『SS』深く、ただ深く
夕闇が迫り、この校舎も包み込もうとする時間、それから逃れるかのように学校内にチャイムの音が鳴り響く。
そして無口な少女が静かに本を閉じ、
「さあ、今日の活動もお終い!!」
という団長の声で放課後の何もしない団活動が終わりを告げた。
我らが麗しの専属メイドさんが片付けを終え、着替えている間は俺とにやけた副団長は廊下で立ちんぼの刑に服さねばならないのだ。
「いやー、今日も平和でしたね」
そうだな、最早見慣れた爽やかスマイルに俺は適当に相槌を打つ。
「最近はこの日常こそが当たり前なのだろうと思えるようになってきました。バイトが少なくなった分を何で取り返そうか、頭を悩ませていますよ」
そいつはいいことだ、俺とのゲームの腕でも磨いておいてくれ。バイトについては、それこそなにか紹介してもらえよ。
「これは一本取られましたね。まあバイトは冗談にしても、あなたとのゲームに費やす時間はもう少しもらえそうです」
そうかい、期待しない程度にしとくよ。
俺がハンサムの面に軽口で答えたところに、
「お、おまたせしました〜」
天使が微笑みながらドアを開けて舞い降りてくる。
「いえいえ、最近は着替えるのが早くなられたようで僕たちもあまり退屈しなくて済んでますよ」
如才なく答えるニヤケ面。だが最近メイド服から着替えるのが早くなっているのは確かだ。
恐らく邪魔がはいらないからだろう。
「………………」
その天使のすぐ後ろに、この部屋の本来の主の姿。手に本を持っているところを見ると、今日はお持ち帰りで読むらしい。
「それでは行きましょうか」
「はい」
「……………」
副団長の言葉に、専属メイドさんと文芸部長がそれぞれ肯定と頷きで答える。
やれやれ、これで一日もお終いだな。
すると部屋の中から団長の大声、そこまで出さなくても十分に聞こえるぞ。
「それじゃ古泉くん、鍵はあたしが締めるから後はお願いね! それとキョン!!」
はいはい、わかってますよ。かよわい女性を一人で帰すなってんだろ。
俺は苦笑するハンサム、優しく微笑む先輩、無口な同級生に見送られて部室に戻らなければならないのだ。
「では、涼宮さんをよろしくお願いします」
「それじゃキョンくん、また明日」
「………………また」
そう挨拶すると団員達は早々に俺を置いて帰宅の途につく。
ちょっとは気にしろよ、だが気にされても困るが。
などと思いながら俺は部室の中へ。
そこにいるのは…………………
「キョン!!」
思い切り飛びついてくる黄色いカチューシャをしっかりと抱きとめる。
そしてそのまま軽く唇を合わせる、軽いフレンチキス。
「どうした? ハルヒ」
抱きしめた腕の中で少しだけ頬を赤くしたハルヒ。この顔を見れるのはこの地球上で俺だけなんだ、それだけで十分なんだが、
「だって……………寂しかったんだよ?」
そう言ってくれる彼女を愛しいと思わない訳はないだろう。
俺はハルヒにもう一度軽く口づけて、
「いつもお前の側にいただろう?」
言いながら、柔らかい感触を味わうように手のひらで髪をすくい上げた。
「でも…………二人っきりでいたかったし………」
このセリフをハルヒから聞けるなんてな。
左手を腰に回し、右手でハルヒの頭を撫でながら俺は左に力を込める。
引き寄せられるハルヒにはまったく力が入ってないような軽さで。
「だからここにいるだろう?」
より近づいた顔に頬を寄せるようにして耳元で囁く。
「うん……………キョン…………」
囁いた耳まで赤くなったハルヒが小さく頷く、その仕草が可愛い。
俺は撫でていた手を頭から滑らすように。
耳元や首筋を通る時にビクッと小さく反応する姿も楽しみながら。
そして俺の手はハルヒの頬へ。少しだけ顎にかかるようにして、顔を上げさせる。
「んっ…………」
何をされるのか分かっていて目を閉じるハルヒ。
長い睫毛、整った鼻筋、その下の唇が期待も込めて小さく開いている。
その美しい顔が俺を待っている。
俺は自分の顔をハルヒに近づけ…………………その唇を奪う。
「ん………む…………」
さっきまでの軽いキスじゃない、唇の感触を溶け合わせるようなキス。
少しだけ離して息をさせて。
「っふ………」
思い切り息は吸わせない、再び合わさる唇。
「あ………………」
ハルヒの唇は何度口づけても甘く、その感触は柔らかい。その感触を俺のそれで埋めていくように。
何度も、何度も、俺はハルヒの唇を味わう。
何もせず、何もさせず、ただそれを受け入れるハルヒ。
左腕に力を入れ、密着する互いの腰。
細い、まるで折れそうなハルヒの身体に俺のものだと思わせるように。
「キョン……………」
ようやく唇を離し、目を開けたハルヒの瞳は潤み。
その唇がまだ小さく開いている事に俺は欲情する。
「ハルヒ…………!!」
「んむっ!」
もう数える気もないキス。抱きしめた腕から抜けない力。
それに抱かれてるのは無敵の団長でもこの世を決めてしまう神でもない。
我がままなくせに寂しがり屋で。
自分勝手なくせに誰かと話たがっていて。
強がってるくせに泣き虫なただの女の子だ。
違う、俺の、女だ。
合わさった唇から俺は舌を伸ばす。
「!」
閉じられたハルヒの唇をなぞるように。
その扉をこじ開けるように。
舌で感じるハルヒの唇も甘くて。
「ふぁ…………」
少し開いたハルヒの口内に強引に舌をねじ入れる。
「あっ…………ん…………」
ハルヒの口の中の隅々までを俺の物にする為に、舌を動かす。
するとおずおずとそれに絡もうとするハルヒの舌。
舌で舌を愛撫するように舐め上げる。表面を撫でるように、裏側までねじり込むように。
それに答えるハルヒの舌。同じように舐めてくれる。
だが俺の動きは止まらない。
口内の全てを、歯も、歯茎も、全て。
一つ一つを愛しむように。
「ん………うんっ…………」
苦しいか? だけどまだだ、まだお前だって物足りないだろ?
呼吸できないからか、顔の赤さも増したようなハルヒ。キスの時は目を閉じるべきだが、この顔を見れないのは少々つまらないからな。
ピチャ……………
クチュッ…………
舌と舌とが絡み合い、唾液の音が静かな部屋に木霊するように響くようだ。
「んうぅっ!」
自分の唾液をハルヒの口内に流し込む、口を離せないハルヒは黙ってそれを飲む。
俺もハルヒの唾液を奪うように飲む、まるで涸れない泉のように互いの粘液を交換していく。
ハルヒのそれは甘く、まるで麻薬のように俺の頭を白くしていく。
そして俺は自分のものだと証明させるようにハルヒに唾液を飲ませる、そう、身体の中まで俺の物にする為に。
長く、時間など忘れた俺たちはただ互いの唇を求め合った。
「は…………ふ……………」
ようやく本当に唇が離れた時、ハルヒは上気した顔で息を吸い込んだ。
額に小さく汗を浮かべ、肩を小さく上下させて。
潤みきった瞳で俺をみたハルヒは、
「キョン…………」
それだけ言うと俺の胸に顔を埋めた。
俺自身も呼吸が苦しい、心臓の音が聞こえてくるようだぜ。
だがそこまでしても俺はハルヒとのキスが止められない、止めようとも思わない。
そして俺は顔を埋めて表情が見えないハルヒに、
「この後…………どうするんだ?」
と聞くのだ、分かっている答えを言わせる為に。
そして顎に手をかけ、顔を上げさせる。
焦点の合わない涙を浮かべた瞳で。
汗で張り付いた髪で。
整わない呼吸に開く唇で。
「あんたん家……………………行く……………行っていい?………」
ああ、何故か今夜は家の人間は誰もいない。
誰かが望んだかのように。
ずっと二人だ、ハルヒ。
柔らかく微笑んだその笑顔が愛しくて。
俺はもう一度ハルヒに口づけた……………
あとがきというか言い訳
おかしいなあ、ただのエロにしか見えない(苦笑)
糖度は高めにするつもりだったがねえ、あれだ、本家には敵わない訳だ。
でもまたやります。俺は楽しかったんで(笑)