『SS』萌えたでしょ?:Dialogue

「お、何読んでんだ長門?」
「……………資料」
「資料? なんだそりゃ、いつもとは違う本なんか拡げてるからてっきり漫画でも読んでるかと思ったぜ」
「…………そういうのもある」
「ふーん、だがそんなもん読んでどうすんだ? お前んとこの親玉は地球の文化にでも興味があるのかね?」
「そうではない、これは涼宮ハルヒの命令」
「なっ?! ハルヒの奴、お前に何を言いやがったんだ?」
「……………新しい萌えの捜索」
「はあ?」
涼宮ハルヒは日本における『萌え』と呼ばれる概念に対し、積極的なアプローチを希望している」
「あの朝比奈さんにやってるセクハラの類か」
「その一環として、わたしにも新しい萌えの開拓を命ぜられた」
「なるほど、事情は分かったような分からんような……………」
「よって書物等で検索中」
「お前らも大変だな、ハルヒのお守りってのも。それで何か分かったのか?」
ツンデレという概念がある」
「ああ、よく聞くな」
「これは好意を寄せている異性に対し、逆な態度を見せつつも要所で露見してしまう事により相手に好意を伝えてしまう態度」
「ほう、だが物事はストレートな方がいいと思うんだがな」
「………………そう」
「何か変な事言ったか、俺?」
「別に。それ以外にもある」
「どんなのだ?」
ヤンデレという概念もある」
「名前からしてやばそうだな、それ」
ヤンデレとは一概に語り尽くせない複雑なもの」
「お前ですらか?」
「そう、ただしヤンデレにはいくつかの条件が必要な事が判明した」
「ややこしいんだな、で? その条件てのはなんだ?」
「まず相手に恋愛感情、それも一秒たりとも離れがたいと思うほどの感情が必要」
「それはまた一途な話だ。想われる側も嬉しいんじゃないか?」
「……………そう」
「だが多少の自由は欲しいけどな」
ヤンデレはそれを許さない。むしろ自分から離れる事は相手にとっても不幸かつ無益な事だと認識している」
「それは怖いな、やりすぎは良くないってことだな」
「それが分かればヤンデレラにはなれない」
「そういうもんか。で? 他にはあるのか?」
「恋愛対象が複数の異性に想いを寄せられている場合が多い」
「なんだ、モテるやつ対象かよ? そりゃ俺には無縁な話だな、いや? 古泉ならありえるか……………?」
「……………そう」
「まああいつならストーカーとかいてもおかしくはないよな。いや、あいつがストーカーか、ハルヒの」
「想いを寄せられている異性は気付いていないパターンが主になる」
「そりゃ男も可哀想だな、というか気付いてやれよな」
「しかも好意を寄せる異性にそれを促すような行動を自然と取れるのがその男性の特徴」
「思わせぶりな奴なんだな、そいつは」
「……………そう」
「そりゃ男の敵だな、そんな奴いたら一発殴っとくべきだ」
「そして恋愛対象はヤンデレになる対象を大切にしながらも視線が他の方向を向く」
「はあ、女泣かせだな。それでも惚れる女もアレだが」
「いつしか相手に対して思うようになる、何故わたしだけ見てくれないのかと」
「そうだろうな」
「わたし以外の人なんていらない。あなたにはわたしがいるのだから」
「お、おう…………」
「わたし以外なんてただの雌猫やメス牛。わたしがいれば十分」
「な、長門?」
「わたしは万能、わたしはあなたの為ならどんなことでもする。あなたはわたしさえ見ていればいい」
「お、おい……………」
「あなたにはわたしが必要、わたししかいらない。わたしこそがあなたを一番愛する者であり、それ以外は無用」
「ちょ………」
「これほどまでにわたしは愛し、わたしはいつもあなたを見ている。それにあなたはわたしに好意を持っているのは誰から見てもわかるのに」
「何言ってんだ? お前、それ何のセリフだよ!」
「眼鏡が無い方が可愛い」
「は?」
「…………………なんでもない。今のがヤンデレへと向かう思考回路のパターン例」
「そ、そうか。えらい迫力なんだな、一瞬本気で焦ったぜ」
「これ以外にも様々なパターンがある。後悔と共にヤンデレと化すものなど」
「へ?」
「わたしがあなたと過ごせたはずなのに何故あなたはエンターキーを押したの?」
「え?」
「わたしと一緒なのが嫌なの?」
「おい?」
「確かにわたしがいきなり変えた世界かもしれないけど、あれはあなたの思い描く平凡な日常だったはず」
「それは………」
「わたしではあなたに相応しくないの? そんなことはないはず、だからわたしがいるこの世界にあなたはいる」
「そうなんだが、だがな?」
「つまり幻想のわたしより現実のわたしを選んだ。これだけでもわたしはあなたからの愛を感じる」
「おい、人の話を…………」
「わたしがいる世界こそあなたの全て。わたし無しの世界などない。あなたにとってわたしはそのような存在なんだから」
「そう来るか!」
「あなたにとっての世界はわたし。わたしにとってもそう、だから二人だけで世界があればいい」
「待て、待ってくれ!」
「……………このような飛躍した思考こそがヤンデレの真骨頂」
「そ、そうか…………そろそろ勘弁してもらいたいんだが…………」
「もう十分。パターンサンプルは集まった」
「そう、なのか?」
「………………そう」
「それならいい。ところで長門?」
「なに?」
「なんで俺はここにいるんだ?」
「再確認する、ここはどこ?」
「お前の部屋だろうが」
「そう。そしてあなたは、わたしの淹れたお茶を三度飲んだ」
「そう……………だな……………」
「どうしたの?」
「な………ねむ…………なが………と…………」
「効用が出始めている」
「おま……………ま………さ……………か…………」
「サンプルは十分」
「な………や……………め……………」
「あとは実践のみ」
「………………………………………………」
「恋愛対象はどのようにしても手に入れる、それこそがヤンデレの本懐」
























「アナタガイレバナニモイラナイ……………」