお互いの視線を外せなかった。なんだろう、外したら負け、なんてまるで小学生よりも幼い考えかもしれないけれど。
しかし百日手に陥りそうな二人のにらみ合いも彼の一声で砂上の楼閣のように崩れ去っていくものなのさ。
「なんだハルヒ、喉が渇いてるならそう言え。まったく高校生にもなって行儀悪いぞ?」
クックック、君から見ればそうなのかい? ほら、涼宮さんだってキョトンとしてるじゃないか。
「へ? あ、いや、あたしは…………」
「まったく、佐々木もいるってのに団の名誉とやらはどうした?」
おやおや、さっきまで何者も恐れなかったような瞳が今や涙さえ浮かべそうだ。それにしてもキョンも言うものだね。
だが流石はキョン、というべきなのかな?
「しゃーない、今日は買い物が収穫無しに終わってるからな。お前がよければそこの喫茶店にでも行くか?」
それを聞いた瞬間に彼女の瞳に輝きが戻っていく。分かりやすいといえばそうなのだけど、僕が同じ立場ならば同じ反応しかとれないだろうから涼宮さんに何も言えないな。
「あ、あんたがどうしても団長の為にジュースを奢らせて頂きたいっていうなら考えてもあげなくはないわよ!」
それだけの笑顔だとあまり説得力は感じないけど? でもキョンはもう慣れているのだろう、
「へいへい、奢らせていただきますよ団長さま」
そのまま紙袋を持って店へと向かう。おいおい、それは僕の荷物なんだけど?
「ん? 佐々木も来るだろ? まあ休憩がてらコーヒーでも飲もうぜ」
あっさりと言い放つキョン。さりげなく隣にいる涼宮さんの顔を見ていないのかな?
だがあいにくだったね涼宮さん、僕もこのまま別れるというのは容認できそうにないんだ。
「分かったよ、それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「なっ?!」
「どうしたハルヒ?」
「う…………なんでも、ないわよ……………」
あまりにも自然すぎるよ君は。それに涼宮さんの方から後に来たんだしね?
こうして僕らは喫茶店に向かった訳さ、キョンは気付いてないようだけど結構周囲の目も引いてたんだよ?



「…………………」
「…………………」
この沈黙は僕と涼宮さん、二人のものだ。残った一人はコーヒーを一口飲んだ後に、
「悪ぃ、ちょっと席外すわ」
そう言っていなくなってしまった。トイレという単語を使わなかったのは女性二人への気遣いかとも思えるが、キョンのことなので怪しいものでもあるね。
とにかく緩衝材として存在すべき人間がいない場合の典型的な気まずさを僕は、恐らく彼女もだろう、味わっている次第さ。
その涼宮さんは今、僕の目の前で不機嫌を隠すこともなくオレンジジュースに挿したストローを咥え、ジュースに息を吹きいれている。
ブクブクと表面に浮かび続ける泡がそのまま彼女の機嫌の悪さの継続を表わしているようだよ。
多分キョンなら行儀が悪いと言うだろうね。僕もそう思いはするが原因の一部を担っているのだからどうしようもないよ。
それに僕だって自分の目前のハーブティーカップに手もつけていないんだからね。
さて、どうしようかな? きっと涼宮さんは何も話したくないだろうし。
いや、キョンの事だけじゃない。彼女は他人と接する事への潜在的恐怖心があると思うんだ。
それは自己防衛かもしれない、彼女の中の彼女が自分というものを晒すことを恐れているんじゃないだろうか。
それは『私』が『僕』という殻を纏わなければ彼と話せないように。
もちろん僕の勝手な想像さ、だが断言できる想像でもある。
何故なら彼女と『私』はあまりにも似ているから。
自分というものを見せるのが怖いくせに誰かに見てもらいたがっている。
だからこそ『私』たちは見つけた。本当の自分を受け止めてくれる人を。
どんな自分であっても、それをありのままに見てくれる人を。
偶然じゃない、『私』たちは同じようにそれを望み。
そして『彼』がそこにいる。
これは彼女は知らない、だけど『私』は少しだけ知っている。
うん、これはフェアじゃない。『私』はそんなことで優越感は持てない。
そうだね、ここは僕から話そう。彼女には知ってもらわないといけない、『私』の想いを。
「ねえ涼宮さん?」
「……………」
「君はどこから僕とキョンの後をつけていたんだい?」
「!!!」
やあ、やっと息を止めてくれたね。
「あ、あんた何………」
「大丈夫、キョンは気付いてないから」
それだけで十分だったんだろう、彼女は一つため息をつくと、
「んで? なんであんたとキョンが会ってたの?」
まるで尋問だね、その目に宿る真剣さは現役の刑事も顔負けだろうね。
でも僕にはまるで捨てられそうな子猫が鳴いているようにも見えてしまうんだ。
キョンと会ったのは偶然さ、それは誓ってもいい。彼は中学時代の友誼で僕の買い物に荷物持ちとして付き合ってくれたんだよ」
「あっそう」
少しホッとした顔。そうか、僕とキョンが同級生なのは知っているからね。
多分キョンならやるだろうと思ったんだろう、僕の知る彼だってそうさ。
だけどね? 今なら言える気がするんだ。
『僕』ではなく『私』の話を。
「だけど私は嬉しかった。キョンは変わらず優しいままだったって」
「え?!」
「中学の時もそうだった、キョンは見ていないようで私の事をちゃんと見てくれる。私の話を聞いてくれる」
「………………」
「やっぱりキョンがいてくれないとダメかもしれないって私は思ったわ」
「!!!」
愕然とする涼宮さん、そんなに驚くこと? あなただってそうなのに。
「だから一緒にいて安心してた。私の居場所はここなんだ、そう思ったの」
「そ、それって………」
「あなたはどうなの、涼宮さん?」
私の言葉が聞こえた途端に赤くなる頬。
「あ、あたしは別に…………………あいつなんかいなくたって………………」
分かるよ、気持ちはね。でもそれなら私が、
「それなら私がこの後もキョンとお付き合いしてもいいのね?」
「それはダメッ!!」
テーブルが跳ね上がる勢いで彼女が立ち上がって叫んだ。
ガタンッ! とテーブルが揺れ、涼宮さんのオレンジジュースのグラスが倒れた。
「キャアッ!!」
ほとんど中身の残っていたジュースはテーブルを伝い涼宮さんの服に。
「あ、あぁ…………ど、どうしよう…………」
どうやらかなり混乱しているようだ、涼宮さんは濡れた服の一部を持ってオロオロしている。
咄嗟に私は自分のハンカチをポケットから取り出し、
「涼宮さん、これを!」
言いながら涼宮さんの服を拭う。染みにならない内に………
ところが私もどうも混乱が伝染していたらしい、涼宮さんの服にテーブル越しで体を伸ばしていたのだから。
カチャンッ! という音が私の下の方から聞こえたかと思ったら。
「あ……………」
まったく手付かずだったハーブティーカップがテーブルに転がっていて。
その中身はもちろん私の服を濡らしてしまい…………
「ぷっ…………」
「クックックッ…………」
「あっはっはっは!! あ、あんた何やってんのよ?!」
「まったくだ、これはひどいね、アハハ……」
私たちは笑いあった。はじけるような笑顔の彼女と。
「…………はい、これ」
そう言って涼宮さんは自分のハンカチを渡してくれた。
「まったく、あたしらしくもなく慌てちゃって自分がハンカチ持ってたのも忘れちゃってたわよ」
差し出されたハンカチを素直に借りて自分の服を拭く。染みになるかもしれないな、これは。
「これで貸し借り無しだからね」
笑顔のままの涼宮さん。そうね、今回の分は。
「もちろんよ! でもね?」
なにかしら?
「あいつは絶対にあげないから!!」
誰もが惹きつけられそうな満面の笑顔で彼女は言った。なるほど、キョンはやはり見る目があるよ。
だけど、それなら私にだって。
「そうはいかないね。私だって彼をあなたに渡した覚えはないんだから」
私も笑っている、彼女のようにはいかないだろうけど。
「ふふふ、いい度胸じゃない?」
「あなたこそね?」
ねえ、私たちはいい友人にもなれるかもしれないわね? 欲しいものを譲るつもりはないけれど。
「ねえ、お互い服も汚れちゃったじゃない? せっかくだから洋服見に行かない?」
「ふむ、魅力的な提案だね。どこか心当たりでもあるのかい?」
「うん! この間見つけたの、近いし可愛い服が多くって! みくるちゃんと有希の服を探そうかと思ってたんだけど、佐々木さんとなら楽しいわよ!」
「そうなの? それは私も行きたいな」
「よし、決まり!!」
「ちょうど午後は何も買えなかったからね、楽しみにしてるわ」
「任せといてよ、バッチリ決めちゃうから!」
ちょうどそんな時に帰ってくるのが君らしいな。
「なんだ? どうした佐々木、お前がそんなに笑ってるのも珍しい……………って、なんだこりゃ?!」
ああ、テーブルの上は酷い事になってるね。ついでに二人の服も。
「さあキョン! 行くわよ!!」
「ちょ、ちょっと待て! なにがどうなってんだ?」
「まあ涼宮さんにはそんなことは関係ないことなんだよ、それよりも僕らには目的があるってことさ」
「いや、お前らいつの間にそんなに仲良くなってんだ?」
「いいから来なさい!!」
「っと待て! せめて俺のコーヒー!」
もう言っても無駄さ、彼女はしっかりキョンの手首を掴んでいる。
そして僕も、
「さあ買い物後半戦だ、しっかり付き合ってもらうよ?」
反対側の手首を掴んだ。ああ、手を握ってもいいけど何しろ、
「まだ買うのか? というかしっかり荷物だけは持たせるのかよ!」
という事なのでね?
「やれやれ……………お手柔らかにしてくれよ…………」
諦めは肝心だね、キョン
こうして大量の紙袋を持ったキョンの両手首を僕と涼宮さんの二人が掴んで、三人は洋服を買いに向かうのだったって事さ。



ああキョン、最後に謝っておくよ。
バランスを崩しそうにながら大量の荷物をもたせて悪かったね。
でも、『私』と彼女はそんな君が…………………うん、私たちがそれを言えるのを待っててほしいな。