『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 20

20−α

俺が何故キョン子を追ったのかなどはどうでもいいことだ。少なくともハルヒにはまた明日にでも(恐らく地獄の苦痛を味わうだろうが)話は出来る。
しかし泣いているキョン子も放ってはおけない。なによりも俺と一緒にいたい? それがどういうことなのか、俺には分からないんだ。
いや、俺はキョン子の気持ちを分かってやってたのだろうか。
そう思った時に俺はキョン子の後を追うしかなかったんだ。
肩で息をする俺の呼吸が整うまで、その場でキョン子は待ってくれていた。その目はまだ赤いが、涙は止まっているようでそこだけは安心してもいいんだろう。




「……………なんで?」
帰り道を二人で歩く。考えてみれば同じ道を帰らなきゃならないんだから、当たり前と言えばそうなるんだが。
その帰り道でキョン子に聞かれた。そうだな、なんでだろうな。
あの時、ハルヒを追えば良かったんだろうか? しかしハルヒは既に居なくなっていた。
俺はハルヒの家も知らないし、電話も恐らく出ようとはしないに違いない。
それなら分かってるキョン子の後を追ったほうが……………
いいや、そんなもん言い訳に過ぎないだろうな。俺は単純に泣いている女の子を放って置けなかっただけだ。フェミニストを気取るわけじゃないが、黙っていられるほど鬼畜でもない。
だから俺はこう答えた。
「お前が泣いてるのを見捨てられなかっただけさ。なに、ハルヒには上手い事言っときゃいい、あいつもそこまで馬鹿じゃないだろ」
キョン子はなにか小さく呟いたが、
「うん、ありがと。あたしもハルヒコにはちゃんと説明しとく」
そう言って笑ってくれた。ああ、やっぱりお前は笑ってるほうがいいぞ。
「お世辞が上手いわね、いつからナンパキャラになったの?」
酷い言い草だな、自分と同じキャラにお世辞や嘘をついても何もならないんだぞ?
「そうね、でも………………やっぱり嬉しかった」
そう言うキョン子はいつか見た100万ワットの笑顔に匹敵するものだった。そうだな、その顔を見たら俺には何も言えないのさ。
「ねえ、あたしね? キョンと一緒だから分かったことがあるんだ」
なんだ? 自分が普通であることか?
「違うわよ、あたしが女の子なんだな、ってこと!」
はあ、よく分からんがお前はどう見ても女にしか見えんのだがなあ。
「いいのよ、あたしが分かれば! だから、」
キョン子が手を差し出した。俺は思わずそれを握る。
「明日にでもあたしがハルヒに話に行く! 多分だけど、それが一番いいと思うの!」
なんだって?! お前がハルヒと話して何が変わるんだ?
「いいから! そうあたしが決めたんだからいいの!!」
おいおい、これが俺か? まるでこれじゃハルヒと話してるみたいじゃないか。
「やれやれ、これ以上ややこしくしないでくれよ」
さっきまで泣いてたのが嘘のようなキョン子に、俺はため息が出てくる。追いかけない方が良かったんじゃないか、これ?
いつの間にかキョン子に手を引かれながら、俺はこれからの事を思う。
万が一閉鎖空間が出たら、またあそこに行かなきゃならないのか?
それとも……………
「あ、ここね」
あまり考える時間は無かったようだ、俺達は『分岐点』と呼ばれる場所へと着いていた。
「じゃあね、また明日」
笑いながら手を振るキョン子。まあ立ち直ってくれてなによりだ。
結局あの言葉の意味は聞けなかったが、あいつなりに何か考えたのか、ハルヒと話そうというのだから俺としては上手くサポート出来ればいいのだろう。
最後にキョン子がまた何か呟いた気がしたが、俺にはそれは聞こえなかった。
一人になった帰り道で俺は、これからまだ何が起こるか分からない不安とキョン子が立ち直った安心感で思わず腰が抜けそうになったりしたんだ。
頼むから、これ以上なにも起こらないでくれよ、と祈りながら。






20−β

結局キョンに迷惑かけちゃった。でもあたしを追いかけてくれた。
どうしよう、すごく嬉しくて。
キョンはあたしのこと……………ううん、あいつはきっと泣いてる女の子を放って置けなかっただけなのかも。
それでも、あたしの傍にキョンがいてくれる。それがあたしにとってどれだけ嬉しいか知られてなくても。
あたしはキョンが息を整えるまでそこで待っていた。



「……………なんで?」
二人で帰る帰り道。当たり前よね、帰るとこは同じだもん。でも、二人で帰れることが幸福な帰り道。
あたしはキョンに聞いてみる、どうしてあたしを追いかけたの?
するとキョンはしばらく考えてた。あたしが気になったから? それともあの子に追いつけなかったから仕方なく?
後者だとしたら悲しいな、前者だとしても多分あたしが思ってるのとは違うんだろうけど。
はたして、
「お前が泣いてるのを見捨てられなかっただけさ。なに、ハルヒには上手い事言っときゃいい、あいつもそこまで馬鹿じゃないだろ」
やっぱりそう言った。キョンは優しいんだ。でも…………
「分かってないんだ…………」
あたしは聞こえないように呟いた。あたしの気持ちにも、ハルヒの気持ちにも。
でも、それだからキョンが純粋にあたしを心配してくれてるのが分かる。その優しさがあたしは好きなんだから。
だからあたしは、
「うん、ありがと。あたしもハルヒコにはちゃんと説明しとく」
そう言って笑える。ほんとにキョンは分かってないんだろうけど。
「やっぱりお前は笑ってるほうがいいな」
う、ここでそんなこと言わないでよ! まったく、顔が赤くなっちゃったらどうすんのよ?!
「お世辞が上手いわね、いつからナンパキャラになったの?」
ついそう言っちゃった。だってキョンが悪いのよ、いきなりそんなこと言うから!
「酷い言い草だな、自分と同じキャラにお世辞や嘘をついても何もならないんだぞ?」
苦笑しながらキョンが言う。やっぱり分かってない。あたしがどれだけ嬉しいのかなんて。でも、
「そうね、でも………………やっぱり嬉しかった」
本当に嬉しいから。あたしは精一杯の笑顔で答えたんだ。
それを見たキョンの顔、ちょっと赤くなってる。うん、可愛いぞキョン
だからあたしは決めたんだ。
「ねえ、あたしね? キョンと一緒だから分かったことがあるんだ」
それはあたしが世界と戦う決意。
「なんだ? 自分が普通であることか?」
そうよ、あたしは普通の女の子なの。
「違うわよ、あたしが女の子なんだな、ってこと!」
だから、女の子だから。
「はあ、よく分からんがお前はどう見ても女にしか見えんのだが」
うん、きっと男の子のキョンには分からないよね。
「いいのよ、あたしが分かれば! だから、」
あたしはキョンに手を差し出した。あたし、勇気をもらいたいの。
反射的にキョンが手を握ってくれる。うん、これであたしは頑張れる。
「明日にでもあたしがハルヒに話に行く! 多分だけど、それが一番いいと思うの!」
決めたんだ、あたし。ハルヒに直接聞くことを。
彼を、キョンをどう思ってるのかってことを。
「なんだって?! お前がハルヒと話して何が変わるんだ?」
キョンは驚いてるけど、もう決めたから! それであたしは………あたしも本当の気持ちを言うんだ。
「いいから! そうあたしが決めたんだからいいの!!」
そう言ってキョンを黙らせた。あはは、まるであたしがハルヒみたい。
「やれやれ、これ以上ややこしくしないでくれよ」
あいつの口癖を聞いて安心しちゃうあたしって何なんだろ?
でも、気持ちが軽くなったのは確かね。キョンの手を引っ張りながら、あたしはこれからの事を考えた。
閉鎖空間が出てもしょうがない。だってあたしが決めたことだから。
それでも……………
「あ、ここね」
思ったより考える時間も無かったみたい。あたし達は『分岐点』と呼ばれる地点に着いていた。
「じゃあね、また明日」
あたしは笑って手を振る。それを見るキョンも安心してくれたのか笑ってくれてて。
その笑顔があたしは好き。だから。
「負けないんだからね」
小さく決意を呟いて、あたしは一人になった。
相手は神様かもしれないけど、あたしは世界を終わらせようとしてるのかもしれないけど。
あたしは涼宮ハルヒと話したい。
その時にはあたしは他の事はなにも考えてなかったんだ。
ただ、明日のことだけを、キョンのことだけを考えてた。






結局祈りは通じなかった。俺は何も出来ないままに周りだけは動いていた。
結局あたしの思ったとおりにはいかなかった。あたしは周りを見てなかったんだ。