『SS』ながとゆき。さんさい。 そのさん
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さて、今日からどうなるんだかね?
少しだけ楽しみだ、と言ったらあいつはどんな顔をするのだろうか。
目の前の少女のように瞳を輝かせて欲しいな、と思いながら俺は長門に話しかける。
「で? どうしたいんだ、長門?」
妹もキラキラさせた瞳で長門を見ている。完全に長門をダシにして出かける気満々だな。
しかしそこは長門だ、例え三歳であっても。
「ごほん」
ん? 風邪か?
「有希ちゃん風邪なの?」
妹も少し心配そうに長門の額に手を伸ばす。
「ちがう、ごほん、よむ」
フルフルと、長門とも思えないほど大きく首を振った少女は、トコトコと俺の部屋の中に入り込んでしまったのだった。
あー、本なのか? そうか、小さくなっても長門は長門なんだな。
兄妹揃って風邪だとか言ってる俺たちって…………………
妹と同じ思考レベルだという事実に多少ガッカリしているものの、長門がやりたいことを優先してやろうと思うのは当然だろう。
「わかった、本なら好きに読んだらいいさ」
「えー? つまんなーい……」
コラコラ、お前も少しはおとなしく読書に励みなさい。小さいうちに読んでおかないと後悔するぞ、俺が言うんだ間違いない。
「それなら本持って来るねー」
というか俺の部屋じゃなきゃならんのか? という間もなく自分の部屋へと消える妹。
どうせ持ってくるのは漫画に違いないのだが。
とはいえ、妹はそれでいいんだろうが問題は長門だ。
さて、三歳児の長門は何を読むというのだろう? それに俺の部屋にいつもの長門が好みそうな本などないように思われるしな。
それでも長門は小さな頭を振りながら本棚を物色し、自分の背が届くギリギリな位置にあった小説、ハードカバーとは程遠い新書版だが、を背伸びしながらどうにか取り出す。
思わず手を貸しそうになったのだが、子供の自主性に任せるのも大事なんだよな。と言っても長門なんだから単純に子供と呼んでしまっていいのやら。
とにかく長門は無事に本を持ってくると、チョコンと俺の隣に腰掛けた。
あ、正座はしない方がいいぞ、足がしびれるからな。
「そう」
そうそう、足は伸ばしておけよ、足の形も悪くなるし。
ということで読書を開始した長門さんなのだが、
「………………」
どうやらいつもの通りとはいかないようで。
このくらいの厚さの本なら何分とかからず読み終えそうなもんだが、この長門は先程からページを開いてみては首を傾げ、またページを閉じてみたりしている。
そのうち妹も漫画を何冊か持ってきて俺の反対側の隣に座り込んで読書を始めだしてしまった。
……………で、俺は何をすればいいんだ? 仕方ないので妹が持ってきた漫画を拝借してパラパラとめくってみたりもしてるんだが。
しかしどうしたいんだ、この小さな宇宙人さんは?
さっきからページを開け閉めしたり、あげくに本を逆さまにひっくり返して見たりしていた長門はやがて、
「………………?」
小さく首を傾げてやおら立ち上がり、
「かんじじてんはどこ?」
と俺に聞いてきた。かんじじてん? あぁ、辞書か。
どうやら今の長門にはハードルが高いらしい、本が読めない長門っていうのもおかしいもんだがそれもそうか。
「それなら本棚の一番下にあるぞ」
あんなもんの世話になる機会などあまりないからな、どうしても目に入るギリギリのとこにいってしまうもんさ。
「わかった」
それを聞いた長門は本を置いてトコトコと本棚へ。
「おい長門」
だが俺はそれを呼び止めた。
「なに?」
はあ、お前は子供になってもそうなのか? 俺は長門を手招きする。
チョコンと俺の前に立った長門に俺はまるで教師のように、父親ってのは言いすぎか、話しかけた。
「あのな、長門? お前は子供なんだから、分からないことがあったらまず大人に聞け」
俺が答えられる範囲はたかが知れてるだろうがな、それでもまずは聞いてみてくれ。
「もっとお前は甘えてもいいんだぞ?」
それが子供の特権てやつさ、お前もそれを知らないとな。
「…………わかった」
「ん、いいお返事だ」
俺はご褒美に長門の頭を撫でてやった。嬉しそうに顔をほころばせる長門なんかもう見れないかもしれないぞ?
「あー、いいなあ有希ちゃん」
お前もおとなしく本を読んでればいいんだがな。
結局せがまれるままに妹の頭も撫でてやると、
「あっ! ちょっと待ってて!」
妹が急に部屋を飛び出した。
なんだ? と思う間もなく戻ってきた妹は、
「ちょっと待っててね」
と言いながら長門に近づき、
「んーと、ちょっとおとなしくしててね有希ちゃん」
いや、言わなくても長門はおとなしいぞ。というか何をしてるんだ? ちょうど妹が正面にいるから小さな長門はスッポリと隠れて見えない。
「ジャジャーン!!」
口で言うな、お前はハルヒか。
とにかく得意気に俺の方を向いてくれたおかげで長門が見えたのだが、
「…………何やってんだ、お前は?」
そこにいたのは短い髪の両端を髪飾りで結ばれた長門だった。
「へへ〜、お揃いなんだよ?」
ああ、そうだな。だがお前は一つ結びで長門は二つ結びなんだが。
「この方が可愛いでしょ?」
そうだな、子供らしさが五割は増したな。
「にあう?」
おう、よく似合ってるぞ長門。
「かわいい?」
かわいいぞ、そう言ってやると、
「………………」
何だ、その物足りないような顔は?
と、そうかこういう時はご褒美なんだっけか。
「よく似合ってるぞ、長門」
そう言って頭を撫でてやる。
「そう」
やれやれ、甘えてもいいとは言ったがこうも極端だとはね。
「あたしが結んだんだよー!」
はいはい、お前もえらいよ。妹の頭に手をやって撫でてやりながら、こいつも妹とか欲しかったのかもしれないな、などと思ったりした。
そして俺たちは結局、長門が読めそうな本が部屋に無いということで三人で図書館に出かける事となり、幼児向けコーナーで俺が長門の為に絵本を朗読するはめになったりした。
その間で、
「よんで」
と言っては本を渡され、
「わたしもよむ」
と言っては本を取り上げられ、
「よめた」
と言っては頭を撫でさせられたりしたのでなかなか大変だったことは明記しておこう。
なんと言っても、
「あたしもー」
という妹と二人掛りだったんだからな。
こうして閉館時間まで図書館にいた俺たちは夕暮れに促されるように家へと帰る。
やれやれ、これがあと三日間か。
などとため息をつきながらも、繋いだ長門の小さな手が温かいことにもうすぐ寝るかもな、などと頭を回しちまうんだから意外と俺は保父さんなど向いてるのかもしれないな。
夕暮れの帰り道。
どうにかおねむを堪えた長門だったのだが、家に着いたら、
「わたしはねむくない」
と言いながら何故だか分からないままに俺の部屋のベッドで転がると同時に寝息を立てだした。
おいおい、どうすんだよ?
「有希ちゃんだけずるーい!」
と言いながら妹までベッドで寝転がろうとするのをどうにか止めつつ、こりゃリビングで寝るしかないかと思っていたら、
「……………いっしょにねる」
まるで考えを見透かされたような長門の寝言に困惑するしかなかったのである。
まあ疲れているんだろうと言う事で先に飯を食い、風呂まで入った俺が結局その後起きて食事をし、妹と風呂に入った長門に、
「いっしょにねる」
と言われて寝ることになってしまい、
「有希ちゃんだけずるーい!」
と妹までベッドに上りこんできたので大変狭苦しく寝ることになったのだった。
やれやれ、どうしてこうなるんだよ…………
最終的にため息をつきながら俺の連休初日は終わっていったのであった。