『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 27

前回はこちら

27−α

ジリジリと経ちそうで経たない時間に焦りばかりが募る中、俺と朝比奈さんはSOS団の下校を待っている。
まったく、いつも通りの団活をしているはずの俺達がこんなに待ち遠しいなんてな。
隣にいる朝比奈さんも無言のままだが、どこか顔色も悪そうだ。仕方が無い、ここまで朝比奈さんはほとんど分からないままに俺を連れてきたと言ってもいいのだから。
「大丈夫ですか、朝比奈さん?」
何とはなしに聞いてみる。もちろん気休めにもならないだろうが。
「大丈夫です」
果たして、朝比奈さんは決まり文句のようにそう答えた。充血している目が痛々しくもある。
「あたしたちは……………覚悟してましたから」
小さく華奢な手を握り締める朝比奈さん。その拳が小さく震えていた。
「ただ……………悔しいんです。あたしは結局何も知らなかった…………それなのに彼は分かっていた。もっと早くにあたしが分かっていたら何か出来たかもしれないのに………………」
そんな事はない、現に向こうの朝比奈さんだってギリギリまで気付かなかったと言っていた。
だが、朝比奈さんの気持ちも分かる。今までだって何も知らされなかったのに、今回も結局自分の与り知らないところで話は進んだあげくに、向こうの朝比奈さんの行方は分からなくなってしまったのだから。
そう思えば朝比奈さん達に何も伝えなかった未来のやり方のおかしさはどうなんだ?!
いや、それを言えば俺たちも同罪だろう。何を言い訳しようが、俺は朝比奈さんになにも伝えようとはしなかったのだから。
そして我が横の人を疑う事を忘れたようなお方の小さな肩を震わせるような目に遭わせてしまっている。
情けない気持ちで自分が嫌になる。それでやっていることと言えばハルヒをただ待つだけなんだからな。
「朝比奈さん…………」
少しでも気を紛らわそうと話しかけようとした時、
「…………来ました!」
賑やかに騒ぎながら前方から人影が降りてくるのが分かった。

ゴクッ……

どちらとも無く、息を飲む音だけが聞こえた。






27−β

「どういう…………ことなのでしょうか?」
目の前の男の子は苦笑いであたしを見つめている。それはこっちが聞きたいわ。
向こうの超能力少年、古泉一樹は困惑しながらも笑顔であたしの前に立っていた。
「まあこうしていても仕方ありませんね、どうぞお座り下さい」
そう言いながら自分もパイプ椅子を取り出して席に座る。妙に慣れてない?
「まあここは僕にとっては庭と言いますか、仕事場と言ってもいいような場所ですから」
え? よくわかんない、ここは閉鎖空間よね? そう思いながらもあたしも自分の椅子を取り出した。
いつものように座れば正面にイケメンの顔。うわ、顔近っ!!
「やはりそこに座るんですね、いや習性とは恐ろしいもので」
まるで分かっていたように笑う古泉くん。ちょっとムッとする。
「で? どうしてハルヒコの閉鎖空間に古泉くんがいるの?」
憮然としながら聞いてみた。まったく、こっちの古泉なら話も聞きたくないくらいだわ。
「いえ、僕の側からすれば何故あなたがここにいるのかを聞きたいくらいなのですが」
……………なんですって? あたしがこの閉鎖空間に連れてこられたのは、こっちの長門があたしに……………
スウッと涙が頬を伝わる。あれ? まだあたし泣いて…………
「きょ、キョン子さん?」
慌てた古泉くんが立ち上がった。そしてあたしのすぐ横に。
やだ、泣いてるのなんか見られたくない。あたしは顔を背ける。
「大丈夫、大丈夫だから……………」
なんてカッコ悪いんだろ、あたし。何も出来ずに泣いてるだけなんて、あたしのキャラじゃないはずなのに。
「……………」
!!!
後ろから誰かに、古泉くんに抱きしめられた。
「すいません、でも、あなたを困らせるつもりはなかったんです…………」
背中にかかる重さと温かさが何故かあたしには心地良かった。だからその温もりを手放せないでいる。
「ですが聞いてください、ここは恐らくあなたの知る閉鎖空間ではありません」
!!!
2度目の衝撃があたしを襲う。でもそれは温もりに中和されていく。
「どういう…………?」
顔も見れないまま呟くように聞くあたしに、
「僕がここに気付いたのは、ここが涼宮さん、涼宮ハルヒさんが作る閉鎖空間だからです。ですが涼宮さん本人に閉鎖空間を作るような心境を感じませんでした。だから僕だけが調査ということでここに来たのですから」
そう、長門ハルヒの閉鎖空間にあたしを放り込んだってことか。でもなんで?
「ごめん古泉くん、もう本当に大丈夫だから」
あたしは涙を拭きながら身体を動かした。
「そう…………ですか」
なんだろう、名残惜しそうな気配。ゆっくりと古泉くんが離れ、あたしの正面に座りなおしたときにはもういつもの笑顔だった。
「話していただけますか? 何故あなたがここにいるのかを。そして何故ここが出来たのかを」
あたしはしっかり頷いた。あたしも知りたい、何故ここにいるのかを。長門が何をしたかったのかを。
音もない静かな部屋の中で。
あたしはゆっくりと今までの出来事を古泉くんに話し始めた…………





もうすぐ終われる。その時俺はそう思っていた。
もう少し知りたい。その時あたしはそれだけを思っていた。